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本編
50 終幕
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「……んな、ななっ、なぁ……!?」
唇が離れると、薔薇よりも赤く頬を染めたハルが私を凝視していた。
動揺している彼女の姿を見て、私も我に返って汗が吹き出しそうになってくる。
「「「きゃーっ!!」」」
気づけば歓声も沸いていた。
どうやら白雪姫と王子様のキスシーンは吉田さんが言う通り、好評を得ているようだ。
『あれ、私はいつに間に眠っていたのかしら……?』
白雪姫は王子様のキスによって魔女の呪いから解き放たれます。
そして目を覚ました白雪姫は突然現れた男性に心奪われました。
『初めまして可憐なお姫様』
『貴方が私を眠りから目覚めさせてくれたの?』
『そのようだね』
『ありがとう、とても嬉しいわ』
私はもつれそうになる舌を何とか動かして台詞を言い切る。
それはハルも同じようで目線が右往左往していた。
私は手を差し出す。
『僕は君に心奪われた、これから共に人生を歩んでくれないだろうか?』
そして白雪姫は王子様の手を取り合った所で舞台の幕は閉じる。
ハルは私の手を見つめたまま動きを止める。
「……これは、そういう事でいいんだな?」
私にだけ届く声でハルが告げた。
今は心臓の音がうるさい。
その返事を聞くのが怖くて、足がすくみそうになる。
それでも、私はもう逃げない。
この想いは伝えてようやく本物になるのだから。
「ええ、私と付き合ってハル」
ハルは一度顔を俯かせ、息を吐いた。
その顔が再び上がる。
私の手が握られる事はなかった。
それが答え。
私とハルとの関係性。
その象徴だった。
瞳を閉じかけて、ふと、全身が包まれていく感覚があった。
「あたしも大好きだっ!!」
「――!?」
ハルは私の腕を飛び越え、抱き着いていた。
その体を支え、全身で受け止める。
そう、相手は白花ハル。
私の想像を飛び越えてきた存在。
そんな子が、私を差し出した手を取るなんて控え目な表現で収まるはずがなかったのだ。
これが私とハルとの関係性。
いつだって彼女は自分の気持ちを等身大に、素直に伝えてくれた。
だから、今はその想いを全身で感じ取る。
舞台の幕が下りる。
それは一つの物語の終わりであり、また始まりでもある。
◇◇◇
舞台は拍手で満ちていた。
観客の人達は楽しんでくれていたようで安心した。
いや、それよりも大きな安堵感もあるのだけれど……。
「……」
「……」
何だかお互いに恥ずかしくなって目を合わせられず無言になってしまった。
いや、まあ、何というか。
何も舞台の上でやらなくて良かったのではないかと思わざるを得ない。
羞恥心が高速で体を駆け巡っていた。
「ず、ずばらじぃ演技でぢだ……!!」
そんな所に涙で目を腫らしている吉田さんが現れる。
どうしたんだろ。
「貴女達こそ真の白雪姫と王子でずっ。まるで本物のキスを見でいるがのようでぢだっ」
「え、ええ……そ、そうでしょ。くっ、工夫したものっ、ね、ねえ? ハル?」
「お、おおおっ、おうよ。あたりめーだよ、本当にキスするわけねーじゃんっ! 澪の唇が思っていた以上に柔らかくてあったかいとか、知るわけねーし!」
「ちょっと、ハル!?」
それはおかしなことを口走りすぎている。
慌てて口裏を合わせようとしたら余計に変な事になってしまった。
私とハルも今はとても平静ではいられない。
だがそれは感極まっている吉田さんも同じようで、ハルのおかしな発言には気付いていない。
「その後の白雪姫が王子様に抱ぎ着ぐのも良いアドリブでぢだ……。セリフが白花さん本人ぽくなっちゃっでだのはビックリでじたけど……」
「え、ええっと、ほ、ほらっ! やっぱ感情って自分の言葉にした方がアガるじゃんっ!? 良い演技をしようとした結果つーか、そ、そういう事だよな澪!?」
「え、ええっ。まさか私の手を掴まずに飛びついてきたのは驚いたけれど。その役を飛び超えたハルらしい表現に感動したと言うか。枠に収まりきらないハルという存在を感じられて良かったと言うか……」
「ちょっと澪!?」
全員で頭がハイになってしまっている私たちは小さな矛盾は通り越して語り合った。
「……なんか、やりきった感がすげぇな」
「……そうね」
舞台を終え、制服姿になった私たちは当てもなく廊下を一緒に歩いていた。
達成感に浸りつつ、ハルとの新しい関係性の高揚感にも包まれ、なんだか足元がふわふわしていた。
「やぁ二人とも」
すると、ふと声を掛けられる。
振り返ると、そこには青崎先輩と結崎が一緒にいた。
「水野、完敗だわ。一人の男性として、貴女の方が格好いいと言わざるを得なかったわ」
そんなもので結崎と勝負していた覚えはない。
「白花ハル……あんたはこれから白雪姫として過ごした方がいいんじゃない?」
結崎は若干回りくどいが褒めてくれているようだった。
それがハルも分かっているのか、特別突っかかるような事もしなかった。
「素晴らしい演技だったね、とても感動したよ」
青崎先輩は笑顔で手を叩いて賛辞を送る。
どうやら二人とも楽しんでくれたようで喜ばしい。
それと同時に羞恥心も少なからず感じているのだけれど……。
「……言いたい事はそれだけか?」
けれど隣にいるハルは渋い顔で聞き返す。
何か思う所でもあったのだろうか。
「他意はないよ。あんなの見せられたら私が口を出すなんてこと出来るはずもないさ」
「そうか、ならいいけど」
初めて青崎先輩とハルが落ち着いて会話をしているのを見た気がする。
「でも、いつだって私は近くにいるんだから、それは忘れずにね。何かあったらただじゃおかないよ?」
「はは、もうすぐ卒業の人が何言ってんだよ」
「……ふふ、それもそうだね」
「まぁ、任せときな。あんたよりは上手くやるさ」
「そうか、それならいいんだ」
青崎先輩の視線は私に移った。
「良かったよ、澪。あんな表情が出来るなんて驚きだ」
「あ、ありがとうございます」
元々演技をしたいとも思っていた人間ではないが、青崎先輩がそう評してくれるのなら自信にはなる。
「二人が仲睦まじくて何よりさ。それじゃ失礼するよ、行こうか叶芽」
「はい。じゃあね、水野澪に白花ハル」
そうして二人は去っていった。
残された私達は互いを見合う。
「じゃあ、あたし達も行くか澪」
「どこへ行くの?」
ハルの手が差し出されて、私は首を傾げる。
「どこだっていいだろ、あたしと澪が一緒なら何だって楽しいさ」
「……そうね、そう思う」
その手を握って、私たちは歩き出す。
白雪姫のように劇的ではないかもしれないけれど。
それでも、幸せに満ちた物語を私達なら紡げるだろうから。
~Fin~
【お知らせ】
これにて最終回となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
唇が離れると、薔薇よりも赤く頬を染めたハルが私を凝視していた。
動揺している彼女の姿を見て、私も我に返って汗が吹き出しそうになってくる。
「「「きゃーっ!!」」」
気づけば歓声も沸いていた。
どうやら白雪姫と王子様のキスシーンは吉田さんが言う通り、好評を得ているようだ。
『あれ、私はいつに間に眠っていたのかしら……?』
白雪姫は王子様のキスによって魔女の呪いから解き放たれます。
そして目を覚ました白雪姫は突然現れた男性に心奪われました。
『初めまして可憐なお姫様』
『貴方が私を眠りから目覚めさせてくれたの?』
『そのようだね』
『ありがとう、とても嬉しいわ』
私はもつれそうになる舌を何とか動かして台詞を言い切る。
それはハルも同じようで目線が右往左往していた。
私は手を差し出す。
『僕は君に心奪われた、これから共に人生を歩んでくれないだろうか?』
そして白雪姫は王子様の手を取り合った所で舞台の幕は閉じる。
ハルは私の手を見つめたまま動きを止める。
「……これは、そういう事でいいんだな?」
私にだけ届く声でハルが告げた。
今は心臓の音がうるさい。
その返事を聞くのが怖くて、足がすくみそうになる。
それでも、私はもう逃げない。
この想いは伝えてようやく本物になるのだから。
「ええ、私と付き合ってハル」
ハルは一度顔を俯かせ、息を吐いた。
その顔が再び上がる。
私の手が握られる事はなかった。
それが答え。
私とハルとの関係性。
その象徴だった。
瞳を閉じかけて、ふと、全身が包まれていく感覚があった。
「あたしも大好きだっ!!」
「――!?」
ハルは私の腕を飛び越え、抱き着いていた。
その体を支え、全身で受け止める。
そう、相手は白花ハル。
私の想像を飛び越えてきた存在。
そんな子が、私を差し出した手を取るなんて控え目な表現で収まるはずがなかったのだ。
これが私とハルとの関係性。
いつだって彼女は自分の気持ちを等身大に、素直に伝えてくれた。
だから、今はその想いを全身で感じ取る。
舞台の幕が下りる。
それは一つの物語の終わりであり、また始まりでもある。
◇◇◇
舞台は拍手で満ちていた。
観客の人達は楽しんでくれていたようで安心した。
いや、それよりも大きな安堵感もあるのだけれど……。
「……」
「……」
何だかお互いに恥ずかしくなって目を合わせられず無言になってしまった。
いや、まあ、何というか。
何も舞台の上でやらなくて良かったのではないかと思わざるを得ない。
羞恥心が高速で体を駆け巡っていた。
「ず、ずばらじぃ演技でぢだ……!!」
そんな所に涙で目を腫らしている吉田さんが現れる。
どうしたんだろ。
「貴女達こそ真の白雪姫と王子でずっ。まるで本物のキスを見でいるがのようでぢだっ」
「え、ええ……そ、そうでしょ。くっ、工夫したものっ、ね、ねえ? ハル?」
「お、おおおっ、おうよ。あたりめーだよ、本当にキスするわけねーじゃんっ! 澪の唇が思っていた以上に柔らかくてあったかいとか、知るわけねーし!」
「ちょっと、ハル!?」
それはおかしなことを口走りすぎている。
慌てて口裏を合わせようとしたら余計に変な事になってしまった。
私とハルも今はとても平静ではいられない。
だがそれは感極まっている吉田さんも同じようで、ハルのおかしな発言には気付いていない。
「その後の白雪姫が王子様に抱ぎ着ぐのも良いアドリブでぢだ……。セリフが白花さん本人ぽくなっちゃっでだのはビックリでじたけど……」
「え、ええっと、ほ、ほらっ! やっぱ感情って自分の言葉にした方がアガるじゃんっ!? 良い演技をしようとした結果つーか、そ、そういう事だよな澪!?」
「え、ええっ。まさか私の手を掴まずに飛びついてきたのは驚いたけれど。その役を飛び超えたハルらしい表現に感動したと言うか。枠に収まりきらないハルという存在を感じられて良かったと言うか……」
「ちょっと澪!?」
全員で頭がハイになってしまっている私たちは小さな矛盾は通り越して語り合った。
「……なんか、やりきった感がすげぇな」
「……そうね」
舞台を終え、制服姿になった私たちは当てもなく廊下を一緒に歩いていた。
達成感に浸りつつ、ハルとの新しい関係性の高揚感にも包まれ、なんだか足元がふわふわしていた。
「やぁ二人とも」
すると、ふと声を掛けられる。
振り返ると、そこには青崎先輩と結崎が一緒にいた。
「水野、完敗だわ。一人の男性として、貴女の方が格好いいと言わざるを得なかったわ」
そんなもので結崎と勝負していた覚えはない。
「白花ハル……あんたはこれから白雪姫として過ごした方がいいんじゃない?」
結崎は若干回りくどいが褒めてくれているようだった。
それがハルも分かっているのか、特別突っかかるような事もしなかった。
「素晴らしい演技だったね、とても感動したよ」
青崎先輩は笑顔で手を叩いて賛辞を送る。
どうやら二人とも楽しんでくれたようで喜ばしい。
それと同時に羞恥心も少なからず感じているのだけれど……。
「……言いたい事はそれだけか?」
けれど隣にいるハルは渋い顔で聞き返す。
何か思う所でもあったのだろうか。
「他意はないよ。あんなの見せられたら私が口を出すなんてこと出来るはずもないさ」
「そうか、ならいいけど」
初めて青崎先輩とハルが落ち着いて会話をしているのを見た気がする。
「でも、いつだって私は近くにいるんだから、それは忘れずにね。何かあったらただじゃおかないよ?」
「はは、もうすぐ卒業の人が何言ってんだよ」
「……ふふ、それもそうだね」
「まぁ、任せときな。あんたよりは上手くやるさ」
「そうか、それならいいんだ」
青崎先輩の視線は私に移った。
「良かったよ、澪。あんな表情が出来るなんて驚きだ」
「あ、ありがとうございます」
元々演技をしたいとも思っていた人間ではないが、青崎先輩がそう評してくれるのなら自信にはなる。
「二人が仲睦まじくて何よりさ。それじゃ失礼するよ、行こうか叶芽」
「はい。じゃあね、水野澪に白花ハル」
そうして二人は去っていった。
残された私達は互いを見合う。
「じゃあ、あたし達も行くか澪」
「どこへ行くの?」
ハルの手が差し出されて、私は首を傾げる。
「どこだっていいだろ、あたしと澪が一緒なら何だって楽しいさ」
「……そうね、そう思う」
その手を握って、私たちは歩き出す。
白雪姫のように劇的ではないかもしれないけれど。
それでも、幸せに満ちた物語を私達なら紡げるだろうから。
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