【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
1 / 35

1. 恋の終わり

しおりを挟む
 王宮へ向かう馬車の中、私は冷たくなった両手を膝の上で握りしめ、必死で祈っていた。

 どうか、違いますように。その話ではありませんように。



 だけど私の祈りも虚しく、ウェイン王太子殿下は私の向かいに座るやいなや、不敵な笑みを浮かべて言ったのだった。

「イルゼ・バトリー子爵令嬢を妻に迎えることにした。残念だったな、フィオレンサ。これでもうお前が王妃の座につくことはなくなったぞ。野心剥き出しの浅ましいお前ではなく、俺は真実の愛を選ぶ」

(──────っ!!)

 そんな……。

 目の前が暗くなり、脳がグラリと揺れるような衝撃を受けた。悲しみが一瞬にして、胸を埋め尽くす。

「……殿下」

 私を真正面から見据えるウェイン殿下の目には、敵意しか浮かんでいない。そのことが何よりも深く私の心を抉った。
 今まで、この想いを真っ直ぐな言葉で伝えたことはない。そのことがいけなかったのだろうか。私のウェイン殿下への想いは、ずっと行動で示してきたつもりだった。誠実に、品行方正に過ごし、ひたむきに王妃教育に取り組んできた。その全てがウェイン殿下の妻になるため、愛するこの方を生涯支えていける人間になるためだった。

 だけど、私の気持ちは伝わらなかった。だからこんなことになってしまったのだ。

 せめて、一度だけ……。

 今を逃せば、もうきっと二度と私の想いをこの方に伝える機会は巡ってこないだろう。
 ならば、勇気を出そう。後悔したくない。
 私たちはこれまで婚約者として長い時間を過ごしてきた。この十年あまりの間に培われた、二人だけの絆があるはずだから。



『フィオレンサ、ほら見てごらんかわいいだろう?君にピッタリだ。がんばって作ったんだぞ』
『まぁ……っ、すてきな花かんむりですわね。ありがとうございます!ウェイン殿下。うれしいです』
『ふふん、大事なこんやくしゃのためだからな!』



『……なるほどなぁ。うん、教師に聞くよりも分かりやすいよ。君は本当に賢くて頼りになるなぁ、フィオレンサ。ありがとう』
『ふふ、そう言っていただけて光栄ですわ、殿下。これからも、一層努力いたしますわね』
『ああ!俺も頑張らなきゃな』
『ふふ……』



『民から信頼される長になりたいんだ。国民一人一人の立場を理解してきちんと寄り添い、誰も飢えたり苦しんだりしない国を保たねば。父上よりも立派な国王に、俺がなれるかどうかは分からないけれど……』
『きっとなれますわ、殿下。殿下のお志はとても素晴らしいですもの。私も……お支えしてまいります、誰よりも、あなたのおそばで』
『……ああ。ありがとう、フィオレンサ』




「……っ、」

 ウェイン殿下と過ごした過去が次々と思い出される。その思い出たちに励まされ、私は震える喉から必死で声を絞り出した。

「……殿下、どうか、信じてください。私が殿下のおそばにいたかったのは、野心などでは、ございません。私は、“王妃”になりたかったわけではありません。ただ……、ただ、あなた様のおそばに、いたかったのです。お支えしたかったのです。あなた様の、妻に、なりたかった……それだけです。ウェイン殿下、……わ、私は、……あなた様を、心から、……愛しております」
「ふん」

 しかし私の懸命に紡いだたった一度の愛の告白は、鼻で笑われてしまった。

「騙されるものか、悪女め。か弱いふりをして、最後までよく足掻いたものだ。もういい。諦めて俺の決断を受け入れろ。お前が王妃になれる日など永久にやって来ない。用件は以上だ。去れ」
「…………っ!」
「これで終わりだ、フィオレンサ」


 子どもの頃から、ウェイン殿下への想いのためだけに生きてきた。それが今日、あっけなく終わってしまった。誤解され、嫌われ、私の恋は幕を閉じた。



 全てを捧げた愛だった。
 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました

恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」 婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、 身に覚えのない侮蔑の言葉だった。 10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。 だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、 妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。 婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。 学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、 フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。 「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」 彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。 捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす! 痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

処理中です...