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5. 旧友との再会
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「ご無沙汰しています、フィオレンサ嬢」
「ええ、何度も足を運んでくださったそうで……。お会いできなくてごめんなさい、ジェレミー様」
それからさらに数週間後。ようやく元の体力を取り戻しつつあった私は、ジェレミー・ヒースフィールド侯爵令息と屋敷の応接間で再会した。相変わらず爽やかで溌剌としていて、今の私には眩しすぎる。
「いえ、こちらこそ体調の優れないところに何度も訪問してしまって。……その後、いかがですか?お加減は」
ヒースフィールド侯爵令息が、少し聞きづらそうに尋ねてくる。
「ええ、もう大丈夫ですわ」
笑顔で答えつつも、私は心底げんなりしていた。
私がウェイン殿下から婚約破棄されて以来、嫌というほどに求婚の話が舞い込んできていた。まだ婚約者の決まっていない国内の高位貴族の子息たちをはじめ、下位貴族の子息たちや他国の貴族、果ては商家の大店の息子など、まるで売れ残った高級品の大安売りセールでも始まったかのようだ。
両親もどうしたものかとこめかみを押さえて溜息をついていたが、私も鬱陶しくてならなかった。ブリューワー公爵家との繋がりを持つまたとない機会なのだから、皆私を利用したくて必死なのだろう。
ますます自分が惨めになった。もう放っておいてほしい。子どもの頃からずっと大好きだった人に手酷く捨てられたばかりなのだ。他の男性に嫁ぐことなんてとても考えられない。
それに……。
情けないことに私は、こうなった今でもまだ心のどこかで、ウェイン殿下が私の前に現れることを願っていた。「フィオレンサ、俺が間違っていた。やはりお前が必要だよ」と。
そんなこと、もう絶対に有り得ないのに。あの方はもう結婚してしまったのだから。
目の前で微笑んでいるジェレミー・ヒースフィールド侯爵令息を、改めて見つめる。
この人もきっと同じなのだろう。他の人たちと同じように、ブリューワー公爵令嬢が独り身になったこの機会を逃すまいと懸命なのだ。だとしても、別にこの人が悪いわけではないけれど。貴族ならば、当然のこと。
なぜお父様は他の縁談をスルーしているのに、この人にだけはやたらと会わせようとしていたのだろう。気に入っているのかしら、この人を。それとも、縁談を申し込んできている家の中では、ヒースフィールド侯爵家との繋がりが最もメリットがあると踏んだから……?
私はぼんやりとそんなことを考えながら、ヒースフィールド侯爵令息のお喋りを聞くともなく聞いていた。
「……覚えていますか?学園の図書室で、アドコック伯爵令息とレイクス侯爵令嬢が熱弁のあまり喧嘩になった時のこと。あの頃流行っていた小説の見解で……」
「懐かしい。覚えていますわもちろん。……ふふ、そうそう。二人してムキになって、立ち上がって持論を展開してましたわよね」
「ええ。図書室で大きな声を出して」
「一緒に勉強していた仲間が皆、呆気にとられてましたわね」
ヒースフィールド侯爵令息が来られて数十分、私はいつの間にか会話が楽しくなり、クスクスと声に出して笑っていた。懐かしい貴族学園時代の思い出話を次々としてくれるヒースフィールド侯爵令息。彼と話して、私は数週間ぶりに笑うことができたのだった。
「……今日はありがとうございました、ジェレミー様。……楽しかったですわ」
「こちらこそ。すっかり長居をしてしまいました。……ではまた、フィオレンサ嬢。お体に気を付けて」
彼は私を気遣う言葉を残して帰っていった。
(……そういえば、縁談の話は一言も出なかったわね)
……ん?
ヒースフィールド侯爵家からは、縁談の申し込みはないんだったかしら。
そこで私はふと気付いた。お父様は別に、「ヒースフィールド侯爵家から結婚の申し込みがきている」なんて一言も言っていなかった。ただ「ヒースフィールド侯爵令息が心配して、何度も見舞いに来てくれている」と言っていただけだったと。
「……。」
なんだ、私の勘違いだったのね。別にヒースフィールド侯爵令息は私に結婚の申し込みをしたいわけではなく、傷付いて臥せっていた私をただ純粋に旧友として心配してくださっていただけなんだわ。
自分の早とちりがなんだか恥ずかしくて、私は一人で頬を赤くしたのだった。
「ええ、何度も足を運んでくださったそうで……。お会いできなくてごめんなさい、ジェレミー様」
それからさらに数週間後。ようやく元の体力を取り戻しつつあった私は、ジェレミー・ヒースフィールド侯爵令息と屋敷の応接間で再会した。相変わらず爽やかで溌剌としていて、今の私には眩しすぎる。
「いえ、こちらこそ体調の優れないところに何度も訪問してしまって。……その後、いかがですか?お加減は」
ヒースフィールド侯爵令息が、少し聞きづらそうに尋ねてくる。
「ええ、もう大丈夫ですわ」
笑顔で答えつつも、私は心底げんなりしていた。
私がウェイン殿下から婚約破棄されて以来、嫌というほどに求婚の話が舞い込んできていた。まだ婚約者の決まっていない国内の高位貴族の子息たちをはじめ、下位貴族の子息たちや他国の貴族、果ては商家の大店の息子など、まるで売れ残った高級品の大安売りセールでも始まったかのようだ。
両親もどうしたものかとこめかみを押さえて溜息をついていたが、私も鬱陶しくてならなかった。ブリューワー公爵家との繋がりを持つまたとない機会なのだから、皆私を利用したくて必死なのだろう。
ますます自分が惨めになった。もう放っておいてほしい。子どもの頃からずっと大好きだった人に手酷く捨てられたばかりなのだ。他の男性に嫁ぐことなんてとても考えられない。
それに……。
情けないことに私は、こうなった今でもまだ心のどこかで、ウェイン殿下が私の前に現れることを願っていた。「フィオレンサ、俺が間違っていた。やはりお前が必要だよ」と。
そんなこと、もう絶対に有り得ないのに。あの方はもう結婚してしまったのだから。
目の前で微笑んでいるジェレミー・ヒースフィールド侯爵令息を、改めて見つめる。
この人もきっと同じなのだろう。他の人たちと同じように、ブリューワー公爵令嬢が独り身になったこの機会を逃すまいと懸命なのだ。だとしても、別にこの人が悪いわけではないけれど。貴族ならば、当然のこと。
なぜお父様は他の縁談をスルーしているのに、この人にだけはやたらと会わせようとしていたのだろう。気に入っているのかしら、この人を。それとも、縁談を申し込んできている家の中では、ヒースフィールド侯爵家との繋がりが最もメリットがあると踏んだから……?
私はぼんやりとそんなことを考えながら、ヒースフィールド侯爵令息のお喋りを聞くともなく聞いていた。
「……覚えていますか?学園の図書室で、アドコック伯爵令息とレイクス侯爵令嬢が熱弁のあまり喧嘩になった時のこと。あの頃流行っていた小説の見解で……」
「懐かしい。覚えていますわもちろん。……ふふ、そうそう。二人してムキになって、立ち上がって持論を展開してましたわよね」
「ええ。図書室で大きな声を出して」
「一緒に勉強していた仲間が皆、呆気にとられてましたわね」
ヒースフィールド侯爵令息が来られて数十分、私はいつの間にか会話が楽しくなり、クスクスと声に出して笑っていた。懐かしい貴族学園時代の思い出話を次々としてくれるヒースフィールド侯爵令息。彼と話して、私は数週間ぶりに笑うことができたのだった。
「……今日はありがとうございました、ジェレミー様。……楽しかったですわ」
「こちらこそ。すっかり長居をしてしまいました。……ではまた、フィオレンサ嬢。お体に気を付けて」
彼は私を気遣う言葉を残して帰っていった。
(……そういえば、縁談の話は一言も出なかったわね)
……ん?
ヒースフィールド侯爵家からは、縁談の申し込みはないんだったかしら。
そこで私はふと気付いた。お父様は別に、「ヒースフィールド侯爵家から結婚の申し込みがきている」なんて一言も言っていなかった。ただ「ヒースフィールド侯爵令息が心配して、何度も見舞いに来てくれている」と言っていただけだったと。
「……。」
なんだ、私の勘違いだったのね。別にヒースフィールド侯爵令息は私に結婚の申し込みをしたいわけではなく、傷付いて臥せっていた私をただ純粋に旧友として心配してくださっていただけなんだわ。
自分の早とちりがなんだか恥ずかしくて、私は一人で頬を赤くしたのだった。
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