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15. 決別
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「これを受け取って、フィオレンサ」
「え?……まぁ、贈り物?ふふ、何が入っているの?ジェレミー様」
「さあ。開けてみてごらん」
「ええ」
小さなビロードの箱を、私はそっと開けた。
「……っ!まぁ……、素敵……!」
中から出てきたのは、とても繊細な細工の、美しいブレスレットだった。銀色に輝くそのブレスレットには、複雑な虹彩を放つ小さな宝石が一つ。一目見て高価だと分かる品物だった。
「気に入ってくれたかな」
「もちろんよジェレミー様!こんな素敵な物……。ありがとうございます!大切にしますわ」
「はは、よかった。君が私の恋人になってくれて、今日でちょうどひと月が経ったから。記念になる物を贈りたかったんだ。……私の想いを受け入れてくれて、ありがとう、フィオレンサ」
「ジェレミー様……」
「着けさせてくれるかい?」
「……ええ、もちろん」
私はジェレミー様に左手を差し出す。彼はとても優しく私の手を取ると、ゆっくりと私の手首にそのブレスレットを着けてくださり、そのまま手の甲に優しく口づけた。
「……っ!ジ、ジェレミー様……」
「幸せだよ、フィオレンサ。今でも夢を見ているみたいだ」
ジェレミー様は手を握ったまま私を見つめ、優しく微笑んだ。その顔を見ているだけで、愛が伝わってくる。
一人の女性として愛されるということは、こんなにも満ち足りた気持ちにさせてくれるものだったのね……。
あの日、ジェレミー様から突然愛を伝えられた日から、私の葛藤が始まった。もちろん、好意を抱きはじめていたジェレミー様からの告白がとても嬉しいという気持ちは、正直あった。けれど私はまだ、自分のウェイン殿下への想いと完全には決別できずにいた。
物心ついた時からずっと追いかけていた、あのお姿。たくさんの愛おしい思い出。優しかった子どもの頃のウェイン様。成長してからも、頑張れば頑張るほど私を労い、温かい励ましの言葉を下さった。私の人生はウェイン殿下が全てだった。
だから、他の人の腕に飛び込む勇気が、なかなか出なかった。手酷く振られた失恋の痛手はあまりに深く、ジェレミー様のことさえ完全には信じきれずにいた。信じて心を委ねても、またあの時のように捨てられる日が来るのではないだろうか。もしまた同じような目に遭ったら、私は今度こそもう、生きる気力さえ失ってしまうのではないか。
私の葛藤や怯えを分かっていたのだろうか、ジェレミー様はその後ただの一度も、私に返事を催促してこなかった。まるで何事もなかったかのように、毎週のように私をデートに誘い、屋敷まで送り届け、時折優しい言葉で溢れた手紙や、素敵なプレゼントを贈ってくださった。
温かく、穏やかに見守ってくれているようだった。
私を丸ごと包み込むようなジェレミー様の深い愛に、いつしか私の心を縛っていた枷は外れた。
勇気を出して、前に進もう。
私はこの人のことならば、信じられる。
そしてある日のデートの帰り、ついに彼に伝えたのだった。耳まで真っ赤になりながら。
「……ジ、ジェレミー様」
「ん?」
「……その……、わ、私……、新しい道に、進んで行こうと思うのです。……この手を、握っていていただけますか?……ずっと……」
「……っ!フィオレンサ……」
あの時、強く引き寄せられこの人に抱きしめられた時の喜びは、きっと一生忘れられない。温かく大きなこの人の背に手を回し、私は目を閉じた。涙が頬を伝った。
さようなら、大好きだったウェイン様。
「え?……まぁ、贈り物?ふふ、何が入っているの?ジェレミー様」
「さあ。開けてみてごらん」
「ええ」
小さなビロードの箱を、私はそっと開けた。
「……っ!まぁ……、素敵……!」
中から出てきたのは、とても繊細な細工の、美しいブレスレットだった。銀色に輝くそのブレスレットには、複雑な虹彩を放つ小さな宝石が一つ。一目見て高価だと分かる品物だった。
「気に入ってくれたかな」
「もちろんよジェレミー様!こんな素敵な物……。ありがとうございます!大切にしますわ」
「はは、よかった。君が私の恋人になってくれて、今日でちょうどひと月が経ったから。記念になる物を贈りたかったんだ。……私の想いを受け入れてくれて、ありがとう、フィオレンサ」
「ジェレミー様……」
「着けさせてくれるかい?」
「……ええ、もちろん」
私はジェレミー様に左手を差し出す。彼はとても優しく私の手を取ると、ゆっくりと私の手首にそのブレスレットを着けてくださり、そのまま手の甲に優しく口づけた。
「……っ!ジ、ジェレミー様……」
「幸せだよ、フィオレンサ。今でも夢を見ているみたいだ」
ジェレミー様は手を握ったまま私を見つめ、優しく微笑んだ。その顔を見ているだけで、愛が伝わってくる。
一人の女性として愛されるということは、こんなにも満ち足りた気持ちにさせてくれるものだったのね……。
あの日、ジェレミー様から突然愛を伝えられた日から、私の葛藤が始まった。もちろん、好意を抱きはじめていたジェレミー様からの告白がとても嬉しいという気持ちは、正直あった。けれど私はまだ、自分のウェイン殿下への想いと完全には決別できずにいた。
物心ついた時からずっと追いかけていた、あのお姿。たくさんの愛おしい思い出。優しかった子どもの頃のウェイン様。成長してからも、頑張れば頑張るほど私を労い、温かい励ましの言葉を下さった。私の人生はウェイン殿下が全てだった。
だから、他の人の腕に飛び込む勇気が、なかなか出なかった。手酷く振られた失恋の痛手はあまりに深く、ジェレミー様のことさえ完全には信じきれずにいた。信じて心を委ねても、またあの時のように捨てられる日が来るのではないだろうか。もしまた同じような目に遭ったら、私は今度こそもう、生きる気力さえ失ってしまうのではないか。
私の葛藤や怯えを分かっていたのだろうか、ジェレミー様はその後ただの一度も、私に返事を催促してこなかった。まるで何事もなかったかのように、毎週のように私をデートに誘い、屋敷まで送り届け、時折優しい言葉で溢れた手紙や、素敵なプレゼントを贈ってくださった。
温かく、穏やかに見守ってくれているようだった。
私を丸ごと包み込むようなジェレミー様の深い愛に、いつしか私の心を縛っていた枷は外れた。
勇気を出して、前に進もう。
私はこの人のことならば、信じられる。
そしてある日のデートの帰り、ついに彼に伝えたのだった。耳まで真っ赤になりながら。
「……ジ、ジェレミー様」
「ん?」
「……その……、わ、私……、新しい道に、進んで行こうと思うのです。……この手を、握っていていただけますか?……ずっと……」
「……っ!フィオレンサ……」
あの時、強く引き寄せられこの人に抱きしめられた時の喜びは、きっと一生忘れられない。温かく大きなこの人の背に手を回し、私は目を閉じた。涙が頬を伝った。
さようなら、大好きだったウェイン様。
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