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30. 互いの選んだ道を
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ヒースフィールド侯爵領の南方にある、大きなお屋敷。
侯爵が視察に訪れる時以外、普段は使われていないそうだけれど、とても手入れが行き届いている。花々が咲き乱れる庭園は、見とれてしまうほどの美しさだ。
「気に入ったかい?」
「ええ、とても……!素敵なところね、ジェレミー様」
「うん。過ごしやすいところだとは思うよ。まぁ、とりあえずほとぼりが冷めるまでは、ここで二人でのんびり過ごそうじゃないか」
「本当に、ありがとうございますジェレミー様……。こんなに慌ただしくなってしまって、ごめんなさいね」
「はは。大丈夫。こうして無事君と来られただけで充分だよ。結婚披露パーティーは、また後日改めてやればいいさ。友人をたくさん呼んでね」
「ふふ、ええ」
穏やかな瞳で微笑むジェレミー様に笑顔で答えながら、私はようやくホッとしたのだった。
三日前。
ウェイン殿下の馬車が我が屋敷の門を出たのを見届けると、私は父の帰宅を待った。
そしてその夜、帰宅した父にすぐに告げた。
「今日、ウェイン殿下が訪ねてこられました。……私に、側妃として王宮に上がるようにとのことです」
「……何だと?」
父の顔が一気に険しくなる。
「はっ、よくも今さら……。どの面下げてそんな身勝手なことが言えたものか。恥知らずな王太子だな」
不敬の極みのようなことを言う父に、私は言った。
「このまますぐにお断りしてしまうと、殿下は私を召し上げるよう国王陛下にお願いされるかもしれないと思いました。追い詰められているあの方なら、それぐらいはするかと。ですから、数日以内に正式にお返事しますと言って、今日は帰っていただきました」
万が一にも側妃として王宮に上がれと王命でも出されてしまえば、私はもうジェレミー様と夫婦になることはできなくなってしまう。殿下の切羽詰まった様子は尋常ではなかった。今ここで殿下を刺激するべきではないと、そう思ったのだ。
「……あなた……」
母も不安そうに父を見ている。
「……分かった。ヒースフィールド侯爵に事情を話し、予定を早めよう。ひとまずお前たちの入籍を急ぐ」
こうして私とジェレミー様は、大急ぎで婚姻に関する手続きを済ませ、一旦王宮から遠く離れた南へと逃げたのだった。
頼りになる我がブリューワー公爵家の執事に、後のことを任せて。
「嫌な役回りをさせてしまってごめんなさいね、ロバート。……頼りにしているわ」
「もったいないお言葉。お嬢様のお幸せのためならば、私は責任を持って役目を果たすのみでございます」
「ありがとう。……では、これを託すわね」
「確かに」
長い間ずっと私の宝物だった青いブローチは、こうしてウェイン殿下の元へ返されたのだった。
(……ウェイン殿下……)
ジェレミー様の隣で庭園の美しい花々を見つめながら、私は心であの方に語りかけた。
(もう遅かったんです。何もかもが、もう過去のことなのです。私はもう、あなたのものではないの。私は最愛の人と共に、これからの人生を歩んでまいります。どうか殿下も、ご自分が選んだ道を全うしてください)
たとえそれが、どんなに険しい道であったとしても。
それはあなた自身が選んだものなのだから。
そうでしょう?殿下。
侯爵が視察に訪れる時以外、普段は使われていないそうだけれど、とても手入れが行き届いている。花々が咲き乱れる庭園は、見とれてしまうほどの美しさだ。
「気に入ったかい?」
「ええ、とても……!素敵なところね、ジェレミー様」
「うん。過ごしやすいところだとは思うよ。まぁ、とりあえずほとぼりが冷めるまでは、ここで二人でのんびり過ごそうじゃないか」
「本当に、ありがとうございますジェレミー様……。こんなに慌ただしくなってしまって、ごめんなさいね」
「はは。大丈夫。こうして無事君と来られただけで充分だよ。結婚披露パーティーは、また後日改めてやればいいさ。友人をたくさん呼んでね」
「ふふ、ええ」
穏やかな瞳で微笑むジェレミー様に笑顔で答えながら、私はようやくホッとしたのだった。
三日前。
ウェイン殿下の馬車が我が屋敷の門を出たのを見届けると、私は父の帰宅を待った。
そしてその夜、帰宅した父にすぐに告げた。
「今日、ウェイン殿下が訪ねてこられました。……私に、側妃として王宮に上がるようにとのことです」
「……何だと?」
父の顔が一気に険しくなる。
「はっ、よくも今さら……。どの面下げてそんな身勝手なことが言えたものか。恥知らずな王太子だな」
不敬の極みのようなことを言う父に、私は言った。
「このまますぐにお断りしてしまうと、殿下は私を召し上げるよう国王陛下にお願いされるかもしれないと思いました。追い詰められているあの方なら、それぐらいはするかと。ですから、数日以内に正式にお返事しますと言って、今日は帰っていただきました」
万が一にも側妃として王宮に上がれと王命でも出されてしまえば、私はもうジェレミー様と夫婦になることはできなくなってしまう。殿下の切羽詰まった様子は尋常ではなかった。今ここで殿下を刺激するべきではないと、そう思ったのだ。
「……あなた……」
母も不安そうに父を見ている。
「……分かった。ヒースフィールド侯爵に事情を話し、予定を早めよう。ひとまずお前たちの入籍を急ぐ」
こうして私とジェレミー様は、大急ぎで婚姻に関する手続きを済ませ、一旦王宮から遠く離れた南へと逃げたのだった。
頼りになる我がブリューワー公爵家の執事に、後のことを任せて。
「嫌な役回りをさせてしまってごめんなさいね、ロバート。……頼りにしているわ」
「もったいないお言葉。お嬢様のお幸せのためならば、私は責任を持って役目を果たすのみでございます」
「ありがとう。……では、これを託すわね」
「確かに」
長い間ずっと私の宝物だった青いブローチは、こうしてウェイン殿下の元へ返されたのだった。
(……ウェイン殿下……)
ジェレミー様の隣で庭園の美しい花々を見つめながら、私は心であの方に語りかけた。
(もう遅かったんです。何もかもが、もう過去のことなのです。私はもう、あなたのものではないの。私は最愛の人と共に、これからの人生を歩んでまいります。どうか殿下も、ご自分が選んだ道を全うしてください)
たとえそれが、どんなに険しい道であったとしても。
それはあなた自身が選んだものなのだから。
そうでしょう?殿下。
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