【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
11 / 39

11.心が折れる

しおりを挟む
(……大丈夫、別に、今日は大丈夫。だって今朝方頼まれた用件が無事に済んだ報告をするのは当然のことだし、アーネスト様に同窓会に誘われた件も伝えておくべきだもの。別にこうして起きて待っていたって不自然じゃないわ)

 遅くまで帰宅しない夫を待ちながら、私は心の中で言い訳を繰り返した。また帰ってきて私の姿を見た途端に眉間に皺を寄せるのだろうか。溜息をつかれるだろうか。そもそも今夜は帰宅するのか。不安でならない。



 居間で刺繍をするふりをしながら待っていると、しばらくしてようやく玄関の扉の開く音がした。

(……っ!よかった……帰ってきた…)

 私は慌てて立ち上がり居間を飛び出そうとして、咄嗟に思い直しそのまま一呼吸置いた。そして数秒経ってゆっくりと玄関ホールに向かう。

「…お帰りなさいませ、ダミアン様」
「……あ?……なんだ。まだいたのか」
「は、はい。…あの、お話したいことが……、……っ?!」
「あらっ、こんばんはー奥様。お邪魔しますわね」

(え……っ?!……こ、こんな時間に……?!)

 信じられないことに、深夜といってもいい時間にようやく戻った夫はまたメラニー嬢を伴っていたのだった。ショックで声が出ない。

「ふふ、ヤだわぁせっかく静かに入ってきたのに。奥様にバレちゃった。あはははっ」

 悪びれもしないメラニー嬢を尻目に、ダミアン様は案の定眉間に皺を寄せて私を睨んだ。

「なんだ、話というのは。さっさとしてくれ。疲れているんだ」
「……っ、」

 女性と一緒に深夜に帰宅した事情を私に説明するつもりはないらしい。いつもと変わらぬ冷たい態度に怯みながらも、私の中にたぎるような怒りが込み上げてきた。

(こんなの……あんまりだわ…………!)

 これで疑うなという方が絶対に間違っている。

「…………ここでは……話せません……」
「……ああ?」

 私が絞り出した言葉に、ダミアン様は不満げな声を上げる。

「……二人きりで、話したいのです」
「何故だ」
「……。」

 チッ、と露骨に舌打ちすると、ダミアン様はメラニー嬢に言った。

「悪いが先に部屋に上がっててくれるか?すぐに行く」
「ええ、分かったわ」

 メラニー嬢はそれを受けて当然のように階段を上がっていった。





「……何なんだ、それで。話っていうのは」

 居間に移動して二人きりになるやいなや夫が私を急かす。私は深く息をつき、ゆっくりと話し始めた。

「……まず、今朝頼まれていた件ですが」
「今朝?」
「…………領地の代官への書簡…」
「……ああ。あれか。届けたんだろ?」
「…はい」
「ならいいじゃないか。俺は部屋に行くぞ」
「っ!……待ってください!」

 面倒くさそうにさっさと背を向ける夫を咄嗟に呼び止め、私はまくし立てた。

「そっ!その時に……、路地で変な男たちに絡まれて…………とても、恐ろしい思いをしましたの」
「……はぁ。だから何だ。無事だったからここにいるんだろうが」
「……っ、」

 少しも心配してくれない夫の態度に傷付きながらも、先を続ける。

「……ええ。その時に、たまたま近くを巡回していた王国騎士団の騎士様に助けていただいたのです」
「へぇ」
「その方が、学園で一緒だったアーネスト様だったのです。…覚えていらっしゃいますか?アーネスト・グレアム侯爵令息様ですわ」
「ああ、分かるに決まってるだろ。よかったじゃないか、それは。頼りになる美丈夫に助けてもらった自慢話か?」
「…………違います。その時にアーネスト様から、エレナ・ラザフォード侯爵令嬢が近々同窓会を開きたいと仰っていると伺ったのです。私たちにも来月辺りに招待状を贈ると」
「……へぇ……。エレナ嬢が……。ふ、そうか。それは楽しみだな。久々にあの美人の顔が拝めるわけだ。はは」
「…………。」

 ダミアン様の一言一句に腹が立って仕方がない。ずっと我慢してきたけれど、今夜はこのまま黙っていることはできそうもなかった。

「なら話はそれで終わりだな。来月の話ならあとは来月考えよう。俺はもう部屋に戻るぞ」
「お待ちください」
「…………はぁ。……今度は何だ」
「……あ、あの方と……、……今から何をなさるんですか?」
「…………は?」
「あの方です。……メラニー・ドノヴァン男爵令嬢です。なぜこんな深夜に女性と一緒に帰宅なさったのですか…?あ、あなたは既婚者なのに……おかしいではありませんか……っ」

 泣いたら嫌がられると分かっていても、込み上げてくるものを抑えることができない。みるみる視界が揺らいできたが、それでも私はキッと真っ直ぐにダミアン様を見つめた。

「……。」
「仲の良いお友達とはいっても……限度があります。あなたは疑うなと嫌がるけれど……、……こんなの、おかしいです……っ!わ、私は、あなたの妻なのですよ……、自由にしたいって……、こんなのは、み、認められません……っ。そもそも、若い女性が、こんな時間に他人の家を訪問するなど……非常識…」


 ドンッ!!


「っ!!」
「…黙って聞いていれば……好き放題言いやがって。いい加減にしろよクラウディア」

 突然テーブルに拳を打ちつけ私を睨みつけるダミアン様の目は、今までに見たことがないほど怒りと冷たさに満ちていた。

「そうやって恨みがましく涙を流しながら俺に説教するお前は少しも可愛げがない。こんな会話をこれからもずっと繰り返すのか?!うんざりだ!最初に言っただろう!俺は自由に過ごしたいんだ。メラニーだってそうさ。あいつは平民の育ちだからお高くとまった貴族の女たちよりも奔放に過ごしてきたんだ。だから俺はお前よりもあいつと一緒にいる方が気楽なんだよ」
「…………っ!!」
「ふ、今から何をなさるのかだと?夜を共に過ごすんだから、そんなの決まっているだろう!お前も貴族の女ならそんなことにいちいち目くじらを立てるんじゃない。見て見ぬ振りをして、円満に暮らしていく。それがそんなにも難しいことか?いいか、クラウディア、俺たちは互いに自由に生きるんだ!お前も俺の愛情など期待せずに好きに生きろよ。その方がよほど気楽だろうが」

 夫の口から紡がれる言葉の一つ一つが私の胸を抉り、立っていることさえ辛い。体中の力が抜けそうだった。
 私は半ば無意識に声を発していた。

「……じ…………自分の、夫の……愛を期待するのは…………駄目なんですか……?間違っていますか……?」

 こんなに大事に想っていたのに。子どもの頃から、ずっと……。

 ダミアン様は呆然とする私に容赦なくとどめを刺した。

「ああ。駄目だ。間違っている。おやすみ、クラウディア」

 そう言うと彼はそのまま私の視界から消えた。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

処理中です...