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25.深まる関係
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「……ふ…、やはりよく似合っている。つけてきてくれてありがとう、クラウディア嬢」
「こっ……こちらこそ……っ。こんな素敵な贈り物……。感激しましたわ。ありがとうございます、アーネスト様」
「……。」
「…………?あ、……あの……?」
「…………今日もとても綺麗だ」
「っ?!…………そっ…………!……ぁ、……ありがとうございます……」
あれから何度かの手紙のやり取りをして、今日はアーネスト様と二度目のお出かけ。
待ち望んでいなかったと言えば、嘘になる。
あの楽しかったお出かけの夜。
一日の思い出と素敵な贈り物にすっかり興奮してしまって、少しも眠れなかった。男性からあんなロマンチックな演出をしてもらったのは初めてだったから。あの日以来、アーネスト様のことが頭の中から一時も離れない。
(私ったら……なんて単純なのかしら。私は既婚者なのよ。あちらは深い意味なんてなくて、ただ一緒にお食事を楽しんでくださっているだけなのに。アーネスト様が紳士で気が利いていて素敵な男性だから、あんなロマンチックな贈り物をしてくれただけ。それなのに、いつまでもこんな浮ついた気持ちでいるのは、逆に失礼よ。私のバカ……)
必死で自分を戒めてみても、アーネスト様が頭の中から出て行ってくれない。
素敵な男性から大切に扱われて優しくしてもらえることが、こんなにも嬉しいことだったなんて、今まで知らなかったから……。
ダミアン様は私に贈り物をくださったり、私を褒めてくれたことなんて一度もなかった。子どもの頃にダミアン様の妻になるのだと聞かされた日以来他の男性の存在を意識したことのなかった私にとって、アーネスト様と過ごした一日はあまりにも新鮮だった。
(……ううん。それが何よ。自分の夫と他の男性を比べるなんて、そもそもおかしな話よね。私の夫はダミアン様なんだから。アーネスト様は、ただのお友達…)
何度も自分にそう言い聞かせてみても、夫が女性を伴って帰宅したり夜帰ってこなかったりすることに対して、以前ほど苦しい気持ちがなくなってきていることも確かだ。ここ数ヶ月、ずっと泣いてばかりの結婚生活だった。だけど今は違う。
もう以前のように無理して夫とコミュニケーションを取ろうと頑張ることもしなくなってしまった。アーネスト様の優しい眼差しと、ダミアン様の面倒そうな冷たい眼差しとはあまりにも違いすぎた。
(これが、お互い自由に生きるということ…。ダミアン様が望んでいることなのよね)
それならば、もういいわ。夫の何かが変わるまで、私もこうして気を紛らわせながら日々を過ごしていけばいい。
ついこの前まであんなにも苦しんでいたというのに、今の私はあっさりとそんな風に考えるようにまでなってしまったのだった。
「わぁ…!本当に綺麗ですね、アーネスト様。見てください、これ……!何て繊細なんでしょう」
アーネスト様が連れて行ってくださった素敵なレストランで昼食をとった後、私たちは街の一角にできた異国マーケットに足を運んでいた。
年に一度だけこの辺りに開設される異国マーケットは、他国からやって来た商人やお店のオーナーたちが通り沿いに簡易的な店を出して様々な品物を並べては皆の目を楽しませている。私は子どもの頃に母と見に来たことがあるくらいだ。王立学園に通うようになってからは婚約者や恋人とデートで行っている人たちが何人もいて、よく話を聞いては羨ましく思ったものだ。私もダミアン様と来てみたかったけれど誘われることはなかったし、いつも他のご友人方と一緒にいる彼に声をかけることもできなかった。
「…ああ、確かに。これは素晴らしい職人技だな。見事なものだ」
ガラス細工をたくさん並べている店舗の軒先を覗き込みながら、アーネスト様も感心している。
たくさん並んだ精巧なガラス細工は本当に美しかった。様々な色がつけられた香水瓶に、動物や植物をかたどったもの、妖精や天使のモチーフのものなど見ていてちっとも飽きない。
「どれが気に入ったんだい?」
「そうですね…どれも素敵で……。でも一番はこれかしら。ほら、この二羽の小鳥、見てください。…可愛い」
私が特に惹かれたのは、小さな二羽の小鳥が向かい合って互いを慈しむように羽を触れ合わせているものだった。淡い水色で色付けられていてとても綺麗だ。
「では、これを包んでくれるか」
「はい、かしこまりました。ありがとうございます」
「っ?!…え?!」
アーネスト様は躊躇いもなくお店の女性に声をかけ、二羽の小鳥を買ってしまった。
「ア、アーネスト様っ?!いえっ、違……っ、か、買ってほしかったわけではなくて……っ!」
「いいじゃないか。私がプレゼントしたいんだ。君の部屋に飾ってくれたら、きっと見るたびに今日のことを思い出すだろう?」
「……っ、ア……アーネスト様……」
優しい言葉に胸がいっぱいになる。頬が火照ってきて、私は慌てて目を逸らした。
マーケットは人通りが多く、私は人並みに揉まれそうになりながらアーネスト様の隣に並んで頑張って歩いていた。
「あっ!ご、ごめんなさい……」
すれ違う人と強めに肩がぶつかってしまって慌てて謝る。本当に、自分の鈍くささが嫌になる。
その時、アーネスト様がごく自然に私の右手を包み込むようにぎゅっと握った。
「っ!!」
「…はぐれてしまわないように。もっと傍にくっついていて」
「………………はい……」
私を振り返って優しく微笑むアーネスト様のお顔があまりにも素敵で、心臓が口から飛び出しそうだった。頭がクラクラする。足が宙に浮いているようだった。きっと私の体中どこもかしこもが真っ赤に染まっていたことだろう。
その夜。
私は部屋のテーブルの上に飾った二羽の小鳥を、いつまでもずっと見つめていた。月明かりに照らされた、小さな可愛い小鳥たち。
甘く痺れるような胸の疼きを持て余し、何度も溜息をつきながら、いつまでもずっと見つめていた。
「こっ……こちらこそ……っ。こんな素敵な贈り物……。感激しましたわ。ありがとうございます、アーネスト様」
「……。」
「…………?あ、……あの……?」
「…………今日もとても綺麗だ」
「っ?!…………そっ…………!……ぁ、……ありがとうございます……」
あれから何度かの手紙のやり取りをして、今日はアーネスト様と二度目のお出かけ。
待ち望んでいなかったと言えば、嘘になる。
あの楽しかったお出かけの夜。
一日の思い出と素敵な贈り物にすっかり興奮してしまって、少しも眠れなかった。男性からあんなロマンチックな演出をしてもらったのは初めてだったから。あの日以来、アーネスト様のことが頭の中から一時も離れない。
(私ったら……なんて単純なのかしら。私は既婚者なのよ。あちらは深い意味なんてなくて、ただ一緒にお食事を楽しんでくださっているだけなのに。アーネスト様が紳士で気が利いていて素敵な男性だから、あんなロマンチックな贈り物をしてくれただけ。それなのに、いつまでもこんな浮ついた気持ちでいるのは、逆に失礼よ。私のバカ……)
必死で自分を戒めてみても、アーネスト様が頭の中から出て行ってくれない。
素敵な男性から大切に扱われて優しくしてもらえることが、こんなにも嬉しいことだったなんて、今まで知らなかったから……。
ダミアン様は私に贈り物をくださったり、私を褒めてくれたことなんて一度もなかった。子どもの頃にダミアン様の妻になるのだと聞かされた日以来他の男性の存在を意識したことのなかった私にとって、アーネスト様と過ごした一日はあまりにも新鮮だった。
(……ううん。それが何よ。自分の夫と他の男性を比べるなんて、そもそもおかしな話よね。私の夫はダミアン様なんだから。アーネスト様は、ただのお友達…)
何度も自分にそう言い聞かせてみても、夫が女性を伴って帰宅したり夜帰ってこなかったりすることに対して、以前ほど苦しい気持ちがなくなってきていることも確かだ。ここ数ヶ月、ずっと泣いてばかりの結婚生活だった。だけど今は違う。
もう以前のように無理して夫とコミュニケーションを取ろうと頑張ることもしなくなってしまった。アーネスト様の優しい眼差しと、ダミアン様の面倒そうな冷たい眼差しとはあまりにも違いすぎた。
(これが、お互い自由に生きるということ…。ダミアン様が望んでいることなのよね)
それならば、もういいわ。夫の何かが変わるまで、私もこうして気を紛らわせながら日々を過ごしていけばいい。
ついこの前まであんなにも苦しんでいたというのに、今の私はあっさりとそんな風に考えるようにまでなってしまったのだった。
「わぁ…!本当に綺麗ですね、アーネスト様。見てください、これ……!何て繊細なんでしょう」
アーネスト様が連れて行ってくださった素敵なレストランで昼食をとった後、私たちは街の一角にできた異国マーケットに足を運んでいた。
年に一度だけこの辺りに開設される異国マーケットは、他国からやって来た商人やお店のオーナーたちが通り沿いに簡易的な店を出して様々な品物を並べては皆の目を楽しませている。私は子どもの頃に母と見に来たことがあるくらいだ。王立学園に通うようになってからは婚約者や恋人とデートで行っている人たちが何人もいて、よく話を聞いては羨ましく思ったものだ。私もダミアン様と来てみたかったけれど誘われることはなかったし、いつも他のご友人方と一緒にいる彼に声をかけることもできなかった。
「…ああ、確かに。これは素晴らしい職人技だな。見事なものだ」
ガラス細工をたくさん並べている店舗の軒先を覗き込みながら、アーネスト様も感心している。
たくさん並んだ精巧なガラス細工は本当に美しかった。様々な色がつけられた香水瓶に、動物や植物をかたどったもの、妖精や天使のモチーフのものなど見ていてちっとも飽きない。
「どれが気に入ったんだい?」
「そうですね…どれも素敵で……。でも一番はこれかしら。ほら、この二羽の小鳥、見てください。…可愛い」
私が特に惹かれたのは、小さな二羽の小鳥が向かい合って互いを慈しむように羽を触れ合わせているものだった。淡い水色で色付けられていてとても綺麗だ。
「では、これを包んでくれるか」
「はい、かしこまりました。ありがとうございます」
「っ?!…え?!」
アーネスト様は躊躇いもなくお店の女性に声をかけ、二羽の小鳥を買ってしまった。
「ア、アーネスト様っ?!いえっ、違……っ、か、買ってほしかったわけではなくて……っ!」
「いいじゃないか。私がプレゼントしたいんだ。君の部屋に飾ってくれたら、きっと見るたびに今日のことを思い出すだろう?」
「……っ、ア……アーネスト様……」
優しい言葉に胸がいっぱいになる。頬が火照ってきて、私は慌てて目を逸らした。
マーケットは人通りが多く、私は人並みに揉まれそうになりながらアーネスト様の隣に並んで頑張って歩いていた。
「あっ!ご、ごめんなさい……」
すれ違う人と強めに肩がぶつかってしまって慌てて謝る。本当に、自分の鈍くささが嫌になる。
その時、アーネスト様がごく自然に私の右手を包み込むようにぎゅっと握った。
「っ!!」
「…はぐれてしまわないように。もっと傍にくっついていて」
「………………はい……」
私を振り返って優しく微笑むアーネスト様のお顔があまりにも素敵で、心臓が口から飛び出しそうだった。頭がクラクラする。足が宙に浮いているようだった。きっと私の体中どこもかしこもが真っ赤に染まっていたことだろう。
その夜。
私は部屋のテーブルの上に飾った二羽の小鳥を、いつまでもずっと見つめていた。月明かりに照らされた、小さな可愛い小鳥たち。
甘く痺れるような胸の疼きを持て余し、何度も溜息をつきながら、いつまでもずっと見つめていた。
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