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34.クラウディアの日記(※sideダミアン)
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「父上……お待たせいたしました。どうされたのですか?わざわざ…」
ここまでいらっしゃるなんて、と言おうとしたが、父と目が合った途端に言葉が喉でつかえた。
……な、何だ……?凄まじい怒りを感じる。父のこめかみには青筋が浮き、歯ぎしりが聞こえてきそうなほど口元に力がこもっている。充血した目でまるで呪いでもかけるかのように俺を睨みつけている。
「……今日の相手はメラニー・ドノヴァン男爵令嬢か」
「…。…………っ?!へ……っ?!」
父の言葉が脳に届いた瞬間、俺は目を見開いて跳びはねた。な、……何故、メラニーの名を……?
途端に心臓が大きく脈打ちはじめ、じわりと嫌な汗が浮く。
「……な……っ、……何の、こと、でしょう、か……」
頭の中では無駄なことだと分かりつつも、俺は一応とぼけてみせた。メラニーのやつ……さっさと帰っただろうな……!
すると突然父がザッと立ち上がり、居間を出て行く。俺は慌てて父を止めた。
「ちっ!ちちうえっ!おっ、お待ちください…っ、ど、どこへ…」
声が裏返る。すぐに後を追ったが、時すでに遅し。父はそのまま玄関ホールへ向かうと、ちょうど扉に手をかけたところで固まって父を見つめるメラニーに声をかけた。
「息子が世話になっているようだな、メラニー・ドノヴァン男爵令嬢殿。お父上にはあなたから先に事情を説明しておいた方がいい。マクラウド伯爵家へ支払うことになる慰謝料は決して安くはない。心構えが必要だろう」
「………………っ、…………な…………何のことだか、……あ、あたくしには、さっぱり………………し、失礼いたしますわ!!」
メラニーは夢中で扉を開けると顔面蒼白のまま外へ飛び出していった。
父はゆっくりと俺を振り返る。……その顔はまさに鬼だった。
「……居間へ戻れ、ダミアン」
「…………っ、」
一体これから何を言われるのか。恐怖で胃が思いきり強く絞られたような感覚がした。
「先日、マクラウド伯爵からお前たちの婚姻に対しての離婚申立書が届いた。多額の慰謝料請求書とともにな」
「っ?!え……っ?!」
寝耳に水の言葉に俺は思わず叫んだ。な、何だと……?!何故だ?!クラウディアのやつ…………まさか、全てを両親に話してしまったのか……?!
離婚……?!離婚だと……?!
「お前、結婚した時にはすでにドノヴァン男爵令嬢をはじめ何人もの愛人がいたそうだな。クラウディア嬢の苦悩は全て彼女のこの日記に記してある。…貴様よりにもよって、隠し通すこともせずに彼女に不貞行為を曝け出したそうだな。…何が自由な結婚生活だ、この不届き者が」
(………………う…………嘘だろ…………)
父がテーブルの上に置いた赤い表紙の日記を手に取り、おそるおそる中を開いた。
そこには、この結婚生活の何もかもが赤裸々に記されていた。あいつの手によって。
“私は今日、ダミアン様の妻となった。幼い頃からずっとずっと楽しみにしていた今日のこの日。だけどダミアン様は違った。私たちのこの結婚はまるっきり愛のない政略結婚だと。互いに自由に生きようと仰った。辛くてたまらない。”
“ダミアン様が帰ってこない。もう3日になる。どこにいらっしゃるのだろう。何も聞いていないから、心配でたまらない。大丈夫だろうか。早くご無事な姿が見たい。”
“一体何をしたらダミアン様に喜んでもらえるのだろう。どう尽くしても、私の想いは彼に伝わらない。俺に構わず勝手にやれと言われると、寂しくて辛い。”
“お仕事をお手伝いさせて欲しいと言ってみたところ、初めてダミアン様が私に向かって微笑んでくださった。嬉しい。頑張らなくては。”
“ダミアン様が任されている領地の経営状況が良くない。何度もお伝えしなくてはと思っているのに、ダミアン様はお仕事の話を嫌がって聞いてくださらない。今日も伝えようとしたところ嫌な顔をしてすぐに出て行ってしまった。”
“ダミアン様が深夜になってメラニー・ドノヴァン男爵令嬢を伴って屋敷にお戻りになった。こんな時間から何をするのかと尋ねると、夜を共に過ごすのだと。俺の愛情など期待せずに好きに生きろと言われた。こんな結婚生活になってしまうなんて。涙が止まらない。辛い。悲しい。”
「…………………………っ、」
(ぜ………………全部、書いてやがる…………)
目まいがした。もうこれ以上目を通す気にはなれない。き、切り抜けなくては……。俺は必死で頭を回転させた。…いや、大丈夫だ、こんなもの。あいつの妄想だと言ってしまえばそれまでじゃないか?こんなものは書いた者勝ちだ。何の証拠にもならない。あいつは精神を病んでいるのだ。そうだ、そういう体でいこう。
「……ふ、……ふは、…父上、この日記とやらは、おそらく全てクラウディアが適当に書いた架空の物語のようです。こんな事実は一切ない。メラニー嬢とは確かに親しくはしておりますが、それはただの友人…」
「先日、うちにグレアム侯爵令息が来た」
「…………………………え」
ここまでいらっしゃるなんて、と言おうとしたが、父と目が合った途端に言葉が喉でつかえた。
……な、何だ……?凄まじい怒りを感じる。父のこめかみには青筋が浮き、歯ぎしりが聞こえてきそうなほど口元に力がこもっている。充血した目でまるで呪いでもかけるかのように俺を睨みつけている。
「……今日の相手はメラニー・ドノヴァン男爵令嬢か」
「…。…………っ?!へ……っ?!」
父の言葉が脳に届いた瞬間、俺は目を見開いて跳びはねた。な、……何故、メラニーの名を……?
途端に心臓が大きく脈打ちはじめ、じわりと嫌な汗が浮く。
「……な……っ、……何の、こと、でしょう、か……」
頭の中では無駄なことだと分かりつつも、俺は一応とぼけてみせた。メラニーのやつ……さっさと帰っただろうな……!
すると突然父がザッと立ち上がり、居間を出て行く。俺は慌てて父を止めた。
「ちっ!ちちうえっ!おっ、お待ちください…っ、ど、どこへ…」
声が裏返る。すぐに後を追ったが、時すでに遅し。父はそのまま玄関ホールへ向かうと、ちょうど扉に手をかけたところで固まって父を見つめるメラニーに声をかけた。
「息子が世話になっているようだな、メラニー・ドノヴァン男爵令嬢殿。お父上にはあなたから先に事情を説明しておいた方がいい。マクラウド伯爵家へ支払うことになる慰謝料は決して安くはない。心構えが必要だろう」
「………………っ、…………な…………何のことだか、……あ、あたくしには、さっぱり………………し、失礼いたしますわ!!」
メラニーは夢中で扉を開けると顔面蒼白のまま外へ飛び出していった。
父はゆっくりと俺を振り返る。……その顔はまさに鬼だった。
「……居間へ戻れ、ダミアン」
「…………っ、」
一体これから何を言われるのか。恐怖で胃が思いきり強く絞られたような感覚がした。
「先日、マクラウド伯爵からお前たちの婚姻に対しての離婚申立書が届いた。多額の慰謝料請求書とともにな」
「っ?!え……っ?!」
寝耳に水の言葉に俺は思わず叫んだ。な、何だと……?!何故だ?!クラウディアのやつ…………まさか、全てを両親に話してしまったのか……?!
離婚……?!離婚だと……?!
「お前、結婚した時にはすでにドノヴァン男爵令嬢をはじめ何人もの愛人がいたそうだな。クラウディア嬢の苦悩は全て彼女のこの日記に記してある。…貴様よりにもよって、隠し通すこともせずに彼女に不貞行為を曝け出したそうだな。…何が自由な結婚生活だ、この不届き者が」
(………………う…………嘘だろ…………)
父がテーブルの上に置いた赤い表紙の日記を手に取り、おそるおそる中を開いた。
そこには、この結婚生活の何もかもが赤裸々に記されていた。あいつの手によって。
“私は今日、ダミアン様の妻となった。幼い頃からずっとずっと楽しみにしていた今日のこの日。だけどダミアン様は違った。私たちのこの結婚はまるっきり愛のない政略結婚だと。互いに自由に生きようと仰った。辛くてたまらない。”
“ダミアン様が帰ってこない。もう3日になる。どこにいらっしゃるのだろう。何も聞いていないから、心配でたまらない。大丈夫だろうか。早くご無事な姿が見たい。”
“一体何をしたらダミアン様に喜んでもらえるのだろう。どう尽くしても、私の想いは彼に伝わらない。俺に構わず勝手にやれと言われると、寂しくて辛い。”
“お仕事をお手伝いさせて欲しいと言ってみたところ、初めてダミアン様が私に向かって微笑んでくださった。嬉しい。頑張らなくては。”
“ダミアン様が任されている領地の経営状況が良くない。何度もお伝えしなくてはと思っているのに、ダミアン様はお仕事の話を嫌がって聞いてくださらない。今日も伝えようとしたところ嫌な顔をしてすぐに出て行ってしまった。”
“ダミアン様が深夜になってメラニー・ドノヴァン男爵令嬢を伴って屋敷にお戻りになった。こんな時間から何をするのかと尋ねると、夜を共に過ごすのだと。俺の愛情など期待せずに好きに生きろと言われた。こんな結婚生活になってしまうなんて。涙が止まらない。辛い。悲しい。”
「…………………………っ、」
(ぜ………………全部、書いてやがる…………)
目まいがした。もうこれ以上目を通す気にはなれない。き、切り抜けなくては……。俺は必死で頭を回転させた。…いや、大丈夫だ、こんなもの。あいつの妄想だと言ってしまえばそれまでじゃないか?こんなものは書いた者勝ちだ。何の証拠にもならない。あいつは精神を病んでいるのだ。そうだ、そういう体でいこう。
「……ふ、……ふは、…父上、この日記とやらは、おそらく全てクラウディアが適当に書いた架空の物語のようです。こんな事実は一切ない。メラニー嬢とは確かに親しくはしておりますが、それはただの友人…」
「先日、うちにグレアム侯爵令息が来た」
「…………………………え」
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