【完結済】トラウマ持ち令嬢と潔癖王子の白い結婚契約は撤回されました 〜 白くない結婚を目指します! 〜

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2. 新たな婚約宣言

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(……え……?)

 声のした方をおそるおそる振り向き、私は固まった。
 このイヴリンド王国の第三王子クリストファー様が、私たちの方へと真っ直ぐに歩いてきていたからだ。
 美しいホワイトブロンドに、深く澄んだ青い瞳。陶器のような滑らかな肌に、スラリと高い背と長い足。発光しているかのような、その美しさ。
 王国随一の美青年と謳われるクリストファー王子殿下は、大広間の中央に佇む私とジョゼフ殿下、そしてオーデン男爵令嬢の元へとやって来ると、さも当然のように私の隣に立ち、殿下と向かい合った。

(……? ……??)

 一体、何が起こっているの……? 今この方、何とおっしゃった……?
 私の疑問は、ジョゼフ王太子殿下が口にした。

「……何をしている、クリス。冗談のつもりか? フローリアを貰い受けるとは、一体何の話だ」

 オーデン男爵令嬢を抱き寄せたジョゼフ殿下がそう問うと、クリストファー王子殿下は無表情のまま淡々と答える。

「そのままの意味ですよ、兄上。あなたはそちらの男爵家の令嬢を新たな婚約者として迎えるのでしょう。でしたら、こちらの令嬢はこの俺の婚約者として貰い受けると。そのように言ったのです」

 成り行きを見守っている貴族たちのあちこちから、小さな悲鳴が上がる。若いご令嬢たちの声だ。このクリストファー第三王子は、イヴリンド王国内で最も女性たちからの熱い視線を受ける殿方なのだ。完璧に整った容姿に、優雅な立ち居振る舞い。常にクールなその表情とオーラには近寄りがたさを感じるが、これほど美しい殿方はこの世に二人といないのではないかと思う。誰もが見惚れる美男子、その上王子様だ。さらには、ジョゼフ王太子殿下の三つ年下の二十歳という年齢でありながら、いまだ婚約者もいない。王族としては異例のことだ。女性たちが騒がないはずがなかった。貴族令嬢たちからも一般の民たちからも、大人気のお方なのだ。
 あ然として隣の美麗王子様を見上げていると、国王陛下が低い声を発した。

「クリストファー、お前まで突然何を言い出すのだ。茶番はよせ。ジョゼフ、お前もだ」

 陛下の隣に座る、ジョゼフ殿下と第二王子殿下の母君であられる王妃陛下は、目を吊り上げてこちらを凝視している。クリストファー殿下の母君であられる側妃様は、見るからに心配そうな表情だ。
 クリストファー殿下が間髪入れずに言い返す。

「このような場で茶番など演じるはずがございませんよ、国王陛下。たった今兄上が、、バークリー公爵家の令嬢との婚約を破棄し、新たにその男爵令嬢と婚約を結ぶと宣言された。ですから俺は、それならばバークリー公爵令嬢は俺が貰い婚約を結ぶと、そう申し上げたのです」

 きゃあっ、という叫び声が、再び広間に響く。扇で顔を隠す令嬢や、目をまん丸に見開く令嬢、露骨に悲しげな顔をする令嬢など、反応は様々だが、ショックを受けているのは皆同じだろう。
 私だって、この方がなぜ突然こんなことを言い出したのか、理解できない。クリストファー殿下と私は、ほとんど口をきいたことさえないのだ。お顔を合わせるたびにこちらからご挨拶をしても、殿下はいつも不快そうに眉間に皺を寄せ、「ああ」などと小さく返事をし、そそくさと離れていくだけだった。
 クリストファー殿下は続ける。

「このイヴリンド王国の王太子として、兄上はご自身の発言の重さと、一言一句の責任についてしっかりとお考えのはずだ。その兄上が、こうして我が国の貴族、重鎮らが見守る中で、婚約者の変更を宣言なさった。そうでしょう? 兄上はそちらの男爵令嬢と生涯を共にし、やがては王位を継ぎ、お二人で王国の安寧を守っていくお覚悟があるわけですよね」
「……当然だ!」

 ジョゼフ殿下はまるでムキになったように、オーデン男爵令嬢を強く抱きしめる。

「俺に二言はない! エヴァナを我が妃とし、二人で王国の未来を守る! フローリアのことは……お前の好きにすればいい。俺にはもう関係はない!」
「承知した。では兄上、イヴリンド王国王太子として、今一度皆に正式な宣言を」
「ああ! この俺、ジョゼフ・ウィルヘルム・イヴリンドは、エヴァナ・オーデン男爵令嬢を新たな婚約者と決定する! また、第三王子クリストファー・ショーン・イヴリンドは、フローリア・バークリー公爵令嬢を婚約者と定めることを、ここに宣言する!」

 一瞬静まり返った大広間からは、やがてまばらな拍手が起こり、それはまたたく間に割れんばかりのものとなった。
 口を挟む間もなかった国王陛下と王妃陛下は、青筋を立てて私たち四人を見据えている。

 目の前でひしと抱き合うジョゼフ殿下とオーデン男爵令嬢。
 反対に、クリストファー殿下と私は指先を掠めることさえせず、私はただ呆然と互いにその場に立ち尽くしていた。




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