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32.密告の手紙(※sideエリオット)
『 親愛なるエリオット殿下
先日の手紙ではご心配をおかけするようなことを書いてしまいました。ごめんなさい。私はもう大丈夫です。
最近ではいろいろな過去の思いを振り切って、以前よりももっと前向きになった気がします。それもエリオット殿下のおかげです。殿下のお優しさに、細やかなお気遣いに、心から感謝しています。
長く苦しんだような気もしますが、今となってはそれももう私の過去の一部です。これを糧にもっと成長していけるよう努力いたしますわ。
新しい本もまた贈ってくださって、ありがとうございます。とても面白くて、毎日学園から帰ってきて読むのが楽しみなんです!大切にします。
クラリッサ・ジェニング 』
「…………ふ、……よかった」
クラリッサからの手紙を読んで、思わず頬が緩む。心配したけれど、今回の手紙の文面から彼女の前向きな明るさが伝わってくるようでホッとした。
僕が思っている以上に、彼女は立ち直ってきているのかもしれない。
(…いつまでも、一人ではないだろうしな)
言いがかりによって先方から一方的に婚約破棄されたとはいえ、あのクラリッサだ。美しく聡明で、しかもジェニング侯爵家の娘。きっと次の縁談の申し込みは途切れることなく来ているだろう。
こうして秘かに手紙のやり取りをすることを許されるのは、いつまでだろうか。
何とも言えない寂しさを感じていたその時、そのクラリッサの兄であるウォルターが難しい顔をして僕の執務室に入ってきた。ドキッとして、さりげなくクラリッサからの手紙を引き出しにしまう。
「…失礼いたします、殿下」
「うん。どうした?ウォルター」
ウォルターはその難しい顔のままで、僕のそばに近付いてくる。そして声を潜めて言った。
「……妙な手紙が届いておりまして…」
「……っ、……え?」
手紙、という言葉に思わずたじろぐ。まさか、クラリッサの手紙のことじゃないよな……?
ウォルターにバレるのは何となく気まずい僕は咄嗟にそう思った。ところが、その内容は全く別のものだった。
「殿下宛ての手紙だったのですが、差出人の名前に誰も心当たりがなく、念のためこちらで中身を改めさせていただきました。……それが、非常に……信じがたいものでして」
「……内容がか?」
「ええ。……どうやら偽名による、何者かの密告のようです。差出人の住所も存在しないデタラメなものでした。…ご確認いただけますか?」
「…ああ。見せてくれ」
僕は慎重に差し出すウォルターからその手紙を受け取り、封を開いた。
「…………?」
差出人の名は“ジョン・スミス”となっている。聞き覚えがない。
折り畳まれた紙を開き読みはじめた僕は、その衝撃的な内容に目を疑った。
『我らが敬愛するティナレイン王国王太子殿下
貴殿の婚約者であるミリー・フィールズ公爵令嬢の日々の悪行は、とても王家に嫁ぐ者として相応しくないものである。
かの女は貴殿という高貴なる方にその身を捧ぐ立場にありながら貴殿を謀り、平民の男と密会を繰り返し、公共の場において目に余る不埒な行いをしている。
これをこのまま野放しにし続ければ、いずれは王家の信頼は地に墜ちることとなる。即刻対処なさることを進言する。
以下、かの女と相手の男の密会の場所、これまでの密会の時刻、回数について記す。………… 』
「…………。」
僕はしばらく呆然としていた。悪戯にしては随分と手が込んでいる。
2枚目の便箋に記されたそのミリーと男の密会の経歴は実に細かく記録されており、場所、日付、二人が出会った時刻、どのように触れあっていたか、口づけをした回数、別れた時刻など、まるで毎日最初から最後まで、全てをじっくりと見ていたかのような詳細であった。
「……これが真実であれ悪戯であれ、無視するわけにはまいりませんね」
「…………ああ。そうだな。……確認する必要があるだろう。この手紙通りとするならば、密会の場所はいつも同じということになるな」
「ええ。俺の妹やフィールズ公爵令嬢が通っている貴族学園のすぐそばです、この公園は」
「ああ」
ウォルターの言葉にそう答えながらも、僕はにわかには信じられなかった。ミリーはいけ好かない性格ではあるが、慎重で賢い子だ。こんな人目に触れる場所で、平民の恋人と密会などと…。そのリスクがどれほど大きいものか、分からないような愚鈍な娘ではないはずだ。
(…しかし、嘘であるならあるで、確認するに越したことはない)
ここに記された記録では、ミリーはほぼ毎日学園から下校する時にここに立ち寄っていることになる。その時間帯を狙って数日間見に行けば、この密告の手紙の真偽はすぐに分かるだろう。
先日の手紙ではご心配をおかけするようなことを書いてしまいました。ごめんなさい。私はもう大丈夫です。
最近ではいろいろな過去の思いを振り切って、以前よりももっと前向きになった気がします。それもエリオット殿下のおかげです。殿下のお優しさに、細やかなお気遣いに、心から感謝しています。
長く苦しんだような気もしますが、今となってはそれももう私の過去の一部です。これを糧にもっと成長していけるよう努力いたしますわ。
新しい本もまた贈ってくださって、ありがとうございます。とても面白くて、毎日学園から帰ってきて読むのが楽しみなんです!大切にします。
クラリッサ・ジェニング 』
「…………ふ、……よかった」
クラリッサからの手紙を読んで、思わず頬が緩む。心配したけれど、今回の手紙の文面から彼女の前向きな明るさが伝わってくるようでホッとした。
僕が思っている以上に、彼女は立ち直ってきているのかもしれない。
(…いつまでも、一人ではないだろうしな)
言いがかりによって先方から一方的に婚約破棄されたとはいえ、あのクラリッサだ。美しく聡明で、しかもジェニング侯爵家の娘。きっと次の縁談の申し込みは途切れることなく来ているだろう。
こうして秘かに手紙のやり取りをすることを許されるのは、いつまでだろうか。
何とも言えない寂しさを感じていたその時、そのクラリッサの兄であるウォルターが難しい顔をして僕の執務室に入ってきた。ドキッとして、さりげなくクラリッサからの手紙を引き出しにしまう。
「…失礼いたします、殿下」
「うん。どうした?ウォルター」
ウォルターはその難しい顔のままで、僕のそばに近付いてくる。そして声を潜めて言った。
「……妙な手紙が届いておりまして…」
「……っ、……え?」
手紙、という言葉に思わずたじろぐ。まさか、クラリッサの手紙のことじゃないよな……?
ウォルターにバレるのは何となく気まずい僕は咄嗟にそう思った。ところが、その内容は全く別のものだった。
「殿下宛ての手紙だったのですが、差出人の名前に誰も心当たりがなく、念のためこちらで中身を改めさせていただきました。……それが、非常に……信じがたいものでして」
「……内容がか?」
「ええ。……どうやら偽名による、何者かの密告のようです。差出人の住所も存在しないデタラメなものでした。…ご確認いただけますか?」
「…ああ。見せてくれ」
僕は慎重に差し出すウォルターからその手紙を受け取り、封を開いた。
「…………?」
差出人の名は“ジョン・スミス”となっている。聞き覚えがない。
折り畳まれた紙を開き読みはじめた僕は、その衝撃的な内容に目を疑った。
『我らが敬愛するティナレイン王国王太子殿下
貴殿の婚約者であるミリー・フィールズ公爵令嬢の日々の悪行は、とても王家に嫁ぐ者として相応しくないものである。
かの女は貴殿という高貴なる方にその身を捧ぐ立場にありながら貴殿を謀り、平民の男と密会を繰り返し、公共の場において目に余る不埒な行いをしている。
これをこのまま野放しにし続ければ、いずれは王家の信頼は地に墜ちることとなる。即刻対処なさることを進言する。
以下、かの女と相手の男の密会の場所、これまでの密会の時刻、回数について記す。………… 』
「…………。」
僕はしばらく呆然としていた。悪戯にしては随分と手が込んでいる。
2枚目の便箋に記されたそのミリーと男の密会の経歴は実に細かく記録されており、場所、日付、二人が出会った時刻、どのように触れあっていたか、口づけをした回数、別れた時刻など、まるで毎日最初から最後まで、全てをじっくりと見ていたかのような詳細であった。
「……これが真実であれ悪戯であれ、無視するわけにはまいりませんね」
「…………ああ。そうだな。……確認する必要があるだろう。この手紙通りとするならば、密会の場所はいつも同じということになるな」
「ええ。俺の妹やフィールズ公爵令嬢が通っている貴族学園のすぐそばです、この公園は」
「ああ」
ウォルターの言葉にそう答えながらも、僕はにわかには信じられなかった。ミリーはいけ好かない性格ではあるが、慎重で賢い子だ。こんな人目に触れる場所で、平民の恋人と密会などと…。そのリスクがどれほど大きいものか、分からないような愚鈍な娘ではないはずだ。
(…しかし、嘘であるならあるで、確認するに越したことはない)
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