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セクハラとセクシャルハラスメントの「あいだ」~日本語の問題解決能力について
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「ことば」には、ある問題を発見・提起して、解決へと導く「力」が宿されていると思います。正しく「問い」として提起されなければ、それは解かれることはありません。耳慣れないことばというものは、新しい問題として発見・提起されているがゆえに「耳慣れない」、つまり、それまで問題として感じ取られていなかったということだろうと思います。しかし近年、日本語が本来的に有しているはずの問題を発見し、提起して、解決へと導こうとする「力」が、いささか弱くなっているように思うのです。本稿では、そのことについて、少し考えてそれをシェアしていこうと考えています。そのことは例えば、「新語」が「新語」のままとして氾濫し、ついには定着していかないということに、象徴的に顕れていると思っています。
例えば「SDGs」。例えば「LGBTQ」。ちょっと古くは、「セクハラ」などが挙がるものと思われます。確かにそれらは、日本語の文脈では見出し得なかった事象や問題に、スポットを当てることに成功しました。初めカタカナ語として移入され、略語として親しまれることもあります。「リストラ」などもそうですね。しかし、気をつけたいのは、略語になったその時に、そのことばが持っていたはずの牙や棘が抜かれてしまってはいないかということです。いわば、略語にすることで日常語として「飼い慣らす」。そのことで、そのことばの問題発見や問題提起の力を脱色してしまう(されてしまう)。標題にも掲げているように、「セクハラ」と「セクシャルハラスメント」との間には、いささかの「違い」があるように、私には思われるのです。
そういう、「飼い慣らす」圧力があるということと同時に、新しい言葉が流入してくる「勢い」が増大してきている。よくよく検討し、咀嚼される前に、次の新語や新しい概念が待っている。カタカナ語のままで、翻訳されることなく使われる「ネガティブ・ケイパビリティ」や、アルファベットの略号のまま使われている「SDGs」などを挙げておきたいと思います。
しかし、そうしてスピーディーかつインスタントに移入されてくる「ことば」が、私たちの日本語と、私たちの精神を、豊かに、強くしているのか。そのことはもっと考えられていいと思うのです。
考えてもみてください。西周や福沢諭吉の時代、彼らは壮絶な思想的格闘をして、「ソサエティ」や「フィロソフィ」、「ヒューマン・ライツ」といった言葉を、中国の漢字を介して日本語として定着させてきた「実績」があるのです。「社会」や「哲学」、「人権」などがそれです。もちろん、これらにはまだ注釈をつけ加えないといけないところはありますが、150年ほどを経て、私たちはそれらを「日常語」として獲得し、運用しています。こうした「努力」を、日本人(と日本語)は、忙しいといって手放してしまってはいないか、いささか気になるところです。
そういったことを、私はこれから「点検」のための読書をしていこうと考えています。今まで読んだ記憶があるものの中で参考になりそうなのが、内田義彦さんの『読書と社会科学』(岩波新書)の第3部です。再読し始めたばかりですので、内容の紹介はできませんが、いずれさせていただきます。
物事は、問題として正しく発見・提起されなければ、解決のための道筋は見えてきません。それができないと、扇状的で棘も毒もある物言いしかできないのだと思います。そうした扇状的な物言いは、対立と分断しか生みません。私たちは、対立と分断を乗り越えた先に開けてくる融和と共生を目指すためにも、ことばの力を信頼し、その力の回復に「賭ける」ことが必要なのだと思います。
例えば「SDGs」。例えば「LGBTQ」。ちょっと古くは、「セクハラ」などが挙がるものと思われます。確かにそれらは、日本語の文脈では見出し得なかった事象や問題に、スポットを当てることに成功しました。初めカタカナ語として移入され、略語として親しまれることもあります。「リストラ」などもそうですね。しかし、気をつけたいのは、略語になったその時に、そのことばが持っていたはずの牙や棘が抜かれてしまってはいないかということです。いわば、略語にすることで日常語として「飼い慣らす」。そのことで、そのことばの問題発見や問題提起の力を脱色してしまう(されてしまう)。標題にも掲げているように、「セクハラ」と「セクシャルハラスメント」との間には、いささかの「違い」があるように、私には思われるのです。
そういう、「飼い慣らす」圧力があるということと同時に、新しい言葉が流入してくる「勢い」が増大してきている。よくよく検討し、咀嚼される前に、次の新語や新しい概念が待っている。カタカナ語のままで、翻訳されることなく使われる「ネガティブ・ケイパビリティ」や、アルファベットの略号のまま使われている「SDGs」などを挙げておきたいと思います。
しかし、そうしてスピーディーかつインスタントに移入されてくる「ことば」が、私たちの日本語と、私たちの精神を、豊かに、強くしているのか。そのことはもっと考えられていいと思うのです。
考えてもみてください。西周や福沢諭吉の時代、彼らは壮絶な思想的格闘をして、「ソサエティ」や「フィロソフィ」、「ヒューマン・ライツ」といった言葉を、中国の漢字を介して日本語として定着させてきた「実績」があるのです。「社会」や「哲学」、「人権」などがそれです。もちろん、これらにはまだ注釈をつけ加えないといけないところはありますが、150年ほどを経て、私たちはそれらを「日常語」として獲得し、運用しています。こうした「努力」を、日本人(と日本語)は、忙しいといって手放してしまってはいないか、いささか気になるところです。
そういったことを、私はこれから「点検」のための読書をしていこうと考えています。今まで読んだ記憶があるものの中で参考になりそうなのが、内田義彦さんの『読書と社会科学』(岩波新書)の第3部です。再読し始めたばかりですので、内容の紹介はできませんが、いずれさせていただきます。
物事は、問題として正しく発見・提起されなければ、解決のための道筋は見えてきません。それができないと、扇状的で棘も毒もある物言いしかできないのだと思います。そうした扇状的な物言いは、対立と分断しか生みません。私たちは、対立と分断を乗り越えた先に開けてくる融和と共生を目指すためにも、ことばの力を信頼し、その力の回復に「賭ける」ことが必要なのだと思います。
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