上 下
5 / 19

3

しおりを挟む
そう、私はあの日カツラとドレスを抱えてアカサンス邸に着いたの。

「お嬢!おはよう」

「あら、おはよう小泉さんお元気だった?旦那さんは?」

「一昨日会ったばかりじゃない」

「そうだったわね、あなたいつもより少し多く食べてるでしょ、浮腫んでるわ」

「そうね少し太ってきたのよ、控え室に案内するわ」

「先にサービスセンターのみんなに挨拶しなくちゃ」

私がそう言うと小泉さんは炎天下に8日間出しっぱなしにしていた生卵を無理やり飲まされるような表情を浮かべたの。

「今はやめといたほうがいいから、先に控え室に行こ、詳しくはそこで話すから」

「あら、なんか面白そうな話があるってことかしら?楽しみだわ、それにコルセットやら何やらで一人で着れないから、あなたに手伝って貰わないといけないし、時間がかかりそうだからみんなには美しい姿が出来上がってから挨拶したほうが良さそうね」

玄関には美しいモザイクが敷き詰められており、華やかな時代の面影を感じていた。
私は玄関入ってすぐの部屋に入ることになった。
当時は家政婦長が事務室のように使っていた部屋で、客用ではないもののそれなりに広く立派だ。

「あら、ソファや椅子の布生地を張り替えたのね」

私は破れて藁が見えていた苔色のソファが美しい雲雀色のソファになっているので驚いたわ、応接セットは建てられた当時の家具だったのかはわからないけど立派なものだったから、ああやって手直しするのは長く使えるし良いことよね。

私はドレスとカツラが入ったヴィトン、美豚じゃないわ!失礼ね、ヴィトンのケースを開けて、さまざまなものを出していく。

「服から着るの?化粧から?」

小泉さんはたくさん出てくる服飾を眺めながらゆっくりと尋ねてきたので私は

「服からに決まってるわ、化粧してからだと布地につくでしょ?」

私はそう言うと着てた服脱いでドロワーズとシュミーズだけになった。

「さっそくコルセットをつけるから締めてくれるかしら?」

私はコルセットを取り出すと何か柱がないか探してみた。
上手いこと衝立のポールがあったのでポーズだけでも
しがみつくようにした。

「しっかり締めてちょうだいね」

「さぁカトリーヌ、息をしっかり吸って」

私は大きく息を吸って気絶しないように意識を保っていく。
ぎゅうぎゅうと締まっていくのがわかる。
きちんと締まってしばらくすると慣れてきて、むしろお腹を支えられるような感じになるので上半身が軽くなるのを感じるの。
で、ステー(型を整える定規みたいな棒)をさして完全。
次にクリノレットというバッスルとクリノリンの間みたいなものを身につけて、それから上衣を着ていく、これもボタンフックを使って止めてもらわないといけない。
で、スカートをつけて完全。

ね?こんな服は一人じゃ無理でしょ?
しおりを挟む

処理中です...