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アイデアの女神様
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今、クリエイターの間で話題になっているサイトがある。阿伊出屋媛と呼ばれる女神を祀った胡散臭いサイトなのだが、なんとこのサイトに奉納(課金)すると、本当にアイデアが降りてくると言うのだ。
私、爾家 此三郎は小説家をしている。と言ってもWEB小説家だ。まだ書籍化した事はない。もう二年以上活動していると言うのに、投稿する小説のPV数は軒並み一桁台なものだから、5話くらい投稿して、すぐに続きを投稿するのを止めてしまった。そんな作品が20を超える。
しかし小説家になる夢は諦められない。お金欲しいもん。女にモテたいもん。世間ではもう小説は斜陽だ、稼げないと言われているが、それはきっと売れなかった作家の妬み嫉み僻みで、売れている作家は港区の超高層マンションなんかで毎日パーティーしていたりするのだ。俺もしたい。
なので俺は日々、小説のネタになるようなものをネットの海を彷徨いながら探している。外に出ろ? 本屋? 図書館? 取材? 実体験? そんなの必要ない。ネットの中には全てあるからな。外に出るだけ時間の無駄だ。
そんな俺だからこそ、同時期にサイトに投稿を始めた奴が、急激にPV数を伸ばし、一気に書籍化まで決めたのが、妬ましくて仕方なかった。なので俺は歯を食いしばって本心を隠し、奴のSNSにDMで突撃した。
『どうやったら、そんな誰も思い付かないようなアイデアの作品が書けるんですか?』
奴の作品は流行りの異世界ものにセパタクローをプラスしたもので、セパタクローのボールで並み居る敵を倒していくのが読者にウケたのだ。
その日のそいつは書籍化が決まって気が大きくなっていたのだろう。DMに返信があった。そこには何もアドバイスなんて書かれておらず、ただサイトのURLだけが貼付されていた。
それが阿伊出屋媛のサイトだった訳だ。いきなりこんなサイトを開かされて、俺はフィッシング詐欺にでもあったような気分となり、すぐにそのサイトから退散したが、どうにも気になり、後日そのサイトの事を調べてみれば、曰く、無名の作家の数々が奉納してアイデアを降ろして貰った。曰く、落ち目の大作家が奉納して返り咲いた。曰く、あのマンガ家が、曰く、あの歌手が、曰く、あの映画監督が、曰く曰く曰く……。
もしかしたら本当にあのサイトには、阿伊出屋媛にはそんな神力があるのかも知れない。周りの他のWEB小説家たちの間にも、このサイトの事は徐々に知られ始めてきていた。ここで乗り遅れたら、それこそ書籍化の夢が夢のままで終わってしまう。俺は思い切って課金する事にして、阿伊出屋媛のサイトを開いた。
「最低奉納金一万円だと!? ボッタクリじゃあないか!」
まだ書籍化もしていない一般市民にとって、一万円は一億円くらいの価値がある事を知らないのか? がここで出し渋れば他のWEB小説家に出し抜かれる。それだけは嫌だ! 俺は清水の舞台から飛び降りる覚悟で、阿伊出屋媛に一万円奉納した。
するとどうだろう。その夜、夢に阿伊出屋媛が現れたではないか。とてもアニメチックな姿だった。ミニスカートの巫女服を着ていて、髪色はピンクで、なんかのほほんとした印象だ。こんな女神様から凄いアイデアが出てくるとは到底思えなかった。
『ふむふむ。あなたに合うアイデアは悪役令嬢ね』
俺を値踏みするように、俺の周りをぐるりと回った阿伊出屋媛が出した答えはそれだった。俺はがっかりした。悪役令嬢ものなら以前に書いている。だが結局それもPV数が跳ねず、早々に書くのを止めたジャンルだ。
『五人よ! 世界大戦で滅んだ未来からやって来た五人のエージェントが、大陸の覇を競う五大国の悪役令嬢に転生し、世界大戦を防ぐ為に各国で暗中飛躍し、時に同じエージェント悪役令嬢と共闘したり、時に各国の王子や貴公子たちと仲を深めていく。そんな話を生み出しなさい!』
阿伊出屋媛の頬が紅潮している。きっと思い付いたこのアイデアが自分のどストライクの好みなのだろう。だが、俺も嫌いじゃない。
悪役令嬢ものとなると、舞台となる国の中で収まる話が多いが、これはそれを飛び出ている。しかも世界大戦を防ぐと言う大義名分があるのも面白い。これによって単純な貴族たちの恋愛劇だけでなく各国との政治や経済、戦争と言った、より視野の広い展開が期待出来るからだ。ああ、早く目を覚まして、すぐにでもプロットに書き起こしたい!
『うむ。お主の小説を楽しみにしておるぞ!』
そう言い残して阿伊出屋媛は夢から消え、俺は目を覚ました。まるで狐につままれたような気分だったが、そんな事を言っている場合ではない。早く夢で阿伊出屋媛から授かったアイデアをプロットにしなければ! 俺は飛び起きるとパソコンに向かった。
半年後、俺の投稿した『崩壊した未来からきた五人の悪役令嬢が世界を救うようですよ?』は日に10万PV以上を稼ぐようになり、出版社から書籍化の打診を受けるまでになった。しかし俺は怖かった。先に書籍化した『異世界セパタクロー』が1巻で打ち切りとなったから。俺の小説はそうならない。そうならない……はずだ。
私、爾家 此三郎は小説家をしている。と言ってもWEB小説家だ。まだ書籍化した事はない。もう二年以上活動していると言うのに、投稿する小説のPV数は軒並み一桁台なものだから、5話くらい投稿して、すぐに続きを投稿するのを止めてしまった。そんな作品が20を超える。
しかし小説家になる夢は諦められない。お金欲しいもん。女にモテたいもん。世間ではもう小説は斜陽だ、稼げないと言われているが、それはきっと売れなかった作家の妬み嫉み僻みで、売れている作家は港区の超高層マンションなんかで毎日パーティーしていたりするのだ。俺もしたい。
なので俺は日々、小説のネタになるようなものをネットの海を彷徨いながら探している。外に出ろ? 本屋? 図書館? 取材? 実体験? そんなの必要ない。ネットの中には全てあるからな。外に出るだけ時間の無駄だ。
そんな俺だからこそ、同時期にサイトに投稿を始めた奴が、急激にPV数を伸ばし、一気に書籍化まで決めたのが、妬ましくて仕方なかった。なので俺は歯を食いしばって本心を隠し、奴のSNSにDMで突撃した。
『どうやったら、そんな誰も思い付かないようなアイデアの作品が書けるんですか?』
奴の作品は流行りの異世界ものにセパタクローをプラスしたもので、セパタクローのボールで並み居る敵を倒していくのが読者にウケたのだ。
その日のそいつは書籍化が決まって気が大きくなっていたのだろう。DMに返信があった。そこには何もアドバイスなんて書かれておらず、ただサイトのURLだけが貼付されていた。
それが阿伊出屋媛のサイトだった訳だ。いきなりこんなサイトを開かされて、俺はフィッシング詐欺にでもあったような気分となり、すぐにそのサイトから退散したが、どうにも気になり、後日そのサイトの事を調べてみれば、曰く、無名の作家の数々が奉納してアイデアを降ろして貰った。曰く、落ち目の大作家が奉納して返り咲いた。曰く、あのマンガ家が、曰く、あの歌手が、曰く、あの映画監督が、曰く曰く曰く……。
もしかしたら本当にあのサイトには、阿伊出屋媛にはそんな神力があるのかも知れない。周りの他のWEB小説家たちの間にも、このサイトの事は徐々に知られ始めてきていた。ここで乗り遅れたら、それこそ書籍化の夢が夢のままで終わってしまう。俺は思い切って課金する事にして、阿伊出屋媛のサイトを開いた。
「最低奉納金一万円だと!? ボッタクリじゃあないか!」
まだ書籍化もしていない一般市民にとって、一万円は一億円くらいの価値がある事を知らないのか? がここで出し渋れば他のWEB小説家に出し抜かれる。それだけは嫌だ! 俺は清水の舞台から飛び降りる覚悟で、阿伊出屋媛に一万円奉納した。
するとどうだろう。その夜、夢に阿伊出屋媛が現れたではないか。とてもアニメチックな姿だった。ミニスカートの巫女服を着ていて、髪色はピンクで、なんかのほほんとした印象だ。こんな女神様から凄いアイデアが出てくるとは到底思えなかった。
『ふむふむ。あなたに合うアイデアは悪役令嬢ね』
俺を値踏みするように、俺の周りをぐるりと回った阿伊出屋媛が出した答えはそれだった。俺はがっかりした。悪役令嬢ものなら以前に書いている。だが結局それもPV数が跳ねず、早々に書くのを止めたジャンルだ。
『五人よ! 世界大戦で滅んだ未来からやって来た五人のエージェントが、大陸の覇を競う五大国の悪役令嬢に転生し、世界大戦を防ぐ為に各国で暗中飛躍し、時に同じエージェント悪役令嬢と共闘したり、時に各国の王子や貴公子たちと仲を深めていく。そんな話を生み出しなさい!』
阿伊出屋媛の頬が紅潮している。きっと思い付いたこのアイデアが自分のどストライクの好みなのだろう。だが、俺も嫌いじゃない。
悪役令嬢ものとなると、舞台となる国の中で収まる話が多いが、これはそれを飛び出ている。しかも世界大戦を防ぐと言う大義名分があるのも面白い。これによって単純な貴族たちの恋愛劇だけでなく各国との政治や経済、戦争と言った、より視野の広い展開が期待出来るからだ。ああ、早く目を覚まして、すぐにでもプロットに書き起こしたい!
『うむ。お主の小説を楽しみにしておるぞ!』
そう言い残して阿伊出屋媛は夢から消え、俺は目を覚ました。まるで狐につままれたような気分だったが、そんな事を言っている場合ではない。早く夢で阿伊出屋媛から授かったアイデアをプロットにしなければ! 俺は飛び起きるとパソコンに向かった。
半年後、俺の投稿した『崩壊した未来からきた五人の悪役令嬢が世界を救うようですよ?』は日に10万PV以上を稼ぐようになり、出版社から書籍化の打診を受けるまでになった。しかし俺は怖かった。先に書籍化した『異世界セパタクロー』が1巻で打ち切りとなったから。俺の小説はそうならない。そうならない……はずだ。
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