近頃よくある異世界紀行

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「…王手」
「待った!」
「…またですか? じゃあこの銀を取って、王手」
「ぬわあああ!?」
 それは部屋で源さんとのんびり将棋を指している時のことだった。椿さんと買い出しに行ったペガサスくんからグループコードでパスが入った。
「…どうかしたの?」
 オレがパスに気をとられている間にズルしようとする源さんをブロックしながら、オレはペガサスくんのパスに応える。
『椿さんが筋肉男達とまた言い争いになりまして…』
 オレと源さんは顔を見合わせる。ああ、いたなぁ、そんな奴。アマルガムが忙し過ぎてすっかり忘れてたや。って、そうだよ、オレアイツらのせいで椿さんの修行に付き合わされるはめになったんじゃん。…………いや、椿さんが源さんとカジノでスッたせいだった。
 まぁ、それは今は置いておこう。
「…っで、またトレーニングルームで決闘することになったと?」
『はい』
「トレーニングルームは決闘する場所じゃないって教えてあげたら?」
『今、そういう冗談言ってる雰囲気じゃないんですけど』
「…悪い。今向かってるから」
 オレと源さんはパスを切ってトレーニングルームに向かう。まずいなぁ。まだ細工を考え中で、BCジュエル椿さんに渡してないのに。

 ギリギリ決闘が始まる前にトレーニングルームに着いた。
「勝てると思いますか?」
 着いて早々ペガサスくんが訊いてくる。こっちは走ってきたんだから労いの言葉の一つも欲しいところだ。特に源さんには…………いらなそうだ。風のバフを覚えて本当に元気になってるなこのじいさん。
「…どうだろう? 五分五分かな。風のバフを覚えた椿さんはオレの想像以上に強いから、アイツらのバフデバフ筋肉コンボにも対抗できると思う」
「五分五分で対抗、ですか」
「…デバフがなぁ。これがバフバフ筋肉だったら、椿さんが勝つって言い切れるんだけど」
 なるほど、とペガサスが得心したところで、筋肉男が大声を上げる。それに沸くギャラリー。どうやら前回の闘いを見た人間がそれなりにいるらしい。
「お前ら、これを見ろォ!」
 筋肉男が自分の首にぶら下がるネックレスを指差す。そのネックレスヘッドには黒い宝石が付いていた。
「オレ達四人は、アマルガムで辛い辛い旅をして、艱難辛苦の山を越え、千辛万苦の海を渡り、海千山千打ち倒し、とうとうこの、BCジュエルを手に入れたのだァ!」
 黒い宝石を掲げて筋肉男が吠える。会場が沸く中、椿さんからパスが入る。
『仁、見えてるな』
『…見えてますよ』
『オレじゃ判別がつかん。あれは…』
『…JBストーンですね』
『やっぱりか』
『…でも気をつけてください。JBストーンも宝石、エーテルライトであることに変わりありません。前回よりパワーアップしていると思って間違いないでしょう』
『それはこちらも同じだ!』
 第二ラウンドのゴングが鳴った。
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