近頃よくある異世界紀行

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 椿さんに付き合ってたら身体がいくつあっても足りないので、BCジュエルの細工を椿さん最優先で仕上げる、ということで手を打ってもらった。

「で、いつできるんだ?」
 ……昨日の今日でこれである。そんなにすぐにできる訳がない。
 昨日からずっとこの言葉を聴かされ続け、頭の中をぐるぐる回っている。お陰で肝心のBCジュエルの細工の構想に入ろうとすると、この言葉が顔を出して邪魔をする始末だ。これじゃ本末転倒である。
「…そんなにすぐにできませんよ。いいから少し黙っててください」
「…………で、いつできるんだ?」
 あんたはエサを我慢できないバカ犬か!?
 折角ルームサービスじゃなく、レストランで朝食を食べているのに、この人どこだろうとお構い無しだな。
 ちなみに朝食はパンケーキにサラダだ。
 椿さんがうるさくて周りのお客さんから白い目で見られる中、オレ達は急き立てられるように朝食を済ませてレストランを後にした。

「椿、うるさいから黙っとれ!」
 源さんがキレた。
 レストランからの帰り道でもしつこくオレに言い迫ってくる椿さんを、源さんが一喝してくれた。
 さすがに椿さんもこれには堪えたらしく、しょぼんとしながらオレ達三人の後をついてくる。
 その様はまるで主人に叱られた犬のようだ。何かこっちが悪いことしたような気分になってくる。
 そんな犬、もとい椿さんを連れながら歩いていると、機械人の紳士に声を掛けられた。
「もしやあなたは数独くんではござらんか?」
 ……また何か厄介なのに声を掛けられたな。
 ちなみに「ござる」はパスを通しての、オレの脳内変換の結果であって、この機械紳士が実際に「ござる」と言っている訳じゃない。おそらくアマルガム語をしゃべっているのだろうが、彼のお国言葉でしゃべっている。でもつまるところ、お国言葉でも変な訛りがついてるってことなんだろうけど。
「…はぁ、確かにアマルガムではそんなあだ名で呼ばれていましたね」
「おお、やはり。拙者も数独にハマった一人でごさってな、数独くんとは機会があれば一度会って礼を述べたいと思っておったのだ」
 キャラ濃いなぁ。そしてしゃべり方が機械紳士って感じの外見に合ってない。
 機械紳士は礼がしたい、とカフェで一杯おごってくれるという。
 急いで朝食を食べたものだから、確かにここらでゆっくりしたかった。渡りに船だからと、お言葉に甘えることにした。
 何気にこの船に乗ってカフェって初めてかも。
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