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寂れた宿
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盗賊たちを捕縛連行する警備隊の馬車に続いて、俺たちの馬車とアルーヴたちも後に続いて都市に入る。ロッコ市と言うらしい。
今まで斜面に建てられていた町や村と違い、ロッコ市は土地が平面だ。ただし西側が崖のように切り立っているので、斜めだった土地を掘って整地して平らにした事が想像出来た。
市には関所があり、それを通らなければ市内に入れない。こんな場所にある都市なので、関所に人は並んでいないかと言えばそうでもない。二十人程の人間と馬車が並んでいる。俺たちが通ってきた道以外にも道はあり、その先にも町や村があるからだ。
普通であれば俺たちもその列に並んで、関所で問答をし、幾許かの関税を支払って市内に入るのだが、俺たちは関所となっている門とは別の門を通ってロッコ市入りする事になった。盗賊の事があるからだ。
別の門から入ってすぐそこには、警備隊の詰め所があった。石造りのその建物に入ると、なんとも汗臭く雑然としている。運動部の部室と言った印象だ。バヨネッタさんなんて露骨に顔をしかめていた。
「いやあいやあ、すみません。盗賊退治の英雄をこんな所にお連れして」
警備隊の隊長と名乗る赤茶髪のがっしりした体格の男性に、俺たちは詰め所の一室に通された。会議室なのか待機室なのか、長テーブルと椅子がある部屋だ。
バヨネッタさん、オルさんが椅子に座り、俺とアンリさん、アルーヴたちはその後ろに控えた。これは他の町で盗賊退治をした時の事情聴取の際にもこうだったので、自然とこうなっている。
向かいに隊長さんが座り、記録用に紙とペンを取り出した。
「いやあ早速で悪いのですが、身分証だけでもご呈示お願い出来ませんか?」
丁寧ながらどこか気さくさを感じさせる話し方に、俺たちは何の抵抗もなくカードを見せて名を告げた。
「はい、分かりました。ありがとうございます」
隊長さんは俺たちの名前を紙に書き記しただけで俺たちを解放してくれるらしい。特に事情聴取らしきものもなかった。オルさんの緑カードや、バヨネッタさんの黄金カードの力だ。俺の商人カードだけだったら、事情聴取でかなり時間を取られたはずだ。
「あと、お泊りの宿をお教えいただいてよろしいでしょうか?」
盗賊退治をした事で、報奨金が出るそうで、明日にでもそれを届けてくれるそうだ。親切だな。
と言っても宿の事は知らないのでアルーヴたちを見遣ると、
「東にある『黒犬の寝床亭』にお泊りになるご予定です」
とリーダーである青銀髪のサレイジさんが答えた。最近になって見分けがつくようになってきたんだよねえ。
「ほう。街でも一番古い宿屋ですね。良い所です。ごゆっくり逗留していってください」
一瞬微妙な顔をした隊長さんにそう言われ、俺たちは詰め所を後にした。何かあるのだろうか? 幽霊が出るとか?
「今日はこっちに泊まっていくのかい?」
いつもの二人部屋でオルさんに尋ねられた。
「ええまあ」
ゴールデンウィークも終盤なので、こっちの世界でお泊りも明日までだ。だから高級宿でぐっすり眠らせて貰うつもり。
ゲルで寝るのも嫌いじゃないが、どうしても魔物や野生動物の襲来を頭の片隅に置いて熟睡出来ない。それを気にせず眠れるって最高である。まあ、だったら自宅に帰って眠れって話だが。それは野暮だろう。
朝である。オルさんと話し込んでいたら、いつの間にか寝落ちしていたらしい。
「ふああ」とあくびをしながら窓を開けると、日の光が思いっきり差し込んできて頭が痛い。ここら辺は既にアロッパ海から遠ざかっているので、もう海は見えない。時間は十時を過ぎていた。街は活動し始めている。
オルさんを起こし、宿内の食堂に足を運ぶと、バヨネッタさんとアンリさんが既に席を取って座っていた。
「おはようございま~す」
「おはよう」
丸テーブルで本を読んで寛いでいるバヨネッタさんの隣に座り、朝のあいさつを済ませる。
「昨日は泊まっていったのね? いつまでこっちにいられるの?」
「今日も泊まって、明日の夜には帰ります」
「そう」
ちょっと話してまた本に戻るバヨネッタさん。
「……なんか、空いてますね」
会話を繋ぐ事を考え話を振る。周りを見ると良い宿なのに客が少ない。朝食の時間を少し過ぎてしまったからだろうか? それとも何かこの宿に問題が? 昨日の別れ際の警備隊隊長さんの顔が頭を過ぎった。
「知らないわ。興味もないし」
バヨネッタさんからはつれない返事。はあ、そうですか。
ウェイターさんからメニュー表を貰う。と言ってもこの時間にあるのは日替わり朝食セットくらいのものだ。思うのだが異世界よ、もう少し食に興味を持って良いのではないか? 昼食は選べるようだが、夕食程のバリエーションはなさそうだ。
第一にこの世界の人たちは昼食を食べたり食べなかったりらしい。なので昼食は軽めである。江戸時代から三食おやつまであった日本人が変わっているのかも知れない。
朝食は白パンにジャムが付き、燻製肉に目玉焼き、豆のポタージュと野菜の酢漬けだ。パンはお代わり自由だと言う。味はそんなに悪くないんだよなあ。
俺たちが遅めの朝食を摂っていると、不安そうな顔でウェイターさんがやってきた。
「警備隊の方がお越しになっているそうです」
そうですか。昨日の盗賊退治の報奨金かな? でもなんでウェイターさんがそんなに不安そうな顔なんだろう。
食事を終えてロビーに行くと、警備隊の制服を着た男女二人が待っていた。
「おはようございます。朝早く申し訳ありません」
「これが今回の報奨金になります」
盗賊退治の報奨金は俺が受け取る。四人で分ければ良い気がするのだが、三人からは俺が退治したのだから俺が受け取るべきと言い包められてしまった。
鈍色の商人カードと警備隊員が持つ青いカードを重ねてお金のやり取りをする。おおっ、二十万エランか。結構な金額だな。
報奨金のやり取りも終わったので、警備隊員たちもすぐに宿を後にするかと思ったが、帰ろうとしない。すると女性の隊員さんが『空間庫』から手紙を取り出した。
「領主メイネイン様よりこちらを承っております」
領主? どう言う事? また厄介事かなあ?
今まで斜面に建てられていた町や村と違い、ロッコ市は土地が平面だ。ただし西側が崖のように切り立っているので、斜めだった土地を掘って整地して平らにした事が想像出来た。
市には関所があり、それを通らなければ市内に入れない。こんな場所にある都市なので、関所に人は並んでいないかと言えばそうでもない。二十人程の人間と馬車が並んでいる。俺たちが通ってきた道以外にも道はあり、その先にも町や村があるからだ。
普通であれば俺たちもその列に並んで、関所で問答をし、幾許かの関税を支払って市内に入るのだが、俺たちは関所となっている門とは別の門を通ってロッコ市入りする事になった。盗賊の事があるからだ。
別の門から入ってすぐそこには、警備隊の詰め所があった。石造りのその建物に入ると、なんとも汗臭く雑然としている。運動部の部室と言った印象だ。バヨネッタさんなんて露骨に顔をしかめていた。
「いやあいやあ、すみません。盗賊退治の英雄をこんな所にお連れして」
警備隊の隊長と名乗る赤茶髪のがっしりした体格の男性に、俺たちは詰め所の一室に通された。会議室なのか待機室なのか、長テーブルと椅子がある部屋だ。
バヨネッタさん、オルさんが椅子に座り、俺とアンリさん、アルーヴたちはその後ろに控えた。これは他の町で盗賊退治をした時の事情聴取の際にもこうだったので、自然とこうなっている。
向かいに隊長さんが座り、記録用に紙とペンを取り出した。
「いやあ早速で悪いのですが、身分証だけでもご呈示お願い出来ませんか?」
丁寧ながらどこか気さくさを感じさせる話し方に、俺たちは何の抵抗もなくカードを見せて名を告げた。
「はい、分かりました。ありがとうございます」
隊長さんは俺たちの名前を紙に書き記しただけで俺たちを解放してくれるらしい。特に事情聴取らしきものもなかった。オルさんの緑カードや、バヨネッタさんの黄金カードの力だ。俺の商人カードだけだったら、事情聴取でかなり時間を取られたはずだ。
「あと、お泊りの宿をお教えいただいてよろしいでしょうか?」
盗賊退治をした事で、報奨金が出るそうで、明日にでもそれを届けてくれるそうだ。親切だな。
と言っても宿の事は知らないのでアルーヴたちを見遣ると、
「東にある『黒犬の寝床亭』にお泊りになるご予定です」
とリーダーである青銀髪のサレイジさんが答えた。最近になって見分けがつくようになってきたんだよねえ。
「ほう。街でも一番古い宿屋ですね。良い所です。ごゆっくり逗留していってください」
一瞬微妙な顔をした隊長さんにそう言われ、俺たちは詰め所を後にした。何かあるのだろうか? 幽霊が出るとか?
「今日はこっちに泊まっていくのかい?」
いつもの二人部屋でオルさんに尋ねられた。
「ええまあ」
ゴールデンウィークも終盤なので、こっちの世界でお泊りも明日までだ。だから高級宿でぐっすり眠らせて貰うつもり。
ゲルで寝るのも嫌いじゃないが、どうしても魔物や野生動物の襲来を頭の片隅に置いて熟睡出来ない。それを気にせず眠れるって最高である。まあ、だったら自宅に帰って眠れって話だが。それは野暮だろう。
朝である。オルさんと話し込んでいたら、いつの間にか寝落ちしていたらしい。
「ふああ」とあくびをしながら窓を開けると、日の光が思いっきり差し込んできて頭が痛い。ここら辺は既にアロッパ海から遠ざかっているので、もう海は見えない。時間は十時を過ぎていた。街は活動し始めている。
オルさんを起こし、宿内の食堂に足を運ぶと、バヨネッタさんとアンリさんが既に席を取って座っていた。
「おはようございま~す」
「おはよう」
丸テーブルで本を読んで寛いでいるバヨネッタさんの隣に座り、朝のあいさつを済ませる。
「昨日は泊まっていったのね? いつまでこっちにいられるの?」
「今日も泊まって、明日の夜には帰ります」
「そう」
ちょっと話してまた本に戻るバヨネッタさん。
「……なんか、空いてますね」
会話を繋ぐ事を考え話を振る。周りを見ると良い宿なのに客が少ない。朝食の時間を少し過ぎてしまったからだろうか? それとも何かこの宿に問題が? 昨日の別れ際の警備隊隊長さんの顔が頭を過ぎった。
「知らないわ。興味もないし」
バヨネッタさんからはつれない返事。はあ、そうですか。
ウェイターさんからメニュー表を貰う。と言ってもこの時間にあるのは日替わり朝食セットくらいのものだ。思うのだが異世界よ、もう少し食に興味を持って良いのではないか? 昼食は選べるようだが、夕食程のバリエーションはなさそうだ。
第一にこの世界の人たちは昼食を食べたり食べなかったりらしい。なので昼食は軽めである。江戸時代から三食おやつまであった日本人が変わっているのかも知れない。
朝食は白パンにジャムが付き、燻製肉に目玉焼き、豆のポタージュと野菜の酢漬けだ。パンはお代わり自由だと言う。味はそんなに悪くないんだよなあ。
俺たちが遅めの朝食を摂っていると、不安そうな顔でウェイターさんがやってきた。
「警備隊の方がお越しになっているそうです」
そうですか。昨日の盗賊退治の報奨金かな? でもなんでウェイターさんがそんなに不安そうな顔なんだろう。
食事を終えてロビーに行くと、警備隊の制服を着た男女二人が待っていた。
「おはようございます。朝早く申し訳ありません」
「これが今回の報奨金になります」
盗賊退治の報奨金は俺が受け取る。四人で分ければ良い気がするのだが、三人からは俺が退治したのだから俺が受け取るべきと言い包められてしまった。
鈍色の商人カードと警備隊員が持つ青いカードを重ねてお金のやり取りをする。おおっ、二十万エランか。結構な金額だな。
報奨金のやり取りも終わったので、警備隊員たちもすぐに宿を後にするかと思ったが、帰ろうとしない。すると女性の隊員さんが『空間庫』から手紙を取り出した。
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領主? どう言う事? また厄介事かなあ?
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