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夏の日差しは女性の天敵

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「日焼けするのが嫌、ですか?」


 船内はざっくりと、男部屋と女部屋と共用スペースの三つに分けられる。その中をアンリさんは、バヨネッタさんやオルさんのお世話の為に行ったり来たりだ。だが決して船内から甲板に出ようとしない。何故だろうと尋ねたら、先の答えが返ってきた。


「おかしいですか?」


 俺はそんな顔をしていたのだろうか? 共用スペースで質問したらアンリさんにそう言われ、俺は全力で首を横に振るった。


「いえいえ、夏ですし、女性らしい悩みだな。と思いますよ」


「そうでしょうか? もう日焼けなんて気にする歳じゃないだろう。と内心思っていません?」


 なんでこの話題に対して、そんなに卑屈なの?


「思っていませんよ。アンリさんより年上であろう俺の母だって、毎日日焼け止め塗って外に出ていますから。いくつになっても女性は女性ですよ。シミになったら嫌ですもんね」


 どうやら俺の言葉はなんとかアンリさんに届いたらしく。力強く首肯してくれたアンリさん。


「そうなんでよ。私は、すぐに肌が黒くなるので、夏の間は出来るだけ外には出たくないのです」


「ああ、女性はそう言うの気にしますよね。俺の母や妹も、夏と言わず、年中日焼け止め塗ってますから」


「年中、ですか?」


 凄く驚かれた。


「ハルアキくんって、学生をされているだけあって、やはりご実家はお金持ちなんですね」


 そんな応えがアンリさんから返ってきた。そんな事はない。うちは夫婦共働きの中流家庭だ。ふむ。どうやらどこか認識に齟齬があったらしい。


「……もしかして、こっちでは日焼け止めってとても高いものなんでしょうか?」


 俺の質問に、アンリさんは驚きながらも首肯してくれた。やっぱり高いものらしい。


「日焼け止めに限らず、化粧品なども、薬の部類に入りますから、やはりお高いものになりますね」


 成程。そう言うものなのか。


「バヨネッタさんやオルさんはどうなんですか?」


「どうとは?」


「あの二人は魔女に研究者じゃないですか、日焼け止めくらい作ってくれるんじゃないですか?」


 俺の質問にアンリさんは考え込んでしまった。


「…………確かに、頼めば作ってくださるかも知れません。が、雇われの身としては、雇い主に「日焼け止め作ってください」と気軽には言えませんね。よしんば作ってくださったとして、その御恩に報いられるとは思えません」


 いやいや、日焼け止めくらいで重く受け止め過ぎじゃない? バヨネッタさんにしろオルさんにしろ、アンリさんが言えば気軽に作ってくれる気がする。それだけアンリさんには世話になっているのだから。もちろん俺も。あ!


「だったら、俺がアンリさんに日焼け止め贈りますよ」


「え!? そんな。私そんなつもりで言ったんじゃありません」


 手を横に振るアンリさん。


「良いんですよ。日頃の感謝の気持ちですから」


 安いやつなら一本千円くらいだろうから、それを十二本買えば、一年は持つだろう。


「おいくらですか?」


 と震える手でエンジ色のカードを取り出すアンリさん。何気にアンリさんのカードは初めて見るな。


「いやいや、ですから贈り物ですって。それに一つ千円、百エラン程度ですし」


「日焼け止めが一つ百エラン!?」


 アンリさんの声は船中に響き渡った。それだけ大事だったようだ。


「五十個ください!」


 とさっきまで乗り気じゃなかったのが嘘のように、アンリさんがグイグイくる。それにしてもいきなり五十個とは、アンリさんも金銭感覚壊れてきているのか、それともその金額を積んでも安い買い物なのか。俺には判断出来なかったが、その悩みはすぐに解決した。


「日焼け止めが一つ百エランですってね? 嘘じゃないわよね? 十個……二十個ちょうだい!」


 まず食いついてきたのが、アルーヴのレイシャさんとミューンだ。いきなり女部屋から出てきたと思ったら、物凄く近くまで詰め寄られ、財布と言うか、金袋をドサッと俺の手に置かれた。


「日焼け止めがそんなに安くて良いんですか?」


 次に食いついてきたのが、女性船員の二人だった。


「船の仕事って日に焼けるんですよねえ」


「日焼け止め、憧れていたんです」


 と二人してテーブルに金袋をドサリと置く。


「ふむ。ハルアキの地元の日焼け止め。興味あるわね」


 最後にバヨネッタさんまで登場である。


「いや、バヨネッタさんは自分で作れるでしょ?」


 と俺がツッコミを入れると、


「馬鹿ねえハルアキは。日焼け止めを作るにしたって、素材を集めるのに労力や費用が掛かるのよ。それが安く済むなら、越した事ないじゃない」


 確かに。それはそうだ。


「はあ。分かりました。買ってきますから、それはラガーに着いてからにさせてください。俺のスキルじゃ、船上で買ってくる事が出来ないので」


 俺の言に、女性陣全員が強く頷くのだった。


「それじゃあ、買う前に皆さんの肌質を教えて貰って良いですか?」


「肌質?」


 全員が首を傾げる。


「ええ。乾燥肌とか、脂性肌とか。肌に合わない日焼け止めを使うと、逆に肌が荒れたりしますから」


 俺の言葉に頷いてくれたのはバヨネッタさんだけで、他はあまり化粧品などを使わないのか、ポカンとしている。


「私はどちらかと言うと乾燥肌かしら。すぐに肌がカサつくから、保水には気を使っているわ」


 とバヨネッタさんが答えてくれた。ふむ。バヨネッタさんは乾燥肌と。


「逆にアンリは脂性肌っぽいわね。アンリ、良く顔がテカって恥ずかしいとか言っているじゃない」


「確かにそうですね。あれが脂性肌と言うのでしょうか?」


 とバヨネッタさんからのパスを受けて、アンリさんが答えてくれた。アンリさんは脂性肌。


「私たちは別にそう言うのないわね」


 そう答えたのはアルーヴの二人だ。どうやら二人は乾燥肌でも脂性肌でもない、その中間の普通肌であるらしい。


 船員のお二人は、一人が乾燥肌でもう一人が脂性肌だった。俺はそれらをスマホにメモしていく。


「分かりました。とりあえず、最初に皆さんに一つだけ買ってきますので、それで試して貰って、合う合わないの判断をして貰ってから、皆さんが欲しい量を購入するのでどうでしょう?」


「異議なし」


 と言う事で、俺はラガーに着くなり日本に戻り、女性陣に日焼け止めを買ってくる事になったのだった。

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