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意外な事実

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「今日は、この方たちにお越し頂きました!」


 テレビモニターの中で、朝の情報番組の女性アナウンサーが呼び込みをすると、画面の外から三人の美形が姿を現す。地球人とは違う派手な髪色に、特徴的な尖った耳をした三人に、テレビの向こうではコメンテーターたちが黄色い声を上げていた。


 画面に堂々と映し出されているアルーヴ三人、女魔法使いのミューンに、槍使いのオポザ、そして双剣使いのムムドは、オルさん作製の翻訳機を耳に付けて、司会者やアナウンサー、コメンテーターたちと話をしていた。


「やっぱりエルフって格好良いよねえ」


 それを見ながら妹のカナがうっとりしている。まあ確かに、あいつら顔だけは良いんだよなあ。お馬鹿だけど。


「お兄ちゃん知り合いなんでしょ?」


「まあ、知り合いっちゃあ、知り合いかなあ?」


「紹介してよ」


「何でだよ!?」


「私も、エルフと知り合い! って自慢したいじゃん」


「なんだよその理由。嫌だよ」


 ここはきっぱり断っておく。知り合いがテレビに出る度に紹介させられる事になりそうだからだ。


 しかしなんだなあ、この三人にアンバサダーを頼んで、大丈夫だったんだろうか? 俺は未だに不安だ。特にムムドがいるのが不安材料である。あいつお調子者だからなあ。


 アルーヴ五人組の内、リーダーで男剣使いのサレイジと、女弓使いのレイシャさんは今回のアンバサダー就任を断った。いや、アンバサダー就任に飛び付いたのはムムドだけだった。しかしムムド一人に任せるのは不安がある為に却下。代わりとしてミューンとオポザに就任して貰う事になったのだが、ここでムムドがゴネたので、仕方なくこの三人にアンバサダーになって貰う事になったのだ。サレイジとレイシャさんの二人は、エルルランドで冒険者活動をしながら、俺たちの旅の再開を待っている。


「ここで魔法使いであるミューンさんに、魔法によるデモンストレーションを見せて頂きましょう!」


 なんやかんや話が盛り上がった風のところで、司会者の振りでミューンが魔法を披露する。演ってみせたのは、人差し指の先に生まれた野球ボール程の水球を、的に向かって放つ演技だ。流石にスタジオで火の魔法とか使えないよなあ。


 ミューンの水球が的を破壊すると、「おお!」と歓声が聞こえてきた。それがわざとなのか本気なのか分からないが、朝の情報番組の軽さを感じて微笑ましい。


「いやあ、凄いですね! 皆さん! CGじゃあないんですよ! 本物の魔法なんです!」


 司会者の言葉に、そうですね。としか反応出来ないんだが?


「魔法って、魔法陣や魔道具を使うって聞いたんですけど、ミューンさんはどこにそれを持っているんですか?」


 男性コメンテーターがミューンに質問する。


「いや、俺たちはそう言ったものを使わなくても、魔法が放てるんだ」


 横入りしたムムドの発言に、テレビの向こうがざわつく。


「え? あれ?」


 何か段取りがあったのだろう。女性アナウンサーが手元の資料とアルーヴ三人を交互に見ている。


「私たちアルーヴは、体内に魔石を有しているので、魔法陣や魔道具がなくても魔法が使えるんです。魔法陣や魔道具は補助ですね」


 ミューンの補足に更にスタジオ内がざわつく。あれ? これって言っちゃ不味かったやつか? まあでもいずれバレるだろうからなあ。生放送だし、もういいや。


「そ、そうなんですね! 皆さん、流石はエルフですね! 魔法陣も魔道具もなく魔法が使えるなんて!」


 司会者の言葉に、一拍置いてスタジオ内が沸き上がった。この調子なら大丈夫。だと言う事にしておきたい。三人を誰彼がどうこうしたいと思ったところで、冒険者としてそれなりのレベルである三人を、レベル一の地球人がどうにかするのは難しいだろう。


「さてと、じゃあ俺、仕事行ってくるわ」


 番組が一段落したところで、俺はリビングのソファから立ち上がった。


「休みの日くらいゆっくりすれば良いのに」


「無理はするなよ」


 両親が心配して声を掛けてくれた。まあ、連日朝帰りしていれば、心配するのも当然か。


「お兄ちゃんお土産よろしく」


 こっちはこっちでいつも通りだな。


「嫌だよ」


「ええ? ケチ」


「異世界往復するにも、結構規制が厳しくなってきているんだよ」


 と言う事にしておく。カナも「それじゃあ……」とこれで納得する辺り、易いものだな。と思いながら俺が玄関を出たところで、社用車が外で待ち伏せていた。いや、別に逃げないよ。



「………………でっか」


 首を上へ持ち上げるが、絵が大き過ぎてその全容を把握しきれない。帝城の一画。その壁一面がその絵画によって埋め尽くされていた。高さにして十メートル以上、横幅は二十五メートルはあるんじゃなかろうか。とにかく大きな絵画であり、その絵画の中央では、一人の巨人が、平面世界を担ぎ上げていた。これが『世界を支えるマーマウ』の絵か。反対側の壁に張り付いて見ても、全容を視界に捉えられなかった。


「大き過ぎじゃあないですか?」


「何を言っているのよ、世界を支える巨人の王の絵なのよ。このくらいないと迫力に欠けるわ」


 横でバヨネッタさんが、まるで自分のもののように威張っている。…………いや、何も言うまい。


「何よ?」


 何も言っていないのに睨まないでください。


「いやあ、でもこんなに大きな絵画、どうやって撮影するのかなあ? って思っていただけです」


 未だバヨネッタさんは半眼だが、上手く話を逸らせたとしておこう。そう思っていたのは事実だし。向こうで文科省の西山さんやら博物館協会の人とかが、口をポカーンとさせているしね。


「いや、マジで撮影どうするんですか? 機材とか撮影班とか連れて来ていませんよね?」


 いや、いるにはいる。カメラを持っている人たちが。ビデオカメラだけど。


「皆さんはどうしてここにいるんですか?」


『マギ*なぎ』の監督たちがここにいる。朝、集合場所に着いたら、この人たちがいて驚いた。更には『いらっしゃい!』シリーズのテレビクルーもいる。ついでに武田もいる。ミウラさんやアネカネも。異世界も気安くなったものである。


「『マギ*なぎ』の皆様は、バヨネッタ様がご招待なさいました」


 と三枝さんが教えてくれた。そうなんだ。とバヨネッタさんを見遣る。


「ふふん。『マギ*なぎ』とコラボ企画展をするにあたって、制作スタッフ陣が、オリジナルのショートアニメを作ってくれる事になったのよ! 私も登場するのよ!」


 へえ、それは凄い。凄いけど、ここにいる事とは関係ないのでは?


「ロケハンです! やはりアニメにもリアリティは必要ですから!」


 俺の視線に気付いた監督が、鼻息荒く教えてくれた。そう言う事にしておきますよ。それであっちのテレビクルーは?


「この際ですから。何回かに分けて取材申請を送られてくるよりはマシかと」


 さいですか。面倒事は一遍に済まそうって魂胆ね。それでミウラさんとアネカネもこっちにいるのか。


「分かりました。それで、社長は何をしているんですか?」


 九藤さんは持ってきたバックを開いたかと思うと、何やら組み立てている。プロペラが付いているから、ドローンかな?


「はい。社長にはこのドローンによって『世界を支えるマーマウ』の絵を、撮影して頂きます」


「え? 社長が撮影するんですか? ドローンで?」


「大丈夫。8Kだから」


 そんな事は聞いていません。


「おや? 知りませんでしたか? 社長は学生時代、ドローンレースの国際大会で優勝経験をお持ちなのですよ」


 ああ、そう言えば履歴書にそんな項目があったなあ。その話で盛り上がった記憶もある。


「結構本格的なやつだったんですね」


 俺がじっくり眺めていると、ドローンが完成し、九藤さんはVRゴーグルを付けてドローンを浮かせた。


「ぶつけたりしないでくださいよ」


「分かっているよ」


 と言いながら、ドローンを一回転させる九藤さん。全然分かっていないよねえ?


「大丈夫ですよ。絵には鑑賞を妨げない程度に、保護結界が張られていますから、その小さな魔道具では傷付きません」


 ここに案内してくれた帝城の方がそう教えてくれた。言われれば納得だな。そりゃあそうだよねえ。


 そんな訳で、九藤さんは誰に憚る事もなく、思う存分にこの巨大な巨人の王の絵画を撮影したのだった。ちなみに撮影された絵画は見事なもので、この8K映像を繋ぎ合わせて一枚絵にして、合同企画展のパンフレットに使われる。

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