世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
332 / 643

レベル上げと言う名の閑話(前編)

しおりを挟む
 日本に十六基ある天賦の塔のうちの一基が、我が家の最寄りの駅から電車で西に一時間半程の場所にある。天賦の塔第八基だ。絶賛愛称募集中らしいこの塔は、罠より魔物が強い事で知れている。


 閑散としていた住宅地だったこの街は、今や街を上げてのお祭り状態だ。天賦の塔への挑戦者が定宿とする為や、天賦の塔を一目見ようとする者の為のホテルや、挑戦者や観光客相手の商売をしようとする者の店が次々と建設されていく。これらの建設従事者相手の商売もなされており、これが建設ラッシュと言うやつか。と電車から一歩街へ降りた瞬間から、街から吹き上がる熱に驚いたものだ。


 塔から半径二キロメートルは国有地との事なのだが、この街では塔が建ったのが街の西の外れの方だったので、住民の誘導は速やかに完了したそうだ。まあ、魔物が住んでいる塔だから、万が一塔から魔物が出てきた時の事を考えれば、住居を移すのも当然の話だろう。桂木の話では、この街が新興住宅地で、土地に愛着が少なかったから。と言うのが理由の一つらしく、他の土地では、代々その土地に暮らしてきた人々などがおり、退去交渉の難航している土地もあるそうだ。


 現在、天賦の塔の周囲二キロメートルは、有刺鉄線が張り巡らされており、今後は順次、魔法陣の描かれたコンクリートの分厚い壁に置換していくようだ。


 天賦の塔には八ヶ所の出入口がある。基本的には一ヶ所は初心者用入口で、後の二ヶ所は再挑戦者用入口となっている。そしてもう一つが政府関係者用入口だ。この天賦の塔第八基の場合、東の入口が初心者用入口で、東南が出口となっている。で、北と南が再挑戦者用入口で北東と南西が出口だ。初心者用から一番遠い西の入口が、政府関係者用入口となっていて、北西が出口となっている。


 入口を分けて何が違うのかと言えば、実は別に違いはない。初心者が西の入口から入ったとしても、天賦の塔内部は初心者用の通路となって魔物も出てこなければ、罠も作動しない。北と南も同様で、つまり誰がどこから入ったところで、その人間のレベルに合った塔内環境となるのだ。


 ただし問題はある。それは数名でパーティを組んで塔内へと挑戦する場合だ。パーティの合計レベルで、塔内環境はがらりと変わってしまう。それは五ずつ違うと言われていて、初心者は一人から五人パーティで行動する事を推奨されている。


 その為、万が一にも初心者の中に経験者が混じらないように、初心者と再挑戦者とでは入口が分けられているのだ。


 では政府関係者用の入口は何故あるのか。塔内で行方不明となった人間の救出用? かと言われればそんな事はない。何故なら、塔内は基本的に侵入すればパーティ以外の他者と出会う事などないからだ。塔の入口には半透明の膜が張られており、この膜が塔の内外を隔てている。


 膜を同時に、または十秒以内に先行者と同じ膜を通り抜けると、同じ塔内へ行けるのだが、この十秒を過ぎてしまうと、同じパーティを組んでいたメンバーであっても、塔内部で出会う事は出来ない仕様になっている。こう考えると、なかなか厳しい仕様だ。塔内部で誰かが罠に囚われ、脱出が困難になったとして、塔外部にその助けを求める事が出来ないのだから。


 それでも、天賦の塔は人気がある。この塔に行けばスキルが手に入る。きっとそれは自分の人生を劇的に良い方向へと変えてくれる。そんな妄執に囚われた人間たちを、おびき寄せる蟻地獄のようだ。


「お疲れ様です」


 ぐるりと塔を囲う有刺鉄線を回って、西の政府関係者用入口前まで来た俺は、政府から発行された特別通行証を入口の守衛さんに見せる。


「はっ! お話は聞いております! 中へお通りください!」


 敬礼する守衛さんへ俺は一礼すると、塔の入口の膜を通過する。前にも一度この膜を通ったが、一瞬ゾワッとするので嫌な感じだ。


 政府関係者用入口。それは表向きは自衛隊員や警察官など、政府関係者が研鑽を積む為だったり、政府から特別に依頼を受けた調査隊などが塔内部の調査をする為の特別入口となっているが、こうやって俺のような人間に便宜を図る為だったりもする。俺のようなはぐれ者にはありがたい事だ。



 地を駆ける巨竜。空を翔る飛竜よりも巨大な、ティラノサウルスを彷彿とさせるその威容に、俺は一瞬心の中で怯んでしまったが、それも一瞬の事。大顎が千切れんばかりに開かれてこちらへ向かってくるのを、ただ立ち尽くして待つ馬鹿じゃない。


 大顎が鋭い牙で俺を喰らわんと閉じられる瞬間、地を蹴って空へと舞い上がる。軽く蹴ったつもりだったが、それでもビルの屋上に到達出来る程の大ジャンプとなってしまった。アニンの力の開放によるものか、坩堝を全て開放したからか、それとも黒のボディスーツの力なのか、いや、全部か。


『闇命の鎧』のウイルス退治後、俺は天賦の塔に初めてやって来た。更にスキルが欲しい。と言うより、レベルアップが目的だ。レベル四十の俺では、魔王討伐において足手まといになりかねない。この半年間でレベルを五十以上まで上げるのは、俺の急務なのだ。


 飛び上がった中空から見える塔内の風景はまるでジャングルのようで、鬱蒼とした木々が密林となってどこまでも広がり、遠くにはメキシコのテオティワカン遺跡を思わせるピラミッドが見える。高い温度と湿度に、じわりと身体に汗がにじみ、また背中を汗が流れる。


 ボンッ!


 風景にホッと一息していたところへ、爆破音が下から響く。見れば先程の巨竜がその口からエネルギーボールを吐き出していたからだ。


 ゴツゴツとした鱗に覆われ、姿は古代の恐竜に似ているが、エネルギーボールを吐き出すと言う事からも、こいつがそれとは違う事が分かる。いや、もしかしたら古代の恐竜たちも火を吹いていたかも知れないけどね。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...