世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

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いつから、どこから

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「ハルアキくん! 何があったの!?」


 あまりの展開に脳がついていけず、ボーッとしていたところで、オルさんが肩を揺さぶり話し掛けてきた。折れた左腕に響くのでやめて欲しい。


「君に連絡しようとしたら、いきなり連絡が取れなくなったから、もしかして何かあったんじゃないかと、武田くんたちに協力を仰いだんだ。そうしたら、いるだろうレストラン周辺にハルアキくんの姿が影も形もないって……」


 影と聞いてハッとした。


「オルさん、バヨネッタさんが来た時に、祖父江兄妹が訪ねてきませんでしたか?」


「祖父江兄妹? さあ、どうかな? と言うか彼らなら、新世界庁が出来てから、桂木長官の命で定期的にここに来ているよ」


 定期的にか。まあ、ここには異世界調査隊に参加し、モーハルドで研究していた人間も少なくない。定期的に来ていても怪しまれないな。


「祖父江兄妹がどうかしたのかい?」


「俺をさらったのは祖父江兄妹です」


 俺の言葉にその場がざわついた。そして皆の視線が辺りを探すようなものに変わる。


「望月くんはどうした?」


 誰だ? 望月って? いや、この場で名前が出るんだ。祖父江兄妹の関係者だろう。


「いません。先程までこの研究室にいたはずなのに」


 それを聞いて研究員たちは呆然としていた。仲間から裏切り者が出る可能性は考えてなかった。と言ったら嘘になるだろうけど、実際にそれが発覚すれば、どうすれば良いのか、頭の中が真っ白になるのは分かる。俺もついさっきそうだったから。


「祖父江兄妹って、確か工藤と同じ学校に通っている二人だよな? そいつらが何かやらかしたって事か?」


 祖父江兄妹に詳しくない武田さんが、尋ねてくる。それに首肯する俺。そして大きく溜息を吐く。説明するのも気が重い。


「祖父江兄妹は桂木長官が創設した異世界調査隊のメンバーで、本人たち曰く、忍者の末裔だとかで、俺と情報交換なんかをしながら、良い関係が築けていたと思っていたんですけどねえ」


「あいつらが悪事に加担するとは思えないけど」


 タカシが二人を擁護する。人気のない学校の階段で、良く四人で昼食を摂りながら情報交換していたっけ。


「俺もそう思いたいよ。それに戦争にどっちが善とか悪とか、あまり関係ないから」


 俺の説明に対して、俺を非難するように眉根を寄せるタカシ。


「何であれ、俺が小太郎くんの『影獣』に呑まれて、どこか分からない場所に転移させられたのは事実だ」


「あれは影で出来た空間庫とでも呼ぶべき異空間だった」


 武田さんが補足説明をしてくれた。やっぱり異空間だったのか。武田さんのスキルがなかったら、あの中で死んでいたな。そう思いながら、いつの間に戻ってきたのか、武田さんに寄り添うヒカルを見遣る。


「何でハルアキを襲ったんだ?」


 まだ納得いかないタカシが食い下がる。


「この研究所にバヨネッタさんが来た時に、俺の塩を盗んだらしい。どうやら俺の塩はどこかの誰かにとって、存在していて欲しくないものだったようだ」


「そいつの差し金だと? 洗脳や催眠、魅了に掛けられていたんじゃないのか?」


「どうかな? 少なくとも魔に対して効果があるらしい俺の『清塩』は反応しなかった。スキルによる精神操作の線は半々だな」


 腕組みをするタカシ。まだ信じられないって顔だ。タカシの姿を見て、ズキンと左腕が痛む。もう『回復』がないから、このまま放置していても治らないんだった。


「どうかしたのかい?」


 左腕を押さえる俺に、オルさんが心配そうに声を掛けてきた。


「すみません、百香に左腕を折られて」


「え? でも『回復』が……」


「そっちは小太郎くんに『奪取』で奪われました」


 俺の説明に研究室の面々が声を失う。その中で一人の女性研究員が俺の元にやって来て、左腕に『治癒』スキルを掛けてくれた。


「向こうさんも本気だな」


 一人武田さんだけが冷静に発言する。


「ええ。何でも『逆転(呪)』ってスキルまで付与されましたから」


「『逆転(呪)』!? そんなものまで持ち出してきたのか!? 呪系のスキルは一度付いたら、解呪のスキルがないと外せないぞ」


 これには武田さんも驚きらしい。でも解呪のスキルがあるのはありがたい。


「そんなに本気なら、政府の方もやばいんじゃないのか!?」


 武田さんに言われてハッとなった。そうだ。新世界庁には桂木配下の人間が多数いる。新世界庁自体が現行日本政府の旗振り役で、色んな省庁に出入りしているんだ。下手すれば一気に日本が転覆するぞ。


 俺は直ぐ様スマホで辻原議員に電話を掛けた。コール一回ですぐに辻原議員が電話に出る。


「辻原さん、桂木の事なんですけど……」


『桂木いッ!? 今はそんなやつの事はどうでも良い! 高橋首相が消えた!』


 はっ!? 消えた!? 高橋首相が!?


「消えたってどう言う事ですか!?」


『こんなご時世だからな。首相自ら天賦の塔がある各所に遊説に回られているのだが、愛知の天賦の塔での遊説の帰り、消息を断ったんだ』


 くっ、先手を打たれたか!


「辻原さん、その事件には新世界庁長官の桂木が関わっている可能性があります。すぐに彼の確保をしてください」


『何だと!? 分かった! すぐに警察を新世界庁に差し向ける!』


 言って辻原議員の方から電話が切られた。


「何か、首相が行方不明とか何とか……」


 電話が切れたのを見計らって、タカシが不安そうに声を掛けてきた。


「ああ。愛知で消息を断ったらしい」


 タカシが、研究員たちが息を飲む。


「…………愛知か」


 独り言を呟いた武田さんは、ノートパソコンを取り出すと、何やら調べ始める。


「武田さん? どうかしましたか?」


「愛知と言えば織田信長のお膝元だぞ」


 あ。そう言えば織田信長って、愛知は尾張の武将だっけ。となると、桂木は魔王ノブナガと繋がっていた?


 皆が武田さんを注視する中、武田さんが口を開く。


「祖父江、地名、で調べてみたら、愛知の木曽川周辺の地名らしい。尾張で調べたら、尾張の端っこって出たよ。桂木は他の地方だし、もしかしたら繋がっているのは、桂木じゃなく祖父江兄妹の方かも知れないな」


「甲賀、ですか?」


「多分な」


 甲賀忍者は伊賀忍者と並ぶ、日本の有名忍者流派だ。元は織田信長と対立する六角氏に仕えていたが、織田信長にこれを倒され、以後、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に仕える事になる。


「甲賀の名前としては出てきていないが、忍者だからないのも当然だろう。逆に望月は甲賀の名前として出てきた」


 いったいどこから魔王ノブナガと繋がっていたんだ? ノブナガの生前からか? それならどうやって織田信長が異世界に転生した事に気付いたんだ? スキル持ちがいたのか? 分からない事ばかりだ。

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