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逆に感心する

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 さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。と二つの鍵穴に鍵を差し込もうとして、俺はその手を止めた。


「どうかしたのか?」


 武田さんに言われて、俺はもう一度皆を振り返る。皆、何が起きても大丈夫なように武器を構えていた。


「いえ、宝箱の鍵穴の上に、色の違う魔石が付いているんですよ」


「色の違う魔石?」


 武田さんが首を傾げ、皆して宝箱に集まってきた。そして宝箱の鍵穴を見るなり、う~んと首を傾げる。二つの鍵穴の上には、左に緑の魔石、右に青の魔石が嵌められている。


「やっぱり色は合わせた方が良いですよねえ」


「それは……、そうなんじゃない?」


 バヨネッタさん的にもそんな感じか。デムレイさんを見ても頷いているので、やはりと言ったところか。


 俺はそれを受けて自分が持っている鍵を見遣るが、嵌められている魔石は、黄色とオレンジ色をしている。明らかに違う色だ。あっぶねー。気付いて良かった。


「もしかしたら、それでか?」


「それで?」


 独り言を呟く武田さんを見遣ると、口元を押さえて何かを思い出そうとしていた。そして皆が自分に注目している事に気付いて、おもむろに話し始めた。


「ここら辺の階層だと、まだ宝箱の鍵穴は二つだけど、もっと先に進むと、鍵穴が三つとか四つの宝箱も出てくるんだよ」


 へえ、そうなのか。


「その宝箱は、俺のピッキングで鍵を開けても、中身が魔物だったんだよ」


 前々から思っていたが、何でこの人ピッキング技術持っているんだろ? 勇者だよな?


「じゃあ、その宝箱はどうしていたの?」


「スルーだ」


 バヨネッタさんの質問に、即答する武田さん。


「まあ、普通に二個一対の宝箱もあるでしょうしね」


 と俺が軽いフォローを入れると、


「いや、今後は二個一対の宝箱は少なくなっていく。そして鍵穴の多い宝箱が増えていく」


 との回答。


「じゃあ、どうしていたんですか?」


「鍵穴が多くなると、強いガーディアンが宝箱を守っているようになるんだよ。そんなの相手にしていられないからな。浅い階層に戻って、もう一度スイッチ集めしていたな」


 何しているのやら。皆が呆れた目を武田さんに向けているが、きっと俺も向けているのだろう。


「武田さん、良くこのダンジョンを踏破出来ましたね?」


「ふふん。凄かろう」


 褒めてないんだけど。


「はあ、まあ、良いです。じゃあ、宝箱を開けますね」


 俺がそう言うと、皆が武器を構える。俺は『空間庫』から緑と青の魔石が嵌っている鍵を取り出すと、また手を止めた。


「今度は何だよ?」


「いえ、同時に回せば良いのか、それとも回す順番があるのかと思いまして」


 武田さん、面倒臭いなこいつ。みたいな顔をしないでください。


「それなら多分分かるぞ」


 と声を上げたのはデムレイさんだ。


「本当ですか?」


「ああ。これに似たタイプの扉を、別のダンジョンで見た記憶がある」


 宝箱ではなく扉か。


「鍵穴の周りを、金属の環が囲っているだろう?」


 鍵穴の周りを? 言われて見てみれば、確かに右の青の魔石の鍵穴を、ぐるりと金属の環が一つ囲い、左の緑の魔石の鍵穴を、二つの環が囲っている。


「成程。一つの環が一回目。二つの環が二回目ですか?」


「ああ。両方とも環が一つなら、同時って訳だ」


 ふう、危ない危ない。危うく同時に鍵を回すところだった。


 俺は右の青の魔石が嵌められている鍵穴の方に、青い魔石の鍵を差し込み回す。すると青い魔石の鍵が光り輝いて消失した。しかし何も起こらない。第一の関門はクリアってところか。次に左の緑の魔石の鍵穴に、緑の魔石の鍵を差し込み回す。そして鍵が光り輝いて消失した。この段階で何も起こらなかった。第二の関門もクリアだな。


「じゃあ、宝箱のフタを開けますね」


 一度振り返って皆に確認を取ると、皆が首肯で返してきた。良し。と宝箱のフタを開けると、何が出てくるか分からないので、俺も一旦宝箱から距離を取った。が、黒い煙が出てくる事もなく、他に何か異常が起きた様子もない。恐る恐る近付いていって宝箱の中を覗くと、入っていたのは片眼鏡だった。


「スイッチとも護符とも違う、新しい魔道具が出てきたな。敵の戦闘力とか計れそうだ」


「馬鹿な事言ってないで、鑑定してください」


 と俺は片眼鏡を武田さんに渡す。俺の『鑑定(低)』では鑑定出来なかったのだ。


「分かったよ。う~ん、なになに? 未来視の片眼鏡か」


 その性能は以下の通りである。


未来視の片眼鏡:MPを込める事で、未来の可能性を見せる片眼鏡。込めるMPの量で、見通せる未来の時間が変わる。また他の魔道具と組み合わせて使用する事も可能。


 未来視か。そして他の魔道具と組み合わせて使用する事も可能か。これは使えるかも知れないな。


「これ、俺に使わせて貰って良いですか?」


「構わないわよ。ハルアキが発見して、鍵を開けた宝箱から出てきた魔道具な訳だし」


 とバヨネッタさんからの許しも出たので、俺は早速片眼鏡を左目に付けると、部屋の外に出た。するとそこにいたのは鹿の魔物だった。そいつが軽く馬鹿にしたように鳴いてみせる。俺たちでは追い付かないとの自信からの行動だろうが、腹立たしい。俺が睨みを利かせると、慌てて逃げ出すフリをする鹿の魔物。俺は直ぐ様それを追い掛けた。


 罠を避けて悠々と逃げていく鹿の魔物だったが、今の俺にはこの未来視の片眼鏡があるのだ。これにMPを注げば、俺が引っ掛かる可能性のある罠が、ずらりと片眼鏡のグラスに映し出される。それを避けて鹿の魔物を追っていくと、片眼鏡に鹿の魔物が転移の罠で逃げる未来が映し出された。そうはさせないよ。


 ポチッ。


 俺が転移の罠に視線を集中して罠解除のスイッチを押せば、転移の罠だけが解除されて、それにびっくりした鹿の魔物が転んで、その先の刃物が無数に出てくる罠に引っ掛かって、ズタズタになって天に召された。本当に紙装甲だったんだなあ。


 こうして俺は片眼鏡のお陰で、労せずして階下へ行く為に必要な鍵を手に入れたのだった。俺の『瞬間予知』より使えるかも。

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