世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
640 / 643

茶番幕間

しおりを挟む
「ぶっはははははっ!!」


 俺の前で、L魔王が俺を指差して笑っている。


「自分が持って来たんだろうが」


 思わず声を低くして威嚇してしまうが、そんな俺のお気持ちはスルーされ、隣りの武田さんをバシバシ叩きながら、腹を抱えて笑うL魔王。対して武田さんは、顔面崩壊する程嬉しそうだ。カロエルの塔ではL魔王の配信のファンを公言していた武田さんなので、そうなるのも頷けるが。


「はあ……」


 俺は何でこんな格好をしなくちゃいけないんだ。と自分が着ている全身タイツを引っ張りながら溜息を吐く。


 現在の俺の格好は、黒い全身タイツに、黒いフルフェイスのヘルメットと言う、完全に不審者感丸出しの格好の為、笑われるのも仕方がないが、実際に笑われると腹が立つのだから、人間とはかくも身勝手なものである。


 何故俺がこんな格好をしているかと言えば、決して趣味な訳ではなく、体内時計を正確なものにするのに必要だからだ。いや、それだけならば、オルさん謹製の腕時計があれば、それを基準に、正確な体内時計を構築するスキルを獲得する事は可能なのだが、そこら辺をオルさんに相談したところ、それならば、と天使のL魔王がわざわざ南極まで持ってきてくれたのが、この全身タイツとフルフェイスヘルメットだった。


 この二つは、腕時計、スマホ、サングリッター・スローンのシステムと同期し、俺の行動を正確にモニタリングし、それをフィードバックさせて、体内時計だけでなく、距離感、方向感覚、体感温度、体感湿度、体組成などなど、実に百項目を超える様々なスケールを俺の身体に刻み込む。ただ、それを成立させる為には、二十四時間これを装着し続けなければならないのだが、この『絶対基準』のスキルを獲得する条件なので、いたずらに脱げないのが辛い。こうする事で、『絶対時間』よりも高位の『絶対基準』を使用する際の必要魔力量を減らしているのだ。仕方ない。仕方ないったら仕方ない。


「ぶっははははははっ!!」


「L魔王を討ち取ったら、この戦争終わらないかなあ」


 眼前の天使に殺意が湧くが、


「残念でしたー。今は私、L天使なのでー」


 と小憎たらしい事を吐かれると、更に殺意が湧く。


「パシリ天使が」


「それ言っちゃ駄目なやつだから! って言うか、天使の私を軽々しくパシリに使わないでよね! これでもあなたたちより高位の存在なんだからね!」


「そのツンデレいらないから」


「ツンデレじゃないんですけど!?」


 などと俺とL魔王改めL天使が気安く会話をしていると、羨ましそうにその光景に目を細める武田さん。


「いや、モーハルドでも二人、会ってますよね?」


「あの時はストーノを救う事に精一杯で、こんなアニメの幕間回みたいな状況じゃなかったからな」


「俺、真剣なんですけど!?」


「ぶっ、その格好で真剣とか言わないで……!」


 L天使を睨み付けるも、フルフェイスのヘルメットでは、迫力を出せず、ただ全身タイツの男が、L天使の方へ顔を向けただけにしか見えないようで、「ぷっくく」とこれにも笑うL天使。こいつゲラだな。


「もう帰れ!」


 思わず本音が口を吐くも、


「いやいや、私の仕事はここからだから!」


「はあ!?」



「はあーい! 皆を希望へ導く大天使! 宇宙一可愛いL天使でーす!」


 翼の生えた特注の防寒着を着ながら、L天使が天賦の塔の前から、武田さんが撮影するカメラに向かって手を振って、定番となった始まりのあいさつをしている。せっかく南極まで来たのだから、撮れ高を稼ごうと、ここで配信用の撮影をするつもりらしい。


「皆、私がどこに来ているか分かります? この一面の雪! 富山? 新潟? 青森? 北海道? どれもバツ! なんと海外です! そして海外なのに、どの国の領地でもない! ふむふむ? おっ? 知っている人もいるみたいね! そう! ここは南極! しかも南極点にある、南極唯一の天賦の塔までLは来ているのです!」


 とL天使が説明したところで、武田さんのカメラがパンして、天まで届く天賦の塔に照準が移る。空では相変わらずオーロラが綺麗に揺らめいていた。


「凄いでしょ!? どうやって来たのかって? 私は天使だよ? どこにだって行き来出来るのです!」


 リスナーから質問されている体なのだろう。胸を張りながら、そう説明するL天使。もちろんそんな説明を鵜呑みにする程、日本のリスナーは馬鹿ではないが、こんなご時世だ。そんなスキルをL天使が手に入れていてもおかしくない。くらいには考えているかも知れない。


「この南極の天賦の塔。実はいわく付きなのです」


 スススとカメラに近付き、ASMRのようなささやき声で話を進めるL天使。


「皆は、ジャスティン・マクスミスって名前を聞いた事あるかな? オカルト好きの人なら、記事を目にした事くらいあるかもね? 彼、ジャスティン・マクスミスは、アメリカ生まれの稀代の連続殺人鬼シリアルキラー。世界中で殺人を犯し、そのいずれもが違った殺し方をしたと言う凶悪犯罪者なんだけど、昨今の死刑撤廃の影響で、捕まえたジャスティンを、死刑にする事が出来ず、そしてそれを放置している訳にもいかず、彼はここ、南極の牢獄に封じられました。そして、その後、その牢獄のあった場所に建ったのが、この南極の天賦の塔なのです」


 ちゃんと下調べをしてきたのか、それとも武田さんの入れ知恵か、それにしても話し方に淀みがないのは、流石人気配信者だ。


「そんなジャスティン・マクスミスなんだけど、未だこの塔から出てきたと言う報告は上がっていないの。それはこの塔から出られないのか、それとも自らの意思で出ないのか、それとももう既に……」


 などとしゃべりながら、L天使は天賦の塔の門に近付いていく。


「実は、皆は知らないかも知れないけど、この前の三百人委員会の一件から、こんな噂がオカルト界隈には流れているの。ジャスティン・マクスミスは、『地球の勇者である』ってね」


 どや顔だが、これ、流して良い情報なんだろうか? まあ、これを知った何者かが、L天使を殺そうと画策したところで、せいぜい、L天使の周囲で不審死が何件が発生するだけで、L天使自身を殺す事は出来ないだろうが。


「向こうの世界の勇者も、地球から異世界転移した十代の少年って噂もあるし、さて、本当とは何なのかしら?」


 そして一区切りしたところで、L天使が門に張られた薄い幕に手を触れようとしたところで、


「それ以上はやめておきなさい」


 それを咎めるくぐもった声。


「誰!?」


 L天使が振り返った先にいたのは、全身黒タイツにフルフェイスヘルメットの変態だった。


「その先に行ってはならない。生きては帰ってこられないぞ」


 変態の忠告に対して、動揺を見せるL天使。


「その真っ黒の姿、もしかしてメン・イン・ブラック!? もしかしてこの件には、宇宙人が関わっているの!?」


 とL天使が口にしたところで、カメラが雪原に落とされて、そのまま暗転する。


「はい! カット!」


 武田さんの声で本番一発撮りのL天使南極探検編は終幕し、俺は寒さに凍えながら、ダイザーロくんが持ってくれていた防寒着を着込み、素早くサングリッター・スローン内へ戻るのだった。何でこんな茶番に付き合わないといけないんだか。溜息がこぼれる。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...