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貯古齢糖 壬琉苦

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プロローグ

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ーーーとある町工場。


「鈴木君、今月派遣会社から連絡がいくと思うから、今月中に荷物をまとめておいてね。あと、社内に置いてある私物はキチンと片付けて行ってね」

「えっ?」

「それと、君が滞在している寮の方も、来月までには出て行ってもらうから」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、社長!!そんなことを突然に言われましても、困りますよ!引っ越すためのお金なんかありませんし…。それに、いづれはこの工場で正社員として雇ってくれるって、おっしゃっていたじゃないですか!」

「ハァー…、君ねぇ、正社員の枠なんてそうも簡単に空くわけがないだろう?だいたい、お金がないからと言うなら、バイトをしたり、休日出勤を増やせばいいじゃないか。それが嫌なら、実家に帰るか連絡すればいいじゃないか?」

「そんな……」

「君はそんな覚悟で、ここに勤務しているのか?」

「急になんですか?」

「派遣会社なんだから、派遣は雇用管理の調整の意味があることぐらい、君も分かっているだろう?まぁ所詮、派遣社員の分際で、正社員様になろうとする方がおかしかったんだよね、って話さ」

「こんなの契約違反だ!」

「契約ゥ~。なにを勘違いしているんだね君は、工場が不況になれば、正社員の代わりに切られることなんて、中学生でも理解できる当然のことじゃないか?」

「……」

「お金がないと言われてもねぇ~、こちらは案を出したりしているのに、結局は自分の都合で解釈して、まともに働こうとしない。そもそも、私たちは高い給料を君に払ってあげているのに対して、お金がないなんて、人生プランもロクに立てれていないから、こういうことになるんだろう……」


(なんて、上司だ!契約違反をしているのは、そっちだと言うのに、この太々しい様は……許せない!!)

 そう思った瞬間、体が勝手に動いた。


「自由気ままに過ごしてきた自己責任を私のせぃ△△△△!?」

 社長は、俺が勢いよく放った拳で、後ろの方に吹っ飛ばされた。


「こんな会社…、こっちからやめてやる!!」


 ーーー翌日。


「困るなぁ、鈴木さん。社長を殴るなんて。これじゃ派遣先の紹介はできませんよ」

「すみません」


 俺の名前は鈴木健太郎。少し前まで町工場で働いていた、ごくごく普通のおっさんだ。

 あの日、俺が社長を殴ってしまった日から、こんなどん底の人生を歩むことなるなんて、予想もしていなかった。


「それでは、他になにもないようでしたら、お帰りください」

「はい」


 こうして、俺は無職となった。


 *


 無職となった俺は、行く当てもなく、都会の風に揺られながら、ただただ絶望していた。

 そういえば、俺がまだ小さい頃に親父がこんなことを言っていたな。


「いいか健太郎、いくらお金がなくたってな、お天道様の下で胸を張っていられる男になれよ」

「どうして?お金がないと生きていけないよ?」

「そうだな、確かにお金がないと生活はできない、けどな、お金なんかよりも、もっと大事な物があることを忘れちゃいけない」

「大事な物?」

「それは……」


「親父…、大事な物ってなんだたっけ…」

 心に孤独が押し寄せて来ると、昔の話を思い出し、

 目頭が熱くなってしまう。


 昔からそうだ。嫌な思い出さえも、全部、くっきりと脳裏に蘇る。

「鈴木!!今日のノルマまだ達成してないぞ!!」

「社長…、もう、三日も寝てないんです。少し休ませてもらえませんか…」

「甘えたこと言ってんじゃねぇー!!早く仕事に戻りやがれ!!」


 親父が死んだ時も。

「…健太郎、心配しないで、お母さんがお父ちゃんの分まで頑張って働くから、アンタは気にせずに好きな学校に行きなさい」

「うん」


 お袋が倒れた時も。

「健太郎君、君のお母さんが病院に運ばれた!」

「えっ!?お袋が!?」

「車を出す、急いで準備をするんだ!」

「は、はい!」

 病院に駆けつけたが、お袋は俺が到着する少し前に、息を引き取ったらしい。

「なんでだよ……、大学を卒業して…、立派な会社に就職できたら……、東京で一緒に暮らそうって、言っていたじゃないか!!なんでなんだよ……、俺はまだ親孝行できてないんだよ……」


 全部を鮮明に思い出しちまう。


 *


 過去の思い出に浸りながら、途方にくれていると。

 一人の少年が、サッカーボールを蹴って、公園で遊んでいる姿を見た。


「あーやって、なにも考えずに、ただ思いっきり何かを楽しんでみたいものだな」

 これが、俺の最後の願望だった。


 少年は、サッカーボールを勢いよく蹴りすぎて、ボールを道路の真ん中に飛ばしてしまった。


「おいおい、あんなところにボールがあると、通行車の邪魔になるだろう」

 少年のことを心配して様子をうかがっていると…。

 少年はボールを取りに、車の通りが多い道路へと向かってしまった。


 案の定、ボールを拾おうとした瞬間に、トラックが走って来た。


「うわぁー!!!」

「危ない!!!」


 なにが起きたか分からない。

 ただあの時と一緒で、体が勝手に動いてしまった。


「おじさん…、大丈夫…」

「あぁ……、これくらい…、平気だよ…」

 身体中から血が流れ出て、意識が霞んでいく。


「おじさん…、僕、どうすればいい…」

「そうだな…、今日はもう家に帰れ…、そんで、お父さんやお母さんに精一杯、親孝行をしてやれ…」

 そう言い残すと、俺は静かに亡くなった。
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