幼馴染と9日戦争

ぷるぷる

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第弐章

DAY5 -敵の目論見-

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一度眠るとなかなか起きない年頃の3人が、珍しく早くに目を覚ました。なぜなら美味しそうな匂いが鼻を刺激して仕方ないからだ。目をやるとそこには白い猫がまたしても空中で料理をしていた。しかしなんだかその顔にやる気は見られない印象だった。いや、というより不機嫌な気がする。

「シャルルって寝起き悪いのかな?」

「わかんないけど美味しそうなもん作ってるぜ。ありゃハムチーズトーストだな。」

「ジャックも魔法で料理してみたら?私より美味しい料理作れるかもよ?」

「、、、朝からひがむなって。」

そんな話をしていると、お皿がふわりと飛んできて遅れてトーストが着地した。

「朝ごはん食べたら早速次の村へ行くぞ。」

「そして村では注意してもらいたいことがあるの。」

3人はモグモグしながら話を聞く。

「今日訪れる村はタンテムって言って、あなた達の先生であるヴォルフの故郷なの。」

3人は同時にモグモグを停止して話に集中する。

「この村での目的は武器を含む必要な物の調達と敵の調査よ。だけど迂闊に近寄ってあなた達の存在がバレるのは避けたい。そこでまず、シャルルに村の下見をしてもらうわ。その後シャルルの連絡を待って村に危険性がないと判断されれば全員で堂々と乗り込む。もし少しでも怪しい事があれば残念だけどここは迂回して進むわ。」

「なるほど。シャルルの不機嫌な理由はそれか。」

「じゃあ早速だけどシャルルお願いね。」

ルークの頭の上で休憩をしていたシャルルは重い腰を上げてトボトボと村へと向かって言った。

「なんか修行の手伝いやら、料理やらしてもらった挙句、偵察まで行かせるなんて可哀想になってきたな。」

「そうは言っても今回の任務はシャルルしかこなせないんだ。だからせめて後でたっぷり労ってやろう。」

ボブはそう言いながらおもむろに立ち上がる。

「シャルルが頑張ってくれてる間に俺たちも修行をするか。今日は組手だ。魔法はお互い一切なし。体術も鍛えておかなければ術のインターバルや突然の襲撃でやられてしまうからな。さあいくぞ!ルークとジャック!」

「呼ばれなかった私はもしかして、、、」

「私と個人レッスンよ?」

クスッと笑うスズカを見てユウナは血の気が引いていった。

ーーーーーーーーーーーーーー

修行も一段落し、日が西に傾き始めた頃にシャルルが戻ってきた。

「どうだった?いけそう?」

スズカは水の入ったお皿を差し出しながら聞いた。シャルルは勢いよく飲みながら尻尾で返答をした。

「どうやら大丈夫みたいね。シャルルの休憩が終わったら早速行きましょう。」

「ぞれならジャルルにはできるだげ長ぐ休憩じでもらおう。」

ボブとの組手でボロボロになったジャックが泣きそうな顔で提案する。

「全く。二人掛かりであの程度だと先が思いやられるぞ?」

「ぞもぞもおれら学生だじ、ぞんな期待ずるほど動げないよ、、」

「だとしても動けるようにするべきよ。学院の命運以前に、あなた達の命を守る必要がある。そのためにはこちらも手は抜けないわ。」

「それを考慮しても容赦無さすぎて泣きそう。」

ボソッとユウナも弱音を吐く。

「まあ、修行の時間も限られてるんだ。いきなり俺たちと渡り合えるようになるとは思っていないが、力をつけなければ自殺しに行くようなものだからな。」

「ねえ。そもそも何で学院が狙われるの?」

ルークの素朴な疑問は誰に向けられたわけでもなく、ただ周りの空気を震わしていた。答えることができそうな、ボブとスズカに残りの目線が向けられたが二人は反応をしなかった。それに対してユウナが続ける。

「偶然とは言え、私たち3人は鍵となりこの戦いに深く関わることになりました。何か言いたくない事情なのかもしれませんが、私達は知る権利があると思います。」

西から吹く強い風が皆の髪をなびかせた。そしてまた静寂がもたらされた時、ボブが沈黙を破った。

「どうなんだスズカ。君は何か知ってるはずだ。」

「……私が全てを知っているわけではないわ。」

シャルルを除く全員の目がスズカに注がれる。ちなみにシャルルはルークの膝の上でスヤスヤと眠っていた。

「憶測の範囲を出ることはないけれど、それでも聞きたいと言うのであれば私の話を俯瞰的に聞いて欲しい。」

スズカは一瞬間をおいて、眠っているシャルルに視線を落としながら話始めた。

「そもそも何故みんなは争いが起きることに疑問を感じるの?」

意外な話始めに対して、一瞬の沈黙を置いた後ジャックが返答をする。

「そりゃあ疑問はあるでしょ。何で平和に暮らしてたのに争うことになったのかーとか。というかそこに尽きるんだけど。」

「そうね。でも人間という生物の歴史は争いがほとんどよ?むしろどうして今までこんなに平和だったのか、そこに疑問は持たない?」

「どういうことだ?スズカ。」

「少なくとも創生歴までは人々は争い続けて生きてきた。勢力は様々な地方にあり、みんな自分たちの利益を得るために戦争し続けてきたの。だけど英雄ジークが『終わりを告げるもの』を討伐した後から人の歴史に争いが出てくることは極端に減った。」

「それはその後ジークが世界を治めて一つにしたからですよね?奪い合う事ではなく、協力することで利益をもたらす事ができると皆に説きながら。暴力の成れの果ての姿である『終わりを告げるもの』の脅威を身を以て知った人々は争いをやめ、手を取り合うことで世界を改めて構築したと授業で教わりました。」

「そう。だけど私はそこに疑問を感じるの。そもそもこの世界においてみんなが一律平等というわけにはいかない。現代にも貧富の差はあり、これを埋めることはできない。何故なら差をつけなければ、この世界のカーストのトップを作らなければ、社会をまとめることなんて不可能だから。そしてそんな世界は人々に周りより優位に立ちたいという生物的本能を与えた。貧しいものはいつか裕福になるという野望を持ち、そうでないものはより栄華を極めようとする。例え世界が一つに治められても内側で争い合うのが人間だと私は思うの。その争い方は様々な形になり得るでしょうけど。」

「だけどそれはスズカさんの持論でしょ?現に今の世界はそうなってない。」

「そうね。この世界は争い、奪い合うことが起きない平和な世界に生まれ変わった。それぞれの団体が専売特許を有し、それを円滑に回す社会が完成されている。でもそれはある強大な力がそうなるように押さえつけてあるからよ。そうよね?ボブ。」

「……」

再び訪れた沈黙を今度はルークが破ってみせた。

「どういうこと?その力っていうのはなんなの?」

「……ルドルフ校長だ。」

「は??……あのジジイが世界を治めてるとでもいうわけ?」

「実質そうだ。あの人は学院での仕事以外に政治的な事にも介入している。というかむしろそっちがメインみたいなものでな。なにか悪さをしようものなら、ルドルフ校長がすぐ現れる。そもそも魔法という力自体膨大なエネルギーを持ち、これを超える何かを人間は持ち合わせていない。そしてその中でもあの人の並外れた力には誰も敵わない。そんな世界の実質のトップが常に目を光らせている状況下では、私欲を肥やそうとするものは現れない。」

「そもそもこの世界は魔法を扱えるものとそうでないものが混在している。ルドルフという脅威がなければ魔法士達が幅を利かせ、今ごろ世界は圧倒的な貧富の差により争いの絶えない息苦しい世の中になっていたでしょうね。」

「じゃあなんでヴォルフ達は平和を維持しているジジイを狙うの?」

「言ったでしょう。人は栄華を極めたいの。現状に満足する事ができず、より貪欲に沢山のものを手にしたいのが人なの。魔法も扱えて、裕福な連中はルドルフがいなければもっと楽で楽しい生活を送れる可能性があるの。」

「だから一部の連中が協力してルドルフ先生を亡き者にしようとしているという事ですか?」

「あくまで憶測だけどね。」

「そーいうことかぁ~。なら世界の平和のためにも修行怠けるわけにはいかないなぁ。」

「分かってくれたらそろそろ出発しましょう?主犯であるヴォルフの故郷は何かこの事件のヒントになるものがあるかも知れない。でも同時に危険も付き纏う。ミイラ取りがミイラ、なんてことにならないようにも身支度を整えながら慎重に調査をしましょう。」

「あいあいさー!ほらっ!シャルル行くぞ!村まで案内して!」

まだ眠そうなシャルルはゆったりと起き上がり3人を先導していく。その姿をボブとスズカは立ち止まって見ていた。

「確かに一部の魔法士達が世界の根底を覆すような大事件を計画し、なんてことがあるのかもしれない。……だがそれだけの事情ならここまで溜める必要はないはずだ。単純な悪党達を裁くって話なだけで、とてもシンプルにまとまるからな。でも君は自分の中で一度整理をつけてから俺たちに話した。そういう風に見えた。…この事件まだ何かあるんだろう?」

「…あるかも知れないし、ないかも知れない。それに私が一度自分の中で物事を見定め、野暮な考えに終止符を打ち、出した結論の全てが今の話って可能性もあるわ。勿論、貴方のいうように言いたくない事情があるのかもしれないと思われても仕方ないけど。ともかくまずはタンテムを調査してからよ。話す必要があると確信してからでないと、最初に頭をよぎったこの憶測は口にできない。」

「……」

ごめんなさいボブ。でもモジュレーションの存在は極秘事項なの。知られれば奪い合いが起こるのは確実。死んだ人を生き返らせる可能性のある力など、どれだけの人が望むか…。世にその存在が知れ渡れば、リーシャとジークの作り上げたこの平和は根底から覆り、新たな世界に生まれ変わらなくてはならなくなる。…それにしてもこの件に関してヴォルフはどう関わっているのだろう。誰がモジュレーションを狙っているのかをできるだけ掴まなきゃ。全員か、それとも一部の人間で後は利用されているか。どちらにせよヴォルフの意図が全く読めない。あの頭でっかちはいつだってを第一に考えて行動していたのに。…合点のいかないことが多すぎるわね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一行は鍛治職人が多く住むタンテムという村に向かってゆっくりと進んでいた。先導しているのは寝起きのシャルル。それ故歩くスピードは遅く、一行が村に着いた時には月が辺りを美しく照らしていた

「夜はだいぶ涼しくなってきたな。」

「冬が近づいてきたのかな?」

「それもあると思うけれど、急に涼しくなりすぎなような気がするわ…。」

幼馴染たちが気候の変化について話し合っていると、白い息を吐きながらスズカが話始めた。

「この辺りは年間通して涼しいの。一般的には秋の季節もここらでは冬並みの気候になるそうよ。」

「それならほんとの冬が来たら極寒だろうなぁ~。」

「でもなんでそんなことが起こるのですか??」

「んー。デリオラ伝説の舞台がこの村のあたりにある洞窟なんだけど、そんなお伽話みたいなものじゃ納得してくれないわよね?」

「デリオラって氷の悪魔の話??超怖いやつじゃん。。」

ジャックが体を震わして少しオーバーなリアクションを取っていた。

「詳しいことはよくわかってないの。地理や天候に詳しい専門家がこの辺りを何十年と研究したらしいけど、原因は見つからなかったそうよ。デリオラ伝説も昔の人がここの異常な気候を悪魔の仕業だと妄想したのね。」

「無駄話もその辺にしてそろそろ調査を始めよう。まずはヴォルフの父親だが…そういえばシャルル偵察の時はどうだったんだ?」

シャルルはボブの顔を一瞬見た後首を横にフリフリした。

「どこにいるかわからなかったの?」

ユウナの質問にもフリフリした。

「どゆこと?猫だから話せなくて困ったとか?」

ルークの質問にもフリフリした。

「サボったんだろ?」

ジャックの問いにはドロップキックをぶち込んだ。

「もう亡くなられていたの?」

スズカの問いで初めてシャルルはうなづいた。

「…そうか。その親父さんの死がヴォルフに何らかの影響を与えて今回の事件に踏み込んだのかもしれんな。」

シャルルはまたしてもフリフリする。

「どういうことシャルル?」

飼い主の呼びかけにシャルルはジェスチャーで伝えようとする。最初は身振り手振りで何かを描き、その後ばたりと倒れたかと思うと、ムクッと起き上がって飼い主に期待の眼差しを向けていた。

「........」

「シャルル、、、さすがにスズカさんもわかんないって。。」

シャルルはフリフリする。

「ええ。ちゃんとわかってるわよシャルル。もう10年以上前に亡くなられたのね。しかも発見されたのは誰も近づくことのないデリオラ洞窟。」

シャルルは大きく頷き嬉しそうだった。

「よくわかりますね。。」

「まあなんだかんだ10年くらいの付き合いだからね。」

「10年。、、、ふむ。猫的にはクソババアだな。」

突如ジャックに小さな雷が落ちた。プスプスと服が音を立てながら当人は後ろにひっくり返った。

「…よく考えたらさ、シャルルってとんでもない戦力よね。ただのペットかと思ってたけど、すごいいろんな術知ってるし。」

ユウナはこめかみをぽりぽりと掻きながら呟いた。

「シャルルの底は知れないからな。だが一つ言えるのはスズカはそれ以上ということだ。」

「やっぱスズカさんってすげえんだ。。」

「これに加えてボブまでいるんなら案外余裕なんじゃない??」

「私たちは確かに今のあなた達より強いわ。でも私たちを上回るルドルフ校長が敵勢力に追い込まれてる。しかもこれは命を懸けた戦争。安易なことを言わないで。」

ルークとジャックはスズカの厳格な発言に怯んだ。

「それにだな。ルドルフ校長の止めた時はお前達鍵が学園内に入った時点で解き放たれる。つまり、戦争の途中段階、しかも劣勢から始まるんだ。苦戦は避けられないだろう。」

「わかったわかった!お説教はそこまで!軽はずみな発言は反省してる。今はその戦争に勝つため情報収集でしょ?ヴォルフの父ちゃん死んでるならどーすんの?」

ジャックが若干食い気味にボブの発言を止め本題に戻る。

「私とヴォルフが学院生だった時から亡くなられているのなら、今回の事件とはあまり関係ないような気もするわね。…でも一つ気になるとすれば…。」

「デリオラ洞窟か?あそこは特別な鉱石が取れると聞いたことがあるぞ。だがそれを求めたものはことごとく帰らぬ人となっているようだ。ヴォルフの父親もその1人だろう。」

「あらあら今日はお客さんが多いわねぇ。」

突然見知らぬおばさんに話しかけられた。おばさんはシワシワの笑顔を作りながら話を続ける。

「それにデリオラ洞窟に興味を持つ人ばかり。あそこは危険よ?悪いことは言わないから近づかない方がいいわ。」

「おばさん。他にもデリオラ洞窟に行こうとした人が来たんですか??」

「ええ。あなたと同じくらいの若い女の子が来たわよ。すぐにこの村から離れたみたいだけど、あの子洞窟に入ってないか心配だわ。」

「可愛かったですか?」

ジャックがすかさず聞く。

「ええ。とてもハツラツとして可愛らしい子だったわよ。」

「ボブ。スズカさん。心配だから助けに行こう。」

「バカ。その必要はない。そもそもあそこは何があるかわからん。情報が少ない分、おいそれと近づけないんだ。」

「でもレディーが今まさに助けを求めてるかも。。」

「ジャック。今回は諦めて。私たちにはやるべきことがあるの。」

「うー。スズカさんがそう言うなら。。」

「あの子は心配だけどそれが賢明だと思うわ。くれぐれも近づかないようにね。デリオラの祟りがこの村にまで届いてもらったら困るしね。」

「…ところで武具を新調しにこの村に来たのですけど良いお店とかご存知ないですか?」

「そうねぇ。どこも優れているからあまりここが一番とは言えないわね。ほらご近所付き合いもあるじゃない。あんまりひいきに言うと関係がこじれちゃうわ。」

「…そうですか。では後でお店は巡るとして、何か美味しい料理を出すところはありませんか?」

「…そうねぇ。それも巡って決めるのが旅の醍醐味じゃないかしら?」

「そうですか。わかりました。ご親切にどうもありがとうございました。」

「いいえ。ゆっくりしていってね?」

おばさんはニコニコしたまま歩いて行った。ユウナがキョロキョロと辺りを見渡してから話し始める。

「どうしますか?先に食事ですか?」

「いいえ。今すぐこの村を離れるわ。」

「同感だ。どうやらここは敵の息がかかっていそうな雰囲気だ。」

えー!!!と叫び出しそうなバカ2人の口を押さえながらボブが答えた。

「シャルルの感も鈍ったな。」

ボブの辛辣な言葉にシャルルはいささか傷ついた様子になった。シャルルはヨロヨロとユウナにもたれかかった。

「シャルルができる子だからって少し仕事を与えすぎたのかもしれませんね。軽いオーバーワークだと思います。」

ユウナはシャルルをなでなでしながら話した。目は少しトロンとしてちょっぴりニヤついていた。

「そうね。でもとりあえずここを離れましょう。今日は野宿になるだろうけど我慢してね。」

ボブは引き続きバカ2人の口を押さえている。またしても叫びそうになったからだ。

「後、野戦の心構えもしてて。」

バカ2人はやっと事態の深刻さに気づき真面目な態度を取り始めた。そしてスズカは地面に手を当てて目をつぶっている。数十秒待つとスッと立ち上がった。

「さ、行きましょう。次はカルデラね。ここで武具を整えましょう。」

こうして一行はカルデラと言う聞きなれない新たな街に向かって進み始めた。シャルルは久しぶりにスズカの肩に乗り、何やら話している様子だった。

街に滞在することなく再び移動を始めた為、疲労が身体中を駆け巡っていた。しばらく歩みを続けると辺りは虫や鳥の音しか響いておらず道を掻き分けながら山道を進んでいる。

「ねぇ。。なんでこんな道歩くの。。もっと良い道あるでしょ。。」

「今日はずーっと歩きっぱなしだよぉ。。荷物持ちの身にもなってほしい。。」

ルークはボブに言われた通り荷物持ちの修行を欠かさず行っていた。本人はしたくない様子だが周りとしては非常に楽なので、移動となるとジャックを筆頭に直ぐ荷物を預けられるのだ。

「…そろそろ頃合いかしら。」

スズカがふと呟く。

「みんなこのまま歩きながら聞いて。」

「なにぃ??」

「今からフォニムを放出するの。」

「えっ!!まさか今から修行!?」

ジャックが声を上げ、ルークはよろけ、ユウナは頭を抱えた。

「いいから聞いて。みんなもうフォニムは感じられるようになったでしょ?いま自分が発しているものと同程度の密度・大きさのフォニムを放出して。自分の得意魔法でいいから。」

みんなは歩きながら準備を進める。

「俺そんな都合のいいもの体得してない。。」

「ルーク。お前は俺と一緒に気弾を作ろう。やり方は難しくない。まずフォニムを利き手に必要分だけ集める。それをゆっくりでいいから前方に向かって押し出すんだ。」

「ルークが気弾を作れたら、他のみんなも続いて。」

3人は言われるがままに行った。

「利き手に集めて…押し、、だす~、、できた!」

「みんなも続いて。」

ジャックは丸い炎の塊をユウナは犬の召喚獣をジャックとスズカはルークと同様気弾を作り出した。

「よし。じゃあみんな飛ぶよ?」

「飛ぶ?」

次の瞬間辺りは青い光に包まれ地面が抜けた。

「うわあああああああああああああ!!!!!!」

青い光は輝きを増し、一行はみるみる落下していく。3人は何が何だかわからず叫んでいると突如現れた地面に尻餅をついた。

ビタッ!!

「いったぁぁぁ。。」

「何が起きたの。。、、ここは??」

辺りは眩しいくらいに日が差し込み、鶏が元気に鳴いていた。

「ふぅ。悪い夢から覚めたのかな??それとも天国に召されたか?」

「驚かせてごめんなさい。ちょっとワープさせてもらったわ。」

「ワープ????」

3人はぽかんとしていた。

「そう。空間転移魔法の一種よ。ここはカトレアという街。お花がたくさん咲いて美しいところよ。」

「えーっと?俺たちはカルデラに向かってて、、んでなんでカトレアに来たの??てかなんでワープしたの???」

「敵に付けられてたからよ。」

「え。嘘でしょ?、、、てか敵ってなに?」

「何者かまではわからないわ。ただ10数名の未確認フォニムが村から一定の距離を保って尾行していた。それなりの距離だったから目視はできていないはず。だからみんなには自分と同程度のフォニムをカモフラージュのために作ってもらって私たちは素早く逃げたってわけ。…今頃、あのフォニムたちは襲われているかもしれないわね。」

「なんか淡々といってるけど、、すげーやばかったんじゃないの??てか全然フォニムなんて気付かなかった。。」

「スズカは感知も得意なんだ。俺たちの数倍の距離を数十倍的確に捉えられる。」

「とにかくあの村は怪しい。私に気配を感じさせず近づいてきたあのおばさん。一見親切そうではあったけど、有益な情報はこちらに流さず、何かを私たちから聞き出そうとしている節があったわ。多分ヴォルフの故郷は今回の事件に深く関わっているわ。それに敵勢力はまだまだ他に存在するかもしれない。用心して。」

3人は自分たちが巻き込まれたことの大きさをようやく実感し始めた。

「今ここでは朝だけど、みんな夜通し歩いて疲れたでしょう?今日のところは休みましょ。また夜くらいになったら今後のことを話すわ。」

ーーーーーーーーーーーーーー

「んー。やっぱ気付かれちゃったかあ。」

しわしわの笑顔を作ったおばさんはそう呟く。少しの間を空けて一歩後ろに控えていた男が質問した。

「いかがなさいますか。」

「いかがなさいますかって、撤退しかないでしょ。標的はどっか行っちゃったわけだしさ。」

「し、失礼しました。全兵!タンデムに撤退する!」

おばさんの様子を伺いつつ、武装した兵士たちは撤退の準備を整える。当の本人は、残ったフォニムの痕跡を見ながら、不敵な笑みを浮かべていた。

「久しぶりにあの子と踊れると思ったのになぁ。猫ちゃんはうまく騙せたけど、やっぱりあいつは厄介ね。魔法は効かないわ質問ばっかしてくるわで…。こんな山奥のこと私が精通してるわけないっての。」

「あんな対応してちゃそりゃバレるっての。あんたらしくもない。」

撤退する兵たちに逆らい歩いてきたその女は、おばさんに話しかけつつ煙草に火を灯した。灯された火が映す彼女の赤髪は、漆黒の闇の中で一際輝いた。

「そうねえ返す言葉もないわアリー。実際にあの子を見ると幾分か気分が高揚しちゃってね。」

「そんなんじゃ今後の作戦も心配になるってもんだよ。悪いけど私は先に行くぜ。あいつら打ち抜きゃこの山はほとんど片付くだろうよ。」

小さな雲のような煙を吐きつつ、アリーは来た道を振り返った。

「こんな私が言うのもなんだけど、貴方こそ私情に呑まれないでよ?」

一際大きな雲を作りながらアリーは顔だけおばさんに向けた。煙草を咥えたその顔は、ニヤリと口角を上げていた。

「相手は鬼弾だぞ?楽しくドンパチさせてくれなきゃ、何のためにこの依頼受けたかわかんねーよ。それに、あたしが負けようが勝とうがあんたらにとってはプラスにしかならねえだろ。」

アリーは彼女の両脇に控える二つの銃を撫でながら暗闇の中へと歩みを進めた。

「頼もしいのか、それとも…ね。まあいずれにしても…」

おばさんの容姿はグニャグニャと変形し、みるみるうちに若い女性へと変わっていく。

「目的地は分かってるしもうすぐ遊べるわよね?スズカちゃん♡」
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