幼馴染と9日戦争

ぷるぷる

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第参章

DAY7 -それぞれの道- 午後の部

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 ルークとボブはメタルスライムの残骸がある草原に戻ってきていた。ルークの目はアコルト現象により赤く染まっていたが、目に映る景色に変わりはなく、芝の新緑を捉えていた。

「ルーク、体の調子は大丈夫か?」

 ルークは特に体の調子が悪いなどとは感じず、むしろ力が奥底から零れていると思えた。しかし、アコルト現象はやはり諸刃の剣。力の暴走を招く点では素直に受け入れられる変化ではなかった。

「…うん。大丈夫。」

「…そうか。それではフォルテ習得の第二段階に移る。」

 そう言うとボブは柔らかな表情から真剣なそれに変化した。

「以前からの繰り返しになるが、フォルテは非常に負担の多い身体強化魔法だ。取り扱いを間違え、身に余るフォルテを発現させれば使用者は死に至るほどにな。そのためここまでの修行はフォルテを操るだけのフォニム及び身体機能を向上させてきた。先日のメタルスライムの修行をもってルークはその両者を著しく向上させた。つまり第一段階が終了したのだ。」

「うん。でもそれって裏を返せばフォルテをコントロールするための修行は何一つできていないってことだよね?」

「その通りだ。」

「間に合うの?決戦はもう近いと思うけど。。」

「大丈夫だ。フォルテを扱うための修行というものはまだ何もしていないが、フォニムを扱う修行は多く行ってきた。実際、森で追っ手から逃れる際に気弾の魔法を作ることもできたし、メタルスライムとの修行ではフォニムを体内に集約することができている。」

「確かにフォニムの扱いは以前と比べものにならないと思う。でもフォルテは高等魔法でしょ?その程度で行けるの?」

「フォルテが高等魔法とされる要因は、使用に伴う莫大なフォニムとそれに見合うだけの効果が得られるからだ。全ての高等魔法が複雑なフォニムコントロールを必要とするわけではない。」

「なるほどぉ。」

「ただし、やはりフォルテも使用する際少しフォニムコントロールにコツがいる。」

「、、けっきょくか。。」

「まあ、他の高等魔法と比べたら楽なもんだ。それにこのコツに関してルークはすぐに掴むことができる。」

「ユウナとかならまだしも俺が??」

「ああ。フォルテは多量のフォニムを全身に巡らせ、それを全身から放出することで多くの恩恵を得る魔法だ。そのためフォルテを起動する際、大きく分けて二つの行程を踏む。一つ目は多量のフォニムを全身に流す行程。二つ目はそれを外に放出する行程だ。クセがあるのは二つ目の行程だな。全身からフォニムをほぼ一定量だし続けるということは、基本的に誰もしたことがないはずだ。」

「それがなんで俺にはできるの??言っとくけど、俺もしたことないからね??」

「何を言ってる。お前は昨日こいつに何をされたんだ。」

 ボブは地面に転がっている金属を手に取りルークに見せた。

「そいつにはフォニムを奪われただけだけど。。」

「そう。あの時お前は全身からフォニムを奪われたはずだ。それは全身からフォニムを放出する行程とほとんど同じ感覚だ。あれを何時間も体感したお前なら、それほど難しくはないはずだ。」

「…確かに。あの感覚はまだしっかりと覚えてる。」

「その感覚を大切にして修行を始めよう。そして注意点が一つある。ルークはアコルト現象も起こしており、取り扱えるフォニム量が今までの比にならない。くれぐれもフォニムを流す行程でのフォニム量に注意しろ。余りに多すぎると死ぬからな。」

「こわ。。」

「少しずつやれば問題はない。限界点は俺が様子を見ながら決める。それじゃあやってみろ。」

「よし!いっちょ頑張りますか!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「えー、こちらはジャックあんどシャルルチームですぅ。今からぼくはシャルルとサシで勝負するらしいですぅ。」

「何そのキモい独り言。。さすがの私も拾えないんだけど。。」

「うーんなんだか誰かがわかりやすく理解するために言わなきゃようないけない気がして。。」

「、、、なんか、、、ごめん。。」

「なんで?!」

「いや、、いじめすぎたかなぁって。。」

「いや!べつにいじめられて頭くるったとかそんなんじゃないからね?!」

「きみがちょっと、、その、、いじってもいいタイプなのかなーって思っちゃって。。でもイヤだったよね。。」

「いやいや!いじられるのはウェルカム!!むしろいじられて成長するタイプ?!的な!!」

「これからは気をつけるからさ。。 もし、少しでもイヤだなあって思ったら遠慮せずに休んでいいから。。」

「いやいやいや!イヤなんてそんな思ってないし?!今まで沢山教えてもらった分無理してでも頑張る所存だよ!?」

「、、、ったね?」

「え?なに??」

「言ったね??」

んー、目ってこんなに輝くんだねー。嫌な予感しかしないなー。

「、、、えーっと??」

「イヤなことなんて何もないし、無理して頑張るからめちゃくちゃしていいよって言ったよね??」

「えーっと、そんなニュアンスの発言はしたけど拡大解釈が過ぎるような。。」

「そーかそーか。そこまで言うんなら仕方がない!!私も全力で君の相手をしてあげよう!!」

「ああ。。終わった。。」

「なーに弱気発言してんの?!少なくともこっからはまじめもーど!おふざけなしのガチバトルを展開するからね??」

「んー。そんな風に言われても説得力ないっていうか。。」

「まあ、今までユーモア感たっぷりでお届けしてたからねえ。無理はないと思うけど、やっぱり私も君も命かかってるから。中途半端な修行はできないよね。」

「まあ、うん。そうだね。」

命を狙われる可能性が高い。君が敵に殺されたらその時点で私達はげーむおーばー。」

「…。」

「…君の命がモノのように聞こえてしまったのなら謝るよ。でも、撤回をするつもりもない。残酷な話かもしれないけど、それほどまでにこの戦争において君は重要なカードなの。」

「…わかってるつもりだよ?スズカさんに沢山教えてもらったし。でもまだ狙われると確定したわけではないよね?」

「うん。相手がどの程度事態を正確に捉えているかが分からないからね。」

「はー。。ヴォルフ先生に狙われりしたらどーすればいいんだろう。。」

「…ヴォルフは私が止めるから。なんとしてでも。」

「…??うん。」

「さあ!時間ももったいないことだし修行はじめるよ?」

「おっけ!いつでもかかってきな…」

 ジャックは言葉を言い終える前に、目の前から飛んできた氷柱状の氷塊をなんとかかわした。

「甘い修行じゃないからね?命を取り合う本当の意味でのだから。せめて私に君を殺させないようにしてよ?」

  ジャックはその言葉にゾッとした。だが確かにこのまま戦争に向かうわけにはいかない。圧倒的に自分たちに足りてないのは戦闘の経験値だからだ。それをシャルルは教えようとしてくれている。命を賭けたこの修行で。

「もう一度言うけど私は手加減しない。だって敵がそんなことしてくれるわけないから。だから君も私を殺す気で…」

  シャルルは前方から飛んできた氷柱を即座に氷の盾で防いだ。

「そう。そのままきなさい。」

「レディを傷つけるのは俺の教義に反するんだけどなあ。」

「でもレディの頼みを聞けない男じゃないよね?」

「…たしかに。」

  ジャックが素早く両手を広げると、シャルルの周りの風が吹き荒れ始めた。

「じゃあ遠慮なくいくね。」

  鋭く研ぎ澄まされた風を全方位からシャルルに向かって畳み込んだ。しかし風はジャックの意思に従わず、そよ風がシャルルを撫でた。

「?!…どうして?」

「君だけが周りの自然因子を操れるわけじゃない。私だって操れるの。」

  そう言うとシャルルは軽く尻尾を振り、ジャックがしようとしたことをそのままやってみせた。即座にジャックも対応するが、風の因子はシャルルの強い干渉により言うことを聞かない。

「くっ…がぁっ!!」

  ジャックは咄嗟に両手で頭部を守ったが、全身切り傷に覆われた。

「その程度?そんなんじゃすぐ死ぬよ?」

  シャルルの放つ大きなフォニム。それは威圧感にそのまま繋がっており、ジャックは無意識に半歩後退した。

「来ないなら私から行くよ?」

  次の瞬間、シャルルは大地を自在に動かし、擬似的な地震を生んだ。どうやら局所的なものらしく、揺れているのはジャックから半径5メートルほどであったが、凄まじい揺れにジャックは一歩も動けない。

「くそっ!!」

  シャルルは構わず追撃にでた。尻尾をピンと立てると丸い氷塊を生成し、それをジャックに向けて投射した。地面が揺れながらもジャックは即座にフォニムコントロールし、炎の障壁を作り出した。

  んん。いい反応。でも…。

「ぐあっ!!」

  シャルルの攻撃は炎を抜け、ジャックの顔面にクリーンヒットした。ジャックは後方に吹き飛ばされながら、自分の顔面を襲ったのが岩だと確認した。

  くっそ…。岩を氷で被覆してたのか。

「こんな子供騙しみたいなことでも、見抜けなければ窮地に立たされ、対応を間違えれば死んじゃうこともある。」

「…いいお勉強させてくれるじゃん!!次はこっちからいくぜ!!」

  ジャックはすぐさま体制を整え、走りながら両手に氷の剣を素早く作り上げた。
  
  接近戦か。確かに離れた自然因子を操ることは私が干渉することで邪魔されるから、自分の手元で形を作り上げるのは間違ってない。でも…

「ここまで近づけるとでも?」

  そう言うとシャルルは尻尾を振り、鋭利な大地を次々とジャックの胸めがけて突出させた。しかしジャックは一部斬り払いながら見事な身のこなしでいなした。

「シャルルが来るんだよ。」

  シャルルは後方にフォニムが集まるのを感じ取った。しかし気づくのが遅く、既に大波が向かってきていた。前方からはジャックが鋭く襲う大地を華麗にかわしながら突進してきている。

「‥やるじゃん!」

  シャルルはジャックと正面からぶつかりに行った。このとき既にシャルルの左右は大きな氷塊に行く手を阻まれていたのだ。

  あまりに速い魔法の展開。まあ発動条件の近い水と氷だからなのもあるおとは思うけど。でも肝心のジャックがどこまで立ち振る舞える?

  ジャックの剣がシャルルの左脇腹を狙う。しかし風を使いふわりとシャルルは前宙しながら躱す。そのままジャックの頭を越えようとするもジャックの後方から三本の氷の槍が追撃する。しかし白猫に辿り着く前に槍は業火によって蒸発してしまい、そのままシャルルはジャックの背後を取った。

「どうあっても私に後方を取られたくなかったみたいだけどざーんねん!波に阻まれてやられなさい!」

  大波は影を落とし、ジャックは既にその影に飲まれていた。シャルルは迎撃態勢を整えながらジャックの動向を探っていた。

「…喰らえっ!!!」

  ジャックがそう叫ぶと大波は変形し、たちまち無数の氷の矢に姿を変えた。すかさずそれらはシャルルを襲う。

  なーるほど。これが狙いね。

「アスフィア!!」

  シャルルは回転する炎の球体で身を包み全ての矢を受けた。しかしジャックはその中に一本だけ、岩石で作り上げたものを混ぜていた。その矢が球体内部に消えていく姿をジャックは捉えた。入った。そう確信した次の瞬間、炎の回転が加速し横向きのトルネードのような形でジャックを襲う。

  まずい!受けきれない!

  トルネードはジャックを襲うも、かすめるだけで霧散した。

「ほこまででひょ?」

  シャルルは口に矢を咥えながら喋っていた。その姿に既に緊張感はなく、まるで犬が骨を咥えながら主人に尻尾を振っているようだった。しかしその愛らしさは一瞬で、シャルルは矢を噛み砕き破片を吐き出した。

「もうフォニムが枯渇しちゃったとシャルルちゃんは予測しちゃったんだ!」

  ジャックは膝をつき返す言葉もなく、軽く笑った。自分の限界までも見透かされており、反撃の意思は折れてしまった。

「作戦は悪くなかったよ。格上相手に短期決戦で全フォニムを叩き込むっていうコンセプトでしょ?」

「うん‥。」

「でもそれは戦争向きじゃない。だってその後何もできなくなるから。」

「だよねー。やっぱ、節約しながら戦わなきゃなのかあ。」

「まあそれができるに越したことはないからね。もちろん、全力で応戦しなければならないケースもあるけど。」

「うーん。‥シャルルならどの程度でそのケースだと判断する?」

「全力で戦うケースのこと?うーん、このままいくと必死だと判断した時か、命を捨てても譲れない時かな。」

「命を捨てても譲れない時?」

「色々あるんじゃない?戦況的に譲れなかったり、仇だったり、プライドだったり。それはその本人次第だからなあ。」

「難しいなあ。」

「でもこれだけは覚えておいて。温存できる戦況だと判断した時が一番危険なの。」

「油断してるからってこと?」

「それもある。けどそれ以上に相手がそれだけ追い込まれてるってことが重要。」

「‥相手は全力で来るってことか。」

「そう。一矢報いるためにも、最大最強の攻撃をしてくる可能性が高い。」

「じゃー、結局常に全力に近いような。。」

「そうしないために、温存しながら相手を即座に無力化することが重要なの。‥残酷だけどね。」

「‥躊躇してると足元すくわれるってことか。」

「本当はもっと平和的に解決出来たらいいんだけどね。ヴォルフが本気で奪ってくるなら、話し合いは難しいと思う。」

「‥シャルルはヴォルフのことよく知ってるの?」

「…まあね。」

「ヴォルフの目的は何?前にスズカさんが言ってた栄華を極めるためなの?」

「‥‥。」

「どうもしっくりこないんだ。ヴォルフは寡黙で何を考えてるかわからないタイプの教師だったけど、その分、私利私欲に塗れている印象もなかった。むしろ、ちゃんと生徒と向き合ってた。そんなあいつがどうしてを求めるの?」

「分からない。そこだけが本当にわからない。レイナは若干その類の人間だと思うけど、ヴォルフはやっぱりそれとは真逆の人間だったから。」

「じゃあなんで‥。あ!もしかしてレイナ先生が好きで協力して‥」

「それはない。ていうか、もしそんな理由だったらハラワタ引きずりだして殺す。」

「‥おふ。」

「まあ、色々あるからさっ!私がヴォルフをとっちめるよ。」

「‥無理はしないでね。俺も協力するから。」

「おっ、いうねえ。」

 シャルルはジャックの肩にスルスルっと移動し、尻尾で頭を撫でてあげた。

「頼りにしてるよん♪」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  皆それぞれ修行のために宿舎を後にしたが、スズカとユウナはまだ宿舎の中にいた。ネウリョーテが喜ぶ献立とは何か。そのことについて熟考し、考えを出し合っていたのだ。

「うーん。やっぱり好みとかがわからない以上、みんなが食べやすいものにするべきだよねえ。」

「そうですね。それが無難だと思います。そう考えると…カレーとか?」

「まあ確かに万人受けするものね。ただ…」

「3日前くらいにも食べましたよね…。」

「うーん、でも3日前ならセーフでしょ!『献立のローテーション的には問題ない』って全国のお母様たちはおっしゃると思うわ!文句あるなら自分で作れってね。」

「そう言ってもらえるとありがたいです。まあジャックやルークが文句言うだけだと思うので…。」

「いまはルークよりもネウリョーテを優先させたのね。いい子いい子。よしよし。」

  スズカはからかいつつ頭を撫でた。ユウナは特に拒否をせず受け入れていた。抵抗することに疲れたのか素直になったのか分からないがおそらく前者であろうとユウナとスズカは気づいていた。そして目が合うと二人ともちょっと吹き出してしまった。

「それじゃあ買い出しが必要ね。えーっとネウリョーテの分も合わせると1.2...7人分、、、人なのかな?…まあ7つ分必要ね。」

「そのことなんですけど一つ考えがあって。」

「ん?」

「契約の完了している子達も呼ぼうかなって。親睦は深めて損はないと思いますし、何も知らない状態で力貸してっていうのも申し訳ないですし。」

「なるほど。うん、いいと思う!それじゃあ…えーっと7.8…」

「12ですね。結構な量になります。」

「計算速いのね。。幸い調理道具は整っているからそこら辺は問題ないと思うけど、食事の時は凄いことになりそうね。こう…絵面とか。」

  スズカはその絵面を想像してると、少し面白くなって笑い始めた。他方ユウナは難しい表情をしていた。

「どうかした?」

「買い出しの量が多くて二人じゃ持てないかと思いまして。。」

「うーん。私の魔法でどうにかしてもいいんだけど…せっかくだから召喚獣にお願いしたら?」

「ええ。。そんな雑用みたいなことさせていいんですか?」

「いいと私は思うけど。召喚獣を人だと考えたらさ、戦いとかそういう場所ばかりに呼び出されるよりかは日常的な場所に呼び出してもらったりする方が楽しいんじゃないかな?それにユウナは召喚を行うことで修行にもなるし。」

「そう言われるとそんな気がしてきましたけど。。」

「呼んでみようよ。どんな子が他にいるか気になるしさっ!」

  多分どちらかというとスズカは好奇心で呼んで欲しいだけだとは思うが、ユウナ自身もその気持ちがあったため提案に乗ることにした。

「わかりました。それでは…リュオを呼びます。」

   ユウナは立ち上がり、右手を肩と平行まで上げるとフォニムを込め勢いよく振り下ろした。すると剣がどこからともなく現れ、勢いよく床に突き刺さった。それと同時に魔法陣が展開され、リュオの体が徐々にその場に形成されていったが、ユウナはそんなことより床に穴が開いてしまったか気になっていた。リュオが完全に形成されると剣を抜き自らの鞘に仕舞った。ユウナは血眼で床を確認しようとしたが、リュオの華麗かつ素早い動きのせいで床の状態を目にすることは叶わなかった。

主人あるじさま。お呼びでしょうか。」

 リュオは白銀の鎧を全身に纏い、人の倍ほどの背丈であった。幸いなことに宿舎の天井は比較的高かったため、多少余裕を持って立つことができていた。

「う、うん。呼んだんだけどね、、ちょーっとそこ避けてくれない??」

ユウナはどうしても床を確認しなければ本題に移る気分になれなかった。

「此処をですか?それでは右に失礼します。」

  リュオが右にずれるとその床は見事に穴が空いていた。

「ああ。。ほんとに空いてるんだ。。何だかんだ大丈夫なパターンかと思ってたのに。。」

ユウナは心の声が漏れていた。

「主人さま。僭越ながらわたくしは土属性を操ることを得意としているため、大抵の地面の損傷は治せるかと思います。」

  なるほど。きっとそれぞれ得意な属性があるんだ。そしてめちゃめちゃラッキーなことにリュオは土属性だから直せるっ!…ラッキーとは少し違うか。。壊した原因はリュオだし。。いや私が原因か?!

「コホン…じゃあこの床直せる??」

「誠に恐縮ですが、この床は木材を使っているためわたくしに直すことは難しいかと。」

  んん??なんと??何故少しいける的な雰囲気だした??

「そ、そう。じゃあ後でそれは何とかするとして…」

「僭越ながら、木材は使えませんが応急処置を施すことはできますが。」

「あっ、なるほどっ!そういうことねっ。とりあえずお願いしていいかな?」

「畏まりました。少々お待ちください。」

  そういうとリュオは膝をつき、両手を壊れた床にかざした。フォニムが手から溢れ、みるみるうちに床は補修されていった。

  ジャック達が使う属性魔法とは種類が違うかな。周りの因子を利用するのでなく、自ら生成しているような…そんな感じがする。

「主人さま。作業を終えましたのでご確認ください。」

「うん。すっごくいい。材質はもちろん違うけど、木目なんかも表現できててとっても上手にできてる。」

「お褒めにあずかり恐縮でございます。」

「ところでさ、あるじさまっていうの固いからやめない??わたしユウナって言います!」

「畏まりました。それではユウナ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

  うーん。聞いてた通りリュオは固いなあ。まあでもこういうのもありっちゃありかな。なんだか他の人たちと違ってお姫様?的な扱いしてくれて、、、、、、お、お嬢様とか呼ばれたらなんかお姫様っぽくていいかも…。なーんてなに考えt

「畏まりました。それではお嬢様とお呼びします。」

「わあーしまった!リュオも心が読めるの!?」

「わたくしに限らず契約を交わした者同士、相手の心を感じることが可能かと思われます。」

「そうなんだ。。てことは常にわたしの心はスケスケなのね。。」

  まあそうなると司令塔である私の指示がすぐに伝わるから戦場においては効果的ね。…プライベートにおいては最悪だけど。。ん??それよりも契約を交わした者同士ってことは…

「私もリュオの心が読めるってこと?」

「はい。その通りでございます。」

「え。全然わからないんだけど。。」

「誠に恐縮ですが、それはお嬢様が未熟であるからかと。。」

「で、ですよねえ。。精進します。。」

「ところで本日お呼びになった要件などはございますでしょうか?」

「あーそうだった!この後買い出しに出るんだけど人手が足りなくて。それでリュオに荷物持ちを手伝ってくれたらなーっと思って呼んだの。」

「かしこまりました。身命を賭して努めます。」

「んー。。命は張らなくてもいいかなあ。。」

「おーい。私が置いてけぼりなんだけどー。」

「申し訳ございませんスズカ様。」

「おっ。君も私のことを知ってるんだね。」

「はい。婆様から話を聞いておりました。」

「そっか。おばあちゃんと仲良くしてくれたんだね。」

「仲良くしていただいたのは私達の方です。とても慈愛に満ちたお方でした。」

「確かに優しかったかも。まあ私にとってはきびしーい存在だったけどね。あーっと、そろそろ買い出し行かなきゃだよね?昔話は夕食の席でたくさんしましょう。」

「有難いお話です。しかしわたくしがご夕食に参加するなど…」

「リュオ!君も参加だよ!てか私と契約してる子達はみんな参加っ!」

「左様でしたか。それでは失礼ながら参加させていただきます。」

「よーし。それじゃあ行きましょうか。」

「はい。お嬢様。」

「お嬢様。。ふふっ。あ、ごめんなさい。ちょっと、、ふふっ、、面白くて。。」

「、、どうして私はこういう役回りなの。。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あーーー。」

「あーーーーーーー。」

「あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「うっるさい!!!」

ユウナはジャックとルークを勢いよく叩いた。

「黙って食事くらい待ちなさいよ!!」

「だってお腹空いたんだもん。。」

「餓死しちゃうってもんだよ。。」

「あとは盛り付けるだけだから。手伝ってくれる?」

「なぬ?!もうできてるのか!!それならそーと早く言ってよ!」

ジャックは素早くキッチンへと移動して銀色の鍋の蓋を即座に開けた。そして、、、そのまま体を震わせた。ルークも遅れてキッチンへとたどり着くも、嗅ぎ覚えのあるスパイシーな香りに嫌な予感を覚えた。

「ま、まさか…」

「カレーよ。」

「つ、つい先日食べたのは。。」

「カレーよ。」

「じゃあユウナの唯一の得意料理って、、」

「カレー、、だけじゃないからね?!別に他の料理も作れるからね?!」

「じゃあ何でまたカレーにしたの?他にもあるなら他で良かったじゃん。」

「カレーはね、老若男女大好きなメニューの筆頭よ。今回の食事は召喚獣のみんなにとっては初めてになるわ。好みもなにもわからないなら、カレーにすがるしかないじゃない。。」

「あと付け加えると、シャルルに対するリベンジもしたかったそうよ。」

「スズカさんっ!!」

「おーやおや。私のカレーに勝とうなんてまだまだ早いってもんだよー?」

「…あなたのカレーは確かに美味しかった。けど、手も汚さないチート技で作られたカレーよりも、真心込めて作った正真正銘の手作りカレーが負けるはずないわ!!」

「ってー、私がいうならともかくスズカさんが言っても仕方ないですよ。。」

  てかあれだな。スズカさんも最近はだいぶお茶目になったっていうかー、、。まあこれも打ち解けた証拠かな?

「まあまあ、配膳は俺たちでやるから、そろそろ主賓の方達を招いた方がいいんじゃないのか?」

ボブはそう言いながら深めの白いお皿にお米をよそい始めた。

「そうね。じゃあ、ちょっとお願いします。」

ユウナはエプロンを脱ぎ、外へと駆け出した。リュオの一件もあり、室内で呼び出すのは危険と判断したらしい。残された4人と1匹は召喚獣も含めた配膳を済ませ、所定の位置へと腰をかけた。ちなみに今回の食事では、皆が仲良くなるため召喚獣を間に挟みながら座るという方式をとっていた。ジャックやルークがそわそわしてる中、外では何やら大きめの音や青い光などが飛び交っていた。そしてそれらも収まり、ようやくユウナが部屋に入ってきた。

「えーっと、それじゃあ紹介していくわね。」

ユウナは少し咳払いをしつつ一人目を招き入れた。入室したのは全身を白銀の鎧で包んだリュオだった。

「リュオと申します。今回このような場にご招待頂き至極光栄にございます。戦場を共にするとお聞きしましたので、未熟者ではございますが今後ともよろしくお願い申し上げます。」

「律儀だ。。」

「堅すぎる。。」

ルークとジャックは心の声が漏れていた。

「はーいそこ静かに。リュオはあのバカ二人の間に座ってくれる?よーし、それじゃあ次の方どうぞ!」

ユウナはリュオがバカを中和すると期待した。続いて入室したのは、金色の毛をベースに稲妻模様の黒い毛がアクセントを加えている豹よりの召喚獣だった。

「レイガっす!よろしくう!」

「…ふむ。先ほどとのギャップが大きいな。」

淡白な挨拶に誰もコメントを返せなかったため、ボブは気を利かせて発言したようだった。

「レイガは椅子を使えないから、シャルルと一緒にちゃぶ台でご飯ね。よーし続けてどうぞ!」

レイガの色違いの様な姿をした召喚獣がすごすごと入ってきた。ベースの色は薄めの青で模様の部分は白銀だった。よく見ると模様のデザインは違うらしく、斑点模様をしていた。

「ゼーダ。よろしく。」

「まーったお前は元気がないなあ!もっとシャキッとモノを言わんかいっ!!」

「レイガ、うるさい。」

「うるさいってなんやねん!お前のことをおもーとるからこその愛の鞭や!」

「余計なお世話。あとで、縛り上げる。」

「なんで関西弁。。てか貴方達…本では仲がいいって。。」

「仲はええで主人様。…おーっと間違えた、お嬢様。」

「ちょっと待って?!なんでその呼び方?!まさかリュオ?!!」

「いえ、そのようなことは伝えてはおりません。」

「せやで。さっき話しとったら『あ、レイガはお嬢様って呼ばないのね。』って心ん中で思ったろ?せやから言って欲しいんかなー思て。」

「うう。。心の制御はできない。」

「あいつ。そういう趣味が…。」

「色んな人がいるからな…。」

「何やめて。。バカ2人に哀れみの目を向けられるのは違う。。」

「元気出して。…お嬢様。」

「最後のいらないっ!あーもう次!!ゼーダはシャルル達のとこねっ!」

「もー、待たせすぎよ。」

文句を言いながら、入って来たのは金髪の幼女だった。服装はパステルピンクを基調とした所謂ゴスロリ系だった。頭の上についた黒のリボンもまた彼女を特徴付けていた。

「え、人じゃん。」

「てか、ロリじゃん。」

「何なのこいつら。。礼儀のかけらもない。。」

「えーっとバカ二人は良い機会だから反省しなさい。この子はクロア。それでは軽く自己紹介をお願いしますっ!」

「てか、その前に私まだ貴方を認めたわけじゃないからね?」

「え?」

浮かれていた部屋に緊張感が走る。

「契約上では確かに私の主人様は貴方よ。でも。私を認めさせるには私に似合う可愛いものを持って来なさい!」

そういえばスズカさんが言ってたな…。クロアは可愛いものに目がないって。でも可愛いものなんて、、。…あ。

ふいにシャルルと目があった。じっと見つめるユウナに気づき、クロアもシャルルに目を向ける。シャルルは新手の視線と要求内容に気づくと、きゅるるんと可愛くパチクリしながら上目遣いでクロアに目を向けた。

「なにこれ、かーわいいいいい!!!!!!」

クロアは即座にシャルルを抱きかかえ、発火する勢いで高速頬ずりをした。

「期待に答えてしまう性格が災いした。。完全にミス。。」

「…ごめんシャルル。それでは次の方どうぞ…。」

シャルルの美しい白い毛が焦げていく様を傍目に見つつ、ユウナは新たな召喚獣の入室を促した。しかしそのものはなかなか入ってこなかった。

「ん?」

「どーしたどーした?」

「野次馬は黙ってなさい。」

ユウナが迎えに行くとその召喚獣は白い羽で顔を隠しながら入室した。そのものは足に関しても鳥の姿ではあるがその他は人間と遜色ない構成となっていた。

「ほう。ハーピーか。珍しいな。」

「まあ珍しいもなにもリーシャの造形次第なんだけどね。…てかクロアちゃんそろそろ離してくれないかなー?…ハゲちゃう。。」

シャルルから煙が上がる。

「自己紹介できる??」

「えっと、、その、、」

「おー、何やトゥエンテか!随分久しぶりやなあ!」

「え、と、、」

「トゥエンテ。…いつもどこにいるの?」

「も、森の、、な、か。」

「あーら。私この前、森に行ったけどいなかったじゃない。」

「クロアちゃん、、頬ずりこわいから、、かくれた。。」

「あーらこれみんなにしてるのね。…ハゲちゃう。。」

「お嬢様。トゥエンテ様は奥手な方なので、そろそろ席の方にご案内された方がよろしいかと。」

「そうね。まあご飯食べながら少しずつ話していきましょう。じゃあトゥエンテはボブとスズカさんの間で。じゃあ最後の方どうぞ!」

「ほんと随分待たされたわ。干からびちゃうかと思った。」

そう言いつつ入室したのは、まさしく人魚だった。青の長い髪を従わせ、下半身の鱗もまた美しい青を纏っていた。そして胸は白の貝殻で隠しており、とにかく迫力のあるお胸だった。

「あらやだ、何とも美しいお胸ですわ、ジャックさん。」

「あらやだ、鼻の下が伸びてますわ、ルークさん。」

ユウナがまるで瞬間移動したかのようなスピードでバカどもの背後に回り込み、後ろ頭を思いっきり叩いた。

「全く。あんた達は。。」

もー、結局おっぱいなんだから。。どーして私は大きくないのよ。。

「お嬢様。元気を出してください。」

「い、今のは心読んで欲しくなかった!!」

「私が置いてけぼりなの分かってます?ユウナさん?」

「あーっとごめんなさい!こちらの方はネウリョーテ!水を操る召喚獣よ!」

「ネウリョーテです。今回は『食事』というものを体験させてもらうために来ました。契約はまだしてないから今後会うかもわからないけれど、とりあえず今日はよろしくお願いね。」

「マーメイドと知り合いになれるなんてね。生きててよかったよ。」

「この程度で満足するのかルークよ。俺っちは高みを目指すぜ?」

「ジャックさん?!ま、まさか。。」

「そう!俺は…」

「それ以上喋るなあ!!」

再び二人は後頭部を叩かれ、その勢いでテーブルに頭を仲良くぶつけた。

「うう。。友達になるって言おうとしただけなのにぃ。。」

「…不純な香りがしたからつい。」

「私の席はどこかしらユウナさん?」

「あーっと私とスズカさんの間!」

「それじゃあ失礼します。」

「さーってみんな揃いましたので食事を始めます!本日のメニューは手作りカレーです!お手元のスプーンを使ってお食べください。あ、レイガとゼーダはかぶりついてもいいよ。」

「何や、せっかくやからわいらもすぷーんっちゅうもんを使わせてもらうがな!なあ?ゼーダ。」

「すぷーん。肉球にジャストフィット。」

「さすがゼーダや!!順応が早すぎて腰抜かすか思うたわ!!」

「あ、やっぱり仲良いんだね。てな訳で皆さんご一緒に挨拶をお願いします!せーの、いただきまーす!」

「いただきまーす!」

それからはとても賑やかな食事が始まった。初めての食事に戸惑う召喚獣達だったが、ルークたちの食べる姿に習いスプーンを使ってカレーを食べ始めた。食事に対して驚きの声を上げる者、黙して味を吟味する者、この場の雰囲気を楽しむ者、実に多くの感情が入り乱れた空間ではあったが皆共通して「食事」を楽しんでいた。

「なーんか今日はホント賑やかだね。明後日戦争するとは思えないよ。」

ルークはカレーを口に運びつつ、素直な感想を漏らした。

「そうだなー。これからこの召喚獣達と一緒に戦うんだもんな。」

「頼もしそうだけど、連携とか何も経験してないってのがねえ。。」

「その点なら心配ないかと思われます。」

バカ二人に挟まれているリュオが、カレーを吟味しつつ二人の会話に参加した。

「えーっと?なんか秘策でもあるわけ?」

「はい。クロア様の力があれば問題ないかと。」

「そう。私もある意味そこにかけているんだけど、どうかなクロアちゃん?お婆様から貴方がとても面白い力を持っていると聞いたけど。」

「そうね。私の力は偉大かしらね。」

クロアは少しいい気分になっているように伺えた。

「勿体ぶらないで教えてよ!どんな力??」

「ふふん。私のセマティックスキャンを用いれば、瞬時に私の持つデータを享受することができるの。そうすればリュオの戦闘スタイルも瞬時に各々の頭で解析され、手に取るように動きが分かるってわけ。」

「、、、で?どーなるの?」

「う…この子って……」

「見ての通りバカなので、その辺考えてお願いします。」

ユウナが頭を下げてお願いした。

「ふー、、つまりいきなりでもすっごいコンビネーションで戦えるやっばい力を私は貴方達に使えるってこと!わかった?!」

「うーん。50%くらい。」

「50%ていうことは、ある意味では20%とかよりも理解度が低い可能性があるわね。。」

「どういうこと?50の方が数字でかいじゃん。」

「はいはい。バカに私の高尚な考えを理解できるはずないわ。身をもって体験してみなさい。リュオ、お願い。」

するとリュオは間髪入れずルークに対して剣を抜き振り下ろした。すんでのところで剣は止まっていたが、ルークはその攻撃に対しすかさず剣を挟み込んでいた。

「おいおい!何すんだよいきなり!!」

「ルーク大丈夫?!」

「あ、ああ。でも…。」

「なるほど。それがセマティックスキャンの力か。」

ボブがコーヒーを口にしながら呟く。

「ええ。ルーク、貴方今よくリュオの攻撃を受けれたわね?」

「なんか、リュオの行動が手に取るように伝わってきた。だから、リュオが動き出す前に次の瞬間何をされるか理解した。…そんな感じ。」

「セマティックスキャンは対象者達に私の持つ情報を与え、かつ一部の思想をリンクさせることができる。そうすることで戦闘時に様々な動きや戦況を理解しながら戦うことができるわ。」

「すっげえ。。それにリュオもとんでもないパワーの持ち主だな。。」

「…剣は触れさせていないのですが…そこまで見切ってしまうとはお見それしましたルーク様。」

「てことはゼーダやレイガも相当やばいんだろうな。。」

「わいらは陽動と奇襲が専門や!」

「後は戦場が混戦になったら、私たちの独壇場。」

「ほえー。トゥエンテは何ができるの?」

「え、、えと、、ば、爆破。。」

「え?爆破?!」

「そーよ。この子顔に似合わず超強力な範囲攻撃ができるのよ。」

「すっげー!!ちょっと見せてよ!」

「え、あ、、」

「やめときなさい。この街消えるわよ。」

「え?!結構でかいよこの街?」

「トゥエンテ様の爆破魔法は最大で直径5キロの範囲に及びます。」

「5キロ?!?!そんなん俺たちも死んじゃうじゃん!!使えなくね?!」

「その為に私がいるのよ。」

優しい声を発したのはネウリョーテだった。

「そう。水を司るネウリョーテは、守りのスペシャリストよ。」

「だけど、私は貴方達に手を貸すと決めたわけではないわ。」

「ねえ、ネウリョーテ。貴方は人間をどう思う?」

ユウナはネウリョーテに向けて真剣な眼差しで質問した。

「…愚かな存在。この言葉に尽きるわ。」

「貴方達を作り出したリーシャも?」

「ええ。等しく愚かだと。」

「どうして?」

「人間はいつだって争う。表面では仲間だと取り繕い、平気で裏切りを行う。自らが不利にならないように、他の者よりも利益を勝ち取るように、そんな損得感情でしか動けない愚かな生物。無駄に知恵をつけた分だけその辺の魔物よりタチが悪いわ。」

「リーシャもそんな損得勘定に囚われていたと?」

「リーシャこそ損得勘定だけで生きていたような者じゃない。戦争により私たちを生み出し、自らがのために死んでいった。どれもこれも大好きなジークを守るためよ。」

「愚かというよりかは、慈愛に満ちた素敵な方だと思うけど?」

「一見そう感じるのは無理ないわ。けど残された者はどう?悲惨なものよ。現にジークはリーシャの亡骸を抱えて1日中泣き叫んでいたわ。残されるものの気持ちなど考えず、自らが正しいと妄信した行為に突っ走っただけよ。」

「それを怒っているのね?。」

「……ええ。」

少しの間静寂が流れた。その場にいる全てのものはこの会話の中に閉ざされていた。

「私達もジークと同じようにリーシャに愛されていた。あの子はそんな私達を置いて死んでいった。最後にジークさえ救わなければ、終わりを告げる者も封印し、かつあの子も生き残った未来を手に入れていたのに。」

ここまでの感情を与えたリーシャはやはり想像のつかないほどの魔法士だったのだろうと、ルーク達は感じていた。そして召喚獣達は皆少し下を向き、リーシャへの思いに馳せているようだった。

「貴方は私達を愛せる?あの子と同じように。」

「リーシャと比べられたら困るかな。。けれど愛せる。貴方達の抱くその感情、想い。とっても人間に似てて素敵だもの。」

「…ふふ。私も『愚か者』なのね。」

ネウリョーテは天井を仰ぎながらもの悲しい目をした。そしてもう一度ユウナに向き直ったとき、その目は力強かった。

「いいわ。私も協力してあげる。だけど一つ約束して。絶対に私を置いて先に逝かないで。」

「ええ。…寿命は許してよね?」

「勿論。リーシャのように自ら死ににいくようなことはやめてねってこと。」

「うん。約束する。これからよろしくね。」

「ええ、よろしく。ユウナお嬢さん。」

「…呼び方。。」

「おーおー、これでようやく揃ったちゅーわけやな?!」

「ん?全員??ヴァルファーレは?」

その時、盛り上がりかけた会場が一瞬で静まり6体から異様なまでのフォニムの高ぶりを感じた。全員が身構え、現状理解に努めた。

「…どうしたの?みんな。」

「ヴァルファーレだけは絶対に呼ぶな。いいな?」

「え?…でもセブンスウェルは7体揃えなければ発動しないはず…」

「お嬢さん。私達が必ず貴方を守る。だからセブンスウェルは使う必要がないわ。」

「そう。セブンスウェル、いらない。」

「ヴ、ヴァルファーレは、、よ、呼んじゃ、、ダメ。」

「我々は命に換えてもお嬢様は守り抜く所存です。ですから我らの願いをどうか。」

「何がダメなの?理由を教えてくれなきゃ、、私もわからないよ。」

「その理由を知る事自体がダメなんや。せやから堪忍してくれ。みんなお嬢さんを認め、守ろうとしとる。それだけで十分やろ。」

ユウナは咄嗟にスズカを見た。スズカの目は落ち着いており、まるでこの事態が起きることを知っていたようだった。

「お嬢様。そろそろ我々のフォニム消費が一定値を上回ります。」

「あ…そうね。今回の召喚は数が多いから貴方達のフォニムに大きく依存した形にしてるものね。」

「じゃあ今日はありがとうな。ぎょーさん美味いもの食わしてもろたわ!」

「他にも確認したいことがあるだろうから明日にでもまた呼んで頂戴。」

「い、いつ、、でも、呼んで。」

「じゃあ。バイバイ。」

6体の召喚獣は各々にゲートを生み出し、手を振りながら異空間へと戻っていった。クロアは無言でシャルルも異空間に連れて行こうとしたので全力で引き留め、何とか白猫を回収した。そしてその後、取り残された人間達は神妙な顔付きで互いに見合わせた。

「スズカさん。セブンスウェルって一体…?」

スズカは紅茶を一度啜り、ティーカップを無垢な皿の上に置いた。静かに目を閉じ、甘い香りの余韻を感じつつ思考を巡らしている様子が伺えた。そしてゆっくりと見開かれた目には、覚悟を決めた強い意志が奥深くに感じ取れた。

「貴方達に謝らなければならないことがあるわ。私はたくさんのことを隠していた。少しばかり嘘もついたわ。それが貴方達のため、引いては世界のためだと思ったから。けれど、私も覚悟を決めた。一つずつ私が知っている真実を話させて。」
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