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第参章
DAY8 -そして決戦へ-
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鳥のさえずりが穏やかに響き渡る平穏な朝。明日は生きているかもわからない中で、味わう日常はとても美しく、そして儚く感じた。不安も恐れも抱える中で、何かの使命感に駆られているルークはなぜ明日戦争をするのか考えていた。突然事件の起きたあの日から今日に至るまで怒涛に過ぎていったため、ゆっくりと考えるのは今が初めてのように思えた。ゆっくりと体を起こし、膝から下を掛け布団に収めたまま、窓の外を眺めた。白い綿菓子のような雲を見つけたルークは、ふとシュタルクの授業を思い出した。ジークとリーシャの絵画が思い出される。ここまでの日々はほんの一瞬で過ぎていったにも関わらず、戯けて見せたあの時間は今では遠い過去のように感じた。
明日は戦争…か。これからもみんなで笑って過ごせるのかな…。
現実離れした戦争という二文字。喧嘩は幾度と無くしてきたし、フォニムを交えたぶつかり合いは日常茶飯事だった。だが、あの時のヴォルフとの一戦。命が掛かっていると頭で理解した瞬間。その場面を思い出し、ルークはシーツを強く握りしめた。
大丈夫…。あの経験があるからこそ、俺は初めての戦いじゃない。フォルテも身につけて、強くなってる。大丈夫。きっと…きっとうまくいく…。
暗示のように唱えたあと、ルークは朝食を食べるためにベットを後にした。
一階に降りるとシャルルがストーブの前で丸まっていた。白い尻尾をゆっくり上下に振りながらうとうとしている様子だった。
「おはよ。なーんかのんきだね…。」
「んー?おはよー。なになに明日のこと意識しちゃってる??」
「そりゃそうでしょ。。」
「まあイメージをたっぷり沸かして、明日に備えることはいいことだと思うよ。でもあんまりやりすぎると今日とか寝れなくなっちゃうからほどほどにね?」
「…。」
「…どったの?」
「いや、なんか慣れてるなーって。よく戦争とかするの?」
シャルルは笑いながら体を起こした。
「そーんな軽い遊びみたいな感じで言わないでよ。けどまあいくらか経験はあるからね~。」
シャルルは猫特有の伸びをグーっとしたあと、欠伸をしながらルークの方を見た。
「私やスズカさん、それにボブはどーやって生活してると思う?」
「…仕事。いや農業?」
「まーボブは農業もやってるね。けどみんなに共通するのはやっぱ仕事。じゃーもういっちょ質問!なんの仕事でしょーか?」
「…ちっともわかんない。」
「はー。こういう時は当てずっぽうでも答えるものだよ?的を得たものか、ユニークな答えをして会話をなめらかーに繋げるのもモテる男の秘訣だゾ。」
「じゃあパン屋さん。」
「もちっと気の利く回答して欲しかったなあ。。コメントに困るっていうかなんというか。」
「うーん、なんか今日はそんな気分になれなくてさ。で、なんの仕事してるの??」
「ふっふーん。答えはなんと…」
「掃除屋だよ。」
「あー!!!!いっちばんいいとこだったのにいいいい!!!!ばかボブあほボブうう!!!」
「酷い言われようだが、あのまま放っとくと3分はドラムロールごっこしてただろ?」
「ぐぅ。反論できぬ。。」
「盛り上がってるとこ悪いけど掃除屋って??」
「あー、清掃活動とかっていう意味の仕事じゃ無くてね、仕置人…的な?」
「あえて言葉を選ばず言うとだな、世の中のゴミみたいな連中を影から潰していく…そう言った表には顔を出さない仕事だよ。」
「そんなもんが普通にあるなんてね…。なーんか旅してから世界観変わったな。」
「いいことじゃん。大人になったってことだよ♪ 」
「世界は広いんだ。知らない事なんてたくさんある。人間のイメージに収まることは全て実現可能な未来なんだと、どっかの誰かも言ってる。」
「なんかエピソードみたいなのない??ちょっと興味湧いてきた。」
「ふっふん♪ いいでしょういいでしょう。わたくしシャルルちゃんが語ってあげましょう♪ あれは…そう。雪が降り頻る夜のこと。当時私はまだまだ駆け出しの掃除屋で、今の私よりずっとピュアな可愛い猫ちゃんでした。満月に照らされ私のキュートな白い毛がいつも以上に輝…」
「あー、やっぱいいや。やめよ。。」
「なーんーでー!!!!!まだまだちょー序盤じゃん!!!!」
「そのちょー序盤の情報がほとんどシャルルそのものの話で終わりが見えそうになかったからだよ。。」
「いいじゃんか!!それがのちにアクセントを加えるポイントになるんだよおおお!!」
「…うん。まあでも…」
「はーなーさーせーてーよおおおお!!!!!」
「わかった。端的に。」
「おけ!えっとすっごいキュートなシャルルちゃ」
「もっと端的に。」
「ぐう。いやでも…」
「なら聞かない。」
「わーかったわかった!端的に話すよお。。」
「ん。ならどうぞ。」
「くうぅ。えーっと、端的にいうと、私がマフィアのアジト突き止めて1対15だったけどフルボッコにしてやった…みたいな?」
「…うん。」
「ほーら!!!なにこれ?!ぜーんぜん面白くないじゃん!?え??ってなるじゃん?!だからもっと細かく話したかったのにいいいい!!!これじゃ私がただの殺戮キャットになっただけじゃんかあああ!!!てかこらぼぶぅ!!何無視してコーヒー飲んどんじゃい!おいぼぶうう!!!」
「…朝から騒がしいな。。あとその呼び方絶対唾飛んでるぞ。」
「な?!この期に及んでまだ私をいじめるか!?許さんぞぼぶぅ!!!」
「はーいはいはい。そこまでそこまで。ご近所迷惑でしょ?」
スズカが手を叩きながらシャルルを静止し、階段から降りてきた。続けてジャックとユウナも降りてくる。
「朝弱い俺でもこう騒がれると…。。」
「そりゃ起きちゃうよね。。」
二人は呆れ顔でシャルルを見た。
「早起きは三文の徳ってね。ついでにラジオ体操でもする?チャーンチャッカチャカチャン♪チャーンチャッカ…」
「昔の喋らないシャルルが懐かしい…。。」
ジャックは目を細めながら呟いた。
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一通りラジオ体操を行った後、朝ご飯にした。本日の献立はフレンチトーストだった。卵と牛乳をたっぷり染み込ませたパンを焼き、後から蜂蜜をとろーりとかけて頂いた。途中、シャルルが牛乳の入ったコップを倒してボブにクリーンヒットしたが、その他は他愛ない話を繰り広げていた。
その後は明日に迫った戦争の打ち合わせを行なった。
昨日、スズカから発表されたペア同士で注意事項や作戦の確認を行なった。
細かい戦術などは当日のセマティックスキャンに大きく頼ることとなるが、心の面で準備しておくこともたくさんある。出来る最大限の範囲で大人達が戦争の心得を伝え、子供達は覚悟を培っていった。
それぞれのペアによってかかる時間は違ったが、どのペアもお昼前には戻ってきた。お昼はミートスパゲティがメインでその他にシーザーサラダなどが盛ってあった。朝のメニューも鑑みると、どうやら今日は洋風なようだ。ルークとジャックは大盛りに加えてお代わりを行い、ユウナは欠かさず牛乳を飲んでいた。食後にはコーヒーが振る舞われ、一息ついた頃ボブが口を開いた。
「ルーク。この後ちょっといいか?」
「ん?いいよ。どうかしたの?」
「ああ。明日に向けて2人きりで話しておきたいことがあってな。」
「…わかった。じゃあ外にでも行こうか。」
ボブとルークは残ったコーヒーをクッと飲み干し、外へと出て行った。その姿を見届けた後、今度はスズカが口を開いた。
「ジャック。私もあなたに話しておきたいことがあるわ。」
「2人きりですか?!」
「ええ。」
「ま、まさか個人レッスン??」
「いいえ。ただのお話よ。。」
スズカとしてはそこまで厳しい個人レッスンを行ったつもりはなかったが、ジャックとユウナの反応から少し反省し始めていた。
「よかった~。なら川のせせらぎでも聴きながらどうですか?!」
「ええ。そうしましょうか。」
こちらもそのまま席を立ち、2人とも宿舎を出て行った。
「…ちょうどよかったわ。私も…ユウナに話したい…ことが…。」
「…無理しなくていいですよ。。」
シャルルとユウナは長机に取り残されていた。
「…!うんにゃ!話すことならあるよ!」
「…本当ですか??」
「うっわ。ものすごい疑いの眼差し。嘘じゃないから!!今思いついたことは否めないけど…。」
「まあ、聞きますよ。どーせ暇ですし。」
「…あ、ありがとうございます。」
側から見たら、どちらが年上なのかわからない構図だった。
「それで?一体どのようなお話でしょうか?」
「えー。はい。召喚のことについてですね。お話ししたいと思いまして。」
「召喚??シャルルも詳しいの??」
「いえいえ。でも掃除屋としてあらゆる魔法の知識は入れておくべきだからさ。召喚魔法も例外ではないかな。」
「そっか。…それで??」
「えっとね。召喚っていう魔法はね、普通は召喚士がフォニムを消費して呼び出すものだよね?」
「そうね。」
「それをさ、使役召喚っていうの。」
「うん。それ以外に召喚の方法なんてあるの?」
「それがあるんだよね~。」
シャルルは得意げになってきた。
「もう一つの方法はね、召喚獣自身が自分のフォニムで顕現する独立召喚ってやつ!」
「独立召喚…。」
「そ!これはね、召喚士のフォニムを必要としないからとっても便利なの。ユウナは7体位の召喚獣がいるから一部は独立召喚に頼らないとフォニム消費がきついでしょ?」
「確かにそこは不安に思ってたわ。…でもそんな美味しい話じゃないよね?」
「ん。デメリットもあるよ。まず、召喚獣自身のフォニムで現れて、その後も召喚獣のフォニムで戦うから戦える時間が限られてしまう。後もう一つ挙げるとすれば、使役召喚の場合は召喚士の力量次第で召喚獣の潜在能力を上げられるけど、独立召喚はそういうの全くないってとこかな?」
「なるほど。思ったよりデメリットも少ないのね。」
「そそ!まあ召喚獣自身が意思を持つタイプじゃないと独立召喚なんてできないけどね。」
「んー。そういう意味でも高等魔法なのかな?」
シャルルは嬉しそうに人差し指を横に振って、ちっちっちと否定した。
「セブンスウェルは超!ちょーーー高等魔法だよ!」
「超?六属性魔法やフォルテよりもさらに上ってこと?」
「そ!なんなら超の上がないからそこ止まりだけど、なければ超超高等魔法位のレベルだってスズカさんが言ってたよ!」
シャルルは椅子をガタガタ揺らし、笑顔を弾けさせて話していたが、ユウナは一転して困り顔をしていた。
「…どったの?すっごい魔法使えて嬉しくない?」
シャルルはピタッと動きを止めて首を横に倒した。
「いいえ。そこは誇らしいけど、スズカさん私にはそんなこと一言も言わなかったなって。」
「あー。そんなこと言ったら先入観に押しつぶされると思ったんじゃないかな?」
まだユウナは腑に落ちていない様子だった。
「そもそも私まだセブンスウェルは完成していないの。ヴァルファーレを呼び出していないから。」
「そーなの?…そういえばこの前の食事会も6体しかいなかったねえ。」
ここでシャルルは名案を思いついた様子で尻尾をピンと上に立てた。
「じゃー今呼べばよくない?!」
「んー。それがねえ。前の食事会でヴァルファーレだけは呼ぶなって他の子達に強く忠告されたのよね。…てか、そこ結構シリアスなシーンだったけど覚えてない??」
「んー?逆に聞きたいんだけど、そん時私ほとんど喋ってなかったんじゃない?」
「え?…そこまで記憶してはいないけどそうだったかも。」
「多分ね…ご飯食べて、眠たくなって、うとうとしてたんだと思う!」
「…嘘でしょ。。」
「嘘じゃないよ。ご飯食べたら眠くならない??」
「なるけど…時と場合によるような。。」
「私にとってはそういう時だし、そういう場合だったの!」
「だとしたらやばいって。。」
「はー。これだから最近の若い子は…。」
シャルルは親父口調で喋り始めた。というより親父の演技をしていた。
「…どういう意味?」
「自分にとって大切な事がみんなにとっても大切なこととは限らないってことよ!」
「それは分かるけど、自分にとって大切な事を存外に扱われたらイラッとこない?」
「…おっしゃる通りです。。すいません。。」
「分かればよろしい。…ちなみにシャルルにとって一番大切なことは何?」
「そんなの簡単!ラブアンドピースだよ!世界は愛と平和に包まれていたらみーんな幸せだとおもうよ!」
「ふふ。一番って言ってるのになんか二つくらい挙げられたのは尺だけど、素敵な答えだから許したげる。」
「…あのさ。私何歳が知ってる?」
「え?そういえば何歳?」
「…明言はしませんが、あなたの10前後は上ですよ?」
「あら。だとしたらとってもお若いのね。」
「ふふーん。それなんか素直に喜べないよお~??」
「だって子どもっぽいもん。」
「カッチーン。そーですかそーですか、子どもっぽいですか。なら行動も子どもっぽくて仕方ないですよねぇ。」
シャルルは皿の淵に残ったミートソースをスプーンにグリグリつけてニヤリと笑った。今日のユウナは白いワンピースを着ていた。以前シャルルにこの服はお気に入りなんだと話した事があるようで、ユウナは嫌な予感より先に逃げだした。
「その服汚してやるうううううう!!」
「やめて!!許してえええええ!!」
2人は宿舎の外に出て追いかけっこを始めた。
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ボブとルークは世間話から始めていた。
ボブは食事を作ってくれているおばさんを見ているとモミジのことを思い出すらしく、その話をするとルークはペチャパというゴリラもどきの時の話を思い出し、真実を伝え謝った。笑っていると当人のユウナが騒ぎながら宿舎から出てきたため、より一層笑いを誘った。
十分に時間を取った後、ボブは呼び出した本題について話し始めた。
「ルーク。フォルテの調律はどうだ?」
ボブは別途でルークに宿題を課していた。内容はフォルテの調律。つまるところ新しい魔法に慣れろという課題だった。
「大丈夫。身体強化系の魔法は学院時代から得意だったし、フォルテもコツを掴み始めてるよ。」
「そうか。それはよかった。」
「で、そんな話ならここに呼び出す必要ないよね?」
「うむ。感が鋭くなったこともこの旅で身につけたスキルかもな。」
「そうかな?…確かに今まではちょっと鈍感だったかも。」
今でもある方面においては鈍感だがな。と口にしようとしたが、野暮だなと感じて口をつぐんだ。
「フォルテについて話したい事がある。」
ルークはボブをじっと見つめていた。
「以前話したようにフォルテは調律を誤ると暴走する。そうすれば自分自身の体およびタクトが耐えられなくなり、身を滅ぼすことになる。」
「うん。」
「この暴走。実は歴とした一つの魔法なんだ。」
「どゆこと?」
「言葉の通りだ。自らの命を捨てて、その身に余る力を手に入れるフォルテの上位互換魔法。名をフィーネという。」
「…フィーネ。」
「ああ。俺の祖先のミュンヘンや英雄ジークはこの魔法を使い、終わりを告げる者を討伐した。」
「…だから2人は生きて帰ってこれなかったんだね。」
「終わりを告げる者は凶悪な生物だったと聞く。ミュンヘン1人の命に事足らず、ジークの命まで犠牲にすることになったが、この魔法によって世界の危機は救われたのだ。」
ルークは黙った。ボブの言いたい事がわかったから。そしてそれが悲しい事だから。
「今我々が面している問題。これは紛れもなく世界の危機だ。その時にこの力が必要であるならば、私は覚悟を決める。」
「…使う必要がないように。俺たちも全力でサポートする。」
ボブは微笑んだ。しかしその顔つきは少しぎこちなかった。
「ありがとう。…全てが上手くいくように願おう。」
ボブはそう言うと、目を合わせないようにして立ち去った。
悲しい背中を捉えつつ、ルークはこの話の真意にまで気付いた。
そんな気がしたのだ。
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月が辺りを照らす中、ボブとスズカは外の草原に出て軽く酒を酌み交わしていた。シャルルは下戸なため甘いジュースを注いで合わせていた。
「いよいよか。…明日は荒れるだろうな。」
「そうね。向こうが勝てば世界は確実に崩れる。一方で私たちが勝ったとしても世界の調和や均衡に変化は生まれるはず。」
「歴史的に見ても大きな戦争になるだろうね~。」
くいっと酒を口に運びながら3人は月を眺めていた。
漆黒を美しく照らすこの景色が生涯最後の夜となる可能性を感じながら、「よい」を楽しんでいた。
「何が楽しくて神様はこんな試練を与えるのかね?」
シャルルは三角座りという猫らしからぬ態勢でジュースをズルズルすすっていた。
「神様なんて信じるたまだったか?」
「んーや。無宗教だけどね。でもなんかこういう張り詰めたときってさ、実はやっぱ居る?もしかしてずっと見てた?やばやば?って気持ちになる時があるんだよね。…まあきっと心の弱さが表れてるんだろうね。」
「心の弱さ…ね。掃除屋として色んな修羅場を超えてメンタルは鍛えられているはずだけど、やっぱり不安になるわね。」
「それが人間ってもんだ。そこが欠如すればそれは生物として機能していない。感情のない殺戮人形には俺はなりたくないし、お前らにもなって欲しくない。」
「おー、よかった。私もまだ人間扱いってことだよね?」
「違ったか?」
「いんや。もちろん人間だよ?心はね。」
「そうね。小学5年生ってとこかしら。」
「…スズカさん。」
軽く微笑みながらまた一杯口を湿らす。
他愛無い話に並ぶほど、美しい平和を感じるものは思いつかない。今この時を生きているのだと実感すると、自然と顔は綻んでいた。
「明日はヴォルフとかに会うのかー。元気にしてるかな?」
「今は封印魔法の中だろ?元気もクソも無いだろう。」
「そりゃそうだけどさ。そーいうロマンのないこと言いたいわけじゃないんだよ。」
「きっと大丈夫よ。彼らはこの戦争できっと味方してくれるわ。」
「そうだと良いがな…。」
「あー、バカボブう。雰囲気悪くすな。」
「冷静に悪いところまで想定していくとな。俺の悪い癖だ。」
「まあ少なくともヴォルフはルークに剣を向けているわけだし、一筋縄ではいかないと思うわ。錯乱魔法、あるいはそれに代わる何かを解決しなければ厳しいでしょうね。」
シャルルはしかめっ面で空になったコップにジュースを注ぎ直す。
「でもさ、それさえ何とかすればぜったい味方につくよ。」
「まあ…ね。そこが最難関でしょうけど。」
「何とかする方法はないのか?」
「原因がはっきりしないから何とも言えないけれど…。少なくとも私とシャルルは面識がある。それも深くね。だから目を覚さすきっかけは作りやすいとは思ってるわ。」
「そうか。まあだめな時も想定しながら動く必要はあるな。」
ボブは目線を下げ、スズカと自分のお猪口に酒を満たした。
「まーたそういうこというー。ネガティブしてると幸せ逃げちゃうよ?」
「まあでもボブの言うことも対策として立てておくべきだわ。」
スズカは小さな声で「ありがと」と伝え、酒を少し飲み話を続けた。
「ヴォルフは正直どうなるかわからない。けれど学院にはシュタルクっていう頼りになる味方がいるわ。シャルルと一緒で六属性魔法を扱えて、とても聡明な人よ。」
シャルルはそれを聞き、ニヤニヤしながらスズカを見つめた。
それに気づいたスズカは顔を赤らめて酒をぐびっと飲んだ。
「な、なによ。文句でもあるの?」
「いーえ。酔ってるなあって思っただけでーす。」
「もう。。あんまりからかわないでよね。」
スズカは困り顔でそっぽを向いた。あまり見たことない可愛い反応だったのでシャルルは嬉しそうだった。
「シュタルクか。シャルルと同じ力量なら心強いな。」
「あっちの方がすごいよ。私の比じゃないスピードで魔法展開するもん。ま、質は私の方が上だけどね?あ、氷系以外は。」
「それは素晴らしい。シャルルが認めるなら相当な腕前だな。」
「ええ。本当にあの人は素敵よ。」
シャルルはジュースを吹き出してしまった。スズカはゴホンと咳払いをして話し直した。
「とはいえ、圧倒的に不利な展開が予測されるわ。…恐らく私たちも無事ではいられない。」
「…そうだね。」
「私たちはこの世界を守るために全力を尽くす。けれどこれから取る作戦はとてもじゃないけど誇れるものではないわ。」
ボブとシャルルはスズカの目を見て聞いていた。皆、その言葉に異論はないようだった。
「だからこそ私たち大人はけじめをつける必要がある。」
「そうだな。」
「…うん。」
「ここに約束してほしい。明日の決戦では、文字通り死力を尽くしましょう。」
「ああ。最悪の時はフィーネを使う。」
「私もその時は人型になるわ。」
「ありがとう。…そしてごめんなさい。」
「スズカ。負い目を感じてるならそれはお門違いだぞ。」
「そーだよスズカさん。私たちには私たちの出来ることがある。でも私たちではスズカさんの出来ることが出来ない。きちんと導くためにはスズカさんは生きてなきゃダメだもん。」
スズカは涙を流していた。しかし、すぐに拭き直して装いを整えた。
「そうね。必ず上手くいくように…作戦が完結するように私も死力を尽くすわ。」
ボブとシャルルは微笑んだ。
しかしシャルルはすぐに遠い向こうを見つめながら話し始めた。
「でもほんとに気の毒なのはあの子よね。作戦のためとはいえ、こんなことになるなんて。」
「それに関しては…な。」
「あーあ。ほんとに神様は何をしてるんだろうね?」
「本当に神がいるならこの作戦は上手くいく。そう信じるしかないし、そうするように俺たちがやらなければならない。」
「ええ。必ず…必ず勝ちましょう。」
ボブが酒を天に掲げた。スズカとシャルルも自分の物を同様に掲げた。
「俺たちの未来に幸あらんことを。」
お猪口とコップをかち合わせ、決戦前夜の晩酌は幕を下ろした。
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ルークは部屋の中から月を眺めていた。満月から少し欠けたその月は辺りを十分に照らしており、酒を酌み交わす大人たちの姿も彩っていた。
シャルルは言った。あまり深く考えすぎてもよくないと。
しかし深く考えるなと言われる方が難しいほどの問題だった。
世界の均衡を揺るがす事態。
ルドルフ魔法学院に喧嘩を売るということは、そういうことだったのだ。
そしてその戦場を知っているからこそわかる。
明らかに劣勢だった。
ルドルフ自身も疲労困憊。
敵戦力も未知数の中、こちらの追加戦力は自分たち6人のみ。
準備の時間はしっかりと確保できたが、それは相手も同じこと。
劣勢。不利。そして犠牲。
この言葉が頭の中を堂々巡りで駆け回っていた。
そんな思考のループを止めたのはドアが3回叩かれる音だった。
「ルーク?起きてる?」
「ユウナか?起きてるよ。」
ギィっとゆっくり木のドアを押し開け、ユウナはそっと部屋の中に入ってきた。
「…長いようで短かったね。」
「そうだな。濃密な時間だったから、よくわかんなくなるよね。」
「けど、はっきりしていることは明日が決戦だということ。」
開いたドアからジャックが入ってきた。
3人が揃い、横一列でベッドに腰かけた。
窓からは月光が溢れており、3人の足元を照らしている。
「最初飛ばされた時はどうなることかと思ったけど…」
ユウナがゆっくりと口を開き、少しだけ微笑みながら話していた。
「良い出会いに恵まれたよね。ボブに会って、それからスズカさんとシャルルにも。なかなか無いと思うんだー。こんな感じで上手く事が進むなんて。全部ルドルフ校長のはからいなのかな??」
ジャックは笑いながら答えた。
「あのジジイがそこまで考えてると思う??急な事だったし、ボブの近くに転移させちゃえーってな感じだっただけでしょ?」
「わかんないよ?俺らが思ってた以上に優秀な校長みたいだし。まさか世界を牛耳ってるなんて驚きだったよ。」
ルークは後ろに倒れ込むようにベッドに転がり、天井を仰いだ。
「それにモジュレーションね。ジークとリーシャの話が現実味を帯びてきて…。まるでお伽話のなかに転がり込んだみたいだったわ。」
「てことは、その物語の主人公は俺かな?」
ジャックは嬉しそうに自分を指差す。
ルークはむくりと起き上がって、怪訝な顔つきをした。
「ジャックが主人公だったら駄作だね。ぜーんぜん売れないよ。」
「いーんや。コミカルな物語になるはずだぜ?重たーい話なんて一切なしのハッピーエンド。これに決まりだな。」
ドヤ顔を決め込むジャックに2人はくすりと笑った。
「…だとしたら、ジャックが主人公であって欲しいな。」
ルークは少し悲しい顔をしてしまった。
すぐに取り繕ったが2人は気取っていた。
「まあそうは言っても、俺の性格的には脇役がぴったりだな。主人公の座は君たちに譲るよ。」
「俺もちょっと違うかなー。」
「じゃあ私??」
ユウナはジャックの真似をしながら自分を指差している。
「ユウナかー。違う気がするな。」
「なにそれ。主人公のいない作品なんてダメダメじゃん。」
あんまり2人が拾ってくれなかったため、少し気恥ずかしい思いをユウナはしていた。
「ダメダメでも良いよ。みんなが生きてたらそれで良い。」
「…ジャック?」
「だーかーら。例え勝敗がどうなろうと、俺たちみーんな生きてたら俺はそれで良い。」
「そうだね。」
「絶対死ぬなよ?」
「ジャックこそ。」
「ルークは凡ミスしそうだから心配だよなー。ユウナはまー、大丈夫か。」
「…私も心配しなさいよ。」
「だいじょーぶ。いざとなったらこのジャック様が華麗に助けてあげるよ。必ず。」
ジャックはユウナを見つめ、目が合うとニコッと微笑みかけた。
「ありがと。まあ作戦が順調に進めばそれだけ私たちが生きている可能性も高くなるわ。精一杯努めましょう。」
「作戦ねえ。」
ジャックは何が言いたい様子だった。
「…所々不明瞭なだけに不安もあるよね。」
「そこはセマティックスキャンを信じましょう。」
「でも変に思わない?捕虜として捕まるかもーって言っても決戦は明日だよ?そんな時間ほとんどないと思うけど。」
「戦争中に生け捕りにされることを想定してるんじゃなくて?」
「あ、そっちか。…確かに拷問とかされたら嫌だな。。」
「…嫌なこと言わないでよ。。」
「ごめんごめん。てっきり俺たちにギリギリまで言いたくないような事が作戦に組み込まれているのかと思ってたから。」
「例えば?」
「さあ?そんな賢くないからさ。わかんないよ。」
「どーかん。そんな難しいこと考えても仕方ないぞ?もっと楽しいこと考えようぜ!」
「楽しいこと?」
「そ!この戦争終わった後のこと!」
「こんな面倒ごとに巻き込まれたわけだしさ。校長に言って1週間くらい休みもらおうよ!」
「いいね!んでもってあそびまくろうぜ!」
「遊びかぁ。それなら私モミジさんのところに行きたいかも。この旅で最初に出会った恩人だし、あと手料理もすごく美味しかったし。」
「あれは生き返ったね。全てを包み込む優しいお味だった。」
「んん。怪我もすぐに癒えたよね。…なんであんな怪我してたんだっけ?」
「あんたたちが覗いたからでしょ。」
「あ、実はあれにはふかーい訳があって…。」
「なに?」
「まーまー。それも戦争後の楽しみに取っとこうぜ。」
「嫌よ。モヤモヤするじゃない。」
「まーまー。生きなきゃいけない理由をたくさん作っていこうよ。」
「…まあ今回は乗せられといてあげるわ。」
ユウナは2人に対して違和を感じた。生に対する想いが今までと明らかに違うような気がしたのだ。確かに明日は命が失われる可能性のある日。けれどもこんな感傷的な2人はあまり見た事がない分、不思議だった。まるで、死ぬことを予見しているかのように思えた。
「さ!そろそろお暇しますか。明日に響いたら大問題ですからね。」
「ええ。でも最後に…。」
ユウナは手の甲を天井に向ける形で右腕を突き出した。
「明日に向けて気合を入れましょ。」
「ユウナって意外とそういうの好きだよね。」
「う、うるさい。気持ちの整理するのに良いことでしょ。」
ルークとジャックは笑いながらそっと手を添えた。
ユウナがもう夜だから小さい声でね?と念を押してから、ごほんと咳払いした。
「明日は絶対勝つわよ!せーのっ!」
「「「えいえいおー!」」」
3人の腕は天井に向けられ、皆満面の笑みだった。
明日にどんな事が起きても、今この瞬間は幸せだった。
最高の幼馴染みに恵まれたことに心から感謝した。
これからもこの幸せが続くように…。
無意識のうちにそう神に祈りを捧げていた。
明日は戦争…か。これからもみんなで笑って過ごせるのかな…。
現実離れした戦争という二文字。喧嘩は幾度と無くしてきたし、フォニムを交えたぶつかり合いは日常茶飯事だった。だが、あの時のヴォルフとの一戦。命が掛かっていると頭で理解した瞬間。その場面を思い出し、ルークはシーツを強く握りしめた。
大丈夫…。あの経験があるからこそ、俺は初めての戦いじゃない。フォルテも身につけて、強くなってる。大丈夫。きっと…きっとうまくいく…。
暗示のように唱えたあと、ルークは朝食を食べるためにベットを後にした。
一階に降りるとシャルルがストーブの前で丸まっていた。白い尻尾をゆっくり上下に振りながらうとうとしている様子だった。
「おはよ。なーんかのんきだね…。」
「んー?おはよー。なになに明日のこと意識しちゃってる??」
「そりゃそうでしょ。。」
「まあイメージをたっぷり沸かして、明日に備えることはいいことだと思うよ。でもあんまりやりすぎると今日とか寝れなくなっちゃうからほどほどにね?」
「…。」
「…どったの?」
「いや、なんか慣れてるなーって。よく戦争とかするの?」
シャルルは笑いながら体を起こした。
「そーんな軽い遊びみたいな感じで言わないでよ。けどまあいくらか経験はあるからね~。」
シャルルは猫特有の伸びをグーっとしたあと、欠伸をしながらルークの方を見た。
「私やスズカさん、それにボブはどーやって生活してると思う?」
「…仕事。いや農業?」
「まーボブは農業もやってるね。けどみんなに共通するのはやっぱ仕事。じゃーもういっちょ質問!なんの仕事でしょーか?」
「…ちっともわかんない。」
「はー。こういう時は当てずっぽうでも答えるものだよ?的を得たものか、ユニークな答えをして会話をなめらかーに繋げるのもモテる男の秘訣だゾ。」
「じゃあパン屋さん。」
「もちっと気の利く回答して欲しかったなあ。。コメントに困るっていうかなんというか。」
「うーん、なんか今日はそんな気分になれなくてさ。で、なんの仕事してるの??」
「ふっふーん。答えはなんと…」
「掃除屋だよ。」
「あー!!!!いっちばんいいとこだったのにいいいい!!!!ばかボブあほボブうう!!!」
「酷い言われようだが、あのまま放っとくと3分はドラムロールごっこしてただろ?」
「ぐぅ。反論できぬ。。」
「盛り上がってるとこ悪いけど掃除屋って??」
「あー、清掃活動とかっていう意味の仕事じゃ無くてね、仕置人…的な?」
「あえて言葉を選ばず言うとだな、世の中のゴミみたいな連中を影から潰していく…そう言った表には顔を出さない仕事だよ。」
「そんなもんが普通にあるなんてね…。なーんか旅してから世界観変わったな。」
「いいことじゃん。大人になったってことだよ♪ 」
「世界は広いんだ。知らない事なんてたくさんある。人間のイメージに収まることは全て実現可能な未来なんだと、どっかの誰かも言ってる。」
「なんかエピソードみたいなのない??ちょっと興味湧いてきた。」
「ふっふん♪ いいでしょういいでしょう。わたくしシャルルちゃんが語ってあげましょう♪ あれは…そう。雪が降り頻る夜のこと。当時私はまだまだ駆け出しの掃除屋で、今の私よりずっとピュアな可愛い猫ちゃんでした。満月に照らされ私のキュートな白い毛がいつも以上に輝…」
「あー、やっぱいいや。やめよ。。」
「なーんーでー!!!!!まだまだちょー序盤じゃん!!!!」
「そのちょー序盤の情報がほとんどシャルルそのものの話で終わりが見えそうになかったからだよ。。」
「いいじゃんか!!それがのちにアクセントを加えるポイントになるんだよおおお!!」
「…うん。まあでも…」
「はーなーさーせーてーよおおおお!!!!!」
「わかった。端的に。」
「おけ!えっとすっごいキュートなシャルルちゃ」
「もっと端的に。」
「ぐう。いやでも…」
「なら聞かない。」
「わーかったわかった!端的に話すよお。。」
「ん。ならどうぞ。」
「くうぅ。えーっと、端的にいうと、私がマフィアのアジト突き止めて1対15だったけどフルボッコにしてやった…みたいな?」
「…うん。」
「ほーら!!!なにこれ?!ぜーんぜん面白くないじゃん!?え??ってなるじゃん?!だからもっと細かく話したかったのにいいいい!!!これじゃ私がただの殺戮キャットになっただけじゃんかあああ!!!てかこらぼぶぅ!!何無視してコーヒー飲んどんじゃい!おいぼぶうう!!!」
「…朝から騒がしいな。。あとその呼び方絶対唾飛んでるぞ。」
「な?!この期に及んでまだ私をいじめるか!?許さんぞぼぶぅ!!!」
「はーいはいはい。そこまでそこまで。ご近所迷惑でしょ?」
スズカが手を叩きながらシャルルを静止し、階段から降りてきた。続けてジャックとユウナも降りてくる。
「朝弱い俺でもこう騒がれると…。。」
「そりゃ起きちゃうよね。。」
二人は呆れ顔でシャルルを見た。
「早起きは三文の徳ってね。ついでにラジオ体操でもする?チャーンチャッカチャカチャン♪チャーンチャッカ…」
「昔の喋らないシャルルが懐かしい…。。」
ジャックは目を細めながら呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一通りラジオ体操を行った後、朝ご飯にした。本日の献立はフレンチトーストだった。卵と牛乳をたっぷり染み込ませたパンを焼き、後から蜂蜜をとろーりとかけて頂いた。途中、シャルルが牛乳の入ったコップを倒してボブにクリーンヒットしたが、その他は他愛ない話を繰り広げていた。
その後は明日に迫った戦争の打ち合わせを行なった。
昨日、スズカから発表されたペア同士で注意事項や作戦の確認を行なった。
細かい戦術などは当日のセマティックスキャンに大きく頼ることとなるが、心の面で準備しておくこともたくさんある。出来る最大限の範囲で大人達が戦争の心得を伝え、子供達は覚悟を培っていった。
それぞれのペアによってかかる時間は違ったが、どのペアもお昼前には戻ってきた。お昼はミートスパゲティがメインでその他にシーザーサラダなどが盛ってあった。朝のメニューも鑑みると、どうやら今日は洋風なようだ。ルークとジャックは大盛りに加えてお代わりを行い、ユウナは欠かさず牛乳を飲んでいた。食後にはコーヒーが振る舞われ、一息ついた頃ボブが口を開いた。
「ルーク。この後ちょっといいか?」
「ん?いいよ。どうかしたの?」
「ああ。明日に向けて2人きりで話しておきたいことがあってな。」
「…わかった。じゃあ外にでも行こうか。」
ボブとルークは残ったコーヒーをクッと飲み干し、外へと出て行った。その姿を見届けた後、今度はスズカが口を開いた。
「ジャック。私もあなたに話しておきたいことがあるわ。」
「2人きりですか?!」
「ええ。」
「ま、まさか個人レッスン??」
「いいえ。ただのお話よ。。」
スズカとしてはそこまで厳しい個人レッスンを行ったつもりはなかったが、ジャックとユウナの反応から少し反省し始めていた。
「よかった~。なら川のせせらぎでも聴きながらどうですか?!」
「ええ。そうしましょうか。」
こちらもそのまま席を立ち、2人とも宿舎を出て行った。
「…ちょうどよかったわ。私も…ユウナに話したい…ことが…。」
「…無理しなくていいですよ。。」
シャルルとユウナは長机に取り残されていた。
「…!うんにゃ!話すことならあるよ!」
「…本当ですか??」
「うっわ。ものすごい疑いの眼差し。嘘じゃないから!!今思いついたことは否めないけど…。」
「まあ、聞きますよ。どーせ暇ですし。」
「…あ、ありがとうございます。」
側から見たら、どちらが年上なのかわからない構図だった。
「それで?一体どのようなお話でしょうか?」
「えー。はい。召喚のことについてですね。お話ししたいと思いまして。」
「召喚??シャルルも詳しいの??」
「いえいえ。でも掃除屋としてあらゆる魔法の知識は入れておくべきだからさ。召喚魔法も例外ではないかな。」
「そっか。…それで??」
「えっとね。召喚っていう魔法はね、普通は召喚士がフォニムを消費して呼び出すものだよね?」
「そうね。」
「それをさ、使役召喚っていうの。」
「うん。それ以外に召喚の方法なんてあるの?」
「それがあるんだよね~。」
シャルルは得意げになってきた。
「もう一つの方法はね、召喚獣自身が自分のフォニムで顕現する独立召喚ってやつ!」
「独立召喚…。」
「そ!これはね、召喚士のフォニムを必要としないからとっても便利なの。ユウナは7体位の召喚獣がいるから一部は独立召喚に頼らないとフォニム消費がきついでしょ?」
「確かにそこは不安に思ってたわ。…でもそんな美味しい話じゃないよね?」
「ん。デメリットもあるよ。まず、召喚獣自身のフォニムで現れて、その後も召喚獣のフォニムで戦うから戦える時間が限られてしまう。後もう一つ挙げるとすれば、使役召喚の場合は召喚士の力量次第で召喚獣の潜在能力を上げられるけど、独立召喚はそういうの全くないってとこかな?」
「なるほど。思ったよりデメリットも少ないのね。」
「そそ!まあ召喚獣自身が意思を持つタイプじゃないと独立召喚なんてできないけどね。」
「んー。そういう意味でも高等魔法なのかな?」
シャルルは嬉しそうに人差し指を横に振って、ちっちっちと否定した。
「セブンスウェルは超!ちょーーー高等魔法だよ!」
「超?六属性魔法やフォルテよりもさらに上ってこと?」
「そ!なんなら超の上がないからそこ止まりだけど、なければ超超高等魔法位のレベルだってスズカさんが言ってたよ!」
シャルルは椅子をガタガタ揺らし、笑顔を弾けさせて話していたが、ユウナは一転して困り顔をしていた。
「…どったの?すっごい魔法使えて嬉しくない?」
シャルルはピタッと動きを止めて首を横に倒した。
「いいえ。そこは誇らしいけど、スズカさん私にはそんなこと一言も言わなかったなって。」
「あー。そんなこと言ったら先入観に押しつぶされると思ったんじゃないかな?」
まだユウナは腑に落ちていない様子だった。
「そもそも私まだセブンスウェルは完成していないの。ヴァルファーレを呼び出していないから。」
「そーなの?…そういえばこの前の食事会も6体しかいなかったねえ。」
ここでシャルルは名案を思いついた様子で尻尾をピンと上に立てた。
「じゃー今呼べばよくない?!」
「んー。それがねえ。前の食事会でヴァルファーレだけは呼ぶなって他の子達に強く忠告されたのよね。…てか、そこ結構シリアスなシーンだったけど覚えてない??」
「んー?逆に聞きたいんだけど、そん時私ほとんど喋ってなかったんじゃない?」
「え?…そこまで記憶してはいないけどそうだったかも。」
「多分ね…ご飯食べて、眠たくなって、うとうとしてたんだと思う!」
「…嘘でしょ。。」
「嘘じゃないよ。ご飯食べたら眠くならない??」
「なるけど…時と場合によるような。。」
「私にとってはそういう時だし、そういう場合だったの!」
「だとしたらやばいって。。」
「はー。これだから最近の若い子は…。」
シャルルは親父口調で喋り始めた。というより親父の演技をしていた。
「…どういう意味?」
「自分にとって大切な事がみんなにとっても大切なこととは限らないってことよ!」
「それは分かるけど、自分にとって大切な事を存外に扱われたらイラッとこない?」
「…おっしゃる通りです。。すいません。。」
「分かればよろしい。…ちなみにシャルルにとって一番大切なことは何?」
「そんなの簡単!ラブアンドピースだよ!世界は愛と平和に包まれていたらみーんな幸せだとおもうよ!」
「ふふ。一番って言ってるのになんか二つくらい挙げられたのは尺だけど、素敵な答えだから許したげる。」
「…あのさ。私何歳が知ってる?」
「え?そういえば何歳?」
「…明言はしませんが、あなたの10前後は上ですよ?」
「あら。だとしたらとってもお若いのね。」
「ふふーん。それなんか素直に喜べないよお~??」
「だって子どもっぽいもん。」
「カッチーン。そーですかそーですか、子どもっぽいですか。なら行動も子どもっぽくて仕方ないですよねぇ。」
シャルルは皿の淵に残ったミートソースをスプーンにグリグリつけてニヤリと笑った。今日のユウナは白いワンピースを着ていた。以前シャルルにこの服はお気に入りなんだと話した事があるようで、ユウナは嫌な予感より先に逃げだした。
「その服汚してやるうううううう!!」
「やめて!!許してえええええ!!」
2人は宿舎の外に出て追いかけっこを始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ボブとルークは世間話から始めていた。
ボブは食事を作ってくれているおばさんを見ているとモミジのことを思い出すらしく、その話をするとルークはペチャパというゴリラもどきの時の話を思い出し、真実を伝え謝った。笑っていると当人のユウナが騒ぎながら宿舎から出てきたため、より一層笑いを誘った。
十分に時間を取った後、ボブは呼び出した本題について話し始めた。
「ルーク。フォルテの調律はどうだ?」
ボブは別途でルークに宿題を課していた。内容はフォルテの調律。つまるところ新しい魔法に慣れろという課題だった。
「大丈夫。身体強化系の魔法は学院時代から得意だったし、フォルテもコツを掴み始めてるよ。」
「そうか。それはよかった。」
「で、そんな話ならここに呼び出す必要ないよね?」
「うむ。感が鋭くなったこともこの旅で身につけたスキルかもな。」
「そうかな?…確かに今まではちょっと鈍感だったかも。」
今でもある方面においては鈍感だがな。と口にしようとしたが、野暮だなと感じて口をつぐんだ。
「フォルテについて話したい事がある。」
ルークはボブをじっと見つめていた。
「以前話したようにフォルテは調律を誤ると暴走する。そうすれば自分自身の体およびタクトが耐えられなくなり、身を滅ぼすことになる。」
「うん。」
「この暴走。実は歴とした一つの魔法なんだ。」
「どゆこと?」
「言葉の通りだ。自らの命を捨てて、その身に余る力を手に入れるフォルテの上位互換魔法。名をフィーネという。」
「…フィーネ。」
「ああ。俺の祖先のミュンヘンや英雄ジークはこの魔法を使い、終わりを告げる者を討伐した。」
「…だから2人は生きて帰ってこれなかったんだね。」
「終わりを告げる者は凶悪な生物だったと聞く。ミュンヘン1人の命に事足らず、ジークの命まで犠牲にすることになったが、この魔法によって世界の危機は救われたのだ。」
ルークは黙った。ボブの言いたい事がわかったから。そしてそれが悲しい事だから。
「今我々が面している問題。これは紛れもなく世界の危機だ。その時にこの力が必要であるならば、私は覚悟を決める。」
「…使う必要がないように。俺たちも全力でサポートする。」
ボブは微笑んだ。しかしその顔つきは少しぎこちなかった。
「ありがとう。…全てが上手くいくように願おう。」
ボブはそう言うと、目を合わせないようにして立ち去った。
悲しい背中を捉えつつ、ルークはこの話の真意にまで気付いた。
そんな気がしたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
月が辺りを照らす中、ボブとスズカは外の草原に出て軽く酒を酌み交わしていた。シャルルは下戸なため甘いジュースを注いで合わせていた。
「いよいよか。…明日は荒れるだろうな。」
「そうね。向こうが勝てば世界は確実に崩れる。一方で私たちが勝ったとしても世界の調和や均衡に変化は生まれるはず。」
「歴史的に見ても大きな戦争になるだろうね~。」
くいっと酒を口に運びながら3人は月を眺めていた。
漆黒を美しく照らすこの景色が生涯最後の夜となる可能性を感じながら、「よい」を楽しんでいた。
「何が楽しくて神様はこんな試練を与えるのかね?」
シャルルは三角座りという猫らしからぬ態勢でジュースをズルズルすすっていた。
「神様なんて信じるたまだったか?」
「んーや。無宗教だけどね。でもなんかこういう張り詰めたときってさ、実はやっぱ居る?もしかしてずっと見てた?やばやば?って気持ちになる時があるんだよね。…まあきっと心の弱さが表れてるんだろうね。」
「心の弱さ…ね。掃除屋として色んな修羅場を超えてメンタルは鍛えられているはずだけど、やっぱり不安になるわね。」
「それが人間ってもんだ。そこが欠如すればそれは生物として機能していない。感情のない殺戮人形には俺はなりたくないし、お前らにもなって欲しくない。」
「おー、よかった。私もまだ人間扱いってことだよね?」
「違ったか?」
「いんや。もちろん人間だよ?心はね。」
「そうね。小学5年生ってとこかしら。」
「…スズカさん。」
軽く微笑みながらまた一杯口を湿らす。
他愛無い話に並ぶほど、美しい平和を感じるものは思いつかない。今この時を生きているのだと実感すると、自然と顔は綻んでいた。
「明日はヴォルフとかに会うのかー。元気にしてるかな?」
「今は封印魔法の中だろ?元気もクソも無いだろう。」
「そりゃそうだけどさ。そーいうロマンのないこと言いたいわけじゃないんだよ。」
「きっと大丈夫よ。彼らはこの戦争できっと味方してくれるわ。」
「そうだと良いがな…。」
「あー、バカボブう。雰囲気悪くすな。」
「冷静に悪いところまで想定していくとな。俺の悪い癖だ。」
「まあ少なくともヴォルフはルークに剣を向けているわけだし、一筋縄ではいかないと思うわ。錯乱魔法、あるいはそれに代わる何かを解決しなければ厳しいでしょうね。」
シャルルはしかめっ面で空になったコップにジュースを注ぎ直す。
「でもさ、それさえ何とかすればぜったい味方につくよ。」
「まあ…ね。そこが最難関でしょうけど。」
「何とかする方法はないのか?」
「原因がはっきりしないから何とも言えないけれど…。少なくとも私とシャルルは面識がある。それも深くね。だから目を覚さすきっかけは作りやすいとは思ってるわ。」
「そうか。まあだめな時も想定しながら動く必要はあるな。」
ボブは目線を下げ、スズカと自分のお猪口に酒を満たした。
「まーたそういうこというー。ネガティブしてると幸せ逃げちゃうよ?」
「まあでもボブの言うことも対策として立てておくべきだわ。」
スズカは小さな声で「ありがと」と伝え、酒を少し飲み話を続けた。
「ヴォルフは正直どうなるかわからない。けれど学院にはシュタルクっていう頼りになる味方がいるわ。シャルルと一緒で六属性魔法を扱えて、とても聡明な人よ。」
シャルルはそれを聞き、ニヤニヤしながらスズカを見つめた。
それに気づいたスズカは顔を赤らめて酒をぐびっと飲んだ。
「な、なによ。文句でもあるの?」
「いーえ。酔ってるなあって思っただけでーす。」
「もう。。あんまりからかわないでよね。」
スズカは困り顔でそっぽを向いた。あまり見たことない可愛い反応だったのでシャルルは嬉しそうだった。
「シュタルクか。シャルルと同じ力量なら心強いな。」
「あっちの方がすごいよ。私の比じゃないスピードで魔法展開するもん。ま、質は私の方が上だけどね?あ、氷系以外は。」
「それは素晴らしい。シャルルが認めるなら相当な腕前だな。」
「ええ。本当にあの人は素敵よ。」
シャルルはジュースを吹き出してしまった。スズカはゴホンと咳払いをして話し直した。
「とはいえ、圧倒的に不利な展開が予測されるわ。…恐らく私たちも無事ではいられない。」
「…そうだね。」
「私たちはこの世界を守るために全力を尽くす。けれどこれから取る作戦はとてもじゃないけど誇れるものではないわ。」
ボブとシャルルはスズカの目を見て聞いていた。皆、その言葉に異論はないようだった。
「だからこそ私たち大人はけじめをつける必要がある。」
「そうだな。」
「…うん。」
「ここに約束してほしい。明日の決戦では、文字通り死力を尽くしましょう。」
「ああ。最悪の時はフィーネを使う。」
「私もその時は人型になるわ。」
「ありがとう。…そしてごめんなさい。」
「スズカ。負い目を感じてるならそれはお門違いだぞ。」
「そーだよスズカさん。私たちには私たちの出来ることがある。でも私たちではスズカさんの出来ることが出来ない。きちんと導くためにはスズカさんは生きてなきゃダメだもん。」
スズカは涙を流していた。しかし、すぐに拭き直して装いを整えた。
「そうね。必ず上手くいくように…作戦が完結するように私も死力を尽くすわ。」
ボブとシャルルは微笑んだ。
しかしシャルルはすぐに遠い向こうを見つめながら話し始めた。
「でもほんとに気の毒なのはあの子よね。作戦のためとはいえ、こんなことになるなんて。」
「それに関しては…な。」
「あーあ。ほんとに神様は何をしてるんだろうね?」
「本当に神がいるならこの作戦は上手くいく。そう信じるしかないし、そうするように俺たちがやらなければならない。」
「ええ。必ず…必ず勝ちましょう。」
ボブが酒を天に掲げた。スズカとシャルルも自分の物を同様に掲げた。
「俺たちの未来に幸あらんことを。」
お猪口とコップをかち合わせ、決戦前夜の晩酌は幕を下ろした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルークは部屋の中から月を眺めていた。満月から少し欠けたその月は辺りを十分に照らしており、酒を酌み交わす大人たちの姿も彩っていた。
シャルルは言った。あまり深く考えすぎてもよくないと。
しかし深く考えるなと言われる方が難しいほどの問題だった。
世界の均衡を揺るがす事態。
ルドルフ魔法学院に喧嘩を売るということは、そういうことだったのだ。
そしてその戦場を知っているからこそわかる。
明らかに劣勢だった。
ルドルフ自身も疲労困憊。
敵戦力も未知数の中、こちらの追加戦力は自分たち6人のみ。
準備の時間はしっかりと確保できたが、それは相手も同じこと。
劣勢。不利。そして犠牲。
この言葉が頭の中を堂々巡りで駆け回っていた。
そんな思考のループを止めたのはドアが3回叩かれる音だった。
「ルーク?起きてる?」
「ユウナか?起きてるよ。」
ギィっとゆっくり木のドアを押し開け、ユウナはそっと部屋の中に入ってきた。
「…長いようで短かったね。」
「そうだな。濃密な時間だったから、よくわかんなくなるよね。」
「けど、はっきりしていることは明日が決戦だということ。」
開いたドアからジャックが入ってきた。
3人が揃い、横一列でベッドに腰かけた。
窓からは月光が溢れており、3人の足元を照らしている。
「最初飛ばされた時はどうなることかと思ったけど…」
ユウナがゆっくりと口を開き、少しだけ微笑みながら話していた。
「良い出会いに恵まれたよね。ボブに会って、それからスズカさんとシャルルにも。なかなか無いと思うんだー。こんな感じで上手く事が進むなんて。全部ルドルフ校長のはからいなのかな??」
ジャックは笑いながら答えた。
「あのジジイがそこまで考えてると思う??急な事だったし、ボブの近くに転移させちゃえーってな感じだっただけでしょ?」
「わかんないよ?俺らが思ってた以上に優秀な校長みたいだし。まさか世界を牛耳ってるなんて驚きだったよ。」
ルークは後ろに倒れ込むようにベッドに転がり、天井を仰いだ。
「それにモジュレーションね。ジークとリーシャの話が現実味を帯びてきて…。まるでお伽話のなかに転がり込んだみたいだったわ。」
「てことは、その物語の主人公は俺かな?」
ジャックは嬉しそうに自分を指差す。
ルークはむくりと起き上がって、怪訝な顔つきをした。
「ジャックが主人公だったら駄作だね。ぜーんぜん売れないよ。」
「いーんや。コミカルな物語になるはずだぜ?重たーい話なんて一切なしのハッピーエンド。これに決まりだな。」
ドヤ顔を決め込むジャックに2人はくすりと笑った。
「…だとしたら、ジャックが主人公であって欲しいな。」
ルークは少し悲しい顔をしてしまった。
すぐに取り繕ったが2人は気取っていた。
「まあそうは言っても、俺の性格的には脇役がぴったりだな。主人公の座は君たちに譲るよ。」
「俺もちょっと違うかなー。」
「じゃあ私??」
ユウナはジャックの真似をしながら自分を指差している。
「ユウナかー。違う気がするな。」
「なにそれ。主人公のいない作品なんてダメダメじゃん。」
あんまり2人が拾ってくれなかったため、少し気恥ずかしい思いをユウナはしていた。
「ダメダメでも良いよ。みんなが生きてたらそれで良い。」
「…ジャック?」
「だーかーら。例え勝敗がどうなろうと、俺たちみーんな生きてたら俺はそれで良い。」
「そうだね。」
「絶対死ぬなよ?」
「ジャックこそ。」
「ルークは凡ミスしそうだから心配だよなー。ユウナはまー、大丈夫か。」
「…私も心配しなさいよ。」
「だいじょーぶ。いざとなったらこのジャック様が華麗に助けてあげるよ。必ず。」
ジャックはユウナを見つめ、目が合うとニコッと微笑みかけた。
「ありがと。まあ作戦が順調に進めばそれだけ私たちが生きている可能性も高くなるわ。精一杯努めましょう。」
「作戦ねえ。」
ジャックは何が言いたい様子だった。
「…所々不明瞭なだけに不安もあるよね。」
「そこはセマティックスキャンを信じましょう。」
「でも変に思わない?捕虜として捕まるかもーって言っても決戦は明日だよ?そんな時間ほとんどないと思うけど。」
「戦争中に生け捕りにされることを想定してるんじゃなくて?」
「あ、そっちか。…確かに拷問とかされたら嫌だな。。」
「…嫌なこと言わないでよ。。」
「ごめんごめん。てっきり俺たちにギリギリまで言いたくないような事が作戦に組み込まれているのかと思ってたから。」
「例えば?」
「さあ?そんな賢くないからさ。わかんないよ。」
「どーかん。そんな難しいこと考えても仕方ないぞ?もっと楽しいこと考えようぜ!」
「楽しいこと?」
「そ!この戦争終わった後のこと!」
「こんな面倒ごとに巻き込まれたわけだしさ。校長に言って1週間くらい休みもらおうよ!」
「いいね!んでもってあそびまくろうぜ!」
「遊びかぁ。それなら私モミジさんのところに行きたいかも。この旅で最初に出会った恩人だし、あと手料理もすごく美味しかったし。」
「あれは生き返ったね。全てを包み込む優しいお味だった。」
「んん。怪我もすぐに癒えたよね。…なんであんな怪我してたんだっけ?」
「あんたたちが覗いたからでしょ。」
「あ、実はあれにはふかーい訳があって…。」
「なに?」
「まーまー。それも戦争後の楽しみに取っとこうぜ。」
「嫌よ。モヤモヤするじゃない。」
「まーまー。生きなきゃいけない理由をたくさん作っていこうよ。」
「…まあ今回は乗せられといてあげるわ。」
ユウナは2人に対して違和を感じた。生に対する想いが今までと明らかに違うような気がしたのだ。確かに明日は命が失われる可能性のある日。けれどもこんな感傷的な2人はあまり見た事がない分、不思議だった。まるで、死ぬことを予見しているかのように思えた。
「さ!そろそろお暇しますか。明日に響いたら大問題ですからね。」
「ええ。でも最後に…。」
ユウナは手の甲を天井に向ける形で右腕を突き出した。
「明日に向けて気合を入れましょ。」
「ユウナって意外とそういうの好きだよね。」
「う、うるさい。気持ちの整理するのに良いことでしょ。」
ルークとジャックは笑いながらそっと手を添えた。
ユウナがもう夜だから小さい声でね?と念を押してから、ごほんと咳払いした。
「明日は絶対勝つわよ!せーのっ!」
「「「えいえいおー!」」」
3人の腕は天井に向けられ、皆満面の笑みだった。
明日にどんな事が起きても、今この瞬間は幸せだった。
最高の幼馴染みに恵まれたことに心から感謝した。
これからもこの幸せが続くように…。
無意識のうちにそう神に祈りを捧げていた。
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