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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
1ー32・それは魔法の問いかけ
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偽物エマを返り討ちにした翌日の昼休憩。
ガーディは、屋上にいたユイトらとエミィに気まずそうに謝った。
「悪かったな」
結果的に偽者のエマに騙されてしまった事。アイテレーゼのカナメへの知らせが遅れていたら、相当にやばかったろう事に関して、非常に気にしていたガーディ。
「まぬけな事に騙されちまって」
「いや、彼女に気づけなかったのはわたしたちも同じだよ」とエミィ。
「うん、アイちゃんも言ってたよ。身内でも騙されそうなくらいって」
ユイトも言う。
「そう言ってくれるのはありがたいが。いや、気にしすぎもよくないな」
とりあえずは気持ちを切り替えたようなガーディ。
「はい、結局リンリー様とゲオルグ様の素性は謎のままですし」
「それだよね」
ミユの言葉に、エミィも改めて気を引き締める。
そう、結局、経歴偽装している一年生ふたりの正体に関しては謎のまま。
「アイテレーゼは、ふたりの素性を知ってるって言ってたんだよな?」
「うん」
ガーディの問いに、すぐ頷くユイト。
「それでアーク・ヴィルゲズが雇うような人たちではないって」
「そうか」
しかし、それで何か考え込むような仕草のガーディ。
「何か気になるの?」
尋ねるエミィ。
「なんとなくな。何かひっかかる」
しかしガーディがその答を得る前に、休憩時間は終わった。
そして特に何事もなく、ガーディも結局何が気になるのかについてもう話しもせず、また数週間ほどが過ぎた。
ーー
「レイ」
「あっ、フィオナ、リリエッタも」
珍しく登校時に、教室前で会った、今はわりと普通に喋ったりもするフィオナたちふたり。
最初の頃に比べたら、とんでもない進歩である。
「レイ」
先に教室に入って行ったフィオナたちを見て、少しうわの空な様子だった偽物レイのユイトに、今度はミユが声をかける。
「ああ、悪い、ちょっとぼんやりしてた」
あのキスの後。
ガーディが伝えてきたオリヴィアの件や、アイテレーゼからの通信。偽物エマなど、様々な事があって、それどころでなく、悩んだりする暇もなかった。
(「笑ったりしないでよ、初めてなんだから」
「大事なものなんだからね。とっても大事な瞬間なんだからね」)
今では、自分の妄想だったのではないか、とさえ思えるほど、現実味のない出来事に思えた。
しかし、言わなくていいのだろうか。
あのキスは、自分でなくレイへのものだったのではないだろうか。自分は偽者として謝るべきなのではないだろうか。
それは彼にはあまりに難題だった。
でもレイやミユに頼ってはいけない気がした。きっとこれは自分で、本当の自分で向き合うべき問題。
でもわからないのだ。
どうしたって、彼女を傷つけないでいられる自信が彼にはなかった。
ーー
「ユイト」
昼休憩の空き教室。
ひとりでいたいと伝えたけど、ひとりにはさせてくれなかったミユ。
「ミユちゃん」
「やっぱり、フィオナ様と何かあったんだよね」
「うん」
ほんとに彼女には敵わない。
「ねえミユちゃん。おれはレイくんじゃない」
「そうね」
「フィオナちゃんに言うよ。おれ、謝らなきゃいけないんだ、きっと、ほんとのおれとして、ユイトとして」
そう、それしかないとユイトは結論した。
「ユイト」
「ミ」
また、永遠のような一瞬。
ただ唇が触れてるだけのキス。
それでも、大切な瞬間。
「フィオナ様との間に何があったのかは知らないけど」
きっとほんとは数秒も経たない内に、ほんとに一瞬で顔を離したミユ。
「おまじない。きっと上手くいくように」
「ミユちゃん」
「いいの、何も言わないで。深い意味はないから」
とてつもなく早口。
「この件に関しても、もう触れないで。それがわたしのためよ。いい」
「う、うん。わかった」
あまりに強く、言いくるめられる、やはり情けない少年。
「それじゃ、また後で」
そして、その場を後にしたミユ。
「ちょっと、落ち着かないと」
とりあえずは、爆発してしまいそうな胸を落ち着けようと、休憩時間の残りは精神統一して過ごすユイトだった。
ーー
そして午後。
同性同士のコンビを組んで行う事になった模擬戦。
組み合わせは、クジでなく自由なので、ガーディに声をかけようとした偽物レイだったが、先に意外な人物から誘いがかかった。
「サギ王子」
隣の席のネージ。
「おれと組まない?」
「あ、ああ」
別に断る理由もないし、承諾する。
ーー
「サギ王子じゃないんだよな?」
模擬戦前の作戦会議で、ふたりだけとなるや、すぐさま核心をついてきたネージ。
「うん、そうだよ」
事前に、ネージらに疑われたならもう認めていいと、レイたちにも言われているので、あっさり認めるユイト。
「その、言わないでいてくれると」
「ああ、言わない。本物に来てほしくないし」
予想通りのパターン。
「それより、ごめん。サギ王子だと思ってたとはいえさ、かなり嫌な態度とってたろ」
「いや、別にそれは、しょうがないよ」
「再創造、て特殊技能なんだろ? ほんとはさ」
「そこまでわかってるの?」
さすがに驚かされたユイト。
「アルーゼがさ、戦いかたでわかるんだって。結構凄いよな」
「それは凄い」
「前さ」
少し恥ずかしげに、ネージは続ける。
「チーム戦、面白かったよ。それよりも後、戦った時も。また今度戦ってよ。今度は本気で戦いたい」
「うん」
嬉しそうにユイトも頷く。
「地上世界の出身なの?」
「アルケリ島てところなんだけど」
「ちょっと興味あるんだ。聞かせてよ」
「うん」
そうして結局、作戦会議なんてほとんどしないで、ただふたりはいろいろ話し、ただ普通に仲良くなった。
ーー
フィオナはリリエッタと組んでいた。
ふたりも、ちゃんと作戦会議なんてしてたのは途中まで。
「何か悩み事?」
そうだと気づき、問うリリエッタ。
「ちょっと、けど」
それを言うべきか、フィオナは迷う。
「レイ、あいつ、変わったよね」
意を決して彼女は言う。
「なんだか、昔と別人みたいに」
そうじゃないと感じた瞬間もあった。
前にクロ姫から助けてもらった時に、ユイト、新しい従者である彼を紹介された時。その時は、そんなに昔と違うような気がしなかった。だからなんだかおかしくて笑いもした。
「そうだね。まるで別人みたいにね」
学園に通う彼が、実はユイトである事をもう知っているリリエッタ。
「ねえ、リリエッタ。ちょっと、聞いてほしい」
いろいろ、今の気持ちを話すには勇気がいるけど、フィオナにはそれがあった。
「わかった」
リリエッタも頷く。
「わたしね、やっぱり何にも変わってないよ、成長してない」
少し体を震わせる。
「バカみたいに、まだ恋に恋してるみたい」
でもそれがほんとの彼女だった。
箱入りで、少女向けのフィクションでしか異性を知らなくて。
いつか自分も、たったひとりの運命の相手を好きになりたいと本気で思っていた。素敵な王子様みたいな相手と恋に落ちたいと願っていた。
「あいつ、悪い奴じゃない、そんなのわかってる。けど、遊び人だし」
声も震えそうになるけど、必死でそれは抑えた。
「ねえリリエッタ。どうしよう。わたしは、きっと、あの人に牽かれてるんだ。でもこわいよ。傷つくのがこわいの」
「フィオナ」
いつ以来か、弱音を見せてくれた親友の手に、優しく自分の手を重ねたリリエッタ。
「大丈夫よ。フィオナ」
そして優しい声で続ける。
「大丈夫なんだよ。あなたはもうなにも知らなかった女の子じゃない。今のあなたの見る目は確かよ」
いくつか、リリエッタは、自分が見てきたユイトの事を思い出していた。
少しばかりリリエッタが迫る演技をしただけで、余裕なく取り乱していた彼。フィオナを守るために、化け物じみた強さを見せた彼。
それにフィオナだけじゃない。
あのミユも、誰よりサギ王子の身近にいて、もう自分の恋なんて諦めていたような彼女だって、惹かれてしまってるほどに、彼は誠実で、前向きで、優しい。
「リリエッタ」
「ねえ、今度、彼と話す時ね。こう聞いてあげな」
それはきっと、フィオナにとっては素敵な魔法になる問いかけ。
「あなたは誰? てさ」
ガーディは、屋上にいたユイトらとエミィに気まずそうに謝った。
「悪かったな」
結果的に偽者のエマに騙されてしまった事。アイテレーゼのカナメへの知らせが遅れていたら、相当にやばかったろう事に関して、非常に気にしていたガーディ。
「まぬけな事に騙されちまって」
「いや、彼女に気づけなかったのはわたしたちも同じだよ」とエミィ。
「うん、アイちゃんも言ってたよ。身内でも騙されそうなくらいって」
ユイトも言う。
「そう言ってくれるのはありがたいが。いや、気にしすぎもよくないな」
とりあえずは気持ちを切り替えたようなガーディ。
「はい、結局リンリー様とゲオルグ様の素性は謎のままですし」
「それだよね」
ミユの言葉に、エミィも改めて気を引き締める。
そう、結局、経歴偽装している一年生ふたりの正体に関しては謎のまま。
「アイテレーゼは、ふたりの素性を知ってるって言ってたんだよな?」
「うん」
ガーディの問いに、すぐ頷くユイト。
「それでアーク・ヴィルゲズが雇うような人たちではないって」
「そうか」
しかし、それで何か考え込むような仕草のガーディ。
「何か気になるの?」
尋ねるエミィ。
「なんとなくな。何かひっかかる」
しかしガーディがその答を得る前に、休憩時間は終わった。
そして特に何事もなく、ガーディも結局何が気になるのかについてもう話しもせず、また数週間ほどが過ぎた。
ーー
「レイ」
「あっ、フィオナ、リリエッタも」
珍しく登校時に、教室前で会った、今はわりと普通に喋ったりもするフィオナたちふたり。
最初の頃に比べたら、とんでもない進歩である。
「レイ」
先に教室に入って行ったフィオナたちを見て、少しうわの空な様子だった偽物レイのユイトに、今度はミユが声をかける。
「ああ、悪い、ちょっとぼんやりしてた」
あのキスの後。
ガーディが伝えてきたオリヴィアの件や、アイテレーゼからの通信。偽物エマなど、様々な事があって、それどころでなく、悩んだりする暇もなかった。
(「笑ったりしないでよ、初めてなんだから」
「大事なものなんだからね。とっても大事な瞬間なんだからね」)
今では、自分の妄想だったのではないか、とさえ思えるほど、現実味のない出来事に思えた。
しかし、言わなくていいのだろうか。
あのキスは、自分でなくレイへのものだったのではないだろうか。自分は偽者として謝るべきなのではないだろうか。
それは彼にはあまりに難題だった。
でもレイやミユに頼ってはいけない気がした。きっとこれは自分で、本当の自分で向き合うべき問題。
でもわからないのだ。
どうしたって、彼女を傷つけないでいられる自信が彼にはなかった。
ーー
「ユイト」
昼休憩の空き教室。
ひとりでいたいと伝えたけど、ひとりにはさせてくれなかったミユ。
「ミユちゃん」
「やっぱり、フィオナ様と何かあったんだよね」
「うん」
ほんとに彼女には敵わない。
「ねえミユちゃん。おれはレイくんじゃない」
「そうね」
「フィオナちゃんに言うよ。おれ、謝らなきゃいけないんだ、きっと、ほんとのおれとして、ユイトとして」
そう、それしかないとユイトは結論した。
「ユイト」
「ミ」
また、永遠のような一瞬。
ただ唇が触れてるだけのキス。
それでも、大切な瞬間。
「フィオナ様との間に何があったのかは知らないけど」
きっとほんとは数秒も経たない内に、ほんとに一瞬で顔を離したミユ。
「おまじない。きっと上手くいくように」
「ミユちゃん」
「いいの、何も言わないで。深い意味はないから」
とてつもなく早口。
「この件に関しても、もう触れないで。それがわたしのためよ。いい」
「う、うん。わかった」
あまりに強く、言いくるめられる、やはり情けない少年。
「それじゃ、また後で」
そして、その場を後にしたミユ。
「ちょっと、落ち着かないと」
とりあえずは、爆発してしまいそうな胸を落ち着けようと、休憩時間の残りは精神統一して過ごすユイトだった。
ーー
そして午後。
同性同士のコンビを組んで行う事になった模擬戦。
組み合わせは、クジでなく自由なので、ガーディに声をかけようとした偽物レイだったが、先に意外な人物から誘いがかかった。
「サギ王子」
隣の席のネージ。
「おれと組まない?」
「あ、ああ」
別に断る理由もないし、承諾する。
ーー
「サギ王子じゃないんだよな?」
模擬戦前の作戦会議で、ふたりだけとなるや、すぐさま核心をついてきたネージ。
「うん、そうだよ」
事前に、ネージらに疑われたならもう認めていいと、レイたちにも言われているので、あっさり認めるユイト。
「その、言わないでいてくれると」
「ああ、言わない。本物に来てほしくないし」
予想通りのパターン。
「それより、ごめん。サギ王子だと思ってたとはいえさ、かなり嫌な態度とってたろ」
「いや、別にそれは、しょうがないよ」
「再創造、て特殊技能なんだろ? ほんとはさ」
「そこまでわかってるの?」
さすがに驚かされたユイト。
「アルーゼがさ、戦いかたでわかるんだって。結構凄いよな」
「それは凄い」
「前さ」
少し恥ずかしげに、ネージは続ける。
「チーム戦、面白かったよ。それよりも後、戦った時も。また今度戦ってよ。今度は本気で戦いたい」
「うん」
嬉しそうにユイトも頷く。
「地上世界の出身なの?」
「アルケリ島てところなんだけど」
「ちょっと興味あるんだ。聞かせてよ」
「うん」
そうして結局、作戦会議なんてほとんどしないで、ただふたりはいろいろ話し、ただ普通に仲良くなった。
ーー
フィオナはリリエッタと組んでいた。
ふたりも、ちゃんと作戦会議なんてしてたのは途中まで。
「何か悩み事?」
そうだと気づき、問うリリエッタ。
「ちょっと、けど」
それを言うべきか、フィオナは迷う。
「レイ、あいつ、変わったよね」
意を決して彼女は言う。
「なんだか、昔と別人みたいに」
そうじゃないと感じた瞬間もあった。
前にクロ姫から助けてもらった時に、ユイト、新しい従者である彼を紹介された時。その時は、そんなに昔と違うような気がしなかった。だからなんだかおかしくて笑いもした。
「そうだね。まるで別人みたいにね」
学園に通う彼が、実はユイトである事をもう知っているリリエッタ。
「ねえ、リリエッタ。ちょっと、聞いてほしい」
いろいろ、今の気持ちを話すには勇気がいるけど、フィオナにはそれがあった。
「わかった」
リリエッタも頷く。
「わたしね、やっぱり何にも変わってないよ、成長してない」
少し体を震わせる。
「バカみたいに、まだ恋に恋してるみたい」
でもそれがほんとの彼女だった。
箱入りで、少女向けのフィクションでしか異性を知らなくて。
いつか自分も、たったひとりの運命の相手を好きになりたいと本気で思っていた。素敵な王子様みたいな相手と恋に落ちたいと願っていた。
「あいつ、悪い奴じゃない、そんなのわかってる。けど、遊び人だし」
声も震えそうになるけど、必死でそれは抑えた。
「ねえリリエッタ。どうしよう。わたしは、きっと、あの人に牽かれてるんだ。でもこわいよ。傷つくのがこわいの」
「フィオナ」
いつ以来か、弱音を見せてくれた親友の手に、優しく自分の手を重ねたリリエッタ。
「大丈夫よ。フィオナ」
そして優しい声で続ける。
「大丈夫なんだよ。あなたはもうなにも知らなかった女の子じゃない。今のあなたの見る目は確かよ」
いくつか、リリエッタは、自分が見てきたユイトの事を思い出していた。
少しばかりリリエッタが迫る演技をしただけで、余裕なく取り乱していた彼。フィオナを守るために、化け物じみた強さを見せた彼。
それにフィオナだけじゃない。
あのミユも、誰よりサギ王子の身近にいて、もう自分の恋なんて諦めていたような彼女だって、惹かれてしまってるほどに、彼は誠実で、前向きで、優しい。
「リリエッタ」
「ねえ、今度、彼と話す時ね。こう聞いてあげな」
それはきっと、フィオナにとっては素敵な魔法になる問いかけ。
「あなたは誰? てさ」
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