ロキは最強に飽きている

月極典

文字の大きさ
1 / 31
第一話

王城の地下三階は至高のフロアなり

しおりを挟む

「ロキ様……起きて下さい」
 
 銀髪をポニーテールで纏めたエルフの女性が、男が眠るベッドを見下ろしている。
 その女性の格好と口調から、寝ている男の執事の様である。スカートでないのは有事の際に戦い難いからだ。
 
「ロキ様、女王がお呼びになっています」
 
 男からの返事は、無い。
「5……4……3……」
「言っておきますが、これは私が実家に帰るまでのカウントダウンです……エルフの里がまだ無事なら、の話ですが」
 
 エルフの執事はそう言ってカウントを続けた。
「2……1」
「はい!起きたぁ!おっきしましたよぉ~」
 
 男がやっと上半身を起こしたが目は瞑ったままだ。

 黒いモコモコのパジャマに身を包んだ体をだらしなく前に突っ伏してロキと呼ばれた男が文句を言う。
 
「その目覚まし替わりの実家に帰るカウントダウンやめてくれないかなぁ、アイちゃん」

「あとまだ無事ならって何?エルフの里に何かあったん?」
 
 アイちゃんと呼ばれたエルフの執事、アイーシャが答える。
「はい、女王に謁見し王城のぐるりを見れば、今何が起きているかわかるはずです」
 
(え、今教えてくれたら良いじゃん、わざわざ俺が出向く必要ある?眠いのに!)と言おうとして止めた。

 アイーシャは無駄に手順を省かない。彼女が言うからには謁見する必要があるし、王城の様子を見る必要があるのだ。それに現時点で悪そうな彼女の機嫌を逆撫でするのは悪手だ。
 
「へいへい、行きますよ、謁見の間に」
 
 ロキはベッドから抜け出してモコモコのスリッパを履き、アイーシャの両肩に手を置き続けて言った。
「それにアイちゃんの実家の危機とあっては、このロキ、動かない訳にいかないからね!」
 
「ロキ様……目がまだ開いてないですよ……」
 アイーシャはそう言って両肩に置かれた手を静かに払った。

 2人はロキの寝室から出て長い廊下に出て歩き出した。

 ここは王城の地下三階にあるロキ専用のフロアだ。元々温泉が噴出する土地に築かれた城である為、専用の浴場は源泉掛け流しが可能な湯量を誇っている。他に、30mダッシュも可能なトレーニングルーム、ロキが勝手に作ったミニシアタールームもあり、彼は現在一日の大半を此処で過ごしている。
 
「また朝まで映画やアニメを観ていたのですか?」
 
「今日はアニメね、五百話くらいあるやつ。続きが気になって中々止められないんだよなぁ……まだ半分も観てないからこれから楽しみなんよなぁ」
 
 ロキは楽しそうに語っているが、アイーシャの表情は暗かった。
「明日も続きが観られると良いですが……」
 
「ん、何か言った?」
 
「いえ、ところでロキ様」
 
 前を歩いていたアイーシャが向き直って言った。
「これから女王に謁見するのにパジャマのままですか?」
 
「良いだろう、俺は別に家臣って訳じゃない。それにさっきから女王と言ってるが、あの王はどうした?白髭イケオジ風の」
 
「王様は先週、逝去なされました。どうやら何者かに毒殺された様です……」
 
「ふむ、死んだかアイツ……ふーん、毒殺ねぇ……で、王女がそのまま即位した訳だ。しかし、惜しい男を無くしたな、話のわかる豪放磊落な人物だったが……」
 
「そうです、このフロアも先代王が好きに使えと言って下さったからこそ、ロキ様がぐーたら出来るのですよ?家臣でなくとも、恩義のある王家に対して最低限の礼儀はあって然るべきです」
 
 ぐうの音も出ない正論だ。ロキが指をパチンと弾くと、パジャマ姿から黒地に銀糸のキルティングが施されたギャンべゾンに黒のタイツ、足元も黒いハーフブーツという姿に変わった。非常時の騎士としては許される格好だろう。
 
 190cmを優に超える体躯は先程までフラフラと歩いていた人物とは思えないほど背筋が伸び、所々に見える筋肉は大きくはないが引き締まってしなやかそうに見える。深いワインレッドの髪は整えられ漆黒の衣装に映えて美しい。
 
「これでよろしいでしょうか、アイーシャ様」
「よろしい」
 アイーシャは僅かに微笑んでまた歩き始めた。

 謁見の間に到着し、ロキは手も触れずに豪奢な重い扉を開いた。
 
「おっはよーございまーす!これはこれは皆さんお揃いで、王城の危機にもかかわらず雁首揃えて一番安全なこの部屋で保身の算段中ですかな?」
 
 部屋に居並ぶ有力貴族、女王を守る近衛兵団全ての視線がロキに集まったが、その中に不快とは別の殺意が含まれている事を察して、ニヤリとした。
 
 近衛兵団の内、一番年嵩で立派な髭を湛えた巨躯の男が反応する。
「控えろロキ!今この場において無礼な振る舞いはこの近衛兵団長ゴルゴリーが許さんぞ!」
 
「うるせぇ、爺さん。まだ外の様子は見てねぇが、どうせ魔族が王城に攻めてきたとか、そんなとこだろ?そんな修羅場に戦える近衛のお前らが何十人と安全な部屋に閉じ籠りやがって。女王の周りなんざ二、三人残して残りはさっさと表に出て戦って死んでこい!」
 
「何を言うか、もしこの王城が落ちる事があれば、大陸パンゲアから人類が壊滅するのだ!女王陛下だけでも生き延びてもらわねば、この大陸において人類の再起は叶わぬ……その逃走路において我らは殿を務めねばならぬ……」
 
「だまらっしゃい!!!」
 ロキは一喝した。この台詞を一回使って見たかった彼は内心満足していた。(やっと言えたぜ、気持ちよ~)
 
「半年前、魔族の巣食う城、砦、ダンジョン、果ては小さな洞穴まで、虱潰しに潰滅させ、最後に残った魔王を第三形態までフルボッコにしてやったのになんなんだこの有り様は?僅か半年だぞ?何しとったの、人類様は?」
 
「……」
 ゴルゴリーは言葉も無かった。
 
「こんなに弱い人類は滅んで当たり前だろう、この世は弱肉強食ってこの星が生まれてこのかた相場は決まってんだ!だいたい女王と愉快な仲間達数人が逃げて生き残ってどうすんの?一から繁殖始めようってか?弱い生き物は数が命だろうが!」
 
 ずっと俯いていた女王が顔を上げた。齢十七にして人類の最後の希望に意図せず就いた少女の顔は先程まで泣いていたかの様に赤くなっている。
 
「ロ、ロォキ~……」
 力無く名前を呼ぶ姿は、最初に会った頃のお転婆ぶりが見る影も無い。
 
 ロキの肩を後ろからアイーシャがトントンと叩いて小声で言った。
「ロキ様、その辺で。それ以上言ったら今日寝ているロキ様のお口を縫合しますよ?」
 
 アイーシャはエルフ里長の娘で、里最強の魔剣士でもあり、体術にも長けている。
 (アイちゃんなら、マジでやりかねん)
 
「まぁ此処に来て大体状況はわかった。どうするかは城のぐるりを見て考えようか」
 ロキは周りを一瞥し、踵を返しアイーシャを連れて謁見の間を出た。

「アイちゃん、俺が挑発した時怒りの反応を示した者は何人いたかわかった?」
 
「近衛兵団及び貴族の約半数ですね、それ以外は表情ひとつ変えないか、僅かに笑みを浮かべていた阿呆もいました」
 
「まぁそーゆー事、まずは主塔に登って状況を確認しようか」
 
「ロキ様は王城を守るおつもりでしょうか?」
「守るさ、ここの地下三階は我が至高のフロアだからな。魔族と混浴なんて考えられんし、アイツら喋る時に涎をダラダラ垂らすだろ?床掃除が大変だ」
「うふふ、確かにそうですね……」
 (よし、ウケた!)ロキ、心中で渾身のガッツポーズ!
 
 そして彼らは主塔を登った。登る間に小窓から遠くに見える城壁の外側の状況が目に入りつつあった……。見えたのは北側だが、地平線の向こうまで土煙りが上がっていた。

 (おいおい、一体何十万の軍勢で攻めて来やがったんだ?)
 ロキは全体を見渡すまでもなく想像出来る最悪の有り様を思い浮かべ呟いた。
 
「超めんどくさぁ~……」
 
 
 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...