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第四話
これが聖大樹の慈愛なり
しおりを挟む二人が結界の中に入ると目の前に大きな集落が現れた。
いや、集落というより街と言った方が良い規模である。道は煉瓦で整備され、道の両側やその奥には木々と共存する様に蔦に覆われた煉瓦造りの家々が並んでいた。
街の中央辺りに他を圧倒する巨木が聳えていた。
東西南北満遍なく豊かな枝葉を広げるその姿は初めて見る者にも思わず跪き祈りを捧げたくなる様な神聖さがある。
「あれが聖大樹様……」
ロキが思わず呟いた。これは、理屈ではなく直接魂に届く慈愛だ。理由も無く優しく抱きしめる母親と抱きしめられる幼子の間に染み込んでくる暖かさ、が近いだろうか。
立ちすくむロキの手をアイーシャが優しく引いた。
「さぁロキ殿、里長の居館は聖大樹様の向こうです。参りましょう」
「あ、あぁ……。しかし、見事な大樹だ……。俺は……樹木を見てこんなに感動したのは初めてだ」
アイーシャはロキの声が少しだけ震えているのを感じて、彼の方を敢えて見ずに歩き続けた。
聖大樹に近づくと根元に大きなウロが見えた。
「私たちエルフは子供を生みません。年頃になるとあのウロに三日三晩入ります。その後、約一年たった頃幼子の実がなるのです」
「という事は聖大樹様は君たちの父親みたいなものだな?」
「うーん、父であり母ですね、母親が二人いる様な感じです」
(エルフとは生物より、精霊に近い存在なのだな)
ロキはエルフの民特有の生誕の仕組みに感心しながら納得した。
手を引かれ歩く彼は、周りの店先や通りすがりのエルフがアイーシャに深く頭を下げたり、自分を見て目を丸くして驚いているのに気づいた。
「なぁアイーシャ、君ってもしかしてお偉いさん?」
「偉くはないですが、私は里長の娘です」
ロキは思わず手を離した。
「あら?何故手を離すのですか?」
「だって、ほら、まずいだろう、俺みたいな異物の男が里長の娘の手を握って街を闊歩しちゃ。なんか睨んでたのもいたし」
「へぇ、そういう常識はあるんですね、ふふ」
アイーシャは楽しそうに笑った。
「さぁ着きましたよ、ここが里長の居舘。そして我が家です」
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