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第2章
新たな仲間を求めて…
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わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、クエストの傷を癒すために就寝をした後である。
─────────────────────
「ねぇトータさん、私に何か言うことは?」
朝、目覚めた俺に対して、テントの中で対面しているエレナから何らかの催促があった。
エレナ曰く、俺が意識を失ってからの3日間、俺のことを付きっ切りで看病してくれていたらしい。
らしい…というのは、実際に俺は見ていないからである。
当然、その間は外壁修理も参加することはできなかった。
外壁修理の休日は2日間だったので、普通にドタキャンである。
方々に、かなり迷惑をかけてしまったようだ。
その迷惑も、どうやらエレナが何とかしてくれた…という話の内容であった。
ただ、その話をテントに挨拶に来たケインやエイベルに振ると、何故か目を逸らして離れて行った。
なので、本当にエレナが俺を看病して親方達と話を付けてくれたのかは疑っている。
そして、きっとエレナは自分のことを褒めてほしいのだろうと直感はしたのが、そういうこともあってどうも素直に言えなくなってしまう。
というか、言いたくなくなってしまう。
いや、お礼を言いたくないそれ以外の理由もわかっているのだ。
この自称女神に、ドヤ顔をされて見下されるのが単純に腹が立つからである。
たとえ、それが命の恩人であったとしてもだ。
「アリガトウゴザイマス。
エレナサマ…。」
「なによ、そのヤル気のない返事は。
いいんですかー?
この偉大で崇高な私にそんな態度で?
誰のおかげで助かったと思っているんですかー?
思って、いるんですかーー?」
顔を俺の鼻先1ミリ付近まで近づけて挑発してくる。
普通なら、かわいい女子にここまで顔を近づけられるとうれしいものなのだが、エレナの場合はそのまま脳天に頭突きを食らわしたくなる。
まぁでも、今回ばかりは本当に助かった。
さすがに、何も言わないのは人として良くない。
そもそも俺は、そういう人間になりたくないから諸々への復讐を誓ったのだ。
奴らと違うのだと。
理不尽に抗うのだと。
俺はきちんと姿勢を正し、頭を下げた。
「エレナ、本当にありがとう。
おかげで助かりました。」
「…え!?あ、いや……うん。
…無事でよかった。」
何故か照れ始めるエレナ様。
本当によくわからん情緒である。
この自称女神様は、もしかして天界で褒められたことやお礼を言われたことなど無かったのではないだろうか。
下界でのこの素行の悪さを見ていると、何だか天界での悪行も見えてくる気がする。
まるで、構ってほしいのに構ってくれないから暴れているガキ大将である。
「それにしても、あのゲロは酷いぞ。
先に言っといてくれよ。
おかげでメチャクチャ飲んじゃったじゃねーか。」
「仕方ないじゃない。
私もテンパってて、アレしか思いつかなかったのだもの。」
「アレってどういう仕組みなんだ?魔法なのか?
何でお前のゲロで俺の身体が治るんだよ。」
というか、アレが魔法だとすると俺は天界の神々を心の底から嫌悪する。
人間を何だと思っているのか。
「魔法っていうか、神様の身体は神聖だから。特別。
ゲロとかじゃなくて体液そのものに治癒効果と浄化効果があるのよ。
血液でも良いし、涙でも良いし、別にツバでも良いし。
あの時は、トータの腕は切れてたし血も一杯出てたから相当量が必要だと思って。」
どういう身体の仕組みをしているのか…。
ということは、水分を口に含んで相手にかけたら傷とか癒せるのかな。
まるで昭和の悪役プロレスラーである。
でも、確かにエレナの吐しゃ物からは不快な臭いとかは全く無かった。
ついでに味も無かった。
……おぇ。
「それって他の魔法使いとかは出来ないってことか?」
「無理でしょうね。
だって、そんな魔法体系はないもの。」
相変わらず、ぶっ飛んだ性能をしている神様である。
それって、本人からすると自動回復の機能が付いているのと同義なのではないだろうか。
だから、ステータス鑑定の時にも状態異常耐性があるとか言われていたのかも。
おそらく、毒とか体内に入っても自動的に消えるのだろう。
いやしかし…懸念事項もある。
「お前、絶対にそのことは他人に言うなよ?
俺達だけの秘密な。」
「え?なんで?」
「いやいや、お前万が一にでもそんなことをこの異世界の悪い奴らに知られたら、お前の血液や体液を求めて誘拐…そして監禁・拘束されちゃうかもしれないぞ。珍しいんだろ?
一生ずーーーーっとチュウチュウ血液だけを抜かれるだけの存在になっちゃうかもしれないんだぞ。」
「な、なんでそんな怖い事を言うの…?」
危機感らしいものを何一つ持っていなかった自称女神様だが、さすがに効いたらしい。
でも、本当にこの異世界ではそういうことも考えておかなくてはならない。
エレナのためにも。
「だから、それは本当に内緒にしておこう。
わかった?」
勢いよく首を縦に振っているあたり、本当にちゃんと聞いてくれたらしい。
まぁ、そんな悪代官みたいな奴らが近づいてきても、エレナなら光速で彼方へとぶっ飛ばしそうだが。
「それにしても、俺は今回は自分の不甲斐なさに呆れたよ。
本当に何もできなかった。
きっと、なんだかんだ言いながら自分のことを過大評価してたんだろうな。
何とかなるだろうって。それがよくわかったよ。」
「うーん…正直言うと、私もあの手の奴らは二度と戦いたくないわね。
だって、臭すぎて吐き気がしたもの。実際に何度も吐いたし。」
エレナの言うことは全て理解できる。
ケルベロスは、獣臭さが尋常ではなかった。
それに加えて血とヨダレのコンボもあったため、信じられないくらいの悪臭へと昇華していた。
「あれ?でもお前って服とかも綺麗にできるんじゃなかったっけ?
実際に、お前が来てるいつものその服も綺麗じゃん。」
「できるわよ。臭いも汚れも綺麗さっぱり。
でもなんか鼻に臭いが付いてんの。記憶にコビりついてんのよ。
取れたはずなのにプンプンすんの。不快だわ。」
気持ちは痛いほどわかる。
アレから計4日間も経過して、俺も既に身体は綺麗なはずなのにあの臭いを未だに思い出して吐き気がする。
また、もう1つわかったこともある。
いや、気づいたことなのだが…。
「あとさ、お前ってもしかして回復魔法とか使えないんじゃないか?」
そう。
エレナの魔法のことである。
あのピンチで回復魔法を使わず、自らの吐しゃ物で何とかしたと言うことは、実は回復魔法そのものを使えない…もとい知らないんじゃないか?と疑ったわけである。
そして、その疑惑は確信に変わる。
「え、わ…私?そそ、そんなことないわよ!
私はすごいんだから、だって…私は……!!」
「おい、正直に言え。」
目が思いっきり泳いでいた。
なんてウソがヘタクソなやつなのか。
「俺だって、正直に色々と話してるんだぞ。
今更、隠し事は無しにしようぜ。」
「あぅ……あはは。うーん……。」
そのまま、黙ってしまった。
こういう場合、この自称女神様は怒られないように考えを巡らせているだけである。
「あの…怒らない?」
ほら。
そもそも、俺ってそんなにエレナに怒ってたっけ?
いつも暴力的で怒っているのはこの女神の方なのだが。
それとも、人に怒られることにトラウマでもあるのだろうか。
多分、天界で怒られすぎたトラウマとか、そんなしょーもないことだろう。
「怒るわけないだろ。
教えてくれよ。」
「……う、うん。
私ね、ケガとかしたことないから回復魔法とか使ったことないの。
だから覚える意味もないと思って。あはは!!」
予想通りである。
自動回復みたいな機能が付いている神様は、自らを回復する必要がない。
いやもしかしたら、エレナ以外の神様は民や信者を癒すためにそういった魔法を持っているのかもしれないが、エレナにそこまでの慈愛があるとは思えない。
いつも通り、目の前の落とし穴さえ踏み抜いてそのまま空中を闊歩していきそうな奴だからである。
つまり、目の前の問題を問題とすら認識していないのだ。
「浄化魔法と回復魔法って違うのか?
俺はそこらへんの違いからして全く分からんのだが。」
そもそも、ファンタジーに詳しくない俺はそこらへんのカテゴリーやジャンルの違いがまるで理解できない。
魂や肉体を浄化できるのなら、そのまま回復もできるのでは?と考えてしまう。
「全然違うわよ。回復って相手を文字通り癒すものでしょ。
浄化は、別に肉体的なダメージを回復させるものじゃないもの。
精神的な痛みであったり呪いであったり、そういうものを治すもの。
肉体が傷ついていても、穢れを落とす必要がないのなら浄化は意味を成さないから。
確かに、呪いとかでその人の肉体が傷ついている…とかなら治せるけれど。」
説明を聞いても、よくわからない俺。
でもそう考えると、回復と浄化の両方を持ち合わせているエレナの体液って、やっぱりものすごく貴重で凄いことなのだろう。
「うーん…難しいな魔法って。」
正直、こんな理解でケルベロス退治を最初のクエストとして選んだ俺が完全に悪い。
こういうところが、甘くて慢心していたと感じる理由だ。
心の中で何とかなる…と根拠のない自信があった証拠だといえる。
俺が死にかけたのはもちろんだが、エレナだって危なくなる可能性はあったのだ。
それは、これからも同じ。
だからこそ、その対策として簡単なものを俺は1つ思い浮かんだわけである。
「なぁ、エレナ。」
「なに?」
「相談なんだけど、回復をしてくれる人と言うか、魔法を使える人を1人募集しないか?
俺達のパーティに。」
そう。
俺達に足りないのは単純に人数である。
そもそも、これからのクエストをたった2人でやろうとすることが間違いなのだ。
俺達ができないことは、他の人にやってもらえばいい。
昨日の夜、エイベルの話を聞いていてますますその思いは大きくなった。
もう少し、俺達にはこの異世界で頼れる人を増やす必要がある。
何も、俺達2人だけで全てを解決する必要性はないのだ。
「なんで?私なら下界の魔法くらい今からでも簡単に覚えられるわよ。
回復魔法とか超余裕だし。」
少しだけ憮然とした顔になった。
どうやら、俺のエレナへの信頼や信仰心が下がったと思ったらしい。
別に、元々そんなものは持ち合わせていないのだが。
ただ、この反応も予想通りである。
「いや、それはわかってるんだけどそれだとエレナの負担が大きくなるだろ?
絶対に役割分担は必要だよ。
だってエレナが遠慮せずまともに戦えたら、大体の敵なんて余裕なんだから。」
ということにしておく。
「え!?ま、まぁそれはそうね!
私は女神だから!!」
相変わらず、扱いやすくて助かる。
毎回、俺を癒すためにゲロを吐いてもらうわけにはいかないのだ。
エレナは、ハッキリと攻撃特化の魔法やスキルに振り切れている気がする。
それも本人の性格が災いしてか打撃系がほとんどであり、将来的にそういう打撃系の攻撃が効かない連中も出てくるかもしれない。
特にやはり多勢に無勢であり、肝心の俺が足手まといになっているのが本当に良くない。
今回みたいに複数でかかって来られると、俺が1人になった時点で大幅な戦力低下になるのだ。
そういう意味でも、どのみち幅広い魔法を使える人材は不可欠になる。
そういう人が側にいてくれると、今後の俺やエレナの魔法やスキルの幅にも広がりをもたせることができるからである。
回復さえできれば、最悪の場合は俺が囮になってもいい。
「そのかわり、変な奴はイヤよ。
最低でもランク100位以内の人ね。
あと、私への信仰心をきちんと持っている人。」
そんなわけのわからない都合の良い人材なんているわけないだろう。
だいたい、ランク49998位の俺以下の奴などこの街には存在しない。
誰が来ても、それ以下になることはないのだ。
「確か、ギルド内にメンバー募集の掲示板があったよな。
あそこで貼り紙を出しておこう。
ついでに、新しいクエストも探そう。
そろそろ、外壁修理の仕事も終わるだろうしな。」
「絶対に臭いのだけはイヤだからね?
約束だからね?」
俺だって、二度とあんな経験はしたくない。
その反省を活かして、俺達は新しい試みで前へと進むのだ。
…多分。
現在、クエストの傷を癒すために就寝をした後である。
─────────────────────
「ねぇトータさん、私に何か言うことは?」
朝、目覚めた俺に対して、テントの中で対面しているエレナから何らかの催促があった。
エレナ曰く、俺が意識を失ってからの3日間、俺のことを付きっ切りで看病してくれていたらしい。
らしい…というのは、実際に俺は見ていないからである。
当然、その間は外壁修理も参加することはできなかった。
外壁修理の休日は2日間だったので、普通にドタキャンである。
方々に、かなり迷惑をかけてしまったようだ。
その迷惑も、どうやらエレナが何とかしてくれた…という話の内容であった。
ただ、その話をテントに挨拶に来たケインやエイベルに振ると、何故か目を逸らして離れて行った。
なので、本当にエレナが俺を看病して親方達と話を付けてくれたのかは疑っている。
そして、きっとエレナは自分のことを褒めてほしいのだろうと直感はしたのが、そういうこともあってどうも素直に言えなくなってしまう。
というか、言いたくなくなってしまう。
いや、お礼を言いたくないそれ以外の理由もわかっているのだ。
この自称女神に、ドヤ顔をされて見下されるのが単純に腹が立つからである。
たとえ、それが命の恩人であったとしてもだ。
「アリガトウゴザイマス。
エレナサマ…。」
「なによ、そのヤル気のない返事は。
いいんですかー?
この偉大で崇高な私にそんな態度で?
誰のおかげで助かったと思っているんですかー?
思って、いるんですかーー?」
顔を俺の鼻先1ミリ付近まで近づけて挑発してくる。
普通なら、かわいい女子にここまで顔を近づけられるとうれしいものなのだが、エレナの場合はそのまま脳天に頭突きを食らわしたくなる。
まぁでも、今回ばかりは本当に助かった。
さすがに、何も言わないのは人として良くない。
そもそも俺は、そういう人間になりたくないから諸々への復讐を誓ったのだ。
奴らと違うのだと。
理不尽に抗うのだと。
俺はきちんと姿勢を正し、頭を下げた。
「エレナ、本当にありがとう。
おかげで助かりました。」
「…え!?あ、いや……うん。
…無事でよかった。」
何故か照れ始めるエレナ様。
本当によくわからん情緒である。
この自称女神様は、もしかして天界で褒められたことやお礼を言われたことなど無かったのではないだろうか。
下界でのこの素行の悪さを見ていると、何だか天界での悪行も見えてくる気がする。
まるで、構ってほしいのに構ってくれないから暴れているガキ大将である。
「それにしても、あのゲロは酷いぞ。
先に言っといてくれよ。
おかげでメチャクチャ飲んじゃったじゃねーか。」
「仕方ないじゃない。
私もテンパってて、アレしか思いつかなかったのだもの。」
「アレってどういう仕組みなんだ?魔法なのか?
何でお前のゲロで俺の身体が治るんだよ。」
というか、アレが魔法だとすると俺は天界の神々を心の底から嫌悪する。
人間を何だと思っているのか。
「魔法っていうか、神様の身体は神聖だから。特別。
ゲロとかじゃなくて体液そのものに治癒効果と浄化効果があるのよ。
血液でも良いし、涙でも良いし、別にツバでも良いし。
あの時は、トータの腕は切れてたし血も一杯出てたから相当量が必要だと思って。」
どういう身体の仕組みをしているのか…。
ということは、水分を口に含んで相手にかけたら傷とか癒せるのかな。
まるで昭和の悪役プロレスラーである。
でも、確かにエレナの吐しゃ物からは不快な臭いとかは全く無かった。
ついでに味も無かった。
……おぇ。
「それって他の魔法使いとかは出来ないってことか?」
「無理でしょうね。
だって、そんな魔法体系はないもの。」
相変わらず、ぶっ飛んだ性能をしている神様である。
それって、本人からすると自動回復の機能が付いているのと同義なのではないだろうか。
だから、ステータス鑑定の時にも状態異常耐性があるとか言われていたのかも。
おそらく、毒とか体内に入っても自動的に消えるのだろう。
いやしかし…懸念事項もある。
「お前、絶対にそのことは他人に言うなよ?
俺達だけの秘密な。」
「え?なんで?」
「いやいや、お前万が一にでもそんなことをこの異世界の悪い奴らに知られたら、お前の血液や体液を求めて誘拐…そして監禁・拘束されちゃうかもしれないぞ。珍しいんだろ?
一生ずーーーーっとチュウチュウ血液だけを抜かれるだけの存在になっちゃうかもしれないんだぞ。」
「な、なんでそんな怖い事を言うの…?」
危機感らしいものを何一つ持っていなかった自称女神様だが、さすがに効いたらしい。
でも、本当にこの異世界ではそういうことも考えておかなくてはならない。
エレナのためにも。
「だから、それは本当に内緒にしておこう。
わかった?」
勢いよく首を縦に振っているあたり、本当にちゃんと聞いてくれたらしい。
まぁ、そんな悪代官みたいな奴らが近づいてきても、エレナなら光速で彼方へとぶっ飛ばしそうだが。
「それにしても、俺は今回は自分の不甲斐なさに呆れたよ。
本当に何もできなかった。
きっと、なんだかんだ言いながら自分のことを過大評価してたんだろうな。
何とかなるだろうって。それがよくわかったよ。」
「うーん…正直言うと、私もあの手の奴らは二度と戦いたくないわね。
だって、臭すぎて吐き気がしたもの。実際に何度も吐いたし。」
エレナの言うことは全て理解できる。
ケルベロスは、獣臭さが尋常ではなかった。
それに加えて血とヨダレのコンボもあったため、信じられないくらいの悪臭へと昇華していた。
「あれ?でもお前って服とかも綺麗にできるんじゃなかったっけ?
実際に、お前が来てるいつものその服も綺麗じゃん。」
「できるわよ。臭いも汚れも綺麗さっぱり。
でもなんか鼻に臭いが付いてんの。記憶にコビりついてんのよ。
取れたはずなのにプンプンすんの。不快だわ。」
気持ちは痛いほどわかる。
アレから計4日間も経過して、俺も既に身体は綺麗なはずなのにあの臭いを未だに思い出して吐き気がする。
また、もう1つわかったこともある。
いや、気づいたことなのだが…。
「あとさ、お前ってもしかして回復魔法とか使えないんじゃないか?」
そう。
エレナの魔法のことである。
あのピンチで回復魔法を使わず、自らの吐しゃ物で何とかしたと言うことは、実は回復魔法そのものを使えない…もとい知らないんじゃないか?と疑ったわけである。
そして、その疑惑は確信に変わる。
「え、わ…私?そそ、そんなことないわよ!
私はすごいんだから、だって…私は……!!」
「おい、正直に言え。」
目が思いっきり泳いでいた。
なんてウソがヘタクソなやつなのか。
「俺だって、正直に色々と話してるんだぞ。
今更、隠し事は無しにしようぜ。」
「あぅ……あはは。うーん……。」
そのまま、黙ってしまった。
こういう場合、この自称女神様は怒られないように考えを巡らせているだけである。
「あの…怒らない?」
ほら。
そもそも、俺ってそんなにエレナに怒ってたっけ?
いつも暴力的で怒っているのはこの女神の方なのだが。
それとも、人に怒られることにトラウマでもあるのだろうか。
多分、天界で怒られすぎたトラウマとか、そんなしょーもないことだろう。
「怒るわけないだろ。
教えてくれよ。」
「……う、うん。
私ね、ケガとかしたことないから回復魔法とか使ったことないの。
だから覚える意味もないと思って。あはは!!」
予想通りである。
自動回復みたいな機能が付いている神様は、自らを回復する必要がない。
いやもしかしたら、エレナ以外の神様は民や信者を癒すためにそういった魔法を持っているのかもしれないが、エレナにそこまでの慈愛があるとは思えない。
いつも通り、目の前の落とし穴さえ踏み抜いてそのまま空中を闊歩していきそうな奴だからである。
つまり、目の前の問題を問題とすら認識していないのだ。
「浄化魔法と回復魔法って違うのか?
俺はそこらへんの違いからして全く分からんのだが。」
そもそも、ファンタジーに詳しくない俺はそこらへんのカテゴリーやジャンルの違いがまるで理解できない。
魂や肉体を浄化できるのなら、そのまま回復もできるのでは?と考えてしまう。
「全然違うわよ。回復って相手を文字通り癒すものでしょ。
浄化は、別に肉体的なダメージを回復させるものじゃないもの。
精神的な痛みであったり呪いであったり、そういうものを治すもの。
肉体が傷ついていても、穢れを落とす必要がないのなら浄化は意味を成さないから。
確かに、呪いとかでその人の肉体が傷ついている…とかなら治せるけれど。」
説明を聞いても、よくわからない俺。
でもそう考えると、回復と浄化の両方を持ち合わせているエレナの体液って、やっぱりものすごく貴重で凄いことなのだろう。
「うーん…難しいな魔法って。」
正直、こんな理解でケルベロス退治を最初のクエストとして選んだ俺が完全に悪い。
こういうところが、甘くて慢心していたと感じる理由だ。
心の中で何とかなる…と根拠のない自信があった証拠だといえる。
俺が死にかけたのはもちろんだが、エレナだって危なくなる可能性はあったのだ。
それは、これからも同じ。
だからこそ、その対策として簡単なものを俺は1つ思い浮かんだわけである。
「なぁ、エレナ。」
「なに?」
「相談なんだけど、回復をしてくれる人と言うか、魔法を使える人を1人募集しないか?
俺達のパーティに。」
そう。
俺達に足りないのは単純に人数である。
そもそも、これからのクエストをたった2人でやろうとすることが間違いなのだ。
俺達ができないことは、他の人にやってもらえばいい。
昨日の夜、エイベルの話を聞いていてますますその思いは大きくなった。
もう少し、俺達にはこの異世界で頼れる人を増やす必要がある。
何も、俺達2人だけで全てを解決する必要性はないのだ。
「なんで?私なら下界の魔法くらい今からでも簡単に覚えられるわよ。
回復魔法とか超余裕だし。」
少しだけ憮然とした顔になった。
どうやら、俺のエレナへの信頼や信仰心が下がったと思ったらしい。
別に、元々そんなものは持ち合わせていないのだが。
ただ、この反応も予想通りである。
「いや、それはわかってるんだけどそれだとエレナの負担が大きくなるだろ?
絶対に役割分担は必要だよ。
だってエレナが遠慮せずまともに戦えたら、大体の敵なんて余裕なんだから。」
ということにしておく。
「え!?ま、まぁそれはそうね!
私は女神だから!!」
相変わらず、扱いやすくて助かる。
毎回、俺を癒すためにゲロを吐いてもらうわけにはいかないのだ。
エレナは、ハッキリと攻撃特化の魔法やスキルに振り切れている気がする。
それも本人の性格が災いしてか打撃系がほとんどであり、将来的にそういう打撃系の攻撃が効かない連中も出てくるかもしれない。
特にやはり多勢に無勢であり、肝心の俺が足手まといになっているのが本当に良くない。
今回みたいに複数でかかって来られると、俺が1人になった時点で大幅な戦力低下になるのだ。
そういう意味でも、どのみち幅広い魔法を使える人材は不可欠になる。
そういう人が側にいてくれると、今後の俺やエレナの魔法やスキルの幅にも広がりをもたせることができるからである。
回復さえできれば、最悪の場合は俺が囮になってもいい。
「そのかわり、変な奴はイヤよ。
最低でもランク100位以内の人ね。
あと、私への信仰心をきちんと持っている人。」
そんなわけのわからない都合の良い人材なんているわけないだろう。
だいたい、ランク49998位の俺以下の奴などこの街には存在しない。
誰が来ても、それ以下になることはないのだ。
「確か、ギルド内にメンバー募集の掲示板があったよな。
あそこで貼り紙を出しておこう。
ついでに、新しいクエストも探そう。
そろそろ、外壁修理の仕事も終わるだろうしな。」
「絶対に臭いのだけはイヤだからね?
約束だからね?」
俺だって、二度とあんな経験はしたくない。
その反省を活かして、俺達は新しい試みで前へと進むのだ。
…多分。
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