俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

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第2章

何が正解かなんて誰も知らない

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わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、新しいメンバー候補のユキノに対してある疑惑が生まれたところである。


─────────────────────


「ん、いや…突然どうしたんだ?
コソコソなんてしてないよユキノ様。」

いきなり話しかけられた俺は、明らかに動揺していた。
努めて冷静にしようと考えての対応だったのだが、全く上手くいかなかったらしい。

しかも、彼女の声には明らかに俺達に対する疑念と怒りが混じっている。

「そういうの好きじゃないです。
言いたいことがあるのなら、ハッキリとおっしゃってください。」

そんなことを言われて、はいそうですか、などと言うほど俺の心は強くない。
何て言い訳をすれば良いのだろうか…。
あなたは不採用です、とこの場で伝えたら報復される気がしてならないのだ。

俺が迷っているのを見かねてか、エレナが横から反応してくれた。
なかなか優しいところもある。

「え?何でユキノは怒ってるの?
あなたが魔族なんじゃないか?って話をしていただけよ。」

「ちょっと待てぇえええええ!!!!!!!!!!」

前言撤回。
コイツにはデリカシーという概念がないらしい。
俺は全力でエレナの口を抑えた。

「お前!!!!マジでフザけんな!!
それ今は絶対に言っちゃいけないことだろ!!!!!!」

何かに気づいたエレナ様は、目を見開いて首を何度も縦に振るのであった。
なぜいつもいつも俺がここまでしないと気が付かないのか。

彼女にとって、自分の出自はおそらくとても大切なことなのだ。
触れられたくないことなのだ。

俺やエレナの諸々の事情と同じように。

「そうですか…やはり知っていましたか。
気づいたのはエレナですよね?」

エレナは、自分の口を両手で塞いで黙っていた。
何という対応の遅さ。

「いや、違うんだよ。詮索するつもりなんて無かったんだ。
エレナは悪くないし、聞いたのは俺の方からなんだよ。
機嫌を損ねたのなら本当にゴメン。
別に、キミの出自とかに文句を言うつもりなんてないから。」

文句を言うつもりはないが、パーティメンバーへのご参加はご遠慮願いたい。
という旨は、絶対に言わないでおこう。
適当に相手が納得できそうな理由を付けて、断るしかない。

幸い、前世の仕事の術を活かしたそういう対応なら慣れている。
俺ならできる。

「それで、私をどうするのですか?
通報するのですか?売るのですか?
殺すのですか?皮をはぐのですか?
どんなエロイことをするのですか?」

「いやいやいや、そんなことするわけないだろ。
ユキノが魔族とか、今の俺達には正直どうでも良い事情だからね。」

こんな怖い子だったっけ…圧が凄い。
あの優しくて大人しくて純情そうだったユキノちゃんはどこへ?

「本当ですか?」

「本当だよ。」

俺は目線をユキノの眉間に合わせて、目を合わせている振りをした。
直接見たら、それだけで脱糞する可能性すらある。

「絶対に?」

「絶対だよ。」

ユキノの真っ赤に燃えるような瞳が、さらに瞳孔が開いて赤黒くなっている気がする。
ヤバイ…超怖い。

「ウソついたら、わかりますよね?」

「うんうん、わかるわかる!」

俺の膝は、生まれたての小鹿のように震えていた。

「……そうですか。
なら信用します。」

「わかってくれて良かったよ。」

俺は、この時点で彼女をメンバーにすることなどありえないと感じていた。
理由は明白で、俺の寿命がいくらあっても足りないからである。

エレナは大丈夫だろうが、俺は彼女の魔力に当てられただけで水蒸気のように蒸発するかもしれない。

「ねぇねぇユキノ。何でそんなに怒るの?
私達、あなたに対して何もしないわよ?
良いじゃない、別に魔族でも。」

エレナが悪気なくまた余計なことを言い出した。
でも、この流れで色々と聞いておくのはありかもしれない。

「それは…その。ゴメンナサイ。
いきなりキツイ態度になってしまって。」

「エレナの言う通りだよ。俺、マジで魔族に偏見とかないから安心してほしい。
知ってると思うけど、そもそも俺って何も覚えてないんだよ。記憶喪失なんだ。
だから、悪いけどキミが何に悩んでいて怒ってるのかわからないんだよ。」

そう。
こういう時に役に立つのが、俺の記憶喪失の設定である。
実際に、俺はこの異世界の住民ではないので何も知らないのは事実。

つまり、自然と彼女の事情を聞けるはずだ。

「そういえば、トータは忘却さんだったのですよね。
それなら確かに心配することは無さそうです。」

「そうよ。この人何にも知らないんだから。
私、一緒にいて恥ずかしいもの。」

コイツにだけは絶対に言われたくない。
どの立場で言っているのか。

「じゃあ、1つだけ訂正しても良いですか?」

訂正?

「全然いいよ。それこそ、ハッキリ言ってくれた方がわかりやすい。」

「はい。では、お言葉に甘えて…。
私は、厳密に言うと完全な魔族ではありません。
ハーフです。」

「ハーフ?それって、人間と魔族の子どもってこと?」

ユキノは頷いた。
つまり、この異世界には異種族間の交流があるらしい。

「母が魔族、父が人間です。」

「じゃあ、この世界の人間と魔族って遺恨とかないのか?
なんか昔は大規模な戦争があったって聞いたんだけど。」

ついさっきな。
情報源はエレナである。

「……トータは不思議なことを聞きますね。
驚きました。本当に記憶がないのですね。」

どうやら、俺の質問はこの異世界では奇怪なものだったらしい。
なんだか、そう言われるとどこまで突っ込んで良いのかわからなくなる。

というか、今まで俺が記憶がないことを疑っていたのだろうか…。

「魔族は人間から恨まれていますよ。常識中の常識です。
この世界の誰もが知っています。

かつて魔族の頂点であった魔王は、人類領土の約97%を制圧しました。
その遺恨は今でも残っています。
特に、学校や教会では絶対に習うことです。」

「きゅきゅきゅ、97%………!!!?」

そういや、そんなこと上司が言ってたかも…とエレナが漏らしていた。
この自称女神は、悉く大切なことを忘れているらしい。

それにしても、その魔王とかいう存在は正真正銘のバケモノじゃないか…。
どうやってそんな宇宙レベルの怪物から、人類は領土を奪い返したんだ?

「その時代から、魔族は人間から忌み嫌われていると言われています。
だから、ハーフである私も魔族の血を引いているというだけでボロカスに言われるのです。」

気の毒ではあるが、人間側の気持ちもわかる気がする。
歴史的なトラウマ…なんてレベルではない。

かつて地球を制圧した恐竜のように、突然襲来した何者かによって絶滅の危機に陥れられたのだから。
おそらく、生物的な本能や危機回避の部分でこの異世界の人達は拒否反応が出るのだろう。

また、魔族に人類の生存が脅かされる、と。

「でも、それは誤解なのです。
少なくとも、種族として魔族が人類を滅ぼそうとした歴史なんて無かった…と思います。」

さすがに、言っている意味がわからなかった。
実際に97%もの領土を奪われたという歴史があるのだろうから。

「何でそんなことが言えるんだ?」

「簡単です。魔族には口伝の教えがあるからです。
人類にそのようなことはしていない、と。」

まぁ確かに、97%は衝撃的な数字である。
人類の生活圏ほぼ全てだ。

歴史の勝者側が盛っている…と言われたらその通りなのかもしれない。

「うーん…私にはよくわかんないわ。
今はどっちでも良いじゃないそんなこと。
だって、私はユキノのこと好きよ。」

「あ…うん。はい。
その…うれしいです。」

どっちでも良くない気がする。
でも良い雰囲気なので俺は黙っていた。

実際にユキノは、恥ずかしそうに俯いていた。
エレナのこういうところは、素直に素晴らしいと思う。

俺には、こんな臭いセリフは一生かかっても言えない。
恥ずかしげもなく言えるのだから、その言葉には信用性があるし、そういう言葉に救われる人も多いのだろう。

しかしこの女神は、なぜ俺にはこういう優しい言葉をかけないのだろうか。

「信用してもらえないかもしれませんが、簡潔に言うと私の…私達のような存在がその証明です。
人間と魔族が相容れないのならば、私は生まれていないはずですから。
もちろん、私もエレナやトータには恨みなんてありません。
絶対に。」

まぁ確かにそれはその通りなのかもしれないが…。
だいたい、俺達はこれが初対面だし。

でも、世の中には変わり者も相当程度存在する。

人間ですら、ダメと言われている人間を好きになっちゃう人はいるのだ。
ヤンキーとか犯罪者とか。

あと、俺達「には」って何だ?
他の人達には恨みがあるって言いたいのか?

「でも、魔王って大軍勢を率いて人類を滅ぼしに来たんじゃないのか?」

「いや、その話も間違っています。それが矛盾しているのです。
そもそも、魔族の数は最初から希少ですから。これは昔も今も変わっていません。
少数民族で、軍勢を率いることなど出来なかったはずです。
今の人類ですら、こういう魔族側の事情は把握していません。」

そう言われると何だかイメージが違ってくる。
魔王なる存在が、少数を引き連れて滅ぼしにきたのだろうか?

それはそれで、そんなほぼ単騎で人類全員を蹂躙した相手に勝てた人間など、この世に存在していたとは到底思えないのだが…。

「あら?そうなの?
それは私も知らなかったわ。
昔からそうだったのね。」

相変わらず、いい加減な自称女神様である。
まぁ、自分で与えたチートスキルや目的すら覚えていないくらいだから。

「でも、そういう事情があるのならユキノが素性を隠したがっていた理由がわかったよ。
ゴメンな。気づいてあげられなくて。」

「いえ…黙っていた私が悪いのです。
忘却さんのトータに気づけ…というのは私の横暴だと思います。
本当にすみませんでした。」

これ以上の詮索は、本当に意味がないと感じた。
なぜなら、俺には彼女の言い分も人類側の言い分も、判断するには材料が足らなさすぎるからである。

俺は、何かを言える立場にはないし、正解を出せる立場でもない。

ただ、こう見ると素直で本当に良い子に見えるんだよなぁ…。
メンバーにいても、やっぱり問題ないのかもしれない。

そう考えた俺の心情を、一瞬で塗り替える出来事が目前にまで迫っていた。
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