俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

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第3章

いつまでも上に立てると思ったら大間違い

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わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、長々と根掘り葉掘りアニムスから情報を聞き出しているところである。


─────────────────────


「…我慢できないので、私からも質問して良いですか?」

ユキノが、アニムスを睨みつけるように言葉を発した。
完全に殺意が満ち溢れているような感じなのが、恐ろしいのだが…。

「えっと、じゃあアニムス応えてあげてくれる?」

「……了解しました。」

どうやら、コッチも気にくわないらしい。
無表情だが、明らかに『コイツとは会話したくない』という雰囲気が出ている。

表情は動かないのに、何とも感情豊かなキカイである。

「前提として聞きたいのですが、アニムス…お前はどういう立場だったのですか?」

ユキノが、そう切り出した。

「…言っている意味がわからないのであります。」

うん、俺もわからない。
ユキノは何が言いたいのだろう?

「だから、お前は誰の味方だったのか?って話ですよ。
ヒトですか?魔族ですか?
500年前とか言ってますけど、話を聞いている限り、これって”先の大戦”の時代の話ですよね。
お前は、どっちの陣営で戦っていたのですか?」

……。
あれ。

言われてみれば、そうだ。
なんか、500年前と先の大戦の関連性を俺は普通にスルーしていたけど。
そう考えないと、時系列がメチャクチャになってしまう。

少なくとも、カターユが言うには500年ほど前からこの館の下で彼女は寝ていたらしい。
この場合、アニムスが先の大戦前に生まれたのなら、それは500年以上も昔の話ということになる。
そう考えると、当たり前だけどこの500年間の間に実はアニムスが生まれていた…という可能性も無くなる。

これは簡単な理由で、そう考えないとアニムスは人類領土の97%が侵略される大戦争の最中、悠長に人間に管理されて眠っていたことになるからだ。
こんな圧倒的な矛盾は、ありえない。

だから、自然発生的な流れとして先の大戦は500年前からさらにそれ以前の話ということになる。

問題なのは、誰がその時代にいたか…ということだ。

先の大戦、そしておそらくそれ以前の時代までは魔王なるものが存在していた。
この理由も明白で、そうじゃないと大戦争はそもそも起きなかったからだ。

いま俺達がわかっている歴史的な事案は…
【どうやら人類と魔王率いる魔族が戦ったらしい】
というモノだ。

これは、この異世界の常識中の常識で、天下分け目の関ヶ原の戦いくらいに常識らしい。
だから、その前後の話をおそらくアニムスがしているのであろう…というのはかなり合点がいく。

彼女が眠りについた時代の前後の話を考慮しても、なんだか俺もそんな気がしてきた。

それにしても、先の大戦は数百年前…という曖昧な話だったはずだが、さすがはユキノ…。
この話の流れで、すぐにそんなところに気づくとは。

そういや、ギルドのステータス数値でも知能は極めて高かったんだよな。
癇癪持ちなだけで。

頼もしいけど、絶対に敵に回したくないと改めて思う。

「………。」

アニムスが、また黙っちゃった。
でも、ユキノの言いたいことがわかってきたかもしれない。
これ、もしかしたら凄く重要なことなのでは?

ユキノが、さらに問い詰めていた。

「それも、都合よく忘れましたか?
思い出せませんか?」

「……………。」

何事かを考える…もとい処理しているかのように、アニムスはユキノを見て黙っていた。

「エレナ、トータ。
絶対にコイツの言うことは、信用しちゃダメです。
コイツ、人類目線でモノを言っていますけど、カターユが言う定説とやらを思い出してください。」

カターユの定説…なんか言ってたっけ?
全く思い出せない。

「カターユが言うには、人形…キカイですか?
コイツらは、”魔王によって作られた”と考えられているのですよ。
気にくわないですけど、このメスガキの話が先の大戦の時代なら、その可能性はないとは言えないです。
私は、信じてはいませんが。」

先の大戦。
ここまで、何度か出てきている大事件、大戦争。

人類と魔王率いる魔族が戦った…という話。
人類領土の97%を占領したらしい真性のバケモノを相手に、どうやって人類が巻き返したのか不思議で仕方がないのだが。
この時の話が根底にあるのなら、確かにアニムスの立場は大切な気がする。

───というか、待てよ。

「……あ!
そ、そうか。そういうことか…!」

「はい。
カターユの話が本当なら、コイツはヒトの味方ではありません。
だって、魔王は”人類の敵”だったのですから。」

…そうだった。
俺は大前提を忘れていた。

アニムスが人類に管理されていようが、作り手がわかればどの立場だったかハッキリとわかってしまう。

「結局、コイツはリルと同じように、私達を騙そうとしているだけです。
それに、仮にコイツがヒトの手によって作られたと主張するのなら、その技術や知識が後世に伝わっていないのも明らかにオカシイ。
だって、先の大戦で勝利を収めたのは”ヒト側”なのですよ?
コイツは、眠っていて”その後の歴史”がわからないから、そこらへんを適当に誤魔化しているだけです。」

……そこらへんは、俺も俺なりにずっと考えているんだよなぁ。
過去にスターウォーズもビックリな超古代な文明があったのなら、その片鱗や残骸って絶対に後世に残っているはずだ。

実際に、この異世界ではギルドによるクエストが充実しているから、ダンジョンや鉱山等々に対する発掘や採掘作業も、すごく発達している。
500年前の文明の残骸が土の中に埋もれてしまっていたとしても、それこそたかが500年前の残骸なんて掘ってりゃ多少は出てくるだろう。
一般人の眼にも、届くはずである。

でも、そんな情報はボロの街で数ヶ月過ごした俺の耳には、全く入ってきていない。
もちろん、クエスト中にすら見てもいない。
完全に、俺の前世で言うところの中世ファンタジーなのだ。

冒険者になってそこそこの情報は、冒険者仲間同士でも共有しているが、そんな都合の良い情報は一切ない。
おかげで、未だに街並みも機能性も中世のヨーロッパのそれである。

現代日本ですら、500年どころか1000年以上前の遺跡発掘ですら既にいくつも成功を収めているわけだから、やっぱりここらへんの主張って、どうにも俺には受け入れがたいのだ。

「…アニムス、そこらへんはどうなんだ?
あぁでも、お前誰に作られたのかわからないんだもんなー。
うーん……。」

記憶がありません、わかりません…と言われたらその時点で終わりである。
ハッキリ言って、確証の無い事をこれ以上聞くのは、俺達としても完全に時間の無駄だ。

会話は、絶対に平行線で進展などしないだろうし。

「……マスター。」

「ん?
なんだ?」

「アニムスは、人類に敵対していません。
これからもしません。
魔王なんて存在も、知りません。
信じてほしいのであります。」

何だか、機械もといキカイらしからぬ、情に訴える上目遣いで言ってきた。
何とも人間らしい所作である。
これだけでも、かわいらしさにコロッと落ちる男はいるかもしれない。

でも、いよいよもって魔王すら知らない…と来たか。
本当に、何が何やら…。

「誤魔化すなメスガキ。
そんな安い態度と言い訳で───。」

ユキノが言いかけた時だった。

「……ほんと、いちいちゴチャゴチャうっせーんだよ腐れ魔族が。
だから気持ちわりーんだよお前ら。黙れ。
お前だって何も知らねーくせに、偉そうに言ってんじゃねーよ。
お前みたいな口先だけの雑魚は、大人しく僻地に引き籠ってプルプル震えてろ。
役立たずが。」

……。

部屋の空気が、一気に南極大陸の中心点並に低くなった。

いや、今までも高かったわけではないけども。
あと、時々出てくるこの口の悪いアニムスさんは何なの…?

表情も感情表現も、完全に人間のそれである。

「は、はぁああああああああああ!!!??
お、お前!!!!!!
もう1回言ってみろこの糞メスガキこらぁあああああ!!!!!!!!!!」

「何回でも言ってやる。黙っとけヘタレ。雑魚。しゃべるな。
私は今、マスターと話してんだよ。
イモくせーから、とっとと田舎に帰れ。
何なら、お前の血筋を今ここで根絶やしにしてやろうか?」

もはや、子どもの口喧嘩である。
なんか慣れてきてしまった。

結局、こういう展開になるのね。

「おい、お前らいい加減に───。」

俺が、溜め息交じりに二人の仲裁に入ろうとした時だった。
ユキノの身体から、見覚えのあるドス黒く、超高密度の魔力が顕現した。

「ぶっっっっっっっっっ殺す!!!!!!!!!!!!!!!」

叫んだユキノに呼応するように、部屋中を黒い魔力が巡り、前が見えなくなるほどだった。

館全体が地鳴りのように揺れ、今にも天井が崩壊しそうなほどの震度を感じる。
震源地が、まさしく今俺が立っている場所なので、平衡感覚を維持できず、足元がおぼつかない。

「いやいやいやいやいや!!!!!!
ちょっと待てユキノ!!!」

「許さない!!!!!
絶対に!!!!!
絶対にだ!!!!!!!!!!」

俺の必死の懇願も空しく、ドス黒くなった部屋の中でユキノの声が響くだけだった。
その黒い中で、ユキノは既に何事かの詠唱を唱え始めていた。

これってあの時と…初心者ダンジョンの面接試験の時と同じだ…。

「あっはっはっはっ!!!素晴らしい!!
素晴らしいわユキノ!!!!
そうよ!!
最初からこうすれば良かったのよ!!!!!」

椅子でふんぞり返っていたエレナが、ユキノに応じるように勢いよく立ち上がり、何故か一緒になって輝かしい金色の魔力もとい神気を放出していた。

なんで余計な事しかしないんだ、このバカ女神は。

「ですよねぇ!!?ですよねぇエレナ!!!
こんな人形など、一瞬でバラバラにしてあげますよ!!!!!!!
あっはっはっはっ!!!!!!!!」

もはや、どっちが魔王陣営かわかったものではない。
これが先の大戦で繰り広げられていた戦いなら、俺は迷わずアニムスに加勢していたところだろう。

「やめろバカタレども!!!!!
館が壊れちゃうだろうがぁあああああああ!!!!!!!!!!」

このままだと、俺達は歴史的建造物の損壊、領主カターユと憲兵達への過失致死と反逆罪で間違いなく死刑である。

「灰も残ると思うな!!!!!
死ね!!!

ダーク───!!!!!!!!」

ユキノが、何だかカッコイイポーズでアニムスに向かって魔法名を唱えようとしたまさにその時だった。
素早くベッドから抜け出したアニムスが、俺の手を握った。

その瞬間、周囲が一瞬モノクロ世界になった。

──と思ったら、今度は特大のガラスが弾けたような音が鳴り響き、元の色の入った世界に戻った。

一連の流れはほんの一瞬の出来事であり、そして突然のことに全員が呆けていた。

だが、先ほどまでの巨大な地鳴りは止んでおり、周囲を満たしていたユキノのドス黒い魔力と、エレナの輝かしい神気の両方が消えていた。

「……へ?
あ、あれ……ちょっ、ちょっと待って…。
待ってください…!!
魔力が…また私の魔法が……!!!!」

「…あれぇええええええええええええええ!!!!!!?」

エレナは金髪金眼に戻り、ユキノは纏っていた魔力の全てを失っていた。
まさしく、アニムスの障壁を解いた時と同じ状況だった。

しかし、そんな驚きの最中、ゆっくりと動き出したアニムスは、エレナとユキノという獲物の前に完全に捕食者となっていた。

魔力を操作できなくなり、哀れな普通の女の子となった2人。

完全に怯えた2人を相手に、アニムスはそれぞれロメロ・スペシャル、逆エビ固めと見事なプロレス技で返り討ちにしたのであった。
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