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第3章
厄介事が厄介事を呼ぶ
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我がパーティには、大問題児が2人いる。
まず、ギルドに所属しているランキング《第10位》のエレナ。
冒険者の能力値のヒエラルキーとして、ほぼほぼトップに君臨する自称元女神。
俺をこの異世界に放り込んだ張本人でもある。
この異世界生活で必要なチートスキルや目的諸々を、忘却の彼方へと誘った張本人でありながら、傍若無人な振る舞いはまさしく神そのものであり、俺1人の力では到底手に負えない。
そして、同じくギルドに所属している《白髪の処刑人》ことユキノ。
人間と魔族のハーフであり、出自のせいか性格がおかしな方向で成長している。
気に食わないものは全て焼き尽くし、俺やエレナの悪感情が大好きという謎の生態。
隠し事やウソ、他人に取り繕う人間が大嫌いで、そういうことを平然とする奴には老人や女子供だろうが容赦はない。
2人に共通しているのは、超天才である自分に歯向かう人間は存在価値がない…と割と本気で考えている点である。
何が彼女達をそこまで駆り立てているのかは知らないが、その範疇に収まっている人物が絡んでくると、髪の毛の1本まで残さないほどの攻撃性を発揮する。
実際に、彼女達に歯向かった輩は人であれモンスターであれ、五体満足だったものは1人もいない。
そして、そんな彼女達を連れて俺は領主カターユの館にやってきた。
半ば、連行されたような形だが。
領主の館にやってきてからというもの、俺の意思など関係なく、様々な問題が発生している。
勝手に話が進んでいき、その中身は現状の頭の悪い俺では朝霜を掴むがごとく、全く掌に残るものではなかった。
つまり、何一つ意味がわからないのである。
そして、そんなわけのわからない状況であっても、いつのまにかその問題を処理しなくてはいけなくなる…という流れは、確かにエレナやユキノが関わった今までの事件とも変わらないようにも見えた。
しかし、ここに来て急転直下の出来事が起こる。
連戦連勝、無敗を誇りまさしく自分こそが大正義と大王のように君臨していた2人が、全く成す術もなく敗北を喫したのである。
彼女達の連戦連勝記録に土を付けたのは、まさしく意味不明の権化として突然に俺の前に現れた、”人工天使”を名乗るアニムスという少女であった。
彼女は、あっという間に魔法やスキルを無効化したうえに、2人をプロレス技で散々いたぶるという虐待を繰り広げた。
俺は、初めてエレナやユキノが地べたに這いつくばって敗者の気持ちを理解するというその立場を見て、何だか少しだけ面白い気持ちになってしまった。
その後、館中がとんでもない轟音だったこともあって、ルディアやガイオがまたまた様子を見に来てくれたのだが、自己解決できたということで納得してもらった。
まぁ、正直ここまで色々とあり過ぎて、あの人達も感覚が麻痺しているのだと思う。
そして今、俺の目の前にはアニムスによって返り討ちにされ、散々痛め付けられて崩れ落ちたエレナとユキノが号泣しながら、転がっていた。
「いぇーい、マスター。
ピースピース。」
先ほどまでの感情的な彼女とは異なって、無表情で俺に対して勝利宣言とポーズを取ってくるアニムス。
一体何なんだろうな、このロボっ子は。
それにしても、まさかこの2人がここまで成す術なくボロカスにやられるとは…。
「…ひっぐ…腰が…腰がぁ……。」
「お前……絶対に…絶対に復讐してヤル……。」
恨み節を吐きながら床に芋虫のように転がっている彼女達を見ると、魔法やスキルが使えないと本当に普通の女の子なんだと実感する。
それにしても…。
「なぁアニムス。
その魔法やスキルが無効化する能力って、お前のモノだったんだな。
ということは、お前って自分であの障壁を解いて出てきたってこと?
てっきり、俺が何かしちゃったのかと思ったぞ。」
結局、チートスキルが目覚めたわけでも、思い出したわけでも何でもなかったわけだ
ホッとしたような、悲しいような。
「違うであります。
あれは、マスターのスキルです。」
「…ん?
いや、何を言っているのかわからんが。
俺、何もしてないぞ。」
「アニムスには、他人の魔法やスキルを自分に繋げて使える力があります。
…と、アニムスが言っています。」
「繋げて使える…?
なんだそりゃ。
コピーできる、みたいなこと?」
「そんな感じであります。」
「それ、無条件で使えるのか?」
「いえ、1度に1つであります。
コピーしたら、それを放出するまで次のコピーは出来ません。」
上書きできないってことか。
そう聞くと、なんだか使い勝手は無さそうな気がする。
難しいな。
「加えて、1度その魔法やスキルを見たり体験してから、その魔法やスキル、もしくは対象の身体に触れる必要があります。
触れた後は、無条件で発動できるであります。
その対象が使ったであろう威力で、そのまま使えます。」
「触れた後って、さっきみたいに瞬間的に発動できるの?」
「はい。任意のタイミングで発動できます。
今回は、すぐに発動しました。
なので、仮に相手がバカでかい火の玉や水玉を飛ばしてきたところで、簡単に相殺できるであります。」
前言撤回。
メッチャ強くない?
反則だろ。
例えば、俺がリルの火の玉を消したみたいに、わざわざ受け止めて自分の魔力を大量に流し込んでやる…みたいな作業がいらないわけだ。
相手の丸パクリでそのまま潰すってことだから、魔力消費0である。
よほどその方がチートスキルのような気がするのだが…。
でも、じゃあやっぱりこの無効化って俺のスキルってことなのだろうか。
《ゼロ》だっけ。
というか、なんで俺はこのスキルを使えないのにこの子は使えるんだよ。
「それ、どうやってんだ?
俺さ、自分でそのスキルを全く使えなくて困っているんだよ。
コツとか教えてくんない?」
「これは、アニムスに埋め込まれた”アーティファクト・ソフィア”の力であります。
《コネクト》と言います。」
「ソフィア…?
あぁ、さっき言ってた凄い魔道具ってやつか。
じゃあ、アーティファクトって皆そんな凄い機能というか、スキルがあるの?」
「はい。
アーティファクトには、それぞれ個別に違うスキルが存在します。
まだ、研究対象だったものもありました。
…と、アニムスが言っています。」
へぇー。
古代の超凄い魔道具…アーティファクト。
数は少ないけど、これを埋め込まれた連中はアニムスみたいに特別な力やスキルを使えたってことだろうか。
…うーん。
こうなると、アニムスが言っていたことに少しだけ信ぴょう性が出てくる。
仮に、この子が人類側の敵で魔王が創造した存在として、果たして人類は勝てたのだろうか?
まぁ、実際に今は人類の世の中になっているわけだから、勝ったのだろうけど。
でも、こんな力を持っている個体が複数体存在していたら、魔王どころかこの子達を止めるのだけでも、全人類の総力を尽くさないと勝てないような気がするのだが。
見て触れただけで、そのままお返しするスキルってヤバすぎる。
ほぼ何でもアリである。
相手が強ければ強いほど、そのまま自分にその魔法やスキルが返ってくる。
しかも、発動効果は元の使用者のものに依存するらしいし。
まぁそれにしても。
本当に、先の大戦からここまでの歴史は、一体全体何がどうなっているのだろう。
どこからアプローチしても、おかしな結論しか出てこない。
この少女の登場によって、ますます混乱してきた。
「なぁ、他のアーティファクトにはどんな力があったんだ?
今、どこにあるんだ?
具体的な名称は?」
「申し訳ありません。
そこらへんのデータは、既にないのであります。
アニムスは、500年間スヤスヤだったのです。」
「あぁそっか。お前も記憶ないんだっけ。
悪い、それなら仕方ないな。」
…さっきから勘づいていたのだが、なんだか俺の記憶喪失設定に似ている気がする。
都合の良いところは相手から情報を聞き出して、都合の悪いところは『記憶がございません』で誤魔化す…という手法だ。
まさか、コイツわかっててやってるんじゃないだろうな?
しかし、こんな化け物じみたスキルを使えるのなら、ほとんどの相手を無効化できるのだと推察できる。
まさか、不意打ちとはいえエレナが何もできないレベルとは。
女神であるエレナですら下手すりゃ勝てない相手に、500年前そんな絶望的な状況で、人類はどうやって魔王軍に勝ったのだろう?
ますます、この子達を魔王が作った…とかいう定説に疑問が生じる。
勝ち目がまるで無かったようにしか見えない。
本当に、この異世界の歴史や勢力図はここ数百年、何がどうなっているのか。
「アニムスって、素の身体能力もメッチャ高いんだな。
俺のスキル?多分それ《ゼロ》っていうんだけど、それ使うと使用者も自爆でスキルや魔法を使えなくなるみたいなんだよ。
身体強化もできないのに、よくその2人相手に楽勝したな。」
「アニムスは、一般的な成人男性の約6倍~7倍の身体能力を有しています。
なので、別に魔法やスキルが無くても余裕で戦えるのであります。」
「マジかよ…。」
つまり、握力だけでもだいたい300~350kgくらいはあるということだ。
ゴリラじゃねーか。
もしかしたら、量産型?らしいリルもその下位互換くらいは素で強かったのかもしれない。
そら、魔力を使えなくなった普通の人は勝てるわけない。
「で、さっきの話なんだけど何で俺が使えないスキルを使えるんだ?」
「アニムスの封印を解いてくれた時に、一度そのスキルに触れたからであります。」
「じゃあ、あの地下巨大ドームの障壁ってやっぱり俺が解いちゃった感じなの?」
「解いちゃった感じであります。」
微動だにしない、真っ直ぐとした眼で回答された。
いよいよ、言い逃れができなくなってきた。
でも…。
「俺さ、魔法やスキルに全然詳しくなくてな。
アニムスが使った俺自身のスキルの仕組みとかも、実はよくわかってないんだ。
でも、お前がそれを使えるってことは、確実に俺の中にそういうスキルがあるってことだよな?」
「はい。
アニムスの”ソフィア”の能力である《コネクト》は、そこにないものにはリンクできません。
それにアニムスのデータにも、《ゼロ》ほど強力なスキルは他に存在しないです。
さすがマスター、かっこいい。」
と、無表情のアニムスが言ったらしい。
存在しないも何も、最初からクリーンアップされて消されているだけでは?
このロボッ子は、本当にわけのわからない事を言う。
信ぴょう性はあるのだが、こと信用性という点に関しては俺のこのロボっ子に対するソレは、ハッキリ言って無いに等しい。
理由も明白で、言っていることがメチャクチャだからである。
チートスキルに関しても、自分にその残滓は残っている…とわかったのだけど、ちーーっとも嬉しくないし、感動もしないのは何故だろう…。
いや、わかっている。
自分にチートスキルがあるからといって、俺自身がまともに使えないからである。
マジで豚に真珠、猫に小判だ。
俺は、何のためにこのチートスキルを持っているのか。
俺は使えないのに、他人は俺のスキルを使える…理不尽にもほどがある。
厄介なのが、複数存在するであろう俺の他の隠れたチートスキルも、こんな感じで全部バグり散らかしていて、まともに使えないケースが大半かもしれないってことだ。
それがわかったから、俺の中でとても萎えているのだと思う。
せっかく、楽して強くなれると思ったのに…。
結局、《ゼロ》にしても俺自身の発動条件はサッパリわからないときた。
発動したいときは、このアニムスに頼まないとダメってことである。
そうなると、俺はこのよくわからないロボっ子を連れて帰らなくてはいけないことになる。
それだけは、絶対に御免被る。
俺の裁定基準だと、このロボっ子は気質的に絶対にエレナ寄りだからである。
その時点で、問答無用の却下だ。
「気になったんだけどさ、その”コネクト”って必殺技みたいなの。
1回コピーした魔法やスキルって、そのままデータとして保存できるからずっと使い続けられるのか?
それとも、データ上で保存はできるけど、保存できるだけで使えるのは1回限りなのか?」
「後者であります。
再度使うためには、再び対象に触れるか相手が魔法やスキルを使うのを待たないといけません。
でも、データは取れるのでどういう魔法やスキルかは分析できます。」
なるほど…そりゃ便利だ。
回数限定なら、コピーがオリジナルを超えることは無さそうなのもわかりやすい。
正直、そうなると攻略法はあるのかな?と感じる。
仮に、似たような存在が俺達の敵として現れたとしても。
「じゃあ、俺の《ゼロ》の仕組みもわかるのか?
良ければ、教えてほしいんだけど。」
俺がそう聞くと、アニムスは快活に返事をしてくれた。
「はい、了解しました。
───《ゼロ》は、広域の魔力及び魔力操作無効化のスキルだと思われます。
効果範囲は発動者の周囲107mで、魔力操作を伴うあらゆる魔法やスキル、魔法陣を無効化できます。
効果持続時間は58分で、効果範囲に入った有機物・無機物全てに及び、発動者本人も例外ではありません。
なお、使用後の再発動も即時可能であるため、マスターが直接的に使うのならば連続的な使用もできます。」
……。
…ということらしいが。
な、なんだか俺の想像の10倍とんでもないスキルだ。
てか、自爆技なのにずっと使い続けられるって何?
1回使ったら、俺自身の魔力も操作できなくなるんだが?
いくらなんでもバグりすぎだろ。
チートスキルにふさわしいけど、効果範囲は107mで無機物にも及ぶ…?
マジですか。
例えば、魔道具で街灯を付けている場合、それに向けて《ゼロ》を発動すると消えちゃうってことだよな。
つまり、ウッカリ真夜中に発動すると、周囲の街中の灯りが全部消えて、大停電状態になってしまうってことだろうか。
そういえば地下ドームから帰ってくるとき、エレベーターは普通に動いていた。
つまり、あれは効果範囲外だったわけだ。
もしくは、魔力以外の動力源で動いているか。
にしても、だいたいこの異世界は医療も浄化機能も魔道具や魔法で補っているので、コレを使えなくなるとマジで死活問題である。
シャレにならん。
ウッカリ発動しちゃいました、で誤魔化せるレベルではない。
「…はぁ。参ったなほんと。
本来なら、俺はこういうスキルも最初からきちんと使えてたんだろうなー。
まぁでも、今更ゴチャゴチャ考えても仕方ないか。」
「何だかよくわかりませんが、心中お察しします。
でもこれからは、アニムスがいるので大丈夫であります。
ね、マスター。」
本当に付いてくる気なの?
勘弁してくれ。
あと、その情緒不安定な会話もやめてくれ。
だいたい、このメンバーで仲良く何かをできる気が全くしない。
何しろ、目の前には2人の女の子がお前にボロボロにされて横たわっているのだ。
「うーん…。さすがに、聞けるのはこれくらいかなぁ。
これ以上聞いても、特に得るものは無さそうだし。
……あ。」
肝心なことを聞くのを忘れていた。
「アニムス、最後に1つだけ良い?」
「はい。なんでありますか?」
「俺さ、お前の障壁を解いちゃった時に、小さい女の子を見かけたんだよ。
ほら、あそこに金髪金眼で転がっている子がいるだろ?
エレナっていうんだけど、あの子とよく似た小さい女の子を見たんだ。
なんか心当たりない?」
「全くないであります。」
即答かよ。
じゃあ結局、あの子は何だったんだろう。
あれから、1度も見かけてない。
まぁ、考えても仕方ないか。
知らないって言っているのだから、これ以上は聞いても無駄である。
とりあえず、ここまでにしよう。
徹夜が続いているし本当にちょっと休もないと、これ以上は頭に情報が入って来ない。
聞きたいこともまだあるが、聞いたところで内容は平行線だろうしな。
そしてボロの街に帰るまでに、カターユと話を付ける。
申し訳ないが、この妙なロボっ子を引き取ってもらう話を、だ。
あと、もちろん報酬も忘れずに貰う。
絶対に。
まず、ギルドに所属しているランキング《第10位》のエレナ。
冒険者の能力値のヒエラルキーとして、ほぼほぼトップに君臨する自称元女神。
俺をこの異世界に放り込んだ張本人でもある。
この異世界生活で必要なチートスキルや目的諸々を、忘却の彼方へと誘った張本人でありながら、傍若無人な振る舞いはまさしく神そのものであり、俺1人の力では到底手に負えない。
そして、同じくギルドに所属している《白髪の処刑人》ことユキノ。
人間と魔族のハーフであり、出自のせいか性格がおかしな方向で成長している。
気に食わないものは全て焼き尽くし、俺やエレナの悪感情が大好きという謎の生態。
隠し事やウソ、他人に取り繕う人間が大嫌いで、そういうことを平然とする奴には老人や女子供だろうが容赦はない。
2人に共通しているのは、超天才である自分に歯向かう人間は存在価値がない…と割と本気で考えている点である。
何が彼女達をそこまで駆り立てているのかは知らないが、その範疇に収まっている人物が絡んでくると、髪の毛の1本まで残さないほどの攻撃性を発揮する。
実際に、彼女達に歯向かった輩は人であれモンスターであれ、五体満足だったものは1人もいない。
そして、そんな彼女達を連れて俺は領主カターユの館にやってきた。
半ば、連行されたような形だが。
領主の館にやってきてからというもの、俺の意思など関係なく、様々な問題が発生している。
勝手に話が進んでいき、その中身は現状の頭の悪い俺では朝霜を掴むがごとく、全く掌に残るものではなかった。
つまり、何一つ意味がわからないのである。
そして、そんなわけのわからない状況であっても、いつのまにかその問題を処理しなくてはいけなくなる…という流れは、確かにエレナやユキノが関わった今までの事件とも変わらないようにも見えた。
しかし、ここに来て急転直下の出来事が起こる。
連戦連勝、無敗を誇りまさしく自分こそが大正義と大王のように君臨していた2人が、全く成す術もなく敗北を喫したのである。
彼女達の連戦連勝記録に土を付けたのは、まさしく意味不明の権化として突然に俺の前に現れた、”人工天使”を名乗るアニムスという少女であった。
彼女は、あっという間に魔法やスキルを無効化したうえに、2人をプロレス技で散々いたぶるという虐待を繰り広げた。
俺は、初めてエレナやユキノが地べたに這いつくばって敗者の気持ちを理解するというその立場を見て、何だか少しだけ面白い気持ちになってしまった。
その後、館中がとんでもない轟音だったこともあって、ルディアやガイオがまたまた様子を見に来てくれたのだが、自己解決できたということで納得してもらった。
まぁ、正直ここまで色々とあり過ぎて、あの人達も感覚が麻痺しているのだと思う。
そして今、俺の目の前にはアニムスによって返り討ちにされ、散々痛め付けられて崩れ落ちたエレナとユキノが号泣しながら、転がっていた。
「いぇーい、マスター。
ピースピース。」
先ほどまでの感情的な彼女とは異なって、無表情で俺に対して勝利宣言とポーズを取ってくるアニムス。
一体何なんだろうな、このロボっ子は。
それにしても、まさかこの2人がここまで成す術なくボロカスにやられるとは…。
「…ひっぐ…腰が…腰がぁ……。」
「お前……絶対に…絶対に復讐してヤル……。」
恨み節を吐きながら床に芋虫のように転がっている彼女達を見ると、魔法やスキルが使えないと本当に普通の女の子なんだと実感する。
それにしても…。
「なぁアニムス。
その魔法やスキルが無効化する能力って、お前のモノだったんだな。
ということは、お前って自分であの障壁を解いて出てきたってこと?
てっきり、俺が何かしちゃったのかと思ったぞ。」
結局、チートスキルが目覚めたわけでも、思い出したわけでも何でもなかったわけだ
ホッとしたような、悲しいような。
「違うであります。
あれは、マスターのスキルです。」
「…ん?
いや、何を言っているのかわからんが。
俺、何もしてないぞ。」
「アニムスには、他人の魔法やスキルを自分に繋げて使える力があります。
…と、アニムスが言っています。」
「繋げて使える…?
なんだそりゃ。
コピーできる、みたいなこと?」
「そんな感じであります。」
「それ、無条件で使えるのか?」
「いえ、1度に1つであります。
コピーしたら、それを放出するまで次のコピーは出来ません。」
上書きできないってことか。
そう聞くと、なんだか使い勝手は無さそうな気がする。
難しいな。
「加えて、1度その魔法やスキルを見たり体験してから、その魔法やスキル、もしくは対象の身体に触れる必要があります。
触れた後は、無条件で発動できるであります。
その対象が使ったであろう威力で、そのまま使えます。」
「触れた後って、さっきみたいに瞬間的に発動できるの?」
「はい。任意のタイミングで発動できます。
今回は、すぐに発動しました。
なので、仮に相手がバカでかい火の玉や水玉を飛ばしてきたところで、簡単に相殺できるであります。」
前言撤回。
メッチャ強くない?
反則だろ。
例えば、俺がリルの火の玉を消したみたいに、わざわざ受け止めて自分の魔力を大量に流し込んでやる…みたいな作業がいらないわけだ。
相手の丸パクリでそのまま潰すってことだから、魔力消費0である。
よほどその方がチートスキルのような気がするのだが…。
でも、じゃあやっぱりこの無効化って俺のスキルってことなのだろうか。
《ゼロ》だっけ。
というか、なんで俺はこのスキルを使えないのにこの子は使えるんだよ。
「それ、どうやってんだ?
俺さ、自分でそのスキルを全く使えなくて困っているんだよ。
コツとか教えてくんない?」
「これは、アニムスに埋め込まれた”アーティファクト・ソフィア”の力であります。
《コネクト》と言います。」
「ソフィア…?
あぁ、さっき言ってた凄い魔道具ってやつか。
じゃあ、アーティファクトって皆そんな凄い機能というか、スキルがあるの?」
「はい。
アーティファクトには、それぞれ個別に違うスキルが存在します。
まだ、研究対象だったものもありました。
…と、アニムスが言っています。」
へぇー。
古代の超凄い魔道具…アーティファクト。
数は少ないけど、これを埋め込まれた連中はアニムスみたいに特別な力やスキルを使えたってことだろうか。
…うーん。
こうなると、アニムスが言っていたことに少しだけ信ぴょう性が出てくる。
仮に、この子が人類側の敵で魔王が創造した存在として、果たして人類は勝てたのだろうか?
まぁ、実際に今は人類の世の中になっているわけだから、勝ったのだろうけど。
でも、こんな力を持っている個体が複数体存在していたら、魔王どころかこの子達を止めるのだけでも、全人類の総力を尽くさないと勝てないような気がするのだが。
見て触れただけで、そのままお返しするスキルってヤバすぎる。
ほぼ何でもアリである。
相手が強ければ強いほど、そのまま自分にその魔法やスキルが返ってくる。
しかも、発動効果は元の使用者のものに依存するらしいし。
まぁそれにしても。
本当に、先の大戦からここまでの歴史は、一体全体何がどうなっているのだろう。
どこからアプローチしても、おかしな結論しか出てこない。
この少女の登場によって、ますます混乱してきた。
「なぁ、他のアーティファクトにはどんな力があったんだ?
今、どこにあるんだ?
具体的な名称は?」
「申し訳ありません。
そこらへんのデータは、既にないのであります。
アニムスは、500年間スヤスヤだったのです。」
「あぁそっか。お前も記憶ないんだっけ。
悪い、それなら仕方ないな。」
…さっきから勘づいていたのだが、なんだか俺の記憶喪失設定に似ている気がする。
都合の良いところは相手から情報を聞き出して、都合の悪いところは『記憶がございません』で誤魔化す…という手法だ。
まさか、コイツわかっててやってるんじゃないだろうな?
しかし、こんな化け物じみたスキルを使えるのなら、ほとんどの相手を無効化できるのだと推察できる。
まさか、不意打ちとはいえエレナが何もできないレベルとは。
女神であるエレナですら下手すりゃ勝てない相手に、500年前そんな絶望的な状況で、人類はどうやって魔王軍に勝ったのだろう?
ますます、この子達を魔王が作った…とかいう定説に疑問が生じる。
勝ち目がまるで無かったようにしか見えない。
本当に、この異世界の歴史や勢力図はここ数百年、何がどうなっているのか。
「アニムスって、素の身体能力もメッチャ高いんだな。
俺のスキル?多分それ《ゼロ》っていうんだけど、それ使うと使用者も自爆でスキルや魔法を使えなくなるみたいなんだよ。
身体強化もできないのに、よくその2人相手に楽勝したな。」
「アニムスは、一般的な成人男性の約6倍~7倍の身体能力を有しています。
なので、別に魔法やスキルが無くても余裕で戦えるのであります。」
「マジかよ…。」
つまり、握力だけでもだいたい300~350kgくらいはあるということだ。
ゴリラじゃねーか。
もしかしたら、量産型?らしいリルもその下位互換くらいは素で強かったのかもしれない。
そら、魔力を使えなくなった普通の人は勝てるわけない。
「で、さっきの話なんだけど何で俺が使えないスキルを使えるんだ?」
「アニムスの封印を解いてくれた時に、一度そのスキルに触れたからであります。」
「じゃあ、あの地下巨大ドームの障壁ってやっぱり俺が解いちゃった感じなの?」
「解いちゃった感じであります。」
微動だにしない、真っ直ぐとした眼で回答された。
いよいよ、言い逃れができなくなってきた。
でも…。
「俺さ、魔法やスキルに全然詳しくなくてな。
アニムスが使った俺自身のスキルの仕組みとかも、実はよくわかってないんだ。
でも、お前がそれを使えるってことは、確実に俺の中にそういうスキルがあるってことだよな?」
「はい。
アニムスの”ソフィア”の能力である《コネクト》は、そこにないものにはリンクできません。
それにアニムスのデータにも、《ゼロ》ほど強力なスキルは他に存在しないです。
さすがマスター、かっこいい。」
と、無表情のアニムスが言ったらしい。
存在しないも何も、最初からクリーンアップされて消されているだけでは?
このロボッ子は、本当にわけのわからない事を言う。
信ぴょう性はあるのだが、こと信用性という点に関しては俺のこのロボっ子に対するソレは、ハッキリ言って無いに等しい。
理由も明白で、言っていることがメチャクチャだからである。
チートスキルに関しても、自分にその残滓は残っている…とわかったのだけど、ちーーっとも嬉しくないし、感動もしないのは何故だろう…。
いや、わかっている。
自分にチートスキルがあるからといって、俺自身がまともに使えないからである。
マジで豚に真珠、猫に小判だ。
俺は、何のためにこのチートスキルを持っているのか。
俺は使えないのに、他人は俺のスキルを使える…理不尽にもほどがある。
厄介なのが、複数存在するであろう俺の他の隠れたチートスキルも、こんな感じで全部バグり散らかしていて、まともに使えないケースが大半かもしれないってことだ。
それがわかったから、俺の中でとても萎えているのだと思う。
せっかく、楽して強くなれると思ったのに…。
結局、《ゼロ》にしても俺自身の発動条件はサッパリわからないときた。
発動したいときは、このアニムスに頼まないとダメってことである。
そうなると、俺はこのよくわからないロボっ子を連れて帰らなくてはいけないことになる。
それだけは、絶対に御免被る。
俺の裁定基準だと、このロボっ子は気質的に絶対にエレナ寄りだからである。
その時点で、問答無用の却下だ。
「気になったんだけどさ、その”コネクト”って必殺技みたいなの。
1回コピーした魔法やスキルって、そのままデータとして保存できるからずっと使い続けられるのか?
それとも、データ上で保存はできるけど、保存できるだけで使えるのは1回限りなのか?」
「後者であります。
再度使うためには、再び対象に触れるか相手が魔法やスキルを使うのを待たないといけません。
でも、データは取れるのでどういう魔法やスキルかは分析できます。」
なるほど…そりゃ便利だ。
回数限定なら、コピーがオリジナルを超えることは無さそうなのもわかりやすい。
正直、そうなると攻略法はあるのかな?と感じる。
仮に、似たような存在が俺達の敵として現れたとしても。
「じゃあ、俺の《ゼロ》の仕組みもわかるのか?
良ければ、教えてほしいんだけど。」
俺がそう聞くと、アニムスは快活に返事をしてくれた。
「はい、了解しました。
───《ゼロ》は、広域の魔力及び魔力操作無効化のスキルだと思われます。
効果範囲は発動者の周囲107mで、魔力操作を伴うあらゆる魔法やスキル、魔法陣を無効化できます。
効果持続時間は58分で、効果範囲に入った有機物・無機物全てに及び、発動者本人も例外ではありません。
なお、使用後の再発動も即時可能であるため、マスターが直接的に使うのならば連続的な使用もできます。」
……。
…ということらしいが。
な、なんだか俺の想像の10倍とんでもないスキルだ。
てか、自爆技なのにずっと使い続けられるって何?
1回使ったら、俺自身の魔力も操作できなくなるんだが?
いくらなんでもバグりすぎだろ。
チートスキルにふさわしいけど、効果範囲は107mで無機物にも及ぶ…?
マジですか。
例えば、魔道具で街灯を付けている場合、それに向けて《ゼロ》を発動すると消えちゃうってことだよな。
つまり、ウッカリ真夜中に発動すると、周囲の街中の灯りが全部消えて、大停電状態になってしまうってことだろうか。
そういえば地下ドームから帰ってくるとき、エレベーターは普通に動いていた。
つまり、あれは効果範囲外だったわけだ。
もしくは、魔力以外の動力源で動いているか。
にしても、だいたいこの異世界は医療も浄化機能も魔道具や魔法で補っているので、コレを使えなくなるとマジで死活問題である。
シャレにならん。
ウッカリ発動しちゃいました、で誤魔化せるレベルではない。
「…はぁ。参ったなほんと。
本来なら、俺はこういうスキルも最初からきちんと使えてたんだろうなー。
まぁでも、今更ゴチャゴチャ考えても仕方ないか。」
「何だかよくわかりませんが、心中お察しします。
でもこれからは、アニムスがいるので大丈夫であります。
ね、マスター。」
本当に付いてくる気なの?
勘弁してくれ。
あと、その情緒不安定な会話もやめてくれ。
だいたい、このメンバーで仲良く何かをできる気が全くしない。
何しろ、目の前には2人の女の子がお前にボロボロにされて横たわっているのだ。
「うーん…。さすがに、聞けるのはこれくらいかなぁ。
これ以上聞いても、特に得るものは無さそうだし。
……あ。」
肝心なことを聞くのを忘れていた。
「アニムス、最後に1つだけ良い?」
「はい。なんでありますか?」
「俺さ、お前の障壁を解いちゃった時に、小さい女の子を見かけたんだよ。
ほら、あそこに金髪金眼で転がっている子がいるだろ?
エレナっていうんだけど、あの子とよく似た小さい女の子を見たんだ。
なんか心当たりない?」
「全くないであります。」
即答かよ。
じゃあ結局、あの子は何だったんだろう。
あれから、1度も見かけてない。
まぁ、考えても仕方ないか。
知らないって言っているのだから、これ以上は聞いても無駄である。
とりあえず、ここまでにしよう。
徹夜が続いているし本当にちょっと休もないと、これ以上は頭に情報が入って来ない。
聞きたいこともまだあるが、聞いたところで内容は平行線だろうしな。
そしてボロの街に帰るまでに、カターユと話を付ける。
申し訳ないが、この妙なロボっ子を引き取ってもらう話を、だ。
あと、もちろん報酬も忘れずに貰う。
絶対に。
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