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第4章
キカイの気持ち
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わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は奇しくも突然に異世界へと転生させられた。
自分で望んでこの異世界に来たわけではなく、そのほとんどが天界側の担当女神、フィエレナ様の暴挙のせいである。
めでたく、転生時に爆散した俺の身体は、異世界に降臨した際にも当然のようにバグり倒しており、伝えられた目的も授けられたチートスキルの数々も忘れてしまった…という流れだ。
そんな逼迫した状況でも、なかなかどうして知恵と勇気を振り絞ってここまで生きてきたわけだが、その頑張りのおかげか仲間も増えてきた状況である。
エレナ。
俺をこの異世界に叩き落とした張本人である。
諸々の不始末の責任を取るために、天界から堕天させられた。
傍若無人かつ唯我独尊で、自分がこの世の全てだと本気で思っている。
ユキノ。
この異世界で、仲間になった俺達のパーティの1人。
仲間になった…とは言っても、陰謀的な手法でムリヤリ入り込んだだけである。
中身はエレナとほとんど変わらない。
暴力的かつ排他的で、自分が圧倒的正義であると本気で思っている。
アニムス。
俺達がお世話になっているボロの街の領主、カターユの館で寝ていた住人。
500年以上は寝ていたらしいが、そもそも人間ではないので考えるだけムダである。
仲間にした覚えなど全くないのだが、脅迫的な手法でいつのまにかパーティになっていた。
我田引水を絵に描いたような存在であり、意味不明の権化である。
3人とも、仲は激烈に悪い。
いや、エレナとユキノの仲は良好なのだが、アニムスその他との対立が本当に酷い。
そして、3人とも目的は一致しているのがさらにタチが悪い。
つまり、3人とも何らかの復讐を心に誓っている。
誰かに仕返しがしたいわけだ。
ちなみに、俺もである。
なので、人のことをどうこう言える立場にない俺は、歪でありながらも同じ方向に向かって一緒にいるという背景だ。
───そして、季節は真冬。
周囲には雪が積もっており、いよいよ本格的な冬が到来するという中で、俺達はとうとう念願のマイホームという名の拠点を手に入れた。
これは、領主カターユからの報酬…という形でいただいたものだ。
ただ、マイホームが手に入るという一報を聞いてから、俺達は手続きやら何やらで時間を追われていた。
家はあるのだが、そこで生活をするための物品がなかったからである。
ギルドを通した話だと、カターユの別館は旧カターユ邸と呼ぶべきものあり、つまり歴代の領主がそこで生活をしていた歴史的遺産のようなものであった。
正直、そんな遺産を貰うのは気が引けたのだが、与える本人が全く問題ないどころか、拒否すると俺達を牢獄という名の地獄に送ると宣言している状態だったので、ありがたく受け取ることになった次第だ。
現在、カターユは本館を既に保有していて、そこで生活ができるすべての物品を運び出している。
ようは、俺達がこれから移動する先の旧カターユ邸には家以外の何もなかったのである。
家はあげるけど、後は自分達で用意してねー…ということだ。
まぁ正直、家をくれるだけでも本当に太っ腹も太っ腹なので、文句の1つも出てこない。
そういうわけで、新居での生活に心躍らせている俺達は、珍しくパーティの皆が各々で動いており、新しい住居に移動するための準備をしていた。
まぁ強いて言うのなら、当然のようになぜか全員でその家で生活をすることが確定しているのが、よくわからないが。
まさしく、シェアハウス状態である。
素晴らしかったのが、カターユがこれとは別にケルベロスや【沈黙のナメクジ事件】の解決報酬として、別途きちんとお金をくれたことである。
このお金は相当な金額であり、俺達で等分に分けたとしても個人が3ヵ月は余裕で生活ができるレベルであった。
これも、ギルドを通して速やかに支払われた。即日で…である。
本当に、行動が速くて助かる。
この上なくありがたい。
おかげで、しばらくは凍死の心配をする必要は無さそうだ。
そういう金銭的な余裕もあって、皆が皆、新しい住居に必要なモノを買い漁っていたりするわけである。
それを込みでも、十分に1ヵ月は生活ができる金銭的余裕があるのが心強い。
おかげで、俺もようやく暖かい冬用の服を買えた。
アニムスは、現代のお金の使い方がよくわかっていないらしく、俺が彼女にも一応服を買ってあげた。
ずっとメイド服姿も目立つし、寒いかもしれないからな。
ちなみに、ギルドから事情や説明を受けたものの、実際にその館をまだ見たわけではない。
外観も内装も全く知らないわけだが、とにかく寒かったし、早く移動したかったので珍しく全員が速やかに行動しているという状況だ。
別館の状況なんて、後からどうせわかるわけだし。
ただその中でも、1つ真っ先にやっておかなくてはならない懸案事項が俺にはあった。
その原因となっているアニムスを横に、俺はギルド《エクリプス》に到着していた。
今は、そこらへんにあるテーブルの一角に座って話をしている。
「ここがギルドなるモノでありますか?」
「そうだよー。カターユさんとの約束だからな。
お前をパーティに入れるために、まずは冒険者の登録をしないと。」
「ここは、何をするところなのでありますか?」
「まぁ、仕事を斡旋してもらったり、クエストを行ったり…。
ようは、皆が働くために提供されている場所だよ。
あと、食堂もあるからメシも食えるぞ。」
「へぇーすごいなー。」
などと、まるで感情がこもっていない表情で言っていた。
俺は、注文をした【不幸な冒険者のサヨナラ煮込みスープ】とかいうわけのわからない食事をとっていた。
見た目はアレだが、メッチャ旨い。
というか、アニムスは食事をとらなくても良いのだろうか。
「そういや、ギルドそのものもちょうど500年前くらいに出来たって言ってたよな…。
じゃあ、アニムスが活動してた時代と被ってたんじゃないのか?」
「いえ、当時はギルドなどというものは無かったであります。
当時のヒトの仕事に、クエストなるものも無かったので。
おそらく、アニムスが眠った後にできたのだと思われます。
…と、アニムスが言っています。」
「お前、堂々と言ってるけどクリーンアップしてるって設定を忘れてない?」
「…マスター。
今のナシ。」
コイツ、いよいよ持って全てを覚えている可能性が出てきた。
こんな簡単に引っかかるとは。
実は、本当はものすごくアホなんじゃなかろうか。
「まぁ、例の後付け設定ってことで納得しておくよ。
あと、パーティになるからには遠慮なんてしなくていいぞ。
俺も覚悟できたし、てか俺もお前に遠慮とかしないし。」
「…あの、アニムスが言うのもアレなのですが。
それでよろしいのですか?
マスターは、隠し事する奴とか嫌いじゃないのでありますか?」
「はは!なんだそりゃ、ユキノじゃあるまいし。
意外だな。お前そんなこと気にしてるのか?
かわいいところあるじゃん。」
「アニムスは、真面目に質問をしているのであります。
この際だから、アニムスはマスターに色々と質問したい気分なのです。」
ユキノと同列視されたのが、癪に障ったらしい。
わざとらしく、無表情で頬を膨らませていた。
どういう顔?
「質問って…こんなところで話し合うのか?
人も一杯いるのに。」
「有象無象なんて、どうせアニムス達の話なんて聞いていないのであります。
人類なんて、所詮自分自身にしか興味がないのです。」
この子は、なんでこんなにも歪んでしまっているのだろうか…。
「まぁ別にいいけどさ。
何か聞きたいことでもあるの?」
「さっきの答えを真面目に教えてほしいのであります。
隠し事をする奴とか、嫌いじゃないのでありますか?」
「うーん…じゃあ、俺も真面目に言うけどさ。
どうでも良いよ。
そんなこと。」
「…どうでも良い…のでありますか?」
「うん。」
なぜだか、アニムスの顔は少し戸惑った表情にも見えた。
無表情だけど。
「なぜですか?」
「え?
…なぜって言われてもなー。
他人に言いたくないことなんて、誰にでもあるだろ。俺にもあるぞ。
なんで、いちいち相手に対して自分の恥部を見せなきゃいけないんだよ。」
「でも、それだと一緒にいてツラくないのでありますか?」
「なんで?」
全てをさらけ出す方が、よほどツラいだろう。
よしんば、下半身を露出して歩けっていうのか?
お互いの理解どころか、二度と会話もしてくれなくなると思う。
「お互いに中身が見えないと、騙されたり勝手に期待されたり何やらで…。」
「いや、勝手に期待する方が悪いだろ。
なんで、何も知らない相手に勝手に期待するんだよ。」
俺は、本気でアニムスの言っていることが良くわからなかった。
なんか、この子も過去にトラウマでもあったのかな。
「でも、アニムスは自分の目的や領分はきちんと伝えておいた方が良いと思うのです。
じゃないと、結果的に争いになります。」
「うん、だから争う奴が悪いんだからお前は何も悪くないし気にする必要はない。」
「…でもでも、それだと現実は厳しくないでありますか?
傷つく人が増えると思うのです。
何事も、中身を吟味することは大切です。
誤解と偏見は、きっと誰かを傷つけます。」
なんか、話のトーン的にももはや普通の会話になってきた。
こいつ、自分が人形もといキカイだってこと忘れてない?
察するに、誤解と偏見で過去にアニムスは傷ついたってことなのかな。
「だから、自分と相手の中身をきちんと知りたいって?
それさ、アニムスがきっと優しすぎるだけだよ。」
「…そんなことは。
………ないであります。」
「いや、あるよ。
なんでそこまで相手を気にするんだ?
優しいからだろ。」
「…違うのであります。」
「なんで?」
「………。」
答えづらいらしい。
俺は、キカイのカウンセリングでもやっているのだろうか。
誰かは知らんが、眠らせる前にちゃんとメンテナンスくらいしてやれよと思う。
「アニムスの考えはオカシイですか?」
「いや、全然。
むしろ、人間的で素晴らしいと思うぞ。
俺は好きだよ。」
「…好き、ですか?
アニムスが…?」
「うん。」
世の中には、何かとあると毒舌辛辣で生活をしている人達もいるのだ。
息を吸っているだけで人を傷つける人達よりも、キカイらしいこの子の方がよほど好ましいだろう。
「でも、アニムスはそういう場合どうすれば良いのかわからないのであります。
ヒトの気持ちが、良くわからない時が多いのです。
そういう場合、ついつい冷たい態度をとったりキツイ言葉を言っちゃうのです。
後々で、何だか申し訳ない気持ちになってしまうのであります。」
「別に良いんじゃないの?そういう気持ちさえあれば。
てか、エレナやユキノには最初からボロカス言ってるじゃん。
アイツらには、別に罪悪感とかわかないんだろ?」
「アイツらは別腹です。」
どうやら、彼女達はアニムスにとってただのデザートらしい。
「見かけによらず…って言ったら失礼だけど。
お前ってメチャクチャ色々と考えているんだな。
凄いし偉いよ。正直、見直した。
俺なんて、そんなこと全然考えて生きてないぞ。」
「…アニムスには、今の時代の世の情勢がよくわからないので。
流れも、背景も、人類も、世界のことも。」
…まぁ、考えてみたらそりゃそうか。
俺が同じ立場なら、不安しかない気がする。
気づいたら、500年は経過していたわけで。
知り合いも既に誰もいないだろうし。
なんか、寝ていたところにムリヤリ起こしちゃって心底申し訳ない気持ちになってきた。
「うーん……例えばさ。
この街で知り合った人が食事を作ってくれたとするじゃん?
その人は、普段は食事なんてしないわけだよ。
でも、良かれと思って俺達に食事を作ってくれるわけ。
普通の人間はさ、そうして何かを自分にしてくれる気持ちがそもそも嬉しいんだよ。
食事の中身とか、どうでも良いの。」
「……そうなのですか?」
「そうだよ。
でもさ、現実ってそうじゃないっていうのもわかるよ。
そうやって食事を作ってくれた人に『なんだこれ、まずい!!』って罵詈雑言を吐くクソみたいな奴らもいるわけだし。
アニムスの言う通り。」
「……。」
「こういう連中はまさしく良く知りもしない相手に、勝手に期待して、勝手に失望しているわけだろ?
旨い飯を作ってくれるはずー…って。
それでソイツらは勝手に傷つくわけだ。
アニムスは、そんな連中にも慈悲を与えたいって言いたいんだろ?
弁解をする機会をあげたいって。中身を知りたいって。」
「…………。」
「ようは、なんでそんなことを言ったのかお前は知りたいわけだろ?
俺からすると、やっぱりその時点で優しすぎると思うぞ。
俺なら、そんな連中なんて普通にスルーだぞ。本当にどうでもいい。
多分、エレナやユキノなら灰も残ってない。
ようは、アニムスが気にかけてる連中なんてそれくらいのクズなんだ。
十分に優しいだろ。」
アニムスが、何だか俺の顔を凝視していた。
無表情で。
そのまま、また俺に質問をぶつけてきた。
「…でもでもでも、相手は求めていない場合もあります。
奉仕したら、文句を言われたりするかもしれないのです。
勝手なことすんじゃねーって。
その場合、相手のことがわからないとアニムスにはどうにもできないのであります。
次の行動がとれず、固まっちゃうのです。」
「いや、そんな人間性なのに他人に近づく方が悪いだろ。何様なんだよソイツ。
俺がその場にいたら、お前の代わりに条件反射でボロカスに言ってるぞ。」
「…ソイツはオカシイでありますか?」
「オカシイよ。クソだぞそんな奴。
俺が許可するわ。
次に似たような奴に出会ったら、思いっきりぶん殴ってやれ。」
「…マスターは、変わっていますね。」
「いやいやいや…お前、眠る前までどういう連中と絡んでたの?
魔界にでも住んでた?」
「変でありますか?」
「メチャクチャ変だって。
例えば、相手がモノを落としたから拾ったら『余計なお世話だ!!』とか言ってくるってわけだろ?」
「まんま、そんな感じであります。
お前みたいなのが触るな、と言われたことがあるのです。
穢れるから、と。」
「くたばれよそのクソ野郎。
マジでムカついてきた…。」
「…ムカつく?
アニムスのためにですか…?」
「当たり前だろ。お前、どんな常識をインプットされてるんだ?
だいたい、そんなに自分1人で全部やりたきゃ、人が近づかない山奥にでも行きゃいいんだよ。
何で、いちいち俺達がそんな奴らに気を使って生活しなきゃなんねーんだ。
アニムスは何も悪くないって。」
俺は、一気に腹が立った。頭に血が上っているのがわかる。
エレナの言葉を借りるなら、別にお前を中心に世界は回っているわけではないのだ。
人は、1人で生きているわけではないのだから。
この子の話を聞いてると、きっと過去に酷い目にあったのだろうと同情する。
「…そういうふうに人類に言われたのは、初めてであります。」
「お前も苦労したんだなぁ…。
そりゃ、500年間も不貞寝したくなるわけだよ。」
「…ことさらに、相手のことを考えすぎるのは逆効果なのかもしれないですね。」
「そうだな。
ここらへんさ、別に俺達のパーティでも全く同じだぞ?」
「…?
どういうことでありますか?」
「そのまんまだよ。
俺も、食事なんて別に得意じゃないんだ。
でも、これからは皆で家で生活をするわけだろ?
きっと、お金のことを考慮して食事を作る機会もあるはずだ。」
「そうでありますね。」
「そんな時に、エレナあたりが『なにこれ、マズイ!!』とか言い出したら、俺マジで家から放り投げるからな。
まさしく、文句があるなら自分で作れって話だから。
自分がデキもしないことを、他人に勝手に期待して求めるんじゃねーよって話。
だからアニムスもこれからは、『文句があるなら自分でやれ』って堂々と言ってやれ。」
「…………。」
「そういうことだから、お前も変なところで気を使う必要なんてないんだよ。
言いたくないことも別に言わんでいいし、まぁ胸を張って生活してくれ。
少なくとも、パーティの全責任は俺が取るから。
わかった?」
「…はい。わかったであります。
マスター。」
少しだけ笑ったような気もしたが、おそらく気のせいである。
今まで、無表情以外を見せたことがないし。
何を考えているのやら。
まぁそんなことよりも、俺にとっては今の…そしてこれからの生活のほうが大切である。
「そろそろ行こうか。
昨日、ギルドの方にお前をパーティに入れたいって伝えているから。」
「了解しました。」
俺達は、窓口に向かうことにした。
ただ、カターユの館から帰ってきていくつか疑問点もあった。
その中の一つが、ギルド窓口の花であるテロッサがいない点である。
テロッサだけではなく、南門のケインやエイベルとも、俺は顔を合わせていない。
一体どこに行ったのだろうか。
確か、ユーガが言うにはエレナが初日にここに酒を飲みにやって来た時には、テロッサはいたはずなのだ。
エレナが不遜な外の冒険者をぶっ飛ばした時に、彼女も一緒に喜んでいたらしいから。
ということは、そこから用事ができてどこかに行ったのかな?
まぁ、案外と長期の休みを取っているだけかもしれないが。
そんなことを考えているうちに、俺達はギルドの窓口の前に辿り着いた。
「すみません。シラズ・トータです。
この子の冒険者登録をお願いできますか?
ついでに、俺達へのパーティ登録もお願いします。」
受付には、若い眼鏡をかけた女性の職員さんがいた。
確か、ナギさんとかいう名前だった気がする。
「あ、はい!
…って、あら。トータ君。
その子が、昨日言っていた子?」
「そうです。
あの、テロッサさんはいないんですか?
俺、ここに帰ってきてから1回も見てないんですけど。」
「テロッサ?
あぁー…ちょっと色々とあってね。
ほら、外の支部から変な冒険者が来たじゃない?
あの一件で、御上から呼び出しを食らってね。」
エレナとユキノが、ぶっ飛ばした連中である。
「マジですか…。
じゃあ、それもしかして俺達のせいですか…?」
「あはは!違う違う!完全に、私達のせいだから。
そもそも、街の中にあんな連中を入れるなんて何事かー!!!ってね。
門番の何人かも、一緒に呼び出しを食らってるみたいよ。
領主様の方からも、何人か聞き取り役が行ってるみたいだし。」
俺がマイホームを手に入れている間に、そんなことになっていたとは…。
だから、皆いなかったのか。
カターユも、本当に裏で色々と大変なんだと再認識する。
最近リルが招き入れた連中もそうだし、外から変なのが入り込んでるからものすごく警戒してるんだろうなぁ。
「俺が言うのもなんですが、支部同士ってメッチャ仲が悪いんですね。
噂には聞いていましたけど、そんなに酷いんですか?」
「ウチはねぇ…本当にずっとナメられてたからねー。
今でも『インチキだー!』って因縁を付けられることが多いのよ。」
「やっぱり、エレナやユキノが入ったときって噂になったんですか?」
確か、ユーガの幼馴染のサラがそんなようなことを言っていた気がする。
「そりゃもうね。
ユキノちゃんなんて、入っていきなり数少ない高ランク帯のクエスト攻略者になっちゃったし。
その後のエレナちゃんなんて、それ以上。
ランキング《第10位》の決定は、本部でも大モメにモメたらしいから。」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ。
だって、ランキングトップ層なんて、数年から数十年も変わらないこともあるんだから。
文字通り、その人が引退するか死ぬまでね。
それが、登場していきなり前代未聞の《第10位》よ?
特に、元々の《第10位》の人が所属していたパーティと支部が大暴れだったみたいで。
その人達、今ランク落とされたからね。素行の悪さもあって。」
こえぇえ……。
全然知らなかった。
そんなことになってたのかよ…。
「あの、本部で支部が評価されると何か変わるんですか?」
「もちろんよ!
本部から評価されて注目されればされるほど、その支部の信用性が高まる。
斡旋される仕事やクエストのレベルも上がる。
訪れる人達のレベルも高くなる。
国家レベルの仕事やクエストも、夢ではなくなるわ。
そうすれば、さらに冒険者の報酬も上がり、それを管理・監督する私達のお給料もアップするってわけ!!」
まるで、大勢のオーディエンスを前にプレゼンをしているかのような振る舞いだった。
うーん…欲望に忠実。
この街には、こういう人しかいないのだろうか。
「確かに、そんな状況だと上のランクの人ほど腹が立つでしょうね。
自分達の権威や権力が落ちていくわけだから。」
「そうそう。
ギルドって、高ランク帯が所属している支部ほど、プライドが高い連中も多いから。
だから、エレナちゃんがアイツらぶっ飛ばしてくれた時は本当に清々したわ。」
「でも、支部の偉いさんとしては外の支部とモメるのは良くないんですよね?
だから、皆も手出しができなくて困っていたって。」
「報復があるのよ。街の外で。
例えば、クエストに出ている最中に別の支部の冒険者に襲われたり、ね。
生半可な実力でケンカを吹っ掛けると、今度は外に出た時にそういう連中に絡まれてクエストにならないから。
だから、この街のような初心者や中級者に成りたての皆には、上から手を出さないように言いつけてるの。」
メンドクサイなぁ…。
なんで冒険者同士でそんなくだらないことをやってるのか。
俺達、どちらもギルド《エクリプス》の冒険者のはずなのに。
「なるほど、これであのエレナが賞賛された理由も納得しましたよ。
アイツなら、外で絡まれようが関係ないですもんね。」
「そういうこと。
エレナちゃんもユキノちゃんも、あんな連中に負けるはずないし。
素行はちょっとアレだけどね。
それでも、ギルドに対する貢献度は他とは比較にならないから。」
こういうところは、俺達は本当に良くしてもらっているのだと実感する。
おかげで、クエストで問題が起こっても、別のクエストで補填できるように工夫をしてくれているのだから。
まぁ、その後処理はほとんど俺の仕事と化しているのだが。
「マスター。
アニムスはここで何をするのでありますか?」
「…!
あぁ、悪い。長々と待たせちゃったな。」
「ゴメンねー。長々と話して。
アニムスちゃんだっけ?
これから、魔導観測機っていうモノを利用して、あなたのステータスを測るから。
ちょっと待ってね。今からソッチに行くから。」
そういうと、懐かしの魔道具をナギさんが出してきた。
「ほうほう。
マスター、これが現代の魔道具でありますか?」
「そうだよー。」
アニムスには、自分の正体を明かさないようにあらかじめクギを刺している。
それに関する言動にも。
なので、エレナみたいに変なことは言わないだろう。
「………。」
「どうしたんだ?」
「予想通り、魔道具としてはアニムス達の完全な下位互換ですね。
性能はもちろん、特別な魔力源もスキルも感じないのであります。
例えば、コレを分解して利用したとしてもアニムス達のような”人工天使”は絶対に作れません。」
「そっか…。
じゃあ、やっぱり巷で溢れている魔道具はただの劣化コピーなんだな。
うーん…だとすると、リルの奴はなんで動いてたんだろう。」
そんな話をしていると、ナギさんが窓口の前まで出てきてくれた。
「はい、お待たせしました。
じゃあ、さっそくだけど能力測定やりましょうか。」
「アニムスは、何をすればよいのでありますか?」
「その魔道具に、手をかざしてくれるだけで良いわよ。
それで、あなたの能力やステータスがわかるから。」
実は、俺もかなり興味があった。
人形…キカイのステータスかぁ。
超古代の強力なアーティファクトを利用して動いているらしいアニムス。
その力は、現代においてどれほどのモノなのだろうか。
まぁ、見ている感じその力をきちんと制御できてはいるので、変に暴走したりはしないだろうが。
俺は、アニムスが手をかざす様子を少し後ろで眺めていた。
「じゃあ、やるのであります。」
そういってアニムスが手をかざした瞬間。
その魔道具は、とてつもない光を放つのだった。
自分で望んでこの異世界に来たわけではなく、そのほとんどが天界側の担当女神、フィエレナ様の暴挙のせいである。
めでたく、転生時に爆散した俺の身体は、異世界に降臨した際にも当然のようにバグり倒しており、伝えられた目的も授けられたチートスキルの数々も忘れてしまった…という流れだ。
そんな逼迫した状況でも、なかなかどうして知恵と勇気を振り絞ってここまで生きてきたわけだが、その頑張りのおかげか仲間も増えてきた状況である。
エレナ。
俺をこの異世界に叩き落とした張本人である。
諸々の不始末の責任を取るために、天界から堕天させられた。
傍若無人かつ唯我独尊で、自分がこの世の全てだと本気で思っている。
ユキノ。
この異世界で、仲間になった俺達のパーティの1人。
仲間になった…とは言っても、陰謀的な手法でムリヤリ入り込んだだけである。
中身はエレナとほとんど変わらない。
暴力的かつ排他的で、自分が圧倒的正義であると本気で思っている。
アニムス。
俺達がお世話になっているボロの街の領主、カターユの館で寝ていた住人。
500年以上は寝ていたらしいが、そもそも人間ではないので考えるだけムダである。
仲間にした覚えなど全くないのだが、脅迫的な手法でいつのまにかパーティになっていた。
我田引水を絵に描いたような存在であり、意味不明の権化である。
3人とも、仲は激烈に悪い。
いや、エレナとユキノの仲は良好なのだが、アニムスその他との対立が本当に酷い。
そして、3人とも目的は一致しているのがさらにタチが悪い。
つまり、3人とも何らかの復讐を心に誓っている。
誰かに仕返しがしたいわけだ。
ちなみに、俺もである。
なので、人のことをどうこう言える立場にない俺は、歪でありながらも同じ方向に向かって一緒にいるという背景だ。
───そして、季節は真冬。
周囲には雪が積もっており、いよいよ本格的な冬が到来するという中で、俺達はとうとう念願のマイホームという名の拠点を手に入れた。
これは、領主カターユからの報酬…という形でいただいたものだ。
ただ、マイホームが手に入るという一報を聞いてから、俺達は手続きやら何やらで時間を追われていた。
家はあるのだが、そこで生活をするための物品がなかったからである。
ギルドを通した話だと、カターユの別館は旧カターユ邸と呼ぶべきものあり、つまり歴代の領主がそこで生活をしていた歴史的遺産のようなものであった。
正直、そんな遺産を貰うのは気が引けたのだが、与える本人が全く問題ないどころか、拒否すると俺達を牢獄という名の地獄に送ると宣言している状態だったので、ありがたく受け取ることになった次第だ。
現在、カターユは本館を既に保有していて、そこで生活ができるすべての物品を運び出している。
ようは、俺達がこれから移動する先の旧カターユ邸には家以外の何もなかったのである。
家はあげるけど、後は自分達で用意してねー…ということだ。
まぁ正直、家をくれるだけでも本当に太っ腹も太っ腹なので、文句の1つも出てこない。
そういうわけで、新居での生活に心躍らせている俺達は、珍しくパーティの皆が各々で動いており、新しい住居に移動するための準備をしていた。
まぁ強いて言うのなら、当然のようになぜか全員でその家で生活をすることが確定しているのが、よくわからないが。
まさしく、シェアハウス状態である。
素晴らしかったのが、カターユがこれとは別にケルベロスや【沈黙のナメクジ事件】の解決報酬として、別途きちんとお金をくれたことである。
このお金は相当な金額であり、俺達で等分に分けたとしても個人が3ヵ月は余裕で生活ができるレベルであった。
これも、ギルドを通して速やかに支払われた。即日で…である。
本当に、行動が速くて助かる。
この上なくありがたい。
おかげで、しばらくは凍死の心配をする必要は無さそうだ。
そういう金銭的な余裕もあって、皆が皆、新しい住居に必要なモノを買い漁っていたりするわけである。
それを込みでも、十分に1ヵ月は生活ができる金銭的余裕があるのが心強い。
おかげで、俺もようやく暖かい冬用の服を買えた。
アニムスは、現代のお金の使い方がよくわかっていないらしく、俺が彼女にも一応服を買ってあげた。
ずっとメイド服姿も目立つし、寒いかもしれないからな。
ちなみに、ギルドから事情や説明を受けたものの、実際にその館をまだ見たわけではない。
外観も内装も全く知らないわけだが、とにかく寒かったし、早く移動したかったので珍しく全員が速やかに行動しているという状況だ。
別館の状況なんて、後からどうせわかるわけだし。
ただその中でも、1つ真っ先にやっておかなくてはならない懸案事項が俺にはあった。
その原因となっているアニムスを横に、俺はギルド《エクリプス》に到着していた。
今は、そこらへんにあるテーブルの一角に座って話をしている。
「ここがギルドなるモノでありますか?」
「そうだよー。カターユさんとの約束だからな。
お前をパーティに入れるために、まずは冒険者の登録をしないと。」
「ここは、何をするところなのでありますか?」
「まぁ、仕事を斡旋してもらったり、クエストを行ったり…。
ようは、皆が働くために提供されている場所だよ。
あと、食堂もあるからメシも食えるぞ。」
「へぇーすごいなー。」
などと、まるで感情がこもっていない表情で言っていた。
俺は、注文をした【不幸な冒険者のサヨナラ煮込みスープ】とかいうわけのわからない食事をとっていた。
見た目はアレだが、メッチャ旨い。
というか、アニムスは食事をとらなくても良いのだろうか。
「そういや、ギルドそのものもちょうど500年前くらいに出来たって言ってたよな…。
じゃあ、アニムスが活動してた時代と被ってたんじゃないのか?」
「いえ、当時はギルドなどというものは無かったであります。
当時のヒトの仕事に、クエストなるものも無かったので。
おそらく、アニムスが眠った後にできたのだと思われます。
…と、アニムスが言っています。」
「お前、堂々と言ってるけどクリーンアップしてるって設定を忘れてない?」
「…マスター。
今のナシ。」
コイツ、いよいよ持って全てを覚えている可能性が出てきた。
こんな簡単に引っかかるとは。
実は、本当はものすごくアホなんじゃなかろうか。
「まぁ、例の後付け設定ってことで納得しておくよ。
あと、パーティになるからには遠慮なんてしなくていいぞ。
俺も覚悟できたし、てか俺もお前に遠慮とかしないし。」
「…あの、アニムスが言うのもアレなのですが。
それでよろしいのですか?
マスターは、隠し事する奴とか嫌いじゃないのでありますか?」
「はは!なんだそりゃ、ユキノじゃあるまいし。
意外だな。お前そんなこと気にしてるのか?
かわいいところあるじゃん。」
「アニムスは、真面目に質問をしているのであります。
この際だから、アニムスはマスターに色々と質問したい気分なのです。」
ユキノと同列視されたのが、癪に障ったらしい。
わざとらしく、無表情で頬を膨らませていた。
どういう顔?
「質問って…こんなところで話し合うのか?
人も一杯いるのに。」
「有象無象なんて、どうせアニムス達の話なんて聞いていないのであります。
人類なんて、所詮自分自身にしか興味がないのです。」
この子は、なんでこんなにも歪んでしまっているのだろうか…。
「まぁ別にいいけどさ。
何か聞きたいことでもあるの?」
「さっきの答えを真面目に教えてほしいのであります。
隠し事をする奴とか、嫌いじゃないのでありますか?」
「うーん…じゃあ、俺も真面目に言うけどさ。
どうでも良いよ。
そんなこと。」
「…どうでも良い…のでありますか?」
「うん。」
なぜだか、アニムスの顔は少し戸惑った表情にも見えた。
無表情だけど。
「なぜですか?」
「え?
…なぜって言われてもなー。
他人に言いたくないことなんて、誰にでもあるだろ。俺にもあるぞ。
なんで、いちいち相手に対して自分の恥部を見せなきゃいけないんだよ。」
「でも、それだと一緒にいてツラくないのでありますか?」
「なんで?」
全てをさらけ出す方が、よほどツラいだろう。
よしんば、下半身を露出して歩けっていうのか?
お互いの理解どころか、二度と会話もしてくれなくなると思う。
「お互いに中身が見えないと、騙されたり勝手に期待されたり何やらで…。」
「いや、勝手に期待する方が悪いだろ。
なんで、何も知らない相手に勝手に期待するんだよ。」
俺は、本気でアニムスの言っていることが良くわからなかった。
なんか、この子も過去にトラウマでもあったのかな。
「でも、アニムスは自分の目的や領分はきちんと伝えておいた方が良いと思うのです。
じゃないと、結果的に争いになります。」
「うん、だから争う奴が悪いんだからお前は何も悪くないし気にする必要はない。」
「…でもでも、それだと現実は厳しくないでありますか?
傷つく人が増えると思うのです。
何事も、中身を吟味することは大切です。
誤解と偏見は、きっと誰かを傷つけます。」
なんか、話のトーン的にももはや普通の会話になってきた。
こいつ、自分が人形もといキカイだってこと忘れてない?
察するに、誤解と偏見で過去にアニムスは傷ついたってことなのかな。
「だから、自分と相手の中身をきちんと知りたいって?
それさ、アニムスがきっと優しすぎるだけだよ。」
「…そんなことは。
………ないであります。」
「いや、あるよ。
なんでそこまで相手を気にするんだ?
優しいからだろ。」
「…違うのであります。」
「なんで?」
「………。」
答えづらいらしい。
俺は、キカイのカウンセリングでもやっているのだろうか。
誰かは知らんが、眠らせる前にちゃんとメンテナンスくらいしてやれよと思う。
「アニムスの考えはオカシイですか?」
「いや、全然。
むしろ、人間的で素晴らしいと思うぞ。
俺は好きだよ。」
「…好き、ですか?
アニムスが…?」
「うん。」
世の中には、何かとあると毒舌辛辣で生活をしている人達もいるのだ。
息を吸っているだけで人を傷つける人達よりも、キカイらしいこの子の方がよほど好ましいだろう。
「でも、アニムスはそういう場合どうすれば良いのかわからないのであります。
ヒトの気持ちが、良くわからない時が多いのです。
そういう場合、ついつい冷たい態度をとったりキツイ言葉を言っちゃうのです。
後々で、何だか申し訳ない気持ちになってしまうのであります。」
「別に良いんじゃないの?そういう気持ちさえあれば。
てか、エレナやユキノには最初からボロカス言ってるじゃん。
アイツらには、別に罪悪感とかわかないんだろ?」
「アイツらは別腹です。」
どうやら、彼女達はアニムスにとってただのデザートらしい。
「見かけによらず…って言ったら失礼だけど。
お前ってメチャクチャ色々と考えているんだな。
凄いし偉いよ。正直、見直した。
俺なんて、そんなこと全然考えて生きてないぞ。」
「…アニムスには、今の時代の世の情勢がよくわからないので。
流れも、背景も、人類も、世界のことも。」
…まぁ、考えてみたらそりゃそうか。
俺が同じ立場なら、不安しかない気がする。
気づいたら、500年は経過していたわけで。
知り合いも既に誰もいないだろうし。
なんか、寝ていたところにムリヤリ起こしちゃって心底申し訳ない気持ちになってきた。
「うーん……例えばさ。
この街で知り合った人が食事を作ってくれたとするじゃん?
その人は、普段は食事なんてしないわけだよ。
でも、良かれと思って俺達に食事を作ってくれるわけ。
普通の人間はさ、そうして何かを自分にしてくれる気持ちがそもそも嬉しいんだよ。
食事の中身とか、どうでも良いの。」
「……そうなのですか?」
「そうだよ。
でもさ、現実ってそうじゃないっていうのもわかるよ。
そうやって食事を作ってくれた人に『なんだこれ、まずい!!』って罵詈雑言を吐くクソみたいな奴らもいるわけだし。
アニムスの言う通り。」
「……。」
「こういう連中はまさしく良く知りもしない相手に、勝手に期待して、勝手に失望しているわけだろ?
旨い飯を作ってくれるはずー…って。
それでソイツらは勝手に傷つくわけだ。
アニムスは、そんな連中にも慈悲を与えたいって言いたいんだろ?
弁解をする機会をあげたいって。中身を知りたいって。」
「…………。」
「ようは、なんでそんなことを言ったのかお前は知りたいわけだろ?
俺からすると、やっぱりその時点で優しすぎると思うぞ。
俺なら、そんな連中なんて普通にスルーだぞ。本当にどうでもいい。
多分、エレナやユキノなら灰も残ってない。
ようは、アニムスが気にかけてる連中なんてそれくらいのクズなんだ。
十分に優しいだろ。」
アニムスが、何だか俺の顔を凝視していた。
無表情で。
そのまま、また俺に質問をぶつけてきた。
「…でもでもでも、相手は求めていない場合もあります。
奉仕したら、文句を言われたりするかもしれないのです。
勝手なことすんじゃねーって。
その場合、相手のことがわからないとアニムスにはどうにもできないのであります。
次の行動がとれず、固まっちゃうのです。」
「いや、そんな人間性なのに他人に近づく方が悪いだろ。何様なんだよソイツ。
俺がその場にいたら、お前の代わりに条件反射でボロカスに言ってるぞ。」
「…ソイツはオカシイでありますか?」
「オカシイよ。クソだぞそんな奴。
俺が許可するわ。
次に似たような奴に出会ったら、思いっきりぶん殴ってやれ。」
「…マスターは、変わっていますね。」
「いやいやいや…お前、眠る前までどういう連中と絡んでたの?
魔界にでも住んでた?」
「変でありますか?」
「メチャクチャ変だって。
例えば、相手がモノを落としたから拾ったら『余計なお世話だ!!』とか言ってくるってわけだろ?」
「まんま、そんな感じであります。
お前みたいなのが触るな、と言われたことがあるのです。
穢れるから、と。」
「くたばれよそのクソ野郎。
マジでムカついてきた…。」
「…ムカつく?
アニムスのためにですか…?」
「当たり前だろ。お前、どんな常識をインプットされてるんだ?
だいたい、そんなに自分1人で全部やりたきゃ、人が近づかない山奥にでも行きゃいいんだよ。
何で、いちいち俺達がそんな奴らに気を使って生活しなきゃなんねーんだ。
アニムスは何も悪くないって。」
俺は、一気に腹が立った。頭に血が上っているのがわかる。
エレナの言葉を借りるなら、別にお前を中心に世界は回っているわけではないのだ。
人は、1人で生きているわけではないのだから。
この子の話を聞いてると、きっと過去に酷い目にあったのだろうと同情する。
「…そういうふうに人類に言われたのは、初めてであります。」
「お前も苦労したんだなぁ…。
そりゃ、500年間も不貞寝したくなるわけだよ。」
「…ことさらに、相手のことを考えすぎるのは逆効果なのかもしれないですね。」
「そうだな。
ここらへんさ、別に俺達のパーティでも全く同じだぞ?」
「…?
どういうことでありますか?」
「そのまんまだよ。
俺も、食事なんて別に得意じゃないんだ。
でも、これからは皆で家で生活をするわけだろ?
きっと、お金のことを考慮して食事を作る機会もあるはずだ。」
「そうでありますね。」
「そんな時に、エレナあたりが『なにこれ、マズイ!!』とか言い出したら、俺マジで家から放り投げるからな。
まさしく、文句があるなら自分で作れって話だから。
自分がデキもしないことを、他人に勝手に期待して求めるんじゃねーよって話。
だからアニムスもこれからは、『文句があるなら自分でやれ』って堂々と言ってやれ。」
「…………。」
「そういうことだから、お前も変なところで気を使う必要なんてないんだよ。
言いたくないことも別に言わんでいいし、まぁ胸を張って生活してくれ。
少なくとも、パーティの全責任は俺が取るから。
わかった?」
「…はい。わかったであります。
マスター。」
少しだけ笑ったような気もしたが、おそらく気のせいである。
今まで、無表情以外を見せたことがないし。
何を考えているのやら。
まぁそんなことよりも、俺にとっては今の…そしてこれからの生活のほうが大切である。
「そろそろ行こうか。
昨日、ギルドの方にお前をパーティに入れたいって伝えているから。」
「了解しました。」
俺達は、窓口に向かうことにした。
ただ、カターユの館から帰ってきていくつか疑問点もあった。
その中の一つが、ギルド窓口の花であるテロッサがいない点である。
テロッサだけではなく、南門のケインやエイベルとも、俺は顔を合わせていない。
一体どこに行ったのだろうか。
確か、ユーガが言うにはエレナが初日にここに酒を飲みにやって来た時には、テロッサはいたはずなのだ。
エレナが不遜な外の冒険者をぶっ飛ばした時に、彼女も一緒に喜んでいたらしいから。
ということは、そこから用事ができてどこかに行ったのかな?
まぁ、案外と長期の休みを取っているだけかもしれないが。
そんなことを考えているうちに、俺達はギルドの窓口の前に辿り着いた。
「すみません。シラズ・トータです。
この子の冒険者登録をお願いできますか?
ついでに、俺達へのパーティ登録もお願いします。」
受付には、若い眼鏡をかけた女性の職員さんがいた。
確か、ナギさんとかいう名前だった気がする。
「あ、はい!
…って、あら。トータ君。
その子が、昨日言っていた子?」
「そうです。
あの、テロッサさんはいないんですか?
俺、ここに帰ってきてから1回も見てないんですけど。」
「テロッサ?
あぁー…ちょっと色々とあってね。
ほら、外の支部から変な冒険者が来たじゃない?
あの一件で、御上から呼び出しを食らってね。」
エレナとユキノが、ぶっ飛ばした連中である。
「マジですか…。
じゃあ、それもしかして俺達のせいですか…?」
「あはは!違う違う!完全に、私達のせいだから。
そもそも、街の中にあんな連中を入れるなんて何事かー!!!ってね。
門番の何人かも、一緒に呼び出しを食らってるみたいよ。
領主様の方からも、何人か聞き取り役が行ってるみたいだし。」
俺がマイホームを手に入れている間に、そんなことになっていたとは…。
だから、皆いなかったのか。
カターユも、本当に裏で色々と大変なんだと再認識する。
最近リルが招き入れた連中もそうだし、外から変なのが入り込んでるからものすごく警戒してるんだろうなぁ。
「俺が言うのもなんですが、支部同士ってメッチャ仲が悪いんですね。
噂には聞いていましたけど、そんなに酷いんですか?」
「ウチはねぇ…本当にずっとナメられてたからねー。
今でも『インチキだー!』って因縁を付けられることが多いのよ。」
「やっぱり、エレナやユキノが入ったときって噂になったんですか?」
確か、ユーガの幼馴染のサラがそんなようなことを言っていた気がする。
「そりゃもうね。
ユキノちゃんなんて、入っていきなり数少ない高ランク帯のクエスト攻略者になっちゃったし。
その後のエレナちゃんなんて、それ以上。
ランキング《第10位》の決定は、本部でも大モメにモメたらしいから。」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ。
だって、ランキングトップ層なんて、数年から数十年も変わらないこともあるんだから。
文字通り、その人が引退するか死ぬまでね。
それが、登場していきなり前代未聞の《第10位》よ?
特に、元々の《第10位》の人が所属していたパーティと支部が大暴れだったみたいで。
その人達、今ランク落とされたからね。素行の悪さもあって。」
こえぇえ……。
全然知らなかった。
そんなことになってたのかよ…。
「あの、本部で支部が評価されると何か変わるんですか?」
「もちろんよ!
本部から評価されて注目されればされるほど、その支部の信用性が高まる。
斡旋される仕事やクエストのレベルも上がる。
訪れる人達のレベルも高くなる。
国家レベルの仕事やクエストも、夢ではなくなるわ。
そうすれば、さらに冒険者の報酬も上がり、それを管理・監督する私達のお給料もアップするってわけ!!」
まるで、大勢のオーディエンスを前にプレゼンをしているかのような振る舞いだった。
うーん…欲望に忠実。
この街には、こういう人しかいないのだろうか。
「確かに、そんな状況だと上のランクの人ほど腹が立つでしょうね。
自分達の権威や権力が落ちていくわけだから。」
「そうそう。
ギルドって、高ランク帯が所属している支部ほど、プライドが高い連中も多いから。
だから、エレナちゃんがアイツらぶっ飛ばしてくれた時は本当に清々したわ。」
「でも、支部の偉いさんとしては外の支部とモメるのは良くないんですよね?
だから、皆も手出しができなくて困っていたって。」
「報復があるのよ。街の外で。
例えば、クエストに出ている最中に別の支部の冒険者に襲われたり、ね。
生半可な実力でケンカを吹っ掛けると、今度は外に出た時にそういう連中に絡まれてクエストにならないから。
だから、この街のような初心者や中級者に成りたての皆には、上から手を出さないように言いつけてるの。」
メンドクサイなぁ…。
なんで冒険者同士でそんなくだらないことをやってるのか。
俺達、どちらもギルド《エクリプス》の冒険者のはずなのに。
「なるほど、これであのエレナが賞賛された理由も納得しましたよ。
アイツなら、外で絡まれようが関係ないですもんね。」
「そういうこと。
エレナちゃんもユキノちゃんも、あんな連中に負けるはずないし。
素行はちょっとアレだけどね。
それでも、ギルドに対する貢献度は他とは比較にならないから。」
こういうところは、俺達は本当に良くしてもらっているのだと実感する。
おかげで、クエストで問題が起こっても、別のクエストで補填できるように工夫をしてくれているのだから。
まぁ、その後処理はほとんど俺の仕事と化しているのだが。
「マスター。
アニムスはここで何をするのでありますか?」
「…!
あぁ、悪い。長々と待たせちゃったな。」
「ゴメンねー。長々と話して。
アニムスちゃんだっけ?
これから、魔導観測機っていうモノを利用して、あなたのステータスを測るから。
ちょっと待ってね。今からソッチに行くから。」
そういうと、懐かしの魔道具をナギさんが出してきた。
「ほうほう。
マスター、これが現代の魔道具でありますか?」
「そうだよー。」
アニムスには、自分の正体を明かさないようにあらかじめクギを刺している。
それに関する言動にも。
なので、エレナみたいに変なことは言わないだろう。
「………。」
「どうしたんだ?」
「予想通り、魔道具としてはアニムス達の完全な下位互換ですね。
性能はもちろん、特別な魔力源もスキルも感じないのであります。
例えば、コレを分解して利用したとしてもアニムス達のような”人工天使”は絶対に作れません。」
「そっか…。
じゃあ、やっぱり巷で溢れている魔道具はただの劣化コピーなんだな。
うーん…だとすると、リルの奴はなんで動いてたんだろう。」
そんな話をしていると、ナギさんが窓口の前まで出てきてくれた。
「はい、お待たせしました。
じゃあ、さっそくだけど能力測定やりましょうか。」
「アニムスは、何をすればよいのでありますか?」
「その魔道具に、手をかざしてくれるだけで良いわよ。
それで、あなたの能力やステータスがわかるから。」
実は、俺もかなり興味があった。
人形…キカイのステータスかぁ。
超古代の強力なアーティファクトを利用して動いているらしいアニムス。
その力は、現代においてどれほどのモノなのだろうか。
まぁ、見ている感じその力をきちんと制御できてはいるので、変に暴走したりはしないだろうが。
俺は、アニムスが手をかざす様子を少し後ろで眺めていた。
「じゃあ、やるのであります。」
そういってアニムスが手をかざした瞬間。
その魔道具は、とてつもない光を放つのだった。
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