俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

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第1章

最悪の再会

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わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、見知らぬ女に襲われて気絶をさせられたところである。


──────────────────


「うぅ…。」

気持ち悪い。吐き気がする。頭が痛い。
二日酔いを数十倍にしたかのようなこの感覚。
いつかどこかで、似たような経験をしたことがある。
そう、あれは……。

「あぁ、やっと気が付いた?
大丈夫?」

重たい瞼をゆっくりと開けると、俺が宿泊しているギルド運営の宿屋のベッドの上だった。
寝ぼけ眼で横を見ると、俺をこんな目に合わせたあの女が悠長に椅子に座っていた。
黒髪の長髪で黒目、貴族のような服装。
靴は宿屋で貸し出されているスリッパのようなものを履いていた。

「もしもーし、本当に大丈夫?
またやりすぎちゃったのかしら。」

なんの悪気もなくそう語りかけてくる女の子。
俺はゆっくりと身体を起こし、自分の身体の状況を確認する。
そして、何もされていないことを確認して、確信をもって俺は言葉を発した。

「お前…あの時の女神だろ。」

この顔、俺は覚えている。
いや、思い出したと言った方が正しいかもしれない。

転生前に見た顔。
俺をムリヤリこの世界に送り込んだ挙句、爆散させて全てのチートスキルとその目的を闇の彼方へと葬り去った元凶。

「はぁ?お前?お前って今いった?
あなた、自分の立場わかってるんですかー?」

眉をひそめて腕と足を組みながら、上から目線でモノを言ってくる。
むかつく。
どうやら、俺はつくづくこの女と相性が悪いらしい。
まさか俺を付け狙っている女の子がこの女神だったとは…。

「言っとくけど、俺はアンタに良い感情なんて1個も持ってないぞ。
おかげで来たくもない異世界に来ることになったんだからな。」

そうだった。
俺は元々は天国に行く予定だったのだ。行ける予定だったのだ。
余計に腹が立ってきた。

「それは…ちょっと悪いと思ってるわよ。」

…あれ。なんか素直。
でも『ちょっと』ってなんだよ。

「ただ、コッチだって言いたいことが腐るほどあんのよ。
来たくもない異世界に来たって?
それはコッチも同じよ!どうしてくれんのよ!!」

相変わらず意味不明な女である。

「はぁ?アンタ女神様なんだろ?この世界を管理してるんじゃないのか?
勝手に来たんだから、そのまま勝手に帰れよ。

あ、待て!俺が忘れたチートスキルとやらと目的をちゃんと言っていけ!
お前のせいで全部忘れちゃったんだよ!」

そうだ。俺だって聞きたいことは腐るほどある。
なんの理由か知らんが女神が降臨したのだから、転生前に授かって失った全ての恩恵をここで返してもらおう。
これで、手っ取り早くこの異世界での目的とやらを果たせるはずだ。

「あんた、本当に偉そうね。私の従者のくせに。
いい加減に立場を弁えないと天罰を食らわせるわよ。」

「誰が従者だ。そんなのどうでも良いから、早く教えてくれ。
本当に困ってんだよ。
俺のチートスキルはどういうもので、俺がここに送られた目的は何なんだ?
どうやったらこの異世界は救えるんだ?」

今はこの女の腹が立つ態度は置いておく。
スキルと目的を教えてもらって、この女がいないところに逃げるのだ。
関わり合いたくない人種ぶっちぎりの1位である。

そもそも、一度爆散した必殺技みたいなのを二度も俺にぶち込みやがって。
そんな態度で何で俺がこの女を称えると思っているのか。
親族を皆殺しにした暴君ネロ並の暴挙である。

「………。」

何故ここで黙るのか?
この世界を救いたいのか救いたくないのかどっちなんだよ。

「おい、聞いてんのか。」

俺が語気を荒げると、溜め息交じりに女神は言った。

「……れた。」

消え入りそうな声だった。

「は?なんて?」

この女の情緒は一体どうなっているのだろうか。
俺に襲い掛かるときは嬉々としていたくせに。
だが、そんなことがどうでも良くなるくらいの衝撃の言葉を、その女神は言い放った。

「……忘れた。」

その言葉の意味を、よく理解できずに俺は再度確認した。

「…え?」

忘れた?
何が?

「あ、いや…だから俺がアンタから貰ったスキルと…」

「だから!!忘れたって言ったのよ!全部忘れた!忘れちゃったの!!
何も覚えてないのよ!!
どうしてくれんのよこのダメダメ男!!!」

喚き散らしながら号泣する彼女を見て、まさしくこういう女だったと思い出したのだった。


───────────────────────────────────


「はぁあああああああああああああああ!!!?
てめぇ忘れたってどういうことだ!!」

本当に意味が分からない。
怒りで身体中の血液が沸騰している感覚になる。
何を言ってるんだこの女は。

「だいたい、この異世界に送ったのもスキルを授けたのも目的を教えたのも全部お前だろ!!忘れたって何だ!?」

「うるさいわね!!怒鳴らないでよ!てか全部アンタのせいでしょーが!!!
アンタが私の神気にあてられて爆散しなかったらこんなことになってないのよ!
この軟弱者!!貧弱!!」

本気で掴みかかりそうになったが、たとえクズでも女を殴ったら男として終わりである。
女を殴ってはいけないと父と母によく教えられたものだ。

俺は頭の中で2、3発この女をビンタするだけに留めた。

「神気にあてられて…じゃねーよ!!お前が勝手に流し込んだんだろうが!
今回もそうじゃねーか!」

「あんたがゴチャゴチャうるさいからでしょ!!
私は神なのよ!?ちゃんとアタシのお願い聞いてよ!!称えてよ!
アンタが素直に私の言うことを聞いてくれてたら、そもそもこんなことになってないんだから!!」

超めんどくせぇ…!!
だいたい、今回の一件は一方的な暴力である。
俺はサンドバッグになっただけだ。
ギルドに向かって気の狂った女神から逃げていただけなのだ。
そこへ、通り魔のごとく後ろから文字通り刺されたわけである。

一体、この女に俺が何をしたというのか?
なぜ被害者ヅラをしているのかも意味不明で何も理解できない。
想像の10000倍めんどくさい。
理不尽の権化である。

俺はとりあえず、深呼吸をする。
むかつくけど、頑張って落ち着け俺…。

「…わかった。怒鳴って悪かったよ。ごめん。
とりあえず落ち着け。俺も落ち着くから。
そして話も聞く。聞きますよ。

いったい何がどうなってるんだ?
だいたい、なんで女神様がこんなところにいるんだよ。」

俺の言葉に何を思ったのか、女神様も少し落ち着きを取り戻したようだった。
そして、借りてきた猫のように話を始めた。

「あなた、私と契約したこと覚えてる?」

…契約?
したっけ。そんなこと。

「ほら、転生する前に契約書を持ってきたでしょ。」

「あぁ、あれか。
そういや、意識が飛ぶ前にそんなことあったっけ。」

ムリヤリ手に押し当てられたやつだ。
すっかり忘れていた。

「アレね、私とあなたの契約なの。文字通り、魂の。
言ったでしょ?あの時も。」

確かに、手から何かが抜ける感覚があった。

「そういや言ってたかも…。
悪い事だけじゃなく、良い事もある…だっけ?」

そう…と彼女は俯き加減に返事をした。
ん?悪い事…?

……。

「その悪い事っていうのがね、今回のケースで出ちゃった。
普通はね、神と従者は魂レベルの契約をして情報共有をするの。
異世界と天界の意思疎通はもちろんだけど、困った時の手助けなんかもできるから。」

「まぁ…それは便利だな。」

俺みたいに初めて異世界に来る人間にとっては、とてもありがたいシステムである。
本来ならば。

「元々ね、あなた側からの一方的な意思疎通みたいなのはできないようになってるのよ。
だって、私が主人だから。主従関係があるから。当然じゃない?だって、私って女神だし。
あなたは私の従者として異世界に来た形なのね。」

突然、わけのわからないカミングアウトをされた。
そんなフザけた契約内容だったの?
幕末に日本に脅しをかけてきた黒船ペリーよりもクソみたいな内容である。
俺に人権はないのか?

「でも、あなたが転生前に爆散しちゃったもんだから、魂レベルで情報がメチャクチャになっちゃったの。
私も、その時点でわけがわからなくなっちゃって。」

つまり、イレギュラーに巻き込まれたってことかな。
まぁそりゃ、俺も意味がわからなかったし。
なんで転生前にまた爆死しなきゃいけないのか。

「今回、私が受けたイレギュラーは《情報の逆流と再共有》。
つまり、あなたの意識が魂レベルで私に流れ込んできちゃったの。
そこから意識を再共有する形になったから、あなたのテンパった情報も手に取るようにわかった。」

「それって、今でもわかるのか?
例えば俺がどこかで何かをしていると、それも意識的にわかるとか。」

トイレもお風呂も監視されているみたいでイヤなんだが。
どんなGPSだよ。

「今は落ち着いてるわ。
当初は酷かったけど。」

正直、少しだけホッとした。
どこで何をしてても俺の意識がわかる状態だったら、真性の奴隷である。

「前代未聞の大事件だ-…って天界がテンヤワンヤ。
そりゃそうよね。
だって神と従者の意識が魂レベルで共有しちゃったんだから。
上司にも信じられないくらい怒られるし。」

「いや上司って何だよ。誰なんだよそいつ。」

天界のヒエラルキーの概念が全くわからん。
当たり前のように言わないでほしい。
そういや転生前にも上司の話とかしてたなコイツ。

「それでね、色々と確認を取ったら…
『一度契約をした内容は本人と従者の問題、他は介入してはならない。』
とか言われちゃって…天界の規定だからって…!偉そうに………!!」

お前も大概だぞ…って言うとおそらく怒るから俺はやめるのだった。
天界の皆さんは、やはりこの女神と同じような感じなのだろうか。
だったら、今後も会いたくはない。
絶対に仲良くできない自信がある。

「そういうことで、私とあなたは境遇的には同じってわけ。
わかった?」

連帯保証人でもいれば、何とかなったのだろうか。
勝手に押し付けられた天界の規定とやらも、それに俺が巻き込まれているのも何一つ納得できないわけだが。
こんな連中に日本人の魂の管理を任せて本当に大丈夫なのか不安しかない。

「なるほど。まぁでもだいたいわかったよ。
その契約のせいでアンタは俺の《スキルも目的も忘れた》って意識が逆流したんだな?
魂を共有してるから、俺の意識を魂レベルでダイレクトに受け取っちゃったわけだ?

で、他の天界の方々も一度決めた契約に関しては誰も口出しできない、と。
だから、アンタにも俺にもこの異世界に来た目的は誰も教えてくれないし、転生前に俺に授けた数々のチートスキルの事も伝えることはできない、と?」

「そうそう!あなた、見かけによらず理解力が高いのね!
褒めてあげるわ!私も全部忘れちゃったの!その意識も共有したの!
だから、あなたが何も覚えていないのもよく知ってるのよ!!」

彼女は心底嬉しそうな笑顔になり、何故か胸を張った。
何が楽しいの?

実は天界って、この異世界の事とかどうでも良いんじゃないのか?
本当に異世界を攻略したいのならば、そんな規定なんてどうでもいいだろ。
異世界の人達の命と規定のどっちが大切なんだよ。

それとも攻略難度が高すぎて諦めてるとか?
一度更地にして新しい世界でも作った方が良いとか考えてそう。
どちらにしても、人の命なんて籠の中の虫を管理している程度なのだろう。
そうとしか思えない。

実際に、この女もノルマがどうとか転生前に言ってたし。
結局、テンヤワンヤで苦労しているのは俺だけか…。

「解決策とかはないのか?」

「あったらこんなところに来てないわよ。
私をこんな目に合わせたアンタを、とりあえずぶっ飛ばさないと気が済まなかったんだから。」

ハッキリ言おう。
全部こちらのセリフである。

「いやいや、それがわかんねーよ。
この異世界に来る必要も意味もないだろ。マジで俺をシバくためだけにここに来たの?
そんなことをしてる暇があるなら、解決策の1つでも考える時間はあるだろ。
それともアレか?俺をシバいてもう満足したから天界に帰るのか?」

なぜ俺への憎しみを第一に動くのかこの女は。
どれだけ暇人なのか。

その悪感情1つで異世界に乗り込んでくる意味が分からない。
そもそも女神がこんな簡単に降臨できるのなら、俺みたいな転生者は必要ないだろう。
神が世界のすべてを解決すれば良いのだ。
前提がおかしくなってこないか?

「……。」

俺の問いに無視を決め込む自称女神。
ほんと何なのコイツ?

「無視してんじゃねーよ。答えろよ。
俺はこれでもメチャクチャ譲歩してやってんだぞ。」

本来ならビンタの1発でもしてやりたいんだ。
この状況なら、看護の母であるナイチンゲールも許してくれるはずである。
私が診るから殴りなさい、と言ってくれるはずだ。

「……あの。」

「なんだよ?」

急に塩らしくなる女神。
情緒不安定にもほどがある。

「話したら協力してくれる?」

「あぁ、協力するよ!って安易に言ったらまた変な契約が発動する…とかないよな?」

俺の警戒心はマックスになる。

「さすがにそんなのないし、するつもりもないわよ!
アンタ私のことを何だと思ってんのよ!!」

この期に及んで自分に信用があると思っているところが、真性のヤバさを感じる女である。
先日のテロッサの話を100回は聞かせてやりたい。
お前に信用という文字は1つもない、と。

「わかったよ。できるところは協力するって。
だいたい、俺はこの異世界を何とかしないといけないんだろ?
その範囲内ならな。」

俺がそういうと、意を決したかのようにまたしても溜め息をついた。

「あのね…。」

「うん。」

「笑わない?」

どちらかというと、イライラしてるよ。
早く言え。

「笑わないよ。なに?」

「うん…。私ね。」

そして、衝撃の言葉を発した。

「……堕とされたの。天界から。」

………。
なんだか微妙な空気が流れる。
え、どういうこと?

「……お、堕とされた…?」

聞き返す俺に、女神の目に怒りの炎が再燃したのが見えた。

「何度も言わせないでよ!!そうよ!
アンタの転生失敗の責任を取るために、直接私がこの異世界をなんとかしなくちゃいけなくなったの!!
この異世界を救うまでは天界に帰れないのよ!!!」

「…え?堕とされたってそういうこと?」

この子、堕天したってこと?
神様が地に堕とされるって、そういうことだよね。

「いやいやいやいや…ちょっと待て。
え、待て待て。うーん…えっと、え?じゃあアレか?」

俺は、絶対に彼女に言ってはいけないワードを言った。

「お前ってもう女神じゃないの?」

その瞬間、太陽フレアが爆発したかのような怒りの炎が俺に襲い掛かってきた。

「はぁあああああああああああ!!!??私は女神よ!!なんてこと言うのよ!!!
アイツらが勝手に私を堕としただけなの!!

実際に神気だってまだ使えるし!アンタだってさっき神気をぶち込まれたでしょ!?
神様以外がこんなのできるわけないでしょ!!!
他に誰ができるのよ!!言ってみなさいよ!!!」

完全に虎の尻尾を踏んでしまった…。
しかも、今のは完全に俺が悪い。

「いてぇえええ!!いたたたたたたた!
ちょ待て待て待て待て!悪かった!悪かったよ!!ゴメンて!!
お前すぐに手を出すクセをやめろマジで!!!」

「うぅううぅううううう…」

涙ながらに猛獣のように唸っている女神。
そんなんだから堕天するんだろ…と思ったが思うだけにした。
俺は反省をして次に活かせる男である。
この女と違って。

しかし、細身とは思えないくらいに信じられないほど力が強い。
もしかして、これも魔力とかスキルの影響なのだろうか?
そういや、裸足で俺を探し回ってたんだっけ…その割には足も綺麗だし。

ただこの女と一緒にいると、下手したら1日で身体がボロボロになる。
1から10までめんどくせぇ…。

「いやでも、そんな状況で俺に何ができるんだ?
天界とのコネクションなんて俺にはないぞ。」

俺はネゴシエーターではない。
何を期待しているのだろうか。

「いやそんなのあなたに求めてないから。
あのね、私とあなたの契約には色々なことが書いてたのよ。
その中には良い事も一杯あってね。」

そういや、転生前にそんなことも言ってたなぁ。

「その良い事の1つに、《天界との盟約》があるの。
これは、契約に書かれた異世界攻略の達成が叶った暁にはその女神と従者、この場合は私とあなたの事ね、つまり私とあなたは何でも願いを叶えてもらえるって約束事よ。」

「マジで!??」

大マジよ、と女神は言う。

俺は狂喜乱舞した。それもそうである。
この異世界攻略は、無報酬のボランティアみたいなものだと思っていたからだ。
何でそんな大事なことを俺に言わなかった?
いや、言ってたけど忘れてただけか。

「しかも、それぞれ叶えられる願いはあなたと私、それぞれ3つずつ。
攻略難度が最上位のこの異世界攻略には、それだけの価値があるの。
そして、この報酬の約束は未だに消えていない。」

「みみみみ…3つも!!?」

そんなにあるのかよ。
ヤバイ…何を願ったら良いのだろうか。
単純なもので、俄然とてつもないヤル気が出てきた。

「え、それって何でも叶うの…?」

「何でもよ。天界をナメんじゃないわよ。」

即答で言ってきやがった。
天界の皆様、先ほどまでの無礼な発言は全て撤回します。
天界すげぇ。

「でも、それって確証はあるのか?」

「あるわ。だって、堕とされた時に上司が言ってたんだから。
上から目線で。」

と、苦虫を噛み潰す顔で言った。
じゃあ間違いないな。うん。

「だからね、協力してほしいの。
私はこの異世界を攻略して、何としてでも天界に帰りたい。
そして、アイツらに復讐してやるの。」

もう絶対に悪魔だろこいつ。何で神様になれたの?
この異世界よりも先にコイツを何とかした方が良い。

「そうだな…。そういうことならまぁ良いか。
少なくとも、目指す方向は同じだろうしな。」

何より攻略達成時のメリットがデカすぎる。
正直、コイツと四六時中で一緒に行動するって考えただけでも寒気はするが。
まぁ協力関係なら何とかなるだろう。
天秤にかけてもお釣りがくるのだから、我ながら現金なものである。

「本当!?ありがとう!
私も頑張るから!これからよろしくね!」

文字通り、宙から降りてきた天使が微笑んでいるかのような魅力的な笑顔だった。
初めてこの笑顔を見た人間なら、この子が紹介する怪しいツボすら購入するかもしれない。
俺は絶対に騙されないが。

でも、こういう素直なところがきちんとあるなら、上手くやっていけるかも…。

「さっそくだけど、あなた情報収集してきてくれる?
あと食料も買ってきて。服もこの服じゃ目立つだろうから適当に選んできてよ。
大丈夫よ、あなたのセンスには期待はしてないから。
転生前もロクに友達も恋人もいなかったもんね。
私、そういう部分の理解はあるから安心して。

そういえば、私クツも揃える前に早々にここに堕とされちゃったから準備できなくて。
本当に天界のやり方って陰湿よねー…普通は待ってくれても良いじゃない?
まぁ今更文句を言っても仕方がないのだけれど。
でも絶対に復讐してやるんだからアイツら…うふふふふ。

あぁ、アンタもそろそろ服買いなさいよ?
いつまでそんな怪しい恰好してるのよ。
そんな目立つ格好だからすぐに私にも見つかるのよ。
バカなの?間抜けなの?それとも私に見つけてほしかったの?
まぁそういうことならやぶさかではないけども。

あ、そうだ!私も今日はここに泊まるからお金貸してくれない?」


……。

……………。


まぁそうだよな。なるほど。
この子もこの子なりに大変だったんだろう。
俺も、いきなりこの異世界に転生させられたから気持ちはわからないでもない。
誰かに甘えたくなったり、優しくしてもらいたくなったり…。

そんな彼女の気持ちを慮っていた俺は、最大限の敬意と敵意を込めて言い放つのであった。

「フザけんなぁあああああああ!!!!!!!!!!!」

宿屋中が振動するほどの罵声の中、俺は初めて女性と取っ組み合いのケンカをした。
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