俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

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第1章

油断と後悔と最凶の女

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わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、俺の事を狙っているらしい女の子の話を聞いて、足早にギルドへ逃亡中である。

「はぁ…本当に何なんだろうこの異世界ってやつは。
というか、何が起きてるんだ?」

俺は、歩きながら自分の周りで起きているよくわからないことを整理していた。
どうやら、金髪で金色の目のかわいらしい女の子は、自分が裸足であることなどお構いなしに全力疾走で血眼に俺を探し回っているらしい。
完全にバケモノである。

こういう状況になるほど、やっぱり自分の目的とチートスキルとやらを早く思い出さねば…という気持ちになる。
少なくとも、スキルや魔力の使い方さえわかればこういう状況も簡単に打破できるかもしれないのだ。
魔法が使える異世界で、前世と同じ身体能力しかない俺が他の冒険者と同じように活動するのは、完全に自殺行為である。

そのことを、ここに来てから既に何度も痛感している。
まだ1日しか経過していないというのに。

ギルドの手続きの準備が整ったら、さっそく俺のステータスを見てもらおう。
魔法やスキルの取得方法はわからないが、訓練や勉強で会得できる…とギルドのお姉さんことテロッサが言っていたはずである。
適性さえわかれば、俺が元々覚えていたチートスキル以外にも何かしらの魔法とか会得できるかもしれない。

そう考えながら、目の前にギルドの看板と入口が見えてきた時だった。
突然、後ろから誰かに声をかけられた。


────────────────────────


「あ、あの…!」

その声と勢いに、俺はスタンガンを押し当てられたような衝撃を受けた。

「おわっ!!びっ…びっくりした!」

背中に身体ごと誰かに体当たりされたような引き止められ方だった。
いてぇ!

「なにすんだ!誰だよ!?」

俺はあまりの突然のことに、相手に気を使うこともできずに振り向いた。
そこには、黒髪黒目の長髪の女の子が立っていた。

……。

本当に誰だ!?
そしてメチャクチャかわいかった。
もしかして、日本人?
いやまさか。

「あなた、シラズ・トータさんですよね?」

突然に名前を呼ばれ、俺は困惑した。

「そうだけど……え?
何で俺の名…。」

言い終わる前に、彼女は俺の腕に絡みついてきた。

「あぁ良かった!!やっと見つけましたわ!
私の想い人!ずっと探していましたのよ!!」

公衆の面前で、いきなり意味不明なことを言い出した。

「え、えぇえええ!!?
ちょ、キミはいったい…!」

俺の腕に絡みつきながら、嬉々として叫び続けている。
周りからも注目されており、さすがにやめてもらいたい!

だが、当の本人はそんなことお構いなしである。

「これほど誰かに会いたいと思ったことはございませんわ!!
えぇございません!!生まれてこの方本当に無かったわ!!
ああやっぱり神は偉大なのよ!!こんなに簡単に出会えるなんて!」

俺の腕の中、満面の笑みでずっと意味不明なことを叫び続けている。
細身の肉体にしては異常に力が強く、腕がモゲそうだ。
怖すぎる…!新手の宗教勧誘か?

「いやいやいや!!ちょっと待て!
アンタさっきから何を言って…!」

さすがにヤバイ女なのでは!?
……。

ヤバイ女…?

…………。

そう。
さっさと逃げるべきだったのだ。

この異世界で、俺に話しかけたい人間などいない。
なぜなら、俺は今日も黒のレインコートにジャージだからである。
俺への第一反応は、絶対に街の門番兵士のそれが正しい。
現代なら下半身を露出させてもおかしくない変質者スタイルの俺に、誰が好意を持つのか。

そして、初対面で俺の名前を知っている人間なんて者もいるわけがない。
俺は、この異世界に存在するはずのない人間なのだから。

俺の中の体液がマイナス100度になったかのように、一気に冷たい汗が噴き出してきた。
恐る恐る足元を見てみる。

……。

…彼女は、靴を履いていなかった。

服装は貴族が着るようなシュミーズドレス。
綺麗な黒髪黒目に目を奪われて、全くそちらに注意がいってなかった。
ヤ、ヤバイ!

「うふふふふ」

いつかどこかで聞いたような、気持ちの悪い笑い声をその女は発した。
そして、俺の耳元で囁いた。

「もう遅いわよ。」

突然、目の前の景色が万華鏡のように歪み、とてつもない立ち眩みに襲われた。

「ぐが…!こ、これは……!!?」

いつか経験したことがある…吐き気がする、頭が痛い、ダルイ…!
俺の頭の中で、何かがフラッシュバックしていくのがわかった。

この話し方、人の話を聞かない横暴さ、自分のことしか考えていない軽薄さ、そして目と髪色は違うがこの顔立ち……
まさか、まさか……

当然、俺は立っていられずその場で倒れてしまった。

「まぁまぁまぁ!!大変!
スミマセン!誰か休める場所はありませんか!?」

白々しく1人でミュージカルでも演じるかのようにその女は叫んだ。
周囲にいた散歩中の一般人やギルド関係者が、俺の側に寄ってきてテンヤワンヤの騒ぎになっていた。そこにはテロッサもいた。心配そうに駆け寄ってくれていた。

「あぁどうか助けてください!!私の大切な人なんです!
そうだ!彼が泊まっていた宿屋はどこかしら?
そこに運びましょうそうしましょう!!」

喧騒と薄れゆく意識の中で、その女が勝ち誇った顔で俺を見下しているのが見えた。
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