ディスマン短編集「指先をなぞる言葉」

ディスマン

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無自覚な無責任

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 私は、幸福に包まれている。私のその形を、歪んでいると、人は云います。だが、人の形は千差万別であるように、禍福もまたそうなのです。

 トップニュースでは、人気歌手の急逝が報道されていた。私はその人を知っているし曲も聞いたことがあるが、何より気になったのは原因ではなく死因でした。
 これは薄情なのだろうか。自分は特に何も思うことはありませんが、形状しがたく、絶妙な隙間を感じました。
 SNSの人々は、多様な表現ではありますが、それぞれ悲しみを綴っていました。これを愛と表すのは、歪んでいますでしょうか。それでも私は、涙と悲痛に囲まれる彼の命を美しいと感じました。
 彼らは、最後まで彼を好きでい続けたのです。
 私は趣味で音楽を作っているのですが、その時を境に、これまで以上に精を出すようになりました。独りよがりを辞めることにしたのです。人の心を掴んで動かすことに注力しようと思いました。
 言葉に音を乗せて、旋律で鼓膜と心臓を揺らす。そうして私は、顔も知らぬ多くの人々に愛されるようになりました。もちろん、私の作品も私自身もです。
 そうして数年が経った頃、昔よく聴いていたアーティストが殺人未遂を犯したと聞きました。ネット上では当然の批判が殺到しているのを対岸から眺めている。正義は我にありと、誰だお前はと言わずにはいれない人々が松明を投げつけていました。
 すると今度は、彼の作った素晴らしき傑作達も貶すようになっていったのです。愚かだと口に出さずにはいられません。かつては彼の音楽に酔っていた者達は、一転して酒ではなく麻薬に酔い始めました。なんて、無責任なのでしょう。恥辱の多い生涯を知らず知らずのうちに生きてきたに違いありません。それほどまでに、名も無き群衆は滑稽に映っていました。皮肉の効いた現実的コメディです。
 幾度も似たような光景を見てきた気がします。その度に、私は人を笑い、愛しく思ってきました。
 美しい人とは、卑しい群衆の中にいなければ輝いて見えないのです。
 光の中で光源を探すように、暗闇の中で黒いものを探すように、対極がなければ、美しさも、醜さも、善しも、悪しも実在しないのです。つくづく、私は彼らに教わらされました。
 私は何であれ、好きなものは好きです。これは当然であり、理屈の介入しない事実でもあります。ならば、一度好きになったものは、何があろうと最後まで好きであり続けるべきなのです。
 人は何かしらの責任や義務を果たして生きています。なのに、「無責任な好き」は戦後の闇市のように我が物顔で横行してしまっています。
 故に私は、好きになった責任をとらなければならないのです。それは罪悪ではなく、自分に対して嘘を吐く背信行為に他ならないのですから。
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