67 / 73
これからも。
67
しおりを挟むそれから一週間程して、伊吹くんは学校へ来た。
みんな心配していたから朝からずっとクラスメイトに囲まれていた。
伊吹くんは腎臓移植をすることになったらしい。
伊吹くんのお兄さんが20歳になったのを機に、提案されたそうだ。
移植はしないって決めてたらしいけど、今回はお兄さんの好意に甘えることにしたみたい。
昼休み、屋上で伊吹くんと2人きりで会う。
「手術怖くない?」
「めちゃくちゃ怖い。助けて新奈」
「手、握っててあげよっか」
冗談っぽく言ったのに。
「握ってて。ずっと」
そう言って手を差し出す伊吹くん。
私はその手をぎゅっと繋いだ。
「なんで、移植受けることにしたの?」
「えー、だって、新奈ともっといっぱいデートしたいし」
「デートならいつでもできるじゃん」
「だって透析の間会えないし。もっと一緒にいたい」
そんなことを目を見つめて言ってくるからドキッとする。
もう本当伊吹くんには敵わないなぁ。
「どんだけデートする気?」
照れ隠しで、こんな可愛げないことしか言えない自分とは大違いだ。
「えー、毎日?」
「…欲張りだよ」
「だって、新奈と恋人っぽいことしたいし」
「もうしてるじゃん」
「もっとだよ」
ああ、もう本当。
伊吹くんって甘え上手。
ドキドキしすぎて、どうにかなりそう。
「新奈のお弁当も食べたいし」
「げ。覚えたんだ」
料理は自信ないし、忘れてくれててよかったのに。
「忘れるわけないよ」
「…うん」
伊吹くんが私としたいことを語る度、胸がぎゅっと締め付けられる。
昔言った何気ない言葉も覚えていてくれた。
心が満たされていくのが分かる。
こんな感情が私にもあるんだって、伊吹くんのおかげで気がついた。
「俺、病気だと思って色々諦めてたけど、諦めなくていいんだなって新奈のかげで気がついたんだ」
「え?」
「だからもっと貪欲に生きようと思って」
「そっか」
私も伊吹くんのおかげで気づけたことたくさんあるよ。
伊吹くんのこと諦めないでよかった。
自分の気持ちに正直になれてよかった。
こんな目まぐるしい感情を抱くのは伊吹くんだけだよ。
「またしばらく入院になるけど…」
「うん…。寂しいけど待ってる」
「俺、寂しすぎて、手術逃げ出しちゃうかも」
「いや、本末転倒じゃん」
「だから、手術頑張れる何かちょうだい?」
「え、なにかって…」
伊吹くんは私の頬に手を添えた。
改めて向かい合って見つめられると、緊張で汗が滲む。
そのままゆっくり伊吹くんの顔が近づいてきて。
唇が触れた。
その時間がすごく長く感じて。
ぎゅっと瞑った目を少しずつ開けると、伊吹くんはこっちを見ていて。
それだけでドキドキする。
「…恥ずかしいから見ないで」
「なんで?もっと見せて」
伊吹くんはそう言ってまた唇を重ねた。
0
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。
そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、
死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。
「でも、子供たちの心だけは、
必ず取り戻す」
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。
それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。
これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて
設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。
◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。
ご了承ください。
斉藤准一 税理士事務所勤務35才
斎藤紀子 娘 7才
毒妻: 斉藤淳子 専業主婦 33才 金遣いが荒い
高橋砂央里 会社員 27才
山本隆行 オートバックス社員 25才
西野秀行 薬剤師 22才
岡田とま子 主婦 54才
深田睦子 見合い相手 22才
―――――――――――――――――――――――
❧イラストはAI生成画像自作
2025.3.3 再☑済み😇
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる