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初めての感情

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「夕惺くん!」
放課後、教室の入り口で俺を呼ぶ女子が立っていた。
あー、今朝告白してきた子だ。
あれ、名前なんだっけ?
返事をしてカバンを持って近づく。

「夕惺くん、一緒に帰ろう」
そうだった、付き合うことにしたんだった。

「ごめん、やっぱり今朝のなしにしてくんない?」
「え?どういう意味?」
「やっぱり付き合えない」


俺は初めて自分から振った。


「え、あ。そっか、分かった」
目の前の女子は笑顔でさらりとそう言って、すぐに立ち去ってしまった。

なんだ、結構あっけなかったな。
それもそうか。
告白も告白だったし。

「夕惺から振るなんて珍しいな」
後ろで聞いていた柾木。
「そうか?」
俺はとぼけた顔でそのまま教室を出た。

自分でもなんで振ったのか分からない。
気が付いたらもう口が動いていた。


「好きなやつでもできた?」
「そんなんじゃねーよ」
こいつの発言はいつも鋭い気がする。
俺にも分かっていないことを悟っているような。

「ま、いいんじゃね」
「何がだよ」
柾木と廊下を歩いていると、反対側の校舎に加ヶ梨先生が歩いている姿が見えた。


先生か。
これから毎日会える。


俺は学校の門のところで柾木と別れて、今日も図書館へ向かった。
いつもは適当に本を選ぶけど、今日はあの本が読みたい。
加ヶ梨先生と初めて会った時に、俺が持っていたあの本。

先生が好きって言ってたから、あの後借りて、俺も読んでみた。
外国の有名な小説で、翻訳されたものらしいけど、俺には難しすぎて全然話が分からなかった。
先生はこの本の何が好きなんだろう。
一度借りて返したその本をもう一度手に取り、椅子に座る。

集中して読み込んでいると
「里巳くんだよね?」
そう言って声をかけてきた人がいた。

顔を上げると、加ヶ梨先生で。
「あ」
間抜けな声が出てしまった。


「あの、違ってたらごめんなんだけど、ずっと前にここで1回会ってるよね?」

え。

先生は俺のこと、覚えててくれたんだ。
なぜだか胸がギューっとなるのが分かった。

でも俺は、「そうでしたっけ?」とぼけた返事をする。
あんなにも鮮明に覚えているのに。
とぼける意味なんてないのに。

「今日クラス入って、里巳くん見た時、なんか見た事あるかも?って思ってたの!」
先生は満面の笑みでそう言った。
また出た、先生のキラースマイル。

「先生、あんまり笑わない方がいいですよ」
「え?なんで?」

その笑顔は男を惹きつけてしまうから。
なんて絶対言えないけど。

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