上 下
29 / 78
台風のせい

*29

しおりを挟む
「里巳くん、傘っ」
そう言って玄関に置いてある傘を俺に渡してくれた。

下から俺の顔をのぞいてくる先生。
「今日は本当にありがとう」

そんな顔を向けられたら俺は…。

「先生、俺が帰った後、一人で大丈夫ですか?」
「え?」
「雷」


もっと先生といたい。
雷のせいにしてでも、なんでも。


もっと一緒に。


「もう大丈夫。生徒に心配かけちゃって情けないよね、ごめんね」
「生徒?」

そっか。
俺は先生の生徒だった。
先生のことが好きすぎてそんな事も忘れていた。

「じゃあ生徒が先生に、こんなことしたらおかしいですか?」
「え?」

先生が後退りをする間もないくらい。
俺は先生の頭の後ろに手をまわして、強く自分に引き寄せて、無理やりキスをした。

先生は抵抗してる。

でも放してあげない。
放さないから。



ずっと、こうしたかった。
でもできない自分にイライラして、先生をずっと避けていた。
それはある意味正しかった。

だって、先生を目の前にすると、自分の感情を抑えきれなくなる。
ダメだって分かっていても先生が欲しくなってしまう。


だからごめんね、先生。

もう少しだけ。
今だけでいいから。
もう少しだけ、先生を独り占めさせて。



俺は無我夢中だった。
やっと先生に触れることができた。
嬉しかった。

だけど先生は違ってて。
突然、無我夢中だった俺の唇を噛んだ。

「っいって…」

口の中でほんのりと血の味がにじむ。
唇を離した隙に先生は俺と距離をとって、俺を睨みつける。

「なにするの…?」

先生はひどく怒ってるみたいで。
でもそんな先生すらも愛おしいと思ってしまう俺は、たぶんちょっとおかしい。


「ごめんなさい」

別に先生を傷つけたい訳じゃないんだ。
ただ、先生に触れたかった。
それだけ。

「今の、忘れて下さい」

本当はそんなこと1ミリも思っていない。
なんならずっと俺のことを考えててほしい。
俺を男として意識してほしい。

でもそんな事言ったら先生は困ると思うから。
俺は心にもない言葉を言い残して先生のアパートを後にした。
それからどうやって自分の家に帰ったのかは覚えていない。

気がついたら朝で。
外で吹き付ける風の音が耳についてうるさくて、耳を塞いだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【短編】二人だけの秘密の関係

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:7

明らかに不倫していますよね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:113

先日、あなたとは離婚しましたが?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,242pt お気に入り:723

婚約者が浮気相手を妊娠させました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,050pt お気に入り:416

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:48,991pt お気に入り:4,899

転生王子はダラけたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,969pt お気に入り:29,332

愛はないので離縁します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,664pt お気に入り:571

処理中です...