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第三話 流れ星と願い事
流れ星と願い事③
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「今日はこうちゃんも、ゆう君もお店を手伝ってくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「そんなことないよ。それより、こんなに大変なのにずっと手伝いにこなくてごめん、ばあちゃん」
「大丈夫だよ。こうちゃんだって忙しいんだから。こうやって秩父に帰ってきてくれるだけで、じいちゃんとばあちゃんは嬉しいんだから」
「そっか……」
空は茜色に染まり、烏が巣に帰るのだろうか。群れをつくって飛んでいる。真っ赤に染まった入道雲もとても綺麗だ。遠くからはヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。
「蚊がくるから蚊取り線香を付けて、扇風機を回しておくかんね。夕飯はもう少し待ってて。今日は秩父の名物の冷やし汁にしようかな」
「わかった。ばあちゃん、ありがとう」
「いいんだよ。ばあちゃんは、こうちゃんがいてくれるだけで嬉しいんだから」
祖母は蚊取り線香に火をつけてから、台所へと行ってしまう。風鈴が扇風機の風に揺れて、チリンチリンと涼やかな音をたてた。
「秩父は落ち着く……」
縁側に寝転んで目を閉じると、扇風機の風が火照った体を冷やしてくれる。ヒグラシの鳴き声と、風鈴の音色が心地よかった。
「琥珀、スイカ持ってきたよ。一緒に食べよう」
「え? スイカ? わぁ、超美味しそうじゃん!」
「だろう? うちの畑で穫れたんだ」
皿に並べられたスイカを持ち、悠介が縁側からひょっこり顔を出す。悠介の家の畑で獲れたというスイカは、真っ赤でとても綺麗な色をしている。切る前はきっとバスケットボールくらいの大きさがあったかもしれない。
「凄い、こんな立派なスイカが穫れるんだ!」
「そうだよ。夏の風物詩だ。食べてみてよ」
「うん。いただきます」
俺は大きな口を開けてスイカを頬張る。シャリッという音がした後、甘い味が一気に口の中に広がっていく。
「え? スイカってこんなに甘かったの?」
「そうだよ? スーパーで売ってるスイカと全然違うだろう?」
「うん。めちゃくちゃ美味しい!」
俺は目を輝かせながら、もう一口スイカにかじりついた。
口に残った種をひとつひとつ口から出して皿に並べていると、隣で悠介がプップッと口から種を庭に飛ばしている。「は? 汚くね?」と文句を言ってやろうかとも思ったけれど、それを見ているとなんだか楽しそうに思えて、ウズウズしてきてしまう。
「よし、俺だって」
悠介の真似をして、口からスイカの種のプッと吹き出すと、すぐ近くに落ちてしまいガッカリしてしまった。
「琥珀下手っくそだなぁ。こうやるんだよ」
悠介がプッと種を吹き出すと、視線では追いきれないほど遠くへと飛んで行った。
「俺に勝とうなんて、まだまだ早いよ」
「なんだか悔しいなぁ」
「ふふっ。じゃあ、また一緒にスイカを食べよう。畑にはまだまだたくさんスイカがなってたから」
「うん。楽しみだなぁ」
俺はシャリッともう一口スイカを頬張る。悠介と、こうやって何となく過ごす時間がたまらなく好きだ。何も飾ることのない、素の自分でいられるような気がするから。
「ふふっ。琥珀、頬っぺたにスイカの種がついてるよ」
「マジで?」
「本当に子供みたいだな」
悠介がそう笑いながら、俺の顎をクイッと指先で持ち上げる。自然と上を向かされた俺は、至近距離で悠介と視線が絡み合った。
「あ……」
「ほら、とれた」
俺は何も言えず、悠介の整った顔を見つめることしかできない。頬が熱くなって、悠介の真っ黒な瞳に吸い込まれそうになってしまった。
「あ、琥珀一番星だ」
「ほ、本当だ。超綺麗だね」
ずっとこんな穏やかな時間が過ぎていけばいいのに……。俺は心の中でそっと祈ってしまう。それ程、悠介と過ごす時間は心地よかった。
「ガキ扱いばっかして、第一印象は、あまりよくなかったけどな」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない」
照れくさくなった俺が顔を背けると、悠介の筋張った指が俺の頬にそっと触れた。その瞬間、俺の体がピクンと跳ね上がる。
「な、なんだよ、突然触るなよ。びっくりするだろう」
「ねぇ、琥珀。今日は一緒に寝ようか?」
「はぁ? なんだよ、急に。だから俺はガキじゃないって言ってんだろう? 最近ようやくガキ扱いしなくなったと思ったのに……」
悠介の手を振り払おうとすると、逆に掴まれてしまう。その予期せぬ行動に、俺の鼓動がトクンと跳ねた。
「やっぱり一人じゃ寝られないんじゃない? 最近いつも欠伸してるし、目の下に隈だってあるよ」
「東京で色々あったから、ちょっと寝つきが悪いだけだよ。しかも、ここん家異常に広いし、遺影とか飾ってあるし……仏壇とかも何だか怖いじゃん? だから寝られないだけ」
「ふふっ。確かに。そういうの怖いよね」
広い屋敷の中を見渡す俺を見て、悠介がクスクスと笑う。
「でもさ……」
ふわりと笑った悠介が、そっと俺の髪を撫でてくれた。
「きっとそれだけじゃないでしょう?」
「だからさぁ……」
「いいじゃん。俺だって琥珀と寝たい。飯食ったら、また布団持ってくるね」
「はぁ、わかった……」
悠介は普段は素直なのに、こういうときは強情だ。俺は渋々了承してしまう。それに、本当はその心遣いが少しだけ嬉しかった。でも素直じゃない俺は、口が裂けてもそんなことは言えないけれど……。
「楽しみだなぁ。色々話しようね」
「恋バナ、とか?」
「あ、恋バナだけはダメ。恥ずかしいから」
「なんで? 俺にも話せない話とかあるの?」
「琥珀だから話せないんだよ! いいからもうこの話は終わり!」
「プッ! なんだよ、それ」
真っ赤な顔をしながら両手を目の前で振る悠介が可笑しくて、俺はつい吹き出してしまった。
「そんなことないよ。それより、こんなに大変なのにずっと手伝いにこなくてごめん、ばあちゃん」
「大丈夫だよ。こうちゃんだって忙しいんだから。こうやって秩父に帰ってきてくれるだけで、じいちゃんとばあちゃんは嬉しいんだから」
「そっか……」
空は茜色に染まり、烏が巣に帰るのだろうか。群れをつくって飛んでいる。真っ赤に染まった入道雲もとても綺麗だ。遠くからはヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。
「蚊がくるから蚊取り線香を付けて、扇風機を回しておくかんね。夕飯はもう少し待ってて。今日は秩父の名物の冷やし汁にしようかな」
「わかった。ばあちゃん、ありがとう」
「いいんだよ。ばあちゃんは、こうちゃんがいてくれるだけで嬉しいんだから」
祖母は蚊取り線香に火をつけてから、台所へと行ってしまう。風鈴が扇風機の風に揺れて、チリンチリンと涼やかな音をたてた。
「秩父は落ち着く……」
縁側に寝転んで目を閉じると、扇風機の風が火照った体を冷やしてくれる。ヒグラシの鳴き声と、風鈴の音色が心地よかった。
「琥珀、スイカ持ってきたよ。一緒に食べよう」
「え? スイカ? わぁ、超美味しそうじゃん!」
「だろう? うちの畑で穫れたんだ」
皿に並べられたスイカを持ち、悠介が縁側からひょっこり顔を出す。悠介の家の畑で獲れたというスイカは、真っ赤でとても綺麗な色をしている。切る前はきっとバスケットボールくらいの大きさがあったかもしれない。
「凄い、こんな立派なスイカが穫れるんだ!」
「そうだよ。夏の風物詩だ。食べてみてよ」
「うん。いただきます」
俺は大きな口を開けてスイカを頬張る。シャリッという音がした後、甘い味が一気に口の中に広がっていく。
「え? スイカってこんなに甘かったの?」
「そうだよ? スーパーで売ってるスイカと全然違うだろう?」
「うん。めちゃくちゃ美味しい!」
俺は目を輝かせながら、もう一口スイカにかじりついた。
口に残った種をひとつひとつ口から出して皿に並べていると、隣で悠介がプップッと口から種を庭に飛ばしている。「は? 汚くね?」と文句を言ってやろうかとも思ったけれど、それを見ているとなんだか楽しそうに思えて、ウズウズしてきてしまう。
「よし、俺だって」
悠介の真似をして、口からスイカの種のプッと吹き出すと、すぐ近くに落ちてしまいガッカリしてしまった。
「琥珀下手っくそだなぁ。こうやるんだよ」
悠介がプッと種を吹き出すと、視線では追いきれないほど遠くへと飛んで行った。
「俺に勝とうなんて、まだまだ早いよ」
「なんだか悔しいなぁ」
「ふふっ。じゃあ、また一緒にスイカを食べよう。畑にはまだまだたくさんスイカがなってたから」
「うん。楽しみだなぁ」
俺はシャリッともう一口スイカを頬張る。悠介と、こうやって何となく過ごす時間がたまらなく好きだ。何も飾ることのない、素の自分でいられるような気がするから。
「ふふっ。琥珀、頬っぺたにスイカの種がついてるよ」
「マジで?」
「本当に子供みたいだな」
悠介がそう笑いながら、俺の顎をクイッと指先で持ち上げる。自然と上を向かされた俺は、至近距離で悠介と視線が絡み合った。
「あ……」
「ほら、とれた」
俺は何も言えず、悠介の整った顔を見つめることしかできない。頬が熱くなって、悠介の真っ黒な瞳に吸い込まれそうになってしまった。
「あ、琥珀一番星だ」
「ほ、本当だ。超綺麗だね」
ずっとこんな穏やかな時間が過ぎていけばいいのに……。俺は心の中でそっと祈ってしまう。それ程、悠介と過ごす時間は心地よかった。
「ガキ扱いばっかして、第一印象は、あまりよくなかったけどな」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない」
照れくさくなった俺が顔を背けると、悠介の筋張った指が俺の頬にそっと触れた。その瞬間、俺の体がピクンと跳ね上がる。
「な、なんだよ、突然触るなよ。びっくりするだろう」
「ねぇ、琥珀。今日は一緒に寝ようか?」
「はぁ? なんだよ、急に。だから俺はガキじゃないって言ってんだろう? 最近ようやくガキ扱いしなくなったと思ったのに……」
悠介の手を振り払おうとすると、逆に掴まれてしまう。その予期せぬ行動に、俺の鼓動がトクンと跳ねた。
「やっぱり一人じゃ寝られないんじゃない? 最近いつも欠伸してるし、目の下に隈だってあるよ」
「東京で色々あったから、ちょっと寝つきが悪いだけだよ。しかも、ここん家異常に広いし、遺影とか飾ってあるし……仏壇とかも何だか怖いじゃん? だから寝られないだけ」
「ふふっ。確かに。そういうの怖いよね」
広い屋敷の中を見渡す俺を見て、悠介がクスクスと笑う。
「でもさ……」
ふわりと笑った悠介が、そっと俺の髪を撫でてくれた。
「きっとそれだけじゃないでしょう?」
「だからさぁ……」
「いいじゃん。俺だって琥珀と寝たい。飯食ったら、また布団持ってくるね」
「はぁ、わかった……」
悠介は普段は素直なのに、こういうときは強情だ。俺は渋々了承してしまう。それに、本当はその心遣いが少しだけ嬉しかった。でも素直じゃない俺は、口が裂けてもそんなことは言えないけれど……。
「楽しみだなぁ。色々話しようね」
「恋バナ、とか?」
「あ、恋バナだけはダメ。恥ずかしいから」
「なんで? 俺にも話せない話とかあるの?」
「琥珀だから話せないんだよ! いいからもうこの話は終わり!」
「プッ! なんだよ、それ」
真っ赤な顔をしながら両手を目の前で振る悠介が可笑しくて、俺はつい吹き出してしまった。
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