あなたのお気に召すままに

舞々

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Episode7 我儘言って、甘えてもいいですか?

我儘言って、甘えてもいいですか?②

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 時々訪れる、小児科病棟の繁忙期。


 季節の変わり目は喘息が悪化したり、体調を崩す子供がとにかく多い。
 更に、インフルエンザも流行り始める時期でもあり、それが誘因となり、肺炎になってしまい入院となる子供も多い。
 目が回る、なんていうレベルではない。疲労で、倒れそうになる。


 それでも成宮先生は『武士は食わねど高楊枝』と言わんばかりに、涼しい顔をしながら病棟中を飛び回っている。
 ストイック過ぎる彼は、自分を追い詰めることで更なる高みへと登って行くタイプなのだ。


 どんなに忙しくても、睡眠時間が短くても、それを他人に見せることなんてないし、弱音なんて聞いたことがない。
 いつもコーヒーの清々しい香りと、仄かなミントの香りを残し、颯爽と働いている。
 俺はその横で、半べそをかいているんだけど……。


「水瀬、大丈夫か?」
「はひ……」
「全然駄目そうだな」
 そう笑いながら、俺の額に冷たいコーラを当ててくれる。
 さり気なく俺の好物を差し入れしてくれる、そんな優しさが「よし、まだまだ頑張るぞ」っていうやる気に繋がった。


 そういった期間は、俺と成宮先生は、同じ職場の上司と部下という関係に戻ることとなる。
 恋人同士の甘ったるい時間を過ごす暇がないっていうのもあるんだけど、前みたいに職場の人たちに知られたら面倒くさいっていう思いも強かった。


 だから、一緒にいても、俺達は上司と部下。それ以上でも、それ以下でもない。
 そして、成宮先生に触れることも、ほとんどなくなる。
 勤務時間がローテーションなことに加え、残業や当直の回数が増えてくれば、自然とすれ違うことが増えてくる。


「ただいま」
 家に帰っても「おかえり」って出迎えてくれる人はいない。成宮先生は、今日は当直日だ。
 自分の為だけにご飯を作るのも面倒だから、コンビニ弁当で済ませてしまうことが多い。
 一人で広々と風呂に入り、大きなベッドに大の字になって泥のように眠る。
 そんな生活が、もう何週間も続いていた。


 かと言って、寂しいか寂しくないかと言えば、めちゃくちゃ寂しい。
 バタバタと慌ただしく動いてる時には、そんなことを考えてる暇なんてない。けど、ふと一人になった瞬間や眠りに落ちる瞬間に、無性に寂しくなる。
 人肌が恋しくなってしまうのだ。
     

 けど、そんなワガママを言ったら、恋人に迷惑をかけてしまうのなんてわかりきっているから、俺はグッと我慢をする。
 若きスーパードクターの恋人でいるためには、彼を困らせたらいけない。
「大丈夫だ、葵。こんな寂しい思いなんて、朝になれば消えてくから……」


 既読スルー王から珍しくきた、『おやすみ』っていうメールに、『おやすみなさい』と返信した。
 『浮気なんかすんなよ』
 素直になれない成宮先生らしい愛情表現が、泣きたくなるくらい愛おしい。
「浮気なんか、できるわけないじゃん。こんなにもあなたが好きなのに……」


『会いたい』っていうメッセージを、送りたくなる気持ちを必死に押し殺して……。
 布団に潜り込んで目を閉じた。


「上司としてじゃなくて、恋人の成宮先生に会いたい……」
 俺の我儘な呟きなんて、暗闇に掻き消されてしまえばいい。
 弱い自分が情けなかった。


 なんでこんなに惚れてしまったのだろう。朝早く、職場に向かう途中で考える。
 こんなはずではなかった。
 当初の予定では、そんなに長続きしないだろうと安易に考えていたのだ。だって、そもそもがスペックが何から何まで、別次元の存在だから。
 俺みたいな安い玩具、直ぐに飽きるだろうって安易に考えていた。


 それに成宮先生が『鳳凰ほうおう』なら、俺はまだ孵化さえしていない『ウズラの卵』。天と地の差さえある。
 それでも数えてみたら、もう一年以上付き合っている。……にも関わらず、一向に好きっていう思いが落ち着いてくれないのだ。


 毎日毎日、確実に、昨日より好きになっている。成宮先生を好きだっていう思いに、最大値なんかない。
 毎日が好きのレコード更新中。


「なんなんだよ、これ」
 元々、情熱的なタイプではない俺は、戸惑いしかない。
 大きな溜め息をつきながら、重たい足取りで職場へと向かった。

 

 
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