54 / 149
Episode10 いい子いい子してほしい
いい子いい子してほしい③
しおりを挟む
「何やってんだよ?」
「……え……?」
突然不機嫌そうな声が、頭上から聞こえてきた。
俺はその声に、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受ける。
「チッ。もう来たのかよ……いいとこだったのに……」
智彰が舌打ちをしながら声がしたほうを向けば、眉間に皺を寄せ、怒りを露にした成宮先生が立っていた。
「もっとゆっくり会議してろよな……」
「うっせぇよ。葵が心配だから急いで帰ってきたら案の定……お前がいる病棟に葵を置いてくんじゃなかった」
そう言いながら、ズカズカと処置室へと入ってくる成宮先生。診察台にちょこんと座っている俺を睨みつける。
「…………」
その視線に恐怖を感じた俺は、声すら出せなくなってしまった。
「彼氏がいない間に、他のDomの誘惑にホイホイ乗りやがって。お前はイケないSubだ。最低だぞ」
「な、なるみやせんせ……」
「最低だよ」
俺は何も言い返せないまま、黙って俯いた。
まるで、肌を切り裂くようなピリピリと張り詰めた空気が部屋の中を包み込む。その雰囲気に耐えきれずに、俺はギュッと目を閉じた。
怖い……怖い……!
その沈黙を、成宮先生の鋭い声が切り裂いた。
「葵、Kneel!」
「え?」
「Kneelだって言ってんだよ! 葵!」
成宮先生の怒りを含んだ声が、ビリビリとその場の空気を振動させるかのように低く響き渡る。
もうそこにいるのは、いつもの優しい成宮先生ではなく、怒りに我を見失ったDomだった。
「来い。Kneelだ」
「…………」
「おいで、葵。お前の飼い主は俺だ」
俺はそっと診察台を降りると、静かに成宮先生の足元にしゃがみ込んだ。まるで、叱られて耳と尻尾を垂らした犬のように。
サラッと伸びた髪が顔にかかり、成宮先生が見えなくなってしまった。
「Good boy。良くできたな」
成宮先生は未だに納得いかないといった表情ではあるが、優しく俺の頭を撫でてくれる。
「いい子だ、葵」
「千歳さん……」
「良くできました」
その言葉に、俺の顔が一瞬で笑顔になる。それはまるで、大輪の向日葵が咲いた瞬間のようだった。
Domに褒められ、認められたSubは、心が幸せで満たされていく。嬉しくて嬉しくて……強い愛情を感じるのだ。
「何て幸せそうな顔をしてんだよ……」
智彰が悔しそうに唇を噛み締めている。
「ただな……」
「痛いッ!」
突然近くにしゃがみ込んできた成宮先生に、強引に唇を奪われる。まるで噛み付くかのような口付けに、俺は小さな悲鳴を上げた。
「俺以外のDomに簡単に体を触らせた愚かなSubには、お仕置きが必要だよ?」
「ごめんなさい……許して……」
「もう遅いよ。お前の彼氏がどんなにヤキモチ妬きで、どんだけお前に惚れてるかなんて、葵が一番わかってるよな?」
まるで蛇のように、ねっとりとした視線に捉えられてしまえば、俺の背中をゾクゾクっと甘い電流が駆け抜けて行った。
期待と不安……相反する感情に心の中が掻き乱されていく。
目の前のDomが恐ろしくて仕方ないのに、それ以上に『お仕置き』をされたくて仕方ないのだ。
こんなにも立派なDomに叱られたい、虐められたい。本能がそれを求めてしまっている。強い強い衝動が全身を突き抜けて行った。
自然と体は火照り、呼吸が浅くなる。興奮からか、目には生理的な涙が浮かんだ。
「俺……千歳さんに、お仕置きされたい」
「だろうな? お前は俺に虐められるのが大好きだから」
そのまま床にしゃがみ込んでいた俺を、ふわりと横抱きで抱え上げた。
「そういう訳だからさ、智彰。俺ら帰るから」
「はいはい。分かりました」
「それからさ……」
「まだ何かあんのかよ?」
智彰がクルリと椅子の向きを変えて、成宮先生に背を向けようとした瞬間……。
ゾクッと俺の背筋を冷たい汗が流れて行くのを感じた。
体中の血液が一気に凍り付いて、体温がスッときえていく……そんな感覚。
心臓が止まってしまうのではないか? そんな恐怖に襲われた。
な、なんだ……これ……。
まるで、狼に崖っぷちまで追い詰められたかのような、威圧感と絶望感。
俺の体は凍り付いてしまったかのように、指一本動かせなくなってしまった。
そんな気配を智彰も感じたのか、思わず成宮先生を振り返る。
その場が異様な空気に包まれた。
「なッ……⁉ 兄貴……」
智彰が言葉を失い、無意識にだろう。成宮先生と距離をとる。
「ちと、せ、さん……」
俺が恐る恐る顔を上げると、そこには、静かに怒りを称えた成宮先生が智彰を睨みつけていた。
その眼光だけで、智彰の体はまるで鎖で雁字搦めにされてしまったかのように、動かなくなってしまう。
俺はあまりの威圧感に、成宮先生に抱えられたまま全身に力を込めた。
体がガタガタと音をたてて震え、もう一度顔を上げることもできない。
これがGlare……。
Glareとは、自分以外のDomに対して、威嚇、牽制のためにDomが行う行為……。簡単に言えば、Dom同士の力の競り合いだ。
でも、成宮先生のGlareに太刀打ちすることができるDomが、そうそういるはずなんてない。
智彰は、成宮先生のあまりにも強いGlareに言葉を発すことさえできないでいる。
「もう、葵にはちょっかい出すんじゃねぇぞ?」
地を這うような低い声に、智彰の顔が引きつっている。
こんなGlareを食らっておきながら、俺に手を出すなんて……余程の馬鹿でない限り出来るはずがないだろう。
「こいつは俺のものだから」
「……わ、わかった」
智彰がなんとか声を絞り出せば、成宮先生がいつものように不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあまたな、智彰。お疲れ」
「……あぁ。お疲れ」
智彰は顔を強張らせながらも、俺と成宮先生にヒラヒラと手を振っていた。
「……え……?」
突然不機嫌そうな声が、頭上から聞こえてきた。
俺はその声に、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受ける。
「チッ。もう来たのかよ……いいとこだったのに……」
智彰が舌打ちをしながら声がしたほうを向けば、眉間に皺を寄せ、怒りを露にした成宮先生が立っていた。
「もっとゆっくり会議してろよな……」
「うっせぇよ。葵が心配だから急いで帰ってきたら案の定……お前がいる病棟に葵を置いてくんじゃなかった」
そう言いながら、ズカズカと処置室へと入ってくる成宮先生。診察台にちょこんと座っている俺を睨みつける。
「…………」
その視線に恐怖を感じた俺は、声すら出せなくなってしまった。
「彼氏がいない間に、他のDomの誘惑にホイホイ乗りやがって。お前はイケないSubだ。最低だぞ」
「な、なるみやせんせ……」
「最低だよ」
俺は何も言い返せないまま、黙って俯いた。
まるで、肌を切り裂くようなピリピリと張り詰めた空気が部屋の中を包み込む。その雰囲気に耐えきれずに、俺はギュッと目を閉じた。
怖い……怖い……!
その沈黙を、成宮先生の鋭い声が切り裂いた。
「葵、Kneel!」
「え?」
「Kneelだって言ってんだよ! 葵!」
成宮先生の怒りを含んだ声が、ビリビリとその場の空気を振動させるかのように低く響き渡る。
もうそこにいるのは、いつもの優しい成宮先生ではなく、怒りに我を見失ったDomだった。
「来い。Kneelだ」
「…………」
「おいで、葵。お前の飼い主は俺だ」
俺はそっと診察台を降りると、静かに成宮先生の足元にしゃがみ込んだ。まるで、叱られて耳と尻尾を垂らした犬のように。
サラッと伸びた髪が顔にかかり、成宮先生が見えなくなってしまった。
「Good boy。良くできたな」
成宮先生は未だに納得いかないといった表情ではあるが、優しく俺の頭を撫でてくれる。
「いい子だ、葵」
「千歳さん……」
「良くできました」
その言葉に、俺の顔が一瞬で笑顔になる。それはまるで、大輪の向日葵が咲いた瞬間のようだった。
Domに褒められ、認められたSubは、心が幸せで満たされていく。嬉しくて嬉しくて……強い愛情を感じるのだ。
「何て幸せそうな顔をしてんだよ……」
智彰が悔しそうに唇を噛み締めている。
「ただな……」
「痛いッ!」
突然近くにしゃがみ込んできた成宮先生に、強引に唇を奪われる。まるで噛み付くかのような口付けに、俺は小さな悲鳴を上げた。
「俺以外のDomに簡単に体を触らせた愚かなSubには、お仕置きが必要だよ?」
「ごめんなさい……許して……」
「もう遅いよ。お前の彼氏がどんなにヤキモチ妬きで、どんだけお前に惚れてるかなんて、葵が一番わかってるよな?」
まるで蛇のように、ねっとりとした視線に捉えられてしまえば、俺の背中をゾクゾクっと甘い電流が駆け抜けて行った。
期待と不安……相反する感情に心の中が掻き乱されていく。
目の前のDomが恐ろしくて仕方ないのに、それ以上に『お仕置き』をされたくて仕方ないのだ。
こんなにも立派なDomに叱られたい、虐められたい。本能がそれを求めてしまっている。強い強い衝動が全身を突き抜けて行った。
自然と体は火照り、呼吸が浅くなる。興奮からか、目には生理的な涙が浮かんだ。
「俺……千歳さんに、お仕置きされたい」
「だろうな? お前は俺に虐められるのが大好きだから」
そのまま床にしゃがみ込んでいた俺を、ふわりと横抱きで抱え上げた。
「そういう訳だからさ、智彰。俺ら帰るから」
「はいはい。分かりました」
「それからさ……」
「まだ何かあんのかよ?」
智彰がクルリと椅子の向きを変えて、成宮先生に背を向けようとした瞬間……。
ゾクッと俺の背筋を冷たい汗が流れて行くのを感じた。
体中の血液が一気に凍り付いて、体温がスッときえていく……そんな感覚。
心臓が止まってしまうのではないか? そんな恐怖に襲われた。
な、なんだ……これ……。
まるで、狼に崖っぷちまで追い詰められたかのような、威圧感と絶望感。
俺の体は凍り付いてしまったかのように、指一本動かせなくなってしまった。
そんな気配を智彰も感じたのか、思わず成宮先生を振り返る。
その場が異様な空気に包まれた。
「なッ……⁉ 兄貴……」
智彰が言葉を失い、無意識にだろう。成宮先生と距離をとる。
「ちと、せ、さん……」
俺が恐る恐る顔を上げると、そこには、静かに怒りを称えた成宮先生が智彰を睨みつけていた。
その眼光だけで、智彰の体はまるで鎖で雁字搦めにされてしまったかのように、動かなくなってしまう。
俺はあまりの威圧感に、成宮先生に抱えられたまま全身に力を込めた。
体がガタガタと音をたてて震え、もう一度顔を上げることもできない。
これがGlare……。
Glareとは、自分以外のDomに対して、威嚇、牽制のためにDomが行う行為……。簡単に言えば、Dom同士の力の競り合いだ。
でも、成宮先生のGlareに太刀打ちすることができるDomが、そうそういるはずなんてない。
智彰は、成宮先生のあまりにも強いGlareに言葉を発すことさえできないでいる。
「もう、葵にはちょっかい出すんじゃねぇぞ?」
地を這うような低い声に、智彰の顔が引きつっている。
こんなGlareを食らっておきながら、俺に手を出すなんて……余程の馬鹿でない限り出来るはずがないだろう。
「こいつは俺のものだから」
「……わ、わかった」
智彰がなんとか声を絞り出せば、成宮先生がいつものように不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあまたな、智彰。お疲れ」
「……あぁ。お疲れ」
智彰は顔を強張らせながらも、俺と成宮先生にヒラヒラと手を振っていた。
5
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる