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Episode11 野良猫みたいな恋
野良猫みたいな恋⑦
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「マジであいつウケるよなぁ……」
久しぶりに成宮先生が俺の隣で笑ってる。
本当に他愛のない話なのに本当に楽しそうで。何がそんなに楽しいんだろう? って疑問に思う。
俺は採血データを眺めていた手を止めて、そんな成宮先生の話に耳を傾けた。子供みたいに笑う姿に、やっぱり胸が締め付けられる。
忙しい勤務の中、こうやって成宮先生と処置室で過ごす時間が、今の俺にはとても大切に感じられた。
「なぁ橘、聞いてんのか?」
「……え?」
一瞬、俺の中の時が止まった。
「あっ、ごめん葵だった」
成宮先生は悪びれる様子もなく俺に謝る。
本当に俺の気持ちなんてわかってないんだな……って改めて感じた瞬間だった。
「なぁ葵……なんかあったのか? 最近お前おかしいぞ?」
完全に動きがフリーズしている俺の頬に、成宮先生がそっと手を当てる。
本当に心配してくれている表情。
きっと成宮先生は、本当に無意識に、悪気もなく俺と橘先生を呼び間違えたのかしれない。
けど、恋人と友達の名前を間違ることなんてあるのか?
そうも思うけど、それだけ二人でいる時間が長いのだろう。
俺との時間より、橘先生との時間の方が濃厚で印象に残ってるのかもしれない。
悔しいなって思う。
もっと自分のことだけを一生懸命見てて欲しいって、満たされない俺が子猫みたいに鳴いている。
俺は人懐こい猫のように喉をゴロゴロ鳴らすことなんてできない。
でも本当は撫でて欲しくて、草むらでこっそり人間の様子を窺ってる。まるで野良猫のように……。
だから、あなたから近づいてきて草むらから引っ張り出してよ。
あたなに、頭を撫でて欲しいんです。
大きくて温かな手でこの体に触れて、柔らかくて甘い唇でキスして欲しい。
「可愛いな」って囁いて欲しい。
成宮先生の全てが欲しい。
心も体も。過去も未来も……。
全部が欲しくて堪らない。
「ねぇ、キスして?」
成宮先生だけに聞こえるように囁く。
でも、この人がどう出るかなんて想像もつかない。「馬鹿」って、軽く叩かれて怒られるかもしれない。呆れられて無視されるかもしれない。
だって、今この部屋の近くにはナースステーションがあって、たくさんのスタッフがいる。もちろん橘先生もいるだろう。
先程から、橘先生が楽しそうに看護師さんと話す声が聞こえてきた。
こんなくだらないワガママ、叶うはずなんかない。わかりきってるけど、なんとなく言いたかった。
とにかくワガママを言いたかったんだ。そうやって自分の存在を主張したかったから。
「今、ここでか?」
成宮先生の切れ長の目が見開かれた。
「はい、今ここで……」
そんな戸惑いで揺れる成宮先生の視線を、俺は真正面から受け止めた。
「駄目ですか?」
更に追い打ちをかけて、成宮先生の心を揺さぶる。
「成宮先生、お願いですから……」
みんながいたって構わない。俺は成宮先生に抱き着いた。
その瞬間、成宮先生の体が強張る。
「何があったんだ? お前、この前からおかしいぞ?」
「何もないです。ただ成宮先生にキスして欲しいだけ」
「みんながいるんだけど……?」
困ったように成宮先生が笑う。
遠くから、成宮先生の名前を呼ぶ看護師さんの声が聞こえてくる。もしかしたら、PHSで呼び出されるかもしれない。
「嫌ならいいです」
俺がイジケた様子で成宮先生から離れれば、グッと体を引き寄せられた。
「嫌じゃないよ。ちょっとびっくりしただけ」
耳元で成宮先生の声が聞こえた後、唇と唇がフワリと重なった。
「エロい子は大好きだ」
力一杯引き寄せられたから、想像以上に唇が深く重なってしまい……自分でねだっといてなんだけど、びっくりしてしまった。
「……ん、んん……ッ……」
舌を絡める音がやけにはっきり聞こえて、息もできないくらい濃厚な口付けに翻弄される。
パタパタと廊下を走る看護師さんの足音に、異常に興奮してしまう自分がいた。
ここ、ナースステーションの隣の部屋だったんだ……。
ヤバイ、見つかっちゃうかも……。
「もっとするか?」
チュッと唇に吸い付いて名残惜しそうに離れていった成宮先生が、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んだから、
「も、もう、大丈夫です……」
俺は恥ずかしくなって俯いてしまった。自分から言っておいてなんだけど、もう恥ずかしくて顔なんか上げられない。
近くにあった検査結果を忙しくかき集め、処置室を後にする。
自分のあまりの軽率さに、心底ガッカリしてしまった。
「おっと……」
「す、すみません」
「どうしたの? やけに急いでそうだけど」
「なんでもありません。失礼します」
部屋を出る瞬間、偶然処置室に入ってこようとした橘先生とすれ違う。
勢いよく飛び出してきた俺に、驚いたような顔をしていた。
「何やってんだよ……」
廊下まで走って、俺は顔を覆ってその場に崩れるように座り込んだ。腰が抜けてしまったかのように、体に力が入らない。
「本当に、馬鹿過ぎるだろう」
成宮先生が追いかけて来なかったことに、ひどく安堵した。
久しぶりに成宮先生が俺の隣で笑ってる。
本当に他愛のない話なのに本当に楽しそうで。何がそんなに楽しいんだろう? って疑問に思う。
俺は採血データを眺めていた手を止めて、そんな成宮先生の話に耳を傾けた。子供みたいに笑う姿に、やっぱり胸が締め付けられる。
忙しい勤務の中、こうやって成宮先生と処置室で過ごす時間が、今の俺にはとても大切に感じられた。
「なぁ橘、聞いてんのか?」
「……え?」
一瞬、俺の中の時が止まった。
「あっ、ごめん葵だった」
成宮先生は悪びれる様子もなく俺に謝る。
本当に俺の気持ちなんてわかってないんだな……って改めて感じた瞬間だった。
「なぁ葵……なんかあったのか? 最近お前おかしいぞ?」
完全に動きがフリーズしている俺の頬に、成宮先生がそっと手を当てる。
本当に心配してくれている表情。
きっと成宮先生は、本当に無意識に、悪気もなく俺と橘先生を呼び間違えたのかしれない。
けど、恋人と友達の名前を間違ることなんてあるのか?
そうも思うけど、それだけ二人でいる時間が長いのだろう。
俺との時間より、橘先生との時間の方が濃厚で印象に残ってるのかもしれない。
悔しいなって思う。
もっと自分のことだけを一生懸命見てて欲しいって、満たされない俺が子猫みたいに鳴いている。
俺は人懐こい猫のように喉をゴロゴロ鳴らすことなんてできない。
でも本当は撫でて欲しくて、草むらでこっそり人間の様子を窺ってる。まるで野良猫のように……。
だから、あなたから近づいてきて草むらから引っ張り出してよ。
あたなに、頭を撫でて欲しいんです。
大きくて温かな手でこの体に触れて、柔らかくて甘い唇でキスして欲しい。
「可愛いな」って囁いて欲しい。
成宮先生の全てが欲しい。
心も体も。過去も未来も……。
全部が欲しくて堪らない。
「ねぇ、キスして?」
成宮先生だけに聞こえるように囁く。
でも、この人がどう出るかなんて想像もつかない。「馬鹿」って、軽く叩かれて怒られるかもしれない。呆れられて無視されるかもしれない。
だって、今この部屋の近くにはナースステーションがあって、たくさんのスタッフがいる。もちろん橘先生もいるだろう。
先程から、橘先生が楽しそうに看護師さんと話す声が聞こえてきた。
こんなくだらないワガママ、叶うはずなんかない。わかりきってるけど、なんとなく言いたかった。
とにかくワガママを言いたかったんだ。そうやって自分の存在を主張したかったから。
「今、ここでか?」
成宮先生の切れ長の目が見開かれた。
「はい、今ここで……」
そんな戸惑いで揺れる成宮先生の視線を、俺は真正面から受け止めた。
「駄目ですか?」
更に追い打ちをかけて、成宮先生の心を揺さぶる。
「成宮先生、お願いですから……」
みんながいたって構わない。俺は成宮先生に抱き着いた。
その瞬間、成宮先生の体が強張る。
「何があったんだ? お前、この前からおかしいぞ?」
「何もないです。ただ成宮先生にキスして欲しいだけ」
「みんながいるんだけど……?」
困ったように成宮先生が笑う。
遠くから、成宮先生の名前を呼ぶ看護師さんの声が聞こえてくる。もしかしたら、PHSで呼び出されるかもしれない。
「嫌ならいいです」
俺がイジケた様子で成宮先生から離れれば、グッと体を引き寄せられた。
「嫌じゃないよ。ちょっとびっくりしただけ」
耳元で成宮先生の声が聞こえた後、唇と唇がフワリと重なった。
「エロい子は大好きだ」
力一杯引き寄せられたから、想像以上に唇が深く重なってしまい……自分でねだっといてなんだけど、びっくりしてしまった。
「……ん、んん……ッ……」
舌を絡める音がやけにはっきり聞こえて、息もできないくらい濃厚な口付けに翻弄される。
パタパタと廊下を走る看護師さんの足音に、異常に興奮してしまう自分がいた。
ここ、ナースステーションの隣の部屋だったんだ……。
ヤバイ、見つかっちゃうかも……。
「もっとするか?」
チュッと唇に吸い付いて名残惜しそうに離れていった成宮先生が、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んだから、
「も、もう、大丈夫です……」
俺は恥ずかしくなって俯いてしまった。自分から言っておいてなんだけど、もう恥ずかしくて顔なんか上げられない。
近くにあった検査結果を忙しくかき集め、処置室を後にする。
自分のあまりの軽率さに、心底ガッカリしてしまった。
「おっと……」
「す、すみません」
「どうしたの? やけに急いでそうだけど」
「なんでもありません。失礼します」
部屋を出る瞬間、偶然処置室に入ってこようとした橘先生とすれ違う。
勢いよく飛び出してきた俺に、驚いたような顔をしていた。
「何やってんだよ……」
廊下まで走って、俺は顔を覆ってその場に崩れるように座り込んだ。腰が抜けてしまったかのように、体に力が入らない。
「本当に、馬鹿過ぎるだろう」
成宮先生が追いかけて来なかったことに、ひどく安堵した。
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