あなたのお気に召すままに

舞々

文字の大きさ
69 / 149
Episode11 野良猫みたいな恋

野良猫みたいな恋⑬

しおりを挟む
 気が付いた時には、成宮先生に背負われて駐車場からマンションに向かう途中だった。


「ん? 葵、目が覚めたか?」
 成宮先生が肩越しに俺を振り返った。とても優しい表情で……。
「ごめんなさい……千歳さん。もう一人で歩けるから下してください……」
 そんな強がりを言ったけど、本当は体がフワフワして絶対に一人じゃ歩けない。


 それがわかってか、
「ばぁか。あんなネズミにぶつかりやがって……あそこに置いてあるから気を付けろっていう、注意喚起のメールがきてただろうが? いいから、大人しく俺の背中にしがみついてろ!」
 相変わらず口は悪いけど、優しい成宮先生。重たいのに、ごめんさいって心の中で謝罪した。


「あれから智彰が頭のCT撮ってくれたんだぞ? 後で礼を言っておけ」
「智彰が……?」
「まぁ、私服に着替えさせたのは俺だけどな?」
「あ……す、すみません……」
 茹蛸みたいに顔を真っ赤にさせた俺を見て、成宮先生が笑っている。


 あ、あの唇で橘先生とキスしたんだ……。
 それなのに、俺は素直にその優しさを喜ぶことができなかった。


 駐車場を少し行けば、猫の集会場所が開かれる公園の脇を通りかかる。
「あっ、野良猫……」
 咄嗟に野良猫のことが心配になった。
「どうした?」
 不思議そうに声をかけてくる成宮先生に、
「なんでもないです……」
 そう呟いて成宮先生の肩に顔を埋めた。
 成宮先生はあったかい……。


『成宮先生は、今でも橘先生が好きなんですか?』
 知りたくて仕方ないのに、どうしても聞くことができなかった。


 成宮先生に背負われたままマンションに着いた俺は、コロンとベッドに寝かされた。
「あー! マジいい筋トレになったわ」
 俺を下ろした後、自分で自分の肩を揉んでいる。


「お前はそこで寝てろ。CTに異常はなかったけど、あんだけの勢いで衝突しんだから、脳震盪を起こしているもしれない」
 少しだけ呆れたように成宮先生が笑う。そのまま部屋を出て行こうとしたから、俺は咄嗟に成宮先生を呼び止めた。


「千歳さん」
「ん?」
 行って欲しくなかった。傍にいて欲しかった。
 不安で不安で仕方ないから……。


 思い出す、成宮先生と橘先生がキスしてるシーンを。
 初めて見た、成宮先生が誰かとキスをしているとこなんて。いつも、俺はああやって成宮先生にキスしてもらってたんだ。
 でも、今日成宮先生がキスした相手は俺じゃない。


「千歳さん……エッチしたい。エッチしよう……」
 甘えた声を出して成宮先生の気を引く。この言葉があなたの気を一番引けるって、俺は知っているから。
「また? 最近エッチしてばっかじゃん」
 笑いながら俺に覆い被さってくる。
 全くその通りだ。俺は今抱えている不安を消すために、成宮先生に抱いてもらうことが増えていた。


「嫌……ですか?」
「全然」
 嬉しそうに口角を上げる成宮先生に、少しだけ強引に唇を奪われる。


 あぁ良かった……キスの上書きできて……。


「むしろ大歓迎だから」


 そう囁かれ深く深く口づけられる。
 お互いの唇を貪り合って、全ての思考が体から抜け落ちていく感覚に襲われた。
 ただ成宮先生が欲しくて、自分だけのものにしたくて……そのために自分の体を利用して。
 最低だと思うけど、今の俺にはこれしか方法がなかった。


「愛してる、葵。なぁ愛してるよ」
 そんな声も、遠のく意識の中……まるで夢の中の出来事に思えた。


「お願い、もっとキスして?」
「いいよ。好きなだけしてやる」
「もっと、もっと深いの……息もできなくなるくらい……」
「馬鹿が」
「……ん…はぁ……ッ」
 成宮先生の熱い舌が、俺の口内を無遠慮に犯してく。その甘い唾液を、コクンと無我夢中で飲み込んだ。


 ◇◆◇◆


 翌朝目を覚ますと、全裸の成宮先生が隣で寝ていた。
 体中の血がサッと引いていく感覚を覚える。そっとベッドから逃げ出そうとすると、
「オイ、どこ行くんだよ」
 眠そうに片目だけを開けた成宮先生に腕を掴まれる。
「昨日あんだけ乱れといて……終わったら逃げんのか?」
 成宮先生の言葉で、断片的な記憶がどんどん一つになっていく。


「あっ、ああ……んッ! 千歳さん……千歳さん……気持ち……いぃ! あ、あッ!」
 普段では絶対出さないような甘ったるい嬌声を上げながら、成宮先生にまたがり必死に腰を振る自分。
 完全に快楽に溺れきってしまった。


「昨日のお前、めちゃくちゃエロかった……」
 意地の悪い笑みを浮かべた成宮先生にドキドキする。
 俺はなんてことをしてしまったんだろう……穴があったら本当に入ってしまいたい。
 恥ずかしくて死にそうになる。


「ごめんなさい……」
「なんで謝んだよ」
 そっと頬に口づけられた。
 恥ずかしくて、成宮先生の顔さえみることができない。
 もう、こんな記憶消えてしまえばいいのに……。


「今までで一番良かったぜ」
「なッ……!?」
 顔が一気に火照るのを感じて布団に潜り込む。もう成宮先生に合わせる顔がない。
「葵~! 出てこいよぉ」
 成宮先生の悪戯っぽい声が聞こえてくる。


 本当に情けない。
 橘先生にヤキモチを妬いて、ホスピッチュに正面衝突して、仕舞には恋人を襲うなんて……。
 できることなら、あの野良猫と一緒に草むらに隠れていたい。
 そしたら、もう俺のことなんか放っといてほしい。
 放っておいて……お願いだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...