あなたのお気に召すままに

舞々

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第八章 プロポーズ

プロポーズ②

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「グスッ、ヒックヒック……」


 俺は、前に成宮先生に教えてもらった屋上に一人でいた。目の前には相変わらず宝石みたいな東京中の夜景が広がっているのに、今晩はそれを綺麗と思うことさえできない。次から次へと溢れ出す涙の止め方を俺はまだ知らなかった。


 俺と成宮先生が、沙羅ちゃんの病室に到着した時は、沙羅ちゃんの心臓が止まる寸前だった。かろうじて動き続ける心臓が、モニターに波形を刻んでいる。


「覚悟をしてください」


 病室に静かに響き渡る成宮先生の声……。
 ご両親が崩れるように小さな体に縋りつく。俺は、涙が出そうなのを必死に堪えた。


 はっきり言って、これ以上俺達には、沙羅ちゃんにしてあげられることなんてない。だからせめて、最後の瞬間まで一緒にいてあげたいと思う。


 いつの間にか自分の子供のように可愛く感じていた。そんな不思議な存在。沙羅ちゃんは話すことも、笑うこともできなかったけど、俺の心の中にいる沙羅ちゃんはいつも優しく笑っている。俺に、医師としてたくさんの大切なことをくれた。心から「ありがとう」って思う。


 桜が咲き乱れる日に初めて出会った沙羅ちゃんは、新緑が輝く満月の夜に、天使になった。


 息を引き取った沙羅ちゃんは、可愛らしいピンク色の洋服を着てお家に帰っていった。その体には、邪魔な管も機械もついてなくて……きっと、沙羅ちゃんは自由になれたんだって思う。


 最後の最後まで、「ありがとうございました」と、頭を下げ続けるご両親に、俺は主治医のくせに何も言ってあげることができなかった。俺の心はギュッと締め付けられる。溢れてきた涙を隠すかの様に、エレベーターへと飛び乗った。


「グスグス……うぅ……」


 優しい風が優しく髪を撫でてくれる。泣きすぎて火照った顔に、冷たい夜風が気持ちよかった。
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