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二、伝説の巫女
伝説の巫女④
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「俺が湯玄様の花嫁になる」
「なんだと……」
その言葉に、一斉に自分に視線を向けられたのを感じる。その視線が痛くて、凪はその場から逃げ出したくなる衝動を必死に堪えた。
自分がどんな無謀なことを言っているのかなんてわかりきっている。「馬鹿なことを言うな!」と罵倒されることが怖くて、凪はぐっと奥歯を噛み締めた。
凪だって花嫁になることが不安で仕方がない。なぜなら凪は男だし、まだ十三歳になったばかりの子供だ。
それでも、自分が生まれ育った村を守りたかったし、湯玄にも会いたかった。
遠くには、目を見開き「信じられない」といった顔をしている父親がいる。その場が一瞬でどよめきだした。
「お、俺は男だけれど女みたいに綺麗だってよく言われるから、もしかしたら湯玄様に気に入ってもらえるかもしれない……」
言葉を紡ごうとするのだが、唇が震えて言葉にできないし、呼吸も上手くできなくて息苦しい。凪は着物の袖を力いっぱい握り締めた。
「だから俺が花嫁になる。そして、俺が湯滝村を、椿屋を守ってみせる。絶対に湯玄様に気に入られてみせるから!」
凪は目にいっぱいの涙を浮かべて、その場にいる村人たちを見渡したのだった。
「馬鹿なことを言うな! 凪は男だし、まだ子供だぞ! それこそ湯玄様のお怒りを買ってしまう」
「……いや。確かに凪は男だが、この村で一番美しいと言っても過言ではない。もしかしたら湯玄様も凪を気に入ってくれるかもしれない」
その時、そのやり取りを黙ってみていた湯滝村の長老が口を開く。村人たちの視線は一斉に長老へと向けられた。
「凪を花嫁にしよう」
もう一度、その言葉を噛み締めるように長老が言葉を紡いだ。
「そうだ! 凪を花嫁にしよう!」
「凪に決まりだな!」
長老の言葉に、皆が一斉に賛同した。長老の意見に反旗を翻すことができる者など、この村にはいないのだ。
そんな中、凪はそっと父親に視線を移す。凪は花嫁に志願することを父親に全く相談などしていなかったから、こんな話は寝耳に水だったことだろう。今更ながら申し訳ない思いが込み上げてきた。
凪の父親は目を見開いて呆然としている。
しかしここまできて「いや、我が家の一人息子を花嫁になんてできない!」などと言えるはずがない。誰かが犠牲になることでしか湯滝村を守れない今、誰かが花嫁になるしか残された道はないのだ。
「父さん、ごめん」
凪はきゅっと唇を噛み締める。あまりにも強く噛んだものだから、少しずつ血の味が口の中に広がっていった。
凪の父親は最近体調が優れず、使用人に店を預け臥せっていることが増えてきている。いつも顔色が悪く、少しずつ痩せてきてしまっている姿が痛々しい。
きっと、父親の体調が優れない原因は、源泉の湯量が減ってきてしまったからだと凪は感じている。次第に遠退いていく客足に心を痛めた父親が、精神的に参ってしまった……そう思えてならない。
だから、また源泉からお湯が沸きあがるようになれば、椿屋にも客が戻ってくる……そうしたら、きっと父親はまた元気になるはずだ、と凪は願っていた。
「よし、花嫁は凪に決まりだな」
「頼んだぞ、凪」
「……わかった」
村人たちからの視線を痛いほどに感じながら、凪は大きく頷いたのだった。
「なんだと……」
その言葉に、一斉に自分に視線を向けられたのを感じる。その視線が痛くて、凪はその場から逃げ出したくなる衝動を必死に堪えた。
自分がどんな無謀なことを言っているのかなんてわかりきっている。「馬鹿なことを言うな!」と罵倒されることが怖くて、凪はぐっと奥歯を噛み締めた。
凪だって花嫁になることが不安で仕方がない。なぜなら凪は男だし、まだ十三歳になったばかりの子供だ。
それでも、自分が生まれ育った村を守りたかったし、湯玄にも会いたかった。
遠くには、目を見開き「信じられない」といった顔をしている父親がいる。その場が一瞬でどよめきだした。
「お、俺は男だけれど女みたいに綺麗だってよく言われるから、もしかしたら湯玄様に気に入ってもらえるかもしれない……」
言葉を紡ごうとするのだが、唇が震えて言葉にできないし、呼吸も上手くできなくて息苦しい。凪は着物の袖を力いっぱい握り締めた。
「だから俺が花嫁になる。そして、俺が湯滝村を、椿屋を守ってみせる。絶対に湯玄様に気に入られてみせるから!」
凪は目にいっぱいの涙を浮かべて、その場にいる村人たちを見渡したのだった。
「馬鹿なことを言うな! 凪は男だし、まだ子供だぞ! それこそ湯玄様のお怒りを買ってしまう」
「……いや。確かに凪は男だが、この村で一番美しいと言っても過言ではない。もしかしたら湯玄様も凪を気に入ってくれるかもしれない」
その時、そのやり取りを黙ってみていた湯滝村の長老が口を開く。村人たちの視線は一斉に長老へと向けられた。
「凪を花嫁にしよう」
もう一度、その言葉を噛み締めるように長老が言葉を紡いだ。
「そうだ! 凪を花嫁にしよう!」
「凪に決まりだな!」
長老の言葉に、皆が一斉に賛同した。長老の意見に反旗を翻すことができる者など、この村にはいないのだ。
そんな中、凪はそっと父親に視線を移す。凪は花嫁に志願することを父親に全く相談などしていなかったから、こんな話は寝耳に水だったことだろう。今更ながら申し訳ない思いが込み上げてきた。
凪の父親は目を見開いて呆然としている。
しかしここまできて「いや、我が家の一人息子を花嫁になんてできない!」などと言えるはずがない。誰かが犠牲になることでしか湯滝村を守れない今、誰かが花嫁になるしか残された道はないのだ。
「父さん、ごめん」
凪はきゅっと唇を噛み締める。あまりにも強く噛んだものだから、少しずつ血の味が口の中に広がっていった。
凪の父親は最近体調が優れず、使用人に店を預け臥せっていることが増えてきている。いつも顔色が悪く、少しずつ痩せてきてしまっている姿が痛々しい。
きっと、父親の体調が優れない原因は、源泉の湯量が減ってきてしまったからだと凪は感じている。次第に遠退いていく客足に心を痛めた父親が、精神的に参ってしまった……そう思えてならない。
だから、また源泉からお湯が沸きあがるようになれば、椿屋にも客が戻ってくる……そうしたら、きっと父親はまた元気になるはずだ、と凪は願っていた。
「よし、花嫁は凪に決まりだな」
「頼んだぞ、凪」
「……わかった」
村人たちからの視線を痛いほどに感じながら、凪は大きく頷いたのだった。
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