出来損ないの花嫁は湯の神と熱い恋をする

舞々

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五、椿屋の珍客たち

椿屋の珍客たち④

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「其方の初恋の相手は私だったんだろう?」
「あ、あんなの言葉のあやで、本心じゃない!」
「そうか……」
 湯玄が変わらず楽しそうに笑うものだから、凪はどんどん不愉快になってしまう。


「父親のことは、礼には及ばんが、どうしてもと言うのであれば口付けで構わんぞ?」
「な……ッ!?」


 顎を掴まれ強引に上を向かされる。恥ずかしさのあまり涙が滲んできて、目の前の湯玄がゆらゆらと揺れた。
 そんな凪をからかうかのように、湯玄が意地悪く笑う。そんな姿さえも美しくて、凪は唇を噛み締めた。


「口付けくらいで泣かれては、当分其方に手は出せないな」
「別に、泣いてなんか……」
「其方は本当に可愛らしいな」
 満足そうに笑う湯玄の色香に、凪はくらくらしてしまった。


「ほら、さっさと仕事を片付けるぞ。ちんたらしていたら、いつまでたっても終わらないからな」 
「……うん。わかった」
「よし、いい子だ」
 凪が俯いたとき、額に温かなものがそっと触れ、静かに離れていく。凪がはっとして顔を上げると、少しだけ寂し
そうな顔をした湯玄がいた。


「早く俺の花嫁になってくれ。私も待っているのが辛いのだ」
「湯玄様……わ!」


 突然湯玄に強く抱き締められて驚いた凪は、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。湯玄の腕は、同性とは思えない程逞しくて、温かい。凪の心が爆発してしまいそうな程、動悸が高まった。
 湯石が赤い光を放ちながら一気に熱くなる。それはまるで、凪の体のようだ。痛いくらいに心臓が高鳴り、呼吸も浅くなる。目頭が熱くなって、自然と涙が滲む。


 それと同時に、露天風呂に取り付けられた湯口から、温泉が飛沫を上げながら一気に噴き出す。あっという間に辺りは湯気と硫黄の香りで満たされた。
「ヤバい、のぼせそう……」
 凪は湯玄の逞しい腕にしがみつきながら、その光景を呆然と見つめたのだった。
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