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十、最後の決戦
最後の決戦②
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「お願い、凪。抱かせてくれ」
「嫌だ、絶対に嫌だ‼」
「凪から生力を分けてもらう以外、福寿村を復興させる手段は残されていないんだ。この村の神として、僕にはこの村を元の姿に戻すという責任がある。僕が不甲斐ないばかりに、多くの人を不幸にしてしまったから……。この村の人たちはみんな優しかった。でも、今は僕のことを恨んでいることだろう」
悲痛に顔を歪める湯庵を見て凪は思う。
――あぁ、この人はこの村を純粋に復興させたいだけなんだ。
やり方こそ間違っているかもしれないけれど、凪には湯庵の思いがわかるような気がする。
湯庵は、心の底から福寿村を愛していたのだ。
「ごめんね、少しだけ我慢して」
「湯庵様、待って……」
凪が拒絶する間もなく、床に押し倒されてしまう。冷たくて硬い床の感触に凪は短い悲鳴を上げた。自分より体格のいい湯庵に馬乗りになられてしまえば、凪にはもうなす術がないように感じられた。
女性のように美しい湯庵のどこに、こんな力があるのだろうか? 凪は呆然とそう思う。馬乗りになった湯庵が、そっと凪の頬に触れた。
「凪、可愛い。大丈夫、僕はずっと君を花嫁として大切にするから」
「嫌だ、怖い……湯玄様……湯玄様……!」
「なんで僕じゃ駄目なの? 僕だって湯玄と同じ湯の神だ。この村の源泉を二人で復活させよう? そして、僕の所にお嫁においで?」
「嫌だ、嫌だぁ」
凪は首を振り、最後の抵抗を見せる。そんな凪を宥めるように、湯庵が凪の額にそっと唇を寄せた。
「僕に体を委ねてごらん? 気持ちよくしてあげるから。湯玄のことなんて忘れてしまうくらいに」
優しく微笑んだ湯庵が、しゅるっと凪の着物の帯を解いていく。凪は恐怖からか体の震えが止まらない。どんなに噛み締めても奥歯がガチガチと音をたてた。
湯の神の花嫁になるためには、清らかな体でなければならないという決まりがある。今ここで湯庵に体を汚されてしまったら、凪は湯玄の花嫁になることができない。それは絶対に嫌だ……凪は最後の力を振り絞り、大きく息を吸い込んだ。
「凪の生力を僕にちょうだい?」
「嫌だ、嫌だ‼ 湯玄様、助けてぇ‼」
凪が絶叫した瞬間、物凄い風圧と共に神殿の壁が粉々に砕かれ、大きくて真っ黒な物が飛び込んでくる。凪は何が起きたのかが理解できずに、目を見開いた。
凪が目を凝らすと、そこには山のように大きな獅子が立っていた。大きく裂けた口からは真っ赤な舌が覗き、鋭く見開かれた目は明らかに怒気を含んでいる。荒い呼吸を繰り返す獅子の鼻息だけで、凪は吹き飛ばされそうになってしまった。
獅子の毛は闇より黒く、満月に照らされて艶々と輝いている。そのあまりにも猛々しい姿に、凪は思わず息を呑んだ。
「もう来たのか? 湯玄よ」
湯庵が苦虫を嚙み潰したように吐き捨てた言葉を聞いて、凪は言葉を失ってしまう。そして目の前にいる真っ黒な獅子を見つめた。
「あれが……湯玄様……?」
そんなことが信じられるだろうか? あの獅子があの湯玄だなんて。
「凪に触れるなと忠告したはずだ。これ以上凪をつけ狙うなら、同じ湯の神のお前でも許すことはできない‼」
大きな口を開け、湯庵に飛び掛かる湯玄を見て凪は思わず目を閉じて、体を縮こまらせる。いくら神と言っても、あの牙で噛みつかれたら一溜りもないだろう。
バリバリッと壁を突き破る爆音と、何かがもつれ合うけたたましい音に、凪はそっと目を開く。
「あッ!?」
あまりにも衝撃的な光景が目前に広がっており、凪は心臓が止まる思いだった。
湯福神社の境内では真っ黒な獅子と亜麻色の毛色をした獅子が、砂ぼこりをたてながら死闘を繰り広げていた。
獅子は激しく揉み合い、鋭い牙を剥き出しにして相手に向かって行く。そのあまりの迫力に、凪はその場から動くことさえできなかった。
「嫌だ、絶対に嫌だ‼」
「凪から生力を分けてもらう以外、福寿村を復興させる手段は残されていないんだ。この村の神として、僕にはこの村を元の姿に戻すという責任がある。僕が不甲斐ないばかりに、多くの人を不幸にしてしまったから……。この村の人たちはみんな優しかった。でも、今は僕のことを恨んでいることだろう」
悲痛に顔を歪める湯庵を見て凪は思う。
――あぁ、この人はこの村を純粋に復興させたいだけなんだ。
やり方こそ間違っているかもしれないけれど、凪には湯庵の思いがわかるような気がする。
湯庵は、心の底から福寿村を愛していたのだ。
「ごめんね、少しだけ我慢して」
「湯庵様、待って……」
凪が拒絶する間もなく、床に押し倒されてしまう。冷たくて硬い床の感触に凪は短い悲鳴を上げた。自分より体格のいい湯庵に馬乗りになられてしまえば、凪にはもうなす術がないように感じられた。
女性のように美しい湯庵のどこに、こんな力があるのだろうか? 凪は呆然とそう思う。馬乗りになった湯庵が、そっと凪の頬に触れた。
「凪、可愛い。大丈夫、僕はずっと君を花嫁として大切にするから」
「嫌だ、怖い……湯玄様……湯玄様……!」
「なんで僕じゃ駄目なの? 僕だって湯玄と同じ湯の神だ。この村の源泉を二人で復活させよう? そして、僕の所にお嫁においで?」
「嫌だ、嫌だぁ」
凪は首を振り、最後の抵抗を見せる。そんな凪を宥めるように、湯庵が凪の額にそっと唇を寄せた。
「僕に体を委ねてごらん? 気持ちよくしてあげるから。湯玄のことなんて忘れてしまうくらいに」
優しく微笑んだ湯庵が、しゅるっと凪の着物の帯を解いていく。凪は恐怖からか体の震えが止まらない。どんなに噛み締めても奥歯がガチガチと音をたてた。
湯の神の花嫁になるためには、清らかな体でなければならないという決まりがある。今ここで湯庵に体を汚されてしまったら、凪は湯玄の花嫁になることができない。それは絶対に嫌だ……凪は最後の力を振り絞り、大きく息を吸い込んだ。
「凪の生力を僕にちょうだい?」
「嫌だ、嫌だ‼ 湯玄様、助けてぇ‼」
凪が絶叫した瞬間、物凄い風圧と共に神殿の壁が粉々に砕かれ、大きくて真っ黒な物が飛び込んでくる。凪は何が起きたのかが理解できずに、目を見開いた。
凪が目を凝らすと、そこには山のように大きな獅子が立っていた。大きく裂けた口からは真っ赤な舌が覗き、鋭く見開かれた目は明らかに怒気を含んでいる。荒い呼吸を繰り返す獅子の鼻息だけで、凪は吹き飛ばされそうになってしまった。
獅子の毛は闇より黒く、満月に照らされて艶々と輝いている。そのあまりにも猛々しい姿に、凪は思わず息を呑んだ。
「もう来たのか? 湯玄よ」
湯庵が苦虫を嚙み潰したように吐き捨てた言葉を聞いて、凪は言葉を失ってしまう。そして目の前にいる真っ黒な獅子を見つめた。
「あれが……湯玄様……?」
そんなことが信じられるだろうか? あの獅子があの湯玄だなんて。
「凪に触れるなと忠告したはずだ。これ以上凪をつけ狙うなら、同じ湯の神のお前でも許すことはできない‼」
大きな口を開け、湯庵に飛び掛かる湯玄を見て凪は思わず目を閉じて、体を縮こまらせる。いくら神と言っても、あの牙で噛みつかれたら一溜りもないだろう。
バリバリッと壁を突き破る爆音と、何かがもつれ合うけたたましい音に、凪はそっと目を開く。
「あッ!?」
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湯福神社の境内では真っ黒な獅子と亜麻色の毛色をした獅子が、砂ぼこりをたてながら死闘を繰り広げていた。
獅子は激しく揉み合い、鋭い牙を剥き出しにして相手に向かって行く。そのあまりの迫力に、凪はその場から動くことさえできなかった。
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