3 / 36
第一章 狼が兎に恋する時
兎視点②
しおりを挟む
それは、高校卒業を間近に控えた、少しだけ春の気配を感じることができる、暖かな日の事だった。
所謂仲良しグループでいつもみたいに放課後集まって、目的もなくダラダラと過ごす、一見無駄に見える時間。さっさと帰って、母親が作ってくれた夕飯を食べればいいのに……。
それでも、そんな時間が宝物だったんだって、今だから感じることができる。
もう、こんな無駄な時間を過ごすことは、なくなるんだから。
あっという間に過ぎて行った三年間。
今思えばあっという間だったけど、本当に楽しい毎日だった。
小学校からの幼馴染みである、生駒寛太に榎本莉久。宇野真大と村上怜央……そして、俺、吉沢航。
俺達は、毎日一緒に登校しては、放課後はランドセルを投げ捨てて暗くなるまで遊んでいた。
それから長い月日が流れても、ずっと一緒にいるのがあまり前のように、高校まで揃って同じ所に入学した。
高校へ行っても、それは変わらなかった。
たった一つの事を除いては……。
「もうすぐ高校生も終わりかぁ」
「本当だよな。これで俺らも本当にバラバラだ」
学年の中でも元気な生徒に分類される真大と怜央が、ジャングルジムの一番てっぺんで話しているのを、優等生な莉久が「うんうん」と聞いている。
「あー! ずっとこのまま、みんなでいたいねー!」
「だな」
怜央の叫びに、真大が賛同している。
でも、本当はみんなわかってるんだ。
もう、こんな風に一緒にはいられなくなることを。
それぞれが、夢に向かって別々の大学や専門学校に、進路が決まっていたから。
みんながワイワイやってるのを、遠目で眺めていれば、寛太がヒョイッと俺の顔を覗き込んだ。
「航は、いつ引っ越すの?」
「え?」
「関西に、引っ越すんだろう?」
「あ、うん。卒業式が終わって少ししたら、引っ越す予定だよ」
「そっか」
寛太が少しだけ寂しそうに俯いたような気がしたから、俺は少しだけドキドキしてしまう。
寂しい……そう思ってくれているのだろうか?
そう期待せずにはいられなかった。
いつからだろうか。気付いた時には、俺達はずっと五人で過ごしていた。それは、まるで兄弟のように。
これから先、生きて行く方向が少しずつ変わって行ったとしても、きっと完全に離れてしまうことはない。何やかんやで理由をつけては、こうやって時間を共有することだろう。
俺達五人は、趣味も好きな事も運動神経も成績も全然違う。
ましてや、性格なんて全く共通点さえないくらいだ。
いつも友達に囲まれて笑顔の耐えない真大に、人見知りだけど凄く優しい怜央。優等生でイケメンの莉久は女子からめちゃくちゃモテる。
寛太はずっとバスケ部に所属しているスポーツマンで、口が悪くて天の邪鬼だけど、みんなの人気者だ。
そして、何の取り柄もない普通男子の俺。
共通点なんてどこにもないのに、一緒にいる時の心地良さは抜群だった。
でも俺は、そんなみんなが大切にしてきた居場所を壊してしまうんじゃないか……って、ずっと怯えながら生きてきた。
いつからだろう。
もう、それすら覚えてないや。
本当に無意識のうちに。
砂時計の砂がサラサラと落ちて行くように……。
雲が青空をスイスイと流れて行くように……。
川が留まることなく上から下へと流れて行くように……。
俺は……。
寛太に、恋をしていた。
俺はゲイなんだろうか……とか、仮にゲイだとして、なんで四人もいる中で寛太だったんだろうか……なんて色々悩んだし、考えてもみたけど、そんな答えなど出るはずがなかった。
ただ、気付いた時には、もう後戻りが出来ないくらいに、狂おしいくらいに寛太にハマってしまっていた。
それでも、俺はこの友人関係を壊したくはなかったから、寛太への思いを心の奥底にある、パンドラの箱へとしまい込んだ。
その箱に鍵をかけて、更に鎖で雁字搦めにして……。
でも不思議なことに、ふと気付くと、いつの間にか隣で日向ぼっこをしている猫のように、知らぬ存ぜぬと言った顔をして再び俺の心の中に居座っているのだ。
春風を少しだけ含んだ温かい風が、俺の伸びた髪をサラサラと揺らした。
寛太のことを考えるだけで、胸がドキドキして顔が熱くなる。
火照った頬に、そんな風が気持ち良かった。
「お前、本当に猫みたいに柔らかい髪だな」
寛太がそんな俺の髪に、クルクルと指を巻き付けて遊び始める。
こいつは無意識にだろうけど、こうやって触られる度に、俺は胸がドキドキして仕方ない。
本当に止めて欲しい……俺だけこんなに意識して、ドキドキしてるなんて、ズルいって思う。
それに俺は知ってる。寛太は『α』だ。
寛太はスポーツ万能だし、成績も莉久程ではないにしても優秀だし、いつも友達の輪の中心にいる。
生まれ持ってのリーダー気質で、人を惹きつける何かを持っているのだ。
こんなに立派なαなら、きっと輝かしい将来が約束されているだろうし、さぞかし優秀なαと結ばれるに違いない。
なのに、俺は何も取り柄もない『Ω』だ。
どう見ても、釣り合うはずがない。
俺は、立派なパフェの上に乗せられたサクランボになる事すら叶わない。
こんな何の取り柄もないΩが、どんなに背伸びをしても吊り合わない存在。
そんなΩができる精一杯の強がりは、自分は『β』だって公言すること。
可もなく不可もない、空気みたいなβは、俺からしたら憧れの存在だった。
でもそろそろ、俺は寛太から逃げたいんだ。だから、父親の転勤を口実に、関西の大学へと進路を決めた。
光り輝く太陽も、勇ましい狼も、俺には眩し過ぎる存在で……手に入らない物を、手に入れたいと願い続ける位なら、俺はその前から姿を消したい。
だから、俺は、黙ってこの街を……みんなとの思い出がたくさん詰まったこの街を……もうすぐ出ていく。
臆病で、ちっぽけな兎は、逃げ出すことしかできないのだから。
それなのに……。
神様がそんな兎を哀れに思ったのか、とんでもないサプライズをくれたんだ。
所謂仲良しグループでいつもみたいに放課後集まって、目的もなくダラダラと過ごす、一見無駄に見える時間。さっさと帰って、母親が作ってくれた夕飯を食べればいいのに……。
それでも、そんな時間が宝物だったんだって、今だから感じることができる。
もう、こんな無駄な時間を過ごすことは、なくなるんだから。
あっという間に過ぎて行った三年間。
今思えばあっという間だったけど、本当に楽しい毎日だった。
小学校からの幼馴染みである、生駒寛太に榎本莉久。宇野真大と村上怜央……そして、俺、吉沢航。
俺達は、毎日一緒に登校しては、放課後はランドセルを投げ捨てて暗くなるまで遊んでいた。
それから長い月日が流れても、ずっと一緒にいるのがあまり前のように、高校まで揃って同じ所に入学した。
高校へ行っても、それは変わらなかった。
たった一つの事を除いては……。
「もうすぐ高校生も終わりかぁ」
「本当だよな。これで俺らも本当にバラバラだ」
学年の中でも元気な生徒に分類される真大と怜央が、ジャングルジムの一番てっぺんで話しているのを、優等生な莉久が「うんうん」と聞いている。
「あー! ずっとこのまま、みんなでいたいねー!」
「だな」
怜央の叫びに、真大が賛同している。
でも、本当はみんなわかってるんだ。
もう、こんな風に一緒にはいられなくなることを。
それぞれが、夢に向かって別々の大学や専門学校に、進路が決まっていたから。
みんながワイワイやってるのを、遠目で眺めていれば、寛太がヒョイッと俺の顔を覗き込んだ。
「航は、いつ引っ越すの?」
「え?」
「関西に、引っ越すんだろう?」
「あ、うん。卒業式が終わって少ししたら、引っ越す予定だよ」
「そっか」
寛太が少しだけ寂しそうに俯いたような気がしたから、俺は少しだけドキドキしてしまう。
寂しい……そう思ってくれているのだろうか?
そう期待せずにはいられなかった。
いつからだろうか。気付いた時には、俺達はずっと五人で過ごしていた。それは、まるで兄弟のように。
これから先、生きて行く方向が少しずつ変わって行ったとしても、きっと完全に離れてしまうことはない。何やかんやで理由をつけては、こうやって時間を共有することだろう。
俺達五人は、趣味も好きな事も運動神経も成績も全然違う。
ましてや、性格なんて全く共通点さえないくらいだ。
いつも友達に囲まれて笑顔の耐えない真大に、人見知りだけど凄く優しい怜央。優等生でイケメンの莉久は女子からめちゃくちゃモテる。
寛太はずっとバスケ部に所属しているスポーツマンで、口が悪くて天の邪鬼だけど、みんなの人気者だ。
そして、何の取り柄もない普通男子の俺。
共通点なんてどこにもないのに、一緒にいる時の心地良さは抜群だった。
でも俺は、そんなみんなが大切にしてきた居場所を壊してしまうんじゃないか……って、ずっと怯えながら生きてきた。
いつからだろう。
もう、それすら覚えてないや。
本当に無意識のうちに。
砂時計の砂がサラサラと落ちて行くように……。
雲が青空をスイスイと流れて行くように……。
川が留まることなく上から下へと流れて行くように……。
俺は……。
寛太に、恋をしていた。
俺はゲイなんだろうか……とか、仮にゲイだとして、なんで四人もいる中で寛太だったんだろうか……なんて色々悩んだし、考えてもみたけど、そんな答えなど出るはずがなかった。
ただ、気付いた時には、もう後戻りが出来ないくらいに、狂おしいくらいに寛太にハマってしまっていた。
それでも、俺はこの友人関係を壊したくはなかったから、寛太への思いを心の奥底にある、パンドラの箱へとしまい込んだ。
その箱に鍵をかけて、更に鎖で雁字搦めにして……。
でも不思議なことに、ふと気付くと、いつの間にか隣で日向ぼっこをしている猫のように、知らぬ存ぜぬと言った顔をして再び俺の心の中に居座っているのだ。
春風を少しだけ含んだ温かい風が、俺の伸びた髪をサラサラと揺らした。
寛太のことを考えるだけで、胸がドキドキして顔が熱くなる。
火照った頬に、そんな風が気持ち良かった。
「お前、本当に猫みたいに柔らかい髪だな」
寛太がそんな俺の髪に、クルクルと指を巻き付けて遊び始める。
こいつは無意識にだろうけど、こうやって触られる度に、俺は胸がドキドキして仕方ない。
本当に止めて欲しい……俺だけこんなに意識して、ドキドキしてるなんて、ズルいって思う。
それに俺は知ってる。寛太は『α』だ。
寛太はスポーツ万能だし、成績も莉久程ではないにしても優秀だし、いつも友達の輪の中心にいる。
生まれ持ってのリーダー気質で、人を惹きつける何かを持っているのだ。
こんなに立派なαなら、きっと輝かしい将来が約束されているだろうし、さぞかし優秀なαと結ばれるに違いない。
なのに、俺は何も取り柄もない『Ω』だ。
どう見ても、釣り合うはずがない。
俺は、立派なパフェの上に乗せられたサクランボになる事すら叶わない。
こんな何の取り柄もないΩが、どんなに背伸びをしても吊り合わない存在。
そんなΩができる精一杯の強がりは、自分は『β』だって公言すること。
可もなく不可もない、空気みたいなβは、俺からしたら憧れの存在だった。
でもそろそろ、俺は寛太から逃げたいんだ。だから、父親の転勤を口実に、関西の大学へと進路を決めた。
光り輝く太陽も、勇ましい狼も、俺には眩し過ぎる存在で……手に入らない物を、手に入れたいと願い続ける位なら、俺はその前から姿を消したい。
だから、俺は、黙ってこの街を……みんなとの思い出がたくさん詰まったこの街を……もうすぐ出ていく。
臆病で、ちっぽけな兎は、逃げ出すことしかできないのだから。
それなのに……。
神様がそんな兎を哀れに思ったのか、とんでもないサプライズをくれたんだ。
4
あなたにおすすめの小説
とろけてまざる
ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで──
表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941
トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
生き急ぐオメガの献身
雨宮里玖
BL
美貌オメガのシノンは、辺境の副将軍ヘリオスのもとに嫁ぐことになった。
実はヘリオスは、昔、番になろうと約束したアルファだ。その約束を果たすべく求婚したのだが、ヘリオスはシノンのことなどまったく相手にしてくれない。
こうなることは最初からわかっていた。
それでもあなたのそばにいさせてほしい。どうせすぐにいなくなる。それまでの間、一緒にいられたら充分だ——。
健気オメガの切ない献身愛ストーリー!
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!
迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる